巡回から屯所に戻ろうと車を走らせていると
目の前に人だかりが出来ていた
車を近くに止めて そこから降り、
側で野次馬整理をしてる隊士に声をかける
「屯所の近くでなんだこのバカ騒ぎは?」
「副長!あの、ちゃんが…」
?
……ああ、あの槍ムスメがまた
なんかやらかしやがったのか?
人込み掻き分け その場まで行くと
信じられねぇような光景に出くわす
頭から流血して倒れてる槍ムスメ
辺りに散らばる植木鉢の残骸と土
側には似たような鉢植えが並んだ
マンションのベランダ
さて、次の事柄から連想される事件を述べよ
…述べるまでもねぇ
「今時、植木鉢の直撃なんざ
ガキでも食らうかよぉぉぉ!」
オレは思わず頭を抱えて叫ぶ
バカだバカだと思ってたが、この女
本当にバカだったとは
「で、こいつとうとう死んだのか」
「いや オレらが見つけた時にはもう既に
野次馬が群がってる状態で…」
困ったような呟きに 舌打ちを一つ
打ちながら倒れた槍ムスメに近寄る
「ったく誰も生死の確認してねぇのかよ」
一つに結った三つ編みを掴んで、
うつ伏せの頭を持ち上げる
唸りもしなけりゃまぶた一つ動かねぇ
顔の辺りに耳を近づけてみた
「あの副長、ちゃん生きてます?」
「…微妙に息があるな」
いつの間にか集まってた隊士が皆、
ほっとしたような顔をしていやがった
「なに嬉しそうにしてんだよコラ」
「あっいえ、なんでもないです!」
慌てる隊士どもはどうでもいいとして
生きてるなら生きてるでこの状況は
非常に面倒くさい
こいつも一応 きな臭いながら一般市民
忌々しいことに顔見知りだ
しかも保護者がいねぇときた
何とかする義務があるってことだな
「…どうします?」
「息があるなら屯所に運ぶしかねぇだろ
他に目立った外傷もねぇからな」
ったく よりによって屯所近くで
倒れやがって…
倒れた槍ムスメの応急処置を済ませて
後部座席に乗せて 屯所へ向かう
「植木鉢より貧乏くじの方がよく当たる」
別室に寝かせるために肩に担いで
運び込んでいる途中、
曲がり角からやって来た近藤さんが
わかりやすいぐらい目を剥いた
「ちょっ ちゃんじゃないか!
トシ、お前一体何したの!?」
「何でオレだぁ!勝手に倒れてたこいつを
とりあえず拾ってきただけだ!!」
事情を説明すると、なんとかオレへの誤解は
解けたようで 寝かすのも手伝ってもらった
「まぁ何はともあれ、目を覚ますまで
寝かせたままでいいんじゃないか?」
かけた布団をちょいちょいと直しながら
近藤さんが優しげに言う
「いいのか 近藤さん」
「知らん仲でもないし、それに
倒れていた民間人を放ってもおけまい」
「まあ、そうだな」
「あとでちゃんのお兄さんに
迎えに来てもらうよう電話しておくよ」
近藤さんの台詞が終わらないうちに
"よっしゃー!"
と押し殺した声が聞こえてきた
近寄って勢いよくフスマをあけると
聞き耳を立てていた奴らがなだれ込む
「仕事はどうしたテメェらあぁぁぁ!!」
オレの一括に クモの子を散らすように
隊士どもは慌てて逃げていった
槍ムスメを保護してから、屯所の空気が変わった
誰もが落ち着きを無くして挙動不審だ
何人か叱り付けても 効果は見られねぇ
普段から、事件の被害にあった女とかを
保護してても 浮き足立ってることはあったが
今の奴らのそれは、さらにヒドイ
おかげで余計な仕事が増えてしょうがない
しかも、兄貴の迎えが外せない仕事で
夜中ごろときている…最悪だ
「そろそろ起きててもいい頃だろ ちっと
様子を見に行くか」
仕事がある程度一段落ついて
廊下で一服しつつ歩くと、山崎にすれ違う
「あ、副長 ちゃんまだ寝てるんで
沖田隊長が様子見てるみたいですよ」
「おうそうか…って、何で知ってんだよ
テメェこの時間はまだ見回りの筈だろが」
山崎の野郎は肩をビクリと反応させると
一目散に逃げ出した
「おいコラ待てや山崎ぃ!!」
追いかけるもとっくに姿が見えなくなる
ちっ逃げ足の速ぇ…あとでアイツしめる
イライラしながらも槍ムスメの眠る
別室へと足を運ぶ
目が覚めていようがいまいが
兄貴の迎えも関係ねぇ
事情を聞いてさっさと帰らせよう
このままじゃ奴ら、浮かれてて
ろくに仕事しやがらねぇ
あんな能面女のどこにそんな騒ぐ要素が
あんだって…うぉぉぉぉい!?
「おまっ、何やってんだあぁぁぁ!!」
「ちっ 帰ってきちまったのか」
舌打ちする総悟の手には鎖
その先は槍ムスメについた首輪に
しっかり繋がってやがった
「いやーに手伝って欲しいことが山ほど
あんのに起きやがらねぇから起こそうと」
「首輪で起きる奴がいるかよ!つか手伝って
欲しい事ってオレがらみじゃないだろうな!」
いやいやそんな、と棒読み気味に半笑いで
言う総悟を叩き切ってやりたい衝動を抑えつつ
「とにかくオレがコイツを起こすから
お前もそろそろ持ち場に戻れ」
「誰かぁー来てくれー 土方さんが
にイタズラしようとしてるぅぅぅ〜」
「人聞きの悪い事言うな!
叩き起こして帰らせるだけだ!」
グダグダ言う総悟を何とか追い出し、
ついでに槍ムスメの首輪を外して
その辺に捨てる
「しかし、さっきの騒ぎにも全く
起きる気配がねぇなこいつ」
叩き起こすつもりだったが その様子に
急に不安になる
寝息一つ立てない眠り顔は、まるで
安らかに眠る死体のようだ
こいつ 本当に生きてんのか?
気になって頬を軽く叩くも、無反応
ついでに頬を真横につねっても見たが
眉一つ動かさねぇ
更に不安になって脈を図る
「…生きてはいんのか、紛らわしい」
少し焦ったじゃねぇかこのヤロウ、と
恨みを込めて 力一杯頬をつねってやった
「………む」
小さく呻いて僅かに眉をしかめたその姿に
知らず内に笑みがこぼれる
普段は表情一つ変えずに総悟の野郎と
一緒にオレの命を狙うくせに
「…黙ってりゃ 案外大人しいもんだな」
ふと 手に触れた髪の感触が心地よくて
指先で軽く梳いてみた
さらさらと指から零れ落ちる黒髪を
目を細めて眺める
「こいつも少しは女らしいとこあんのか」
よくよく考えりゃ
こうして女の髪を撫でたことって
今まで無かった気がする…
一体 どのぐらいの間そうしてただろうか
「こいつの髪から手が離せねぇぇぇぇぇ」
マズイ このままでは非常にマズイ
何故ならあと10分ほどで見たいアニメが
始まってしまうからだ
もちろん録画セットはしてあるのでござるが
やっぱりリアルタイムでも…
って、ちょ オレのキャラが違ってるだろ!
いや拙者としてはこれは欠かせない習慣の
一つであるわけだからして
だからお前は出てくんなオタk
「…ふぅ、十四郎は厳しすぎるでござるよ」
拙者だって限られた時間を有効に使って
アニメ録画編集したり同人本チェックしたり
コミケやオンリーお出かけしたいでござる
不平を呟きつつも、気持ちのよい
彼女の髪をじっくりと撫でる
しかしキレイな黒髪でござるなぁ
拙者 黒髪萌えでもあるんでござるよぉ〜
よく見たら氏ってる○剣の操たんコスっぽ…
あー我慢できない 写メに収めたい!!
いそいそと出した携帯をカメラモードにして
「距離はこれくらいかな、角度はもうちょっと
こう傾ければよりそれっぽく…」
少しアングルに手間取るもいよいよ
シャッターを切るため親指を―
カシャリ、と軽い音がしたのと
彼女が目を開けて勢いよく起き上がったのは
ほぼ同時だった
「うわっ!?」
反射的に慌てて距離をとると
咄嗟に携帯を懐にしまいこむ
見開かれた緑色の目が、拙者を見た
「瞳孔マヨ殿 一体何をしているのだ?」
「あ、いや別にこれは写メとろうとか
エロい妄想とかやましい事は何一つしてなくて!」
「ん?お主 本当に瞳孔マヨ殿か?
なんだか様子が違うのだが…」
あああもう はっずかすぃ〜!!
氏にこうじっと見つめられて
拙者どうすれば…
って ゆうかこの子表情まったく
変わってなくない?
精巧なドールみたいで怖くなっ…うわ、なにすr
ったく何してくれてんだこのオタクが
つーか、いつまで見てんだこのアホ女
オレは右手を軽く上げて 槍ムスメの脳天に
チョップを一発お見舞いしてやった
「いきなり何をするのだ、痛いではないか」
頭をさすっちゃいるが本当に
痛いと思ってんのかコイツ?
「とゆうか ここはどこだ?」
「うちの屯所だ」
「何故私がここにいるのだ」
「それはオレが聞きてぇよ!」
怒鳴り返してから、ついでに倒れていた
わけを聞いてみた
「てゆうか何で植木鉢の直撃食らってんだよ
テメェならあんなもん避けられんだろ」
植木鉢、と小さく呟いて
思い当たるふしでもあったのか手をポンと叩く
「突き飛ばしたら当たった」
「もうちょい言葉足せ!」
「少年の上に植木鉢が落ちてきたので
突き飛ばしたら当たっ「アホか」
つまりは、どっかのガキの身代わりに
植木鉢に当たりに行ったってことかよ
バカだ 本物のバカだ
「して、何故私はここにいるのだ?」
「…倒れてたテメェをわざわざ保護して
やったんだよ、ちっとは感謝しろ」
文句の一つでも飛び出してくるかと思ったが
槍ムスメは素直にも頭を下げる
「そうか、それは迷惑をかけた ありがとう」
「おう…テメェも礼ぐらい言えんだな」
「当たり前だ、いくら嫌いな相手とはいえ
助けてもらったら礼を言うのは基本だ」
「今度からその余計な一言も削れ」
起きてる時は本当、憎たらしいなコイツ
立ち上がったのを見て オレも腰を上げる
「じゃあ、元気になったんならさっさと帰れ」
「そうだな…兄上も心配しているだろうし
私は帰らせていただく」
と言いながら器用にも槍で天井の戸板を
外して上ろうとしていた
「ってどこに帰る気だあぁぁぁ!!」
「いや、つい慣れぬ場所のクセで」
「どんなクセだよ!
さらっと天井板外すな戻せコラ!!」
不満げに天井を戻すその姿に
半ば呆れてため息をつきつつ
「外まで案内してやるから こっち来い」
「そうか、それは助かる」
言いながら槍ムスメの少し先を歩いて
戸口へと案内した
思い出して 携帯を取り出してみる
開いた画面には、槍ムスメの寝顔が
バッチリ保存されてやがった
…ったくオレの携帯で妙なもん撮りやがって
消すのも面倒だし、放っておくか
「誰かから電話があったのか?」
「何でもねぇよ、それよりもっと早く歩け」
「お主が急ぎすぎなのだ」
外に出ると、槍ムスメの保護者が
振袖を乱しながら走り寄ってきた
…いつ見ても本当、
下手な女よりキレイな顔してやがるな
「!遅くなってゴメンね!!」
「やっと保護者のお出ましか、
遅かったじゃねぇか」
「スイマセン、仕事が中々終わらなくて
ご迷惑おかけしました」
「お手数煩わせて、すみませぬ兄上」
おい 煩わされたのはオレだっつの
って…兄上?兄上ぇぇぇぇ!?
「あ、兄上とな もしやお主っ妹!?」
「何を今更…あれ、瞳孔マヨ殿
またおかしく」
「いっいいい妹萌ええぇぇぇぇ!!」
拙者が思わず魂の叫びを上げた瞬間
氏とその兄上殿は拙者から
少し身を引いたのだった
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あとがき(というか楽屋裏)
狐狗狸:何とか土方さんの誕生日にギリギリで
間に合いました〜誕生日おめでとうございます
土方:本当にギリギリだなオィ!
つーか槍ムスメの写真なんか消せよ!!
狐狗狸:そこはまぁ、僅かながらトッシーの影響
入ってるって事で あとこれ夢だし
土方:都合のいい解釈だなコラァ
狐狗狸:…しかし書いてて気付いたんですけど
土方さんって一回もを名前で呼びませんね
土方:それがどうかしたかよ?
狐狗狸:いや、まぁ土方さんらしくて
いいんですけど…ん?どうかしたの山崎?
山崎:…実はオレや他の隊士がちゃんの
寝顔撮ってたの、内緒にしててくださいね
土方:今何つった?山崎ぃぃぃ
沖田:その画像、もちろん消すよなぁ?
山崎:ひぃぃぃぃ!!
狐狗狸:あらら聞こえてたみたい
近藤:まぁまぁ、寝顔の写真くらい
別にいいじゃないか
土方&沖田:アンタは黙れストーカーゴリラ
その後、山崎をはじめ他の隊士達のデータも
消させられたとかそうでないとか…
様 読んでいただきありがとうございました!