軽快なラケットの素振り音を響かせて





「んー今日も絶好調だなぁ、退!





オレは一人、満足げに微笑む









オレの名前は山崎 退





真選組で監察として働く傍ら
日課のミントンをたしなんでます







ミントンの練習でよくこの川原で
ラケットを振るけれど ここはいいトコだ





めったに邪魔は入らないし





やっぱり練習って言ったら こーいう
川原とかが定番でしょ!









「試合も近いし がんば…うわぁぁ!?







ふと視界の端に異様なものが映って
川に視線を向け オレは叫んだ





川上からどんぶらこどんぶらこと
人が流れてくるぅぅぅ!?






しかもうつぶせでピクリともしないし!


やばいでしょアレは!!







「ちょ大丈夫ですか…ってちゃん!?







泳ぎよって陸まで助け上げる時に
見えたのは、知った顔だった









「う〜ん…」





川原に横たわるちゃんの顔を見つめて
オレは首を傾げる







何でこの子 川上から流れてきたんだ?







たしかにこの子よくトラブルとかに
巻き込まれたりしてるけど


何だかんだ言って平気だもんなぁ





見たところ、外傷は何も無いし


…なんかの漫画みたく"涼んでました"
ってオチなんだろうか?





ちゃん 大丈夫かい?
冗談とかじゃないんだよね?」







声をかけるも、意識は全く無いのか
ぐったりとしたままだ







意識がない…どころか呼吸も脈も
ないのは気のせい?






顔の色が妙に青白いのも


身体が冷たいのも川に浮いていたから
だけじゃないよねコレ!?







ちゃん?ちゃぁぁぁん!?







ちょ、ネタじゃなくてマジなのこれ!?





マジで溺死一歩手前ぇぇぇ!!?











「川原は色々流れてくる」











これ救急車呼んだ方がいいのか?





それとも病院まで連れてくべき?







いやいや 落ち着け退





人命救助の時は何をおいてもまず
冷静な行動が求められる





溺れて意識がないんだから


病院に連れて行くにしても応急処置を
したほうがいいよなやっぱ





こういう時の応急処置は確か…









「人工呼吸と心臓マッサージ、だよなぁ」







そこまで考えて とんでもない事に気づく









人工呼吸と心臓マッサージをするなら







つまり、ちゃんの唇とか胸
アレしたりする
ってこと…だよね!?









おっおおおおおお落ち着け退







これは人命救助のためであって
決していやらしい目的とかじゃなくて


柔らかそうな感触とか堪能できたら得だなー


…とか微塵も思ってないわけで!





なんて言い訳をしつつ


ちゃんのアゴを持ち上げて
気道確保なんかしちゃってます







マズくないこれ マズくない!?





ぱっと見なんか犯罪くさいよ警察官なのに!


よくよく考えれば正しいコトやってるわけだし


そこまで意識するモンでもない…けどまぁ

緊張というか期待しちまうのは男のサガなわけで


でもこれ応急処置だし、人命には変えられないし

…仕方ないようん!







鼻の方を摘んで







いざっく、唇を…!











「……うぎゃああぁぁぁぁぁ!







断末魔の叫び声にビビって思わず動きを止める





辺りを慌てて見回すと


「…ぁぁぁぁああああああああああああ!





聞き覚えのあるだみ声とともに
上から局長が転がり落ちてきた





「ええぇぇぇ 局長なんで血塗れ!?」







転がってきた土手の上を仰ぎ見ると





怒りのオーラをまとった姉御がそこに佇んでいた







こ…怖えぇぇぇぇぇぇ!!





「しっつけーんだよぉ
ゴリラの分際で!」








ちょ姉さあぁぁぁん、ゴリラ捨てて
唾吐いて去っていかないで!


こっちは死にかけたちゃんだけでも
ホントに手一杯なのに





てゆうか局長も毎度毎度懲りないなアンタ!







「うぅぅ…お妙さぁ〜ん」









ずぶ濡れのちゃんと血塗れの局長が
現在 オレの目の前にいます









どうしよう、どっちの処置が先だ?





いっそ応援を呼ぶべき!?


何もしない方がいいんだろうか







いっそここにいるのがゴリラだけだったら
このまま見捨てて行けたのにぃぃ





つーかちゃん脈が全く取れない以上
手遅れでない保障ないんだけど!







こ、こうなったら墓穴でも掘ろうかなぁ









…いやいやいや落ち着け 考えろ
クールになれ山崎退







助けを呼ぶにしろ応急処置をするにしろ





まずはここから動かなきゃ始まらない!





状況を改めて把握すると―









ずぶ濡れかつ脈も呼吸も無い
限りなくデッドに近いちゃん







血塗れかつ最早呻くこともしなくなった
限りなくデッドに向かってる局長









「……いやもう無理でしょこれぇぇぇ!







だってどっちもデットのが近いし!





もう既に応急処置ってレベルじゃねーし!





人間 想定外の事態だと上手く動けないんですよ
ただの監察のオレにどうしろと!?









「こうなったら…埋めてしまおう」







だって仕方ないでしょこれは







ちゃん助けた時点で仏さんくさかったし





局長はある意味自業自得だし





…ついでに言えば埋めとけばストーカー行為を
止められるだろうし







そー考えれば、これは当然の行動なんだ









半ば脳停止した状態で スコップを取りに
行こうかと土手を一歩駆け上がったとき









背後でなんか変な音が聞こえた







反射的に振り返ると ちょうど
ちゃんが勢いよく水を口から吐き





「ん ここはどこだ?」





何事も無かったかのように起き上がっ…









ええぇぇぇぇ 復活したあぁぁぁぁ!?







「おお、山…崎?殿と勲殿ではないか」


「何で疑問系!?山崎です 山崎退!!」







余りにもいつも通りの会話に呑まれ
その場のノリでツッコミを入れた





つーか毎度のことながら、


ちゃんとオレの名前覚えてくれよ!!







「それは失礼した ところで山崎殿
何故ゆえ勲殿が血塗れなのだ?」


「そっそれはあの〜姉御が…」


「お主に姉がおるのか?」


「いやそーいうことじゃなく!
お妙さんにやられたんですよ!!







おお、と納得してちゃんは
手の平をぽんと打って







「そうか、ならば手遅れにならぬ内に
しかるべき所へ運ばねば」





平然ととんでもないことを言い出す





「えっでもコレ、もう既に手遅r」


「その前に応急処置を済ませた方が
いいと思うのだが、どうだろうか?」


「いやあの もう息してるかどうかも
怪しいんだけd」


「山崎殿は応急処置が得意だろうか?」







ダメだこの子 人の話聞いてない





そもそも状況見えてない







「そりゃ少しは出来るけれど、でも
手遅れっぽいでしょコレ!」


「そんなことはない!」







土気色の顔した局長も







オレの否定も全く無視して







「今ならまだ間に合う、私も手伝うゆえ
協力して欲しい…頼む







どこにそんな根拠があるんだ、って
聞きたいくらい





ちゃんは力強く言い切った









…そう真っ直ぐに見つめられたら





がんばって局長を地獄の淵から
生還させなきゃいけないじゃないか







仕方ない、やるだけやるか









オレはため息をついて 懐から
出した手ぬぐいをちゃんに手渡す







「…それじゃあこの布を濡らしてきて」


「了解した」













オレ達の応急処置のお陰か
元々生命力が害虫並みに高いせいか





局長はすぐさま動けるくらいまで復活し







「いや〜本当にありがとうな二人とも
それじゃあ先に失礼するよ」








一足先に屯所へと帰っていった









…いや、あくまで応急処置だから
屯所に戻った方がいいっつったのオレだけど









「処置 手伝ってくれてありがとう」


「何、気にするな」







一段落着いて、オレは改めて
最初の疑問を彼女に聞いてみた







「そういえば…ちゃん、どうして
川上から流れてきたのかな?」


「落ちて、溺れた」


「色々説明抜け落ちてない!?」


「…イザコザの末に滑り落ちて、溺れた」







色々断片的かつ間抜かしな説明に
頭をフル回転させる









つまり、何かあって川に落っこち





そこで足を滑らすかして溺れてた
…ってことか?







「つか溺れたって言うより
ほぼ溺死しかけてなかった!?


「そうとも言う」


「あっさり言わないで!」


「そういえば 助けてもらった礼が
まだだった…ありがとう、山崎殿


「あ、いやいや そんな…」







KYな発言に それでもついつい
顔を赤くして答えるオレ





この子のこーいう素直な所


弱いんだよなぁ…







「お陰で三途の川を渡らずにすんだ」


「三途の川ってちゃぁぁぁんん!!」







せっかくの甘酸っぱい気持ち
一気にぶっ飛ぶ珍回答だよそれ!





てゆうか洒落になってないマジで





真顔で言うの止めてホント!!









「山崎テメなにサボってやがんだぁぁぁ!!」


「うわっ副長!」







土手の上を見上げると仁王立ちの副長
駆け下りながらこっちに近づいてくる







やばい かなり怒ってるよアレは!





早くこの場から逃げなきゃ 今度こそ
切腹させられかねない!!







「あ、それじゃさよならちゃん!」


「うぬ さらばた」


「待ちやがれ山崎ぃぃぃ!!」







ちゃんに短く別れを告げて





オレは追いかけてくる副長から逃げ出した








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あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:アニ銀での山崎の可愛さっぷりに
触発されて、書いてみました


山崎:いやいや いくらなんでもオレのこの
うろたえぶりはありえないでしょ!?


狐狗狸:やーでも人間想定外には意外と弱いよ


山崎:それは否定しませんけど、それにしたって
普通はもう少しこう…


狐狗狸:だって私の中じゃキミはいじめられ
体質のかわいそうキャラだから


山崎:い、言いきったよこの人…(半泣き)


狐狗狸:まぁまぁ泣かないで、確かに近藤さん
だけならうろたえなかったね うん


山崎:局長のしぶとさはともかくとして…
ちゃん、脈なかったよね完璧に


狐狗狸:うん(キッパリ)だって
若い身空で死神とマブダチだもん


山崎:それ夢主としてどうなんですか!?




も少し甘酸っぱい感じになればなぁ(ガク↓)
てゆうか、毎度ゴメン近藤さん


様 読んでいただきありがとうございました!