「最悪だわん、なんで休日にお猿さんと
会うのかしらぁ」







それなりに陽気のいい午後





日焼け止めを塗って、特に当ても無く
街をうろついていた薫と





「それはこっちの台詞よ脇さん
こっちだって仕事帰りで会いたくなかったわ」





制服が入っているらしき袋を抱えた
さっちゃんが路上で見えない火花を散らす





「店長さん元気してる?ホントあそこメガネで
オタクっぽいアンタにお似合いの職場よねぇ」


「ええ、結構繁盛してて忙しいの
そっちの花屋はヒマそうで羨ましいわ」


「あらそう ならいっそバイト先に
永久就職しちゃえば?お猿さん


「脇さんこそ せいぜいヒマな時間で
ケバい化粧をして客引いてなさいよ」





今はまだ陰湿な、
女特有の口ゲンカの応酬だけだが





やがてほどなく乱闘へと変わるのは


火を見るよりも明らかだ









「ふふ、兄上に買っていただいた油は
とても調子がいいようだ」





愛用の槍(改造品)の入った信玄袋を
頬ずりし、嬉しげにが呟く





表情は変わらぬが目はうっとりしていて


その姿はどこぞの惑星の電波
受信しちゃってるようにしか見えない







彼女の歩く方向から、何やら騒がしい
声と悲鳴と 逃げてくる人々がいる







「ぎゃああああ臭いぃぃぃ!」


「にっ逃げろおぉぉぉ!!」







は騒ぎの中心に見知った顔を認め





表情一つ変えることなく、ごく普通に声をかけた





「薫殿とあやめ殿、またケンカか?」


「「見りゃ分かるでしょ」」





声を揃える二人の言う通り





辺りにクナイや納豆、バラ、縄など
あらゆる物が散乱し


本人達も死闘さながらに息を荒げ





ついでに罪も無い通行人が二、三人ほど
戦いに巻き込まれて倒れている







そんな惨状を目の当たりにしておきながら







「少しは女子らしくせねば、殿方が
逃げてしまうぞ」







いつもの無表情で言い放ったの言葉は





ケンカをしていたくの一
二人をそらもう思い切り逆撫でした











「男は女に勝てず 女は年上の女に負ける
つーこた最強はババア?」












「偉そうに知ったこと言うなぁぁ!」


「色気も胸もないにだけは
言われたくないわよ!」








向けられた二人の殺気が尋常でないことに
ようやく気づいたらしく





その場から急いで退散しようと地を蹴るも







「甘い!」





さっちゃんがいつの間にか懐から
出した縄でを亀甲縛りした





「よくやったわ猿、さぁて
どうしてくれようかしらん?」


「今回だけは私もお手伝いするわ
脇さん…こういうのはどう?」







抜け出そうともがく彼女をよそに
さっちゃんは薫に何かを耳打ちする







「いいわねぇ…」





浮かべた二人の妖艶な笑みに


何か危険なものを感じ取り
どうにか逃げ出そうと身体を捩って暴れる





「どんなに暴れようと無駄よん
さぁ大人しくこっちに来なさいな


「じっとしてればお姉さん達が
アナタに新しい世界を教えてあ・げ・る


「はっ、放してくだされぇぇぇ…」







断末魔のような声を上げ 
何処かへと引きずられてゆく…











今週号のジャンプを広げながら
全蔵は道を歩いていた







「まさかギンタマンがこんなに息の長い
マンガになるとは…しかしグラ子可愛いなオィ





やたらと濃ゆい独特の画風をしたマンガの
ページをめくりつ、しみじみ呟いていると







「まだ用はすんでないわよん!」


「お待ちなさぁぁぁい!!」








まず聞こえたのは 女性二人の叫び声





目の前から 誰かを追って走ってくる
物凄い形相の知り合い二人の姿







(あれ、たしか薫は今日休みだったよな
なんで猿飛と一緒?てか追ってんの誰だよ)





「オィオィ、何やってんだお前r」


「た…助けて…っ」





言葉の途中で追いかけられていた"誰か"
背中に引っ付かれてしまう







(…どっかで見たような 誰だコレ?)







後ろに隠れたのは、一人の少女だった







可愛らしい、胸の生地が大分余り気味の
メイド服に身を包み


緩くウェーブのかかった艶やかな長い黒髪に白磁の肌


整った面で目立つのは、ガラス球の如く
つるりとした緑色の瞳







華やかで美少女と言ってもいい外見だが





化粧のせいか表情のせいか 少女は
どこか人形めいたような印象をしている


心当たりがあるような気もするが、どうにもピンと来ない







「あの 誰コレ?」


「「だけど?」」





期せずしてハモった返答に
全蔵はバックに雷トーンを背負った





「えええええええええええ!マジで!?」


「ほ…本当のことだ」





上目遣いに見つめ返しながら少女―
もとい は答えた





「頼む 状況を説明してくれ」


「恐らく八つ当たり」


以外で!」


があまりにも空気読まない発言を
するから 私達も少し頭に来たのよ」


「それで逆にを女の子らしく
してたってわけなのよぉん」







そこまで聞くと、彼は背後にいる
少女の姿を改めて眺めて言う







馬子にも衣装ってヤツだな」


私はお主の孫ではない
そもそも血の繋がりもな」


「やると思ったがマゴ違いだ」





お約束のボケをやらかすの頭に
見事なツッコミチョップが入る





私達の状況がわかっていただけたかしら?」


「まさかが可哀想とか言って
かばわないわよねん 全蔵?







異様な圧力を漂わせる薫とさっちゃんに
やや怖気づきながらも彼は呆れたように答える







「お前らのイザコザに付き合う気はねぇよ
つーわけで 早く背中から離れろ」





引き剥がそうと伸ばした手が空を切る







背後にいるは伸びてくる腕を避け続け


全蔵の背中から離れることを拒む





「え ちょ…何で
オレの後ろに隠れるわけぇぇ!?」





じり、とくの一二人が迫る





?後ろから出なさいな
まだお仕置きはすんでないのよぉん?」


「アナタもヒドイ目にあう前に
を渡した方がいいわよ?」


「いやオレ関係ねぇだろっ コラ逃げんな!







むんずと彼女の腕を捕まえた瞬間





その腕がごきりと鳴り、力が抜けたように
だらりとあらぬ方へ垂れ下がった







驚いて力が抜けた一瞬を逃さず





は腕を素早く引き抜いて


カウンターで全蔵を思い切り突き飛した





「うどわわわわわっ!!」







勢いでつんのめり、全蔵は反射的に
両手を前に出してしまい





それがまた上手い具合に





二人にラリアットをお見舞いしてしまった







「よくもこの美しいアタシにラリアット
かましてくれたわねぇん…?」


「地獄すら生温いことを教えてあげるわ」






即座に起き上がり、倒れた全蔵を
睨みつける女二人





「えっちょ待て待て待て違うこれは
れっきとした事故ぎゃあああぁぁぁぁ…」







彼の叫びもむなしく





薫とさっちゃんによる 尻中心の制裁
繰り広げられた









…余りにも残酷な内容に付き







描写は割愛させていただきます









「あースッキリした、じゃ帰るわねん」


「私もそうするわ 、その服
あとで返してね」





清々した様子で、二人は帰り





ちゃっかり物陰に非難していた
身代わりしてしまった男に話しかける







「あの、大丈夫だろうか全蔵殿」


「突き飛ばしておいて大丈夫も
クソもあるかぁぁ!」



「すまぬっ 脊椎反射で」


「どこの新生物!?」







ひとしきりツッコミを入れ終えてから
全蔵は尻をさすりつ立ち上がった







「何でオレの後ろに隠れんだよ お陰で
あいつ等の集中攻撃で痔が悪化しちまったよ」


「す、すまぬ…後で薬を買い、自ら
責任を持って塗らせ「いやそれはいいから!
逆に今度はオレがとっ捕まるし!!」






無自覚で犯罪スレスレの台詞を言い出す
慌てふためきながら彼は言葉を続ける





「てーかお前があからさまに怯えるとこなんて
初めて見た気がするよ」





全蔵としては特に他意の無い一言だ





実際、仕事でも私生活でも無表情な彼女が
ハッキリ感情を表すことは ほぼ無い







"兄上"が絡まなければ、の話だが







「似ていて 怖かったのだ」


「主語を省くな、何がだ」


「二人の 雰囲気が…」







俯くの緑色の目が、怯えを宿す









(…また この目か)









何も語らず、何も知らないからこそ


例え一瞬の物でも 見た者の記憶に
焼きつき離れないその表情







"兄を探しにやってきた 有守流槍術の使い手"





初めに仕事を組む前に、そう聞かされた







フリーとはいえ裏稼業の仕事





余計な詮索は身を滅ぼすと知っているから
詳しく聞くことも調べることも無かった









だけど、年齢に合わぬ頑なな無表情と


目の陰りや兄への態度が気になって





彼はの過去を少しだけ探った







該当したのは随分昔 地方であった
天人の富豪が殺害された事件







同時に失踪した養子の兄妹





記事の名前の欄にハッキリ書かれた
彼女の本名と兄の名前





更には引き取られる前は二人とも
有守流槍術道場 師範の子









生憎、分かったのはそこまでだが
何があったかを想像するには十分だった







兄貴絡みの殺人に、巻き込まれた…)







そこまで考えてから全蔵は





目の前に居る少女の 僅かに震える肩と腕
ようやく気が付いた









「おい、大丈夫か」


「すまぬ…少し余計な事を考えた
落ち着かせるゆえ 気にされるな」







言うが彼女の震えは止まる気配を見せず





緑色の目は地面に落とされ ただ虚ろ











…行動に出たのは彼にとって







が余りにも弱々しく
在らぬ虐待に怯えてるように見えたから











両肩に優しく手を置いて引き寄せると





少ししゃがんで、軽く額をくっつけ
色素の薄い髪越しに相手を見つめて







「落ち着けよ ここにはもう
お前をいじめる怖いモンはねぇぞ」






恐る恐る顔を上げたに笑いかけながら
尚も全蔵は言い募る





「な、









小さな子に言い聞かせるかのような
優しく落ち着いた声音に安心したのか







彼女の震えは 止まった









「…ありがとう 全蔵殿」


「お、おう」





さすがに恥ずかしくなったのか、立ち上がり様
彼は身体を離し そっぽを向く







彼の赤い頬に気付かず呟く





「そういえば今気づいたが」


「……何だよ」


兄上に熱を測られる時以外で誰かに
額を付けられたのは初めてだ」





その一言に全蔵が少しムッとする





やっぱブラコンかよ それよりいい加減
化粧落として、衣装も返しに行ってこい」


「うぬ そうする、この姿は動きづらいしな」







それでは、と言うとは家へと帰っていった









彼女の姿が消えたのを見届けて、







「ラブコメ読むのは好きだけど
やるのは苦手なんだよ…ったく」





頭を掻きながら 苦々しく全蔵は呟いた








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あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:…本当、自分でもどうなんだこれと
思いましたよ書いてる時


全蔵:身もフタもねぇよのっけから
てゆうかオレ、一応ブス専でもあるんだが


狐狗狸:いや私も最初はリベンジっつーより
普通に忍者三人との掛け合い書きたかったの
…なのに いつの間にか痔のターン


全蔵:せめて忍者って付けろぉぉ!


狐狗狸:でもさっちゃんだけじゃなく
薫さんも好きだから痔が出ざるを得なく


全蔵:ちょ、オレあいつらのオマケ!?


狐狗狸:そしてつい悪乗りして
マジな話をさせたりなんか…私のバカ


全蔵:……いいから黙れよ(涙目)


狐狗狸:ゴメン言い過ぎた
だから隅っこに引っ込まないで下さい


全蔵:…ついでに一つ、の着てた
あの服ってやっぱ猿飛の私物か?


狐狗狸:まー私物っつか仕事着かな
だから胸だけやたら生地余ってる


全蔵:…自分のキャラにも容赦ねぇ




多分 彼は許容範囲広いんじゃないか
思いつつ退散させていただきます


様 読んでいただきありがとうございました!