スズメがさえずり、空が徐々に白みだし


かぶき町にもさわやかな朝がおとずれだす







人もまばらで人々が目を覚ますには
少し早い、そんな時間に


目をこすりながら眠そうに

は道を歩いていた





「まさか朝までかかるとは…眠い…」





どうやら徹夜で仕事を終えて、
今から帰るところらしい





「兄上が待っている 早く帰らねば」


「おーうぅい、そこにいんのは
ちゃんじゃねーのォ?」






聞こえた声にゆっくりと顔を向けると


電柱にもたれかかった銀時と目が合った





「あ 銀時…何故ここに?」


「大人の付き合いには色々あんだよ
お前こそガキのくせに朝帰りか?ん?」


ふらふらと近寄りながらセクハラ親父
ような絡み方をしてくる


顔は赤く ろれつもかなり怪しい





「おっとぉ ゴメンゴメン〜





足がもつれたらしく、銀時が
抱きつくようにして寄りかかってきた





「仕事が長引いてな それよりも
銀時、大分酔ってないか」


「酔ってません〜こんなの序の口ですぅ」


「いや酔ってると思う」


「酔ってねぇっていってんだろが
しまいにゃ襲うぞコラ





やんわりと説いても据わった目で反論され


説得は無駄だと諦めたらしく





「とにかく万事屋まで送ろう、歩けるか?」


「おーう悪いね〜」





寄りかかる銀時を支えるようにして
は万事屋へと歩き始めた











「酔っ払いは妙になれなれしい」











道中 陽気な声音で銀時が話しかけてくる





「なーー聞いてくれよぉ
もう本当、うちの家計火の車でさぁ」


「それは聞かなくても知っている」


「じゃあオレが攘夷戦争の時に白夜叉とか
ブイブイ言わせてた武勇伝語ってやろっか!」


「それも万事屋についてから聞くから
歩くことに専念してくれ」







表情も態度も変わらない相手に


銀時は大きな、酒臭いため息をついた





「お前、こんないい男が近くにいんだから
ちっとは赤くなれこの能面女ー」


「スマヌが私は兄上以外は眼中に無い」


「でたよのブラコンーいい加減兄離れ
しろよ アイツだけが男じゃねーだろ」





その一言にようやく反応した
大げさに表情を変えた





「何を言うか 兄上は私の理想だ!


「あのな、もっと世の中を見てみろよ
お兄ちゃん以上の男なんかゴロゴロいるぞ
例えば銀さんとかーなっ?


反応に満足しつつ自分を指し示す





途端、顔色を変えて銀時が口を押さえ始めた


「うぇぇキボチワルっ 前言撤回
やっぱオレ飲みすぎたわ…」





苦しそうな顔がぐっと下を向く





「だから言ったろう、さぁ万事屋へ急ぐぞ」


「いやいやいや無理 これ万事屋まで
持たないってマジ喉まできてるって!」





開いた片手を器用に振りながら訴えるが
彼女は歩みを止めない







「なぁちょっ休ませてくれよ
オレマジ限界なんだけど、おぅっぷ


涙目でプルプル震えながら言う銀時に


すまなさそうに少しだけ眉をひそめて
が背中を押した





「我慢してくれ、もうすぐそこだ」


無理無理無理!止まってくれなきゃ
チューするぞーリバースもすんぞこのヤロー」





両腕で抱きつき、口を尖らせて迫る姿は

まさにダメ大人全開だった







僅かながら呆れたような表情を浮かばせ





「わかった」


大の大人一人を引きずるようにして
は近くの公園へと足を運ぶ









「ちょっと一人で立てるだろうか?」


「なーに言ってんだよぉ、人間はみんな
地に足付けて生きてくもん…うぉぉぅい!





たたらを踏むものの猫背気味ながらも
支えなしで銀時は立っていた





「おまっ急に離れんなよ危うくコケる」


「銀時 楽にするので歯を食いしばれ」


へ?と不思議そうな顔をしたのも束の間





銀時のみぞおちにの握り拳が
思いっきり沈み込んでいた





酔っ払いの腹にパンチなんかかませば
当然 限界間近の胃は耐えられるわけがなく


もちろん、銀時もその例にもれなかった





「おぶっ…おぼろろろろろろろろ





瞬間的に距離を取ったのか 
どうにかゲボェの被害にあわずに済んだ







中身をあらかた出したものの

いや、出したからこそ


今度は腹を殴られた痛みに悶え苦しむ
銀時を は無理やり水場に連れて行く





「何これ新手の拷問!?
ちょ 誰に教わったんだよこんなこと!!」






蛇口をひねって水を出しながら


眉一つ動かさずに淡々した答えを言う





「こうやって中身をださせれば酔っぱらいは
楽になると、妙殿から教わったのだ」


「…何教えてんだよあの女」


「さあ、口もゆすいで酔いを醒ませ」


「いやもう醒めてるから離してくれ
頼む銀さんからのお願い!





ぐいぐいと強制的に流れる水に顔を
突っ込まれそうになり


銀時はここぞとばかりに懇願した









中身を出したりして騒いだおかげも
あってか、酔いはあらから醒めたようだ


僅かに顔が赤いがろれつもハッキリし


立ち振る舞いも先程よりシャンとしている





…死んだ魚のような目はデフォルトだが







「酔いは醒めたようだな」


「ああ、おかげさまでな」


言葉の中に何か含まれるものがあるが


寝不足でいつもより更に頭の周りが
遅いはそれに気づいていない







「よし ならば改めて万事屋へ戻」


先へと進むの腕を掴み、


銀時は自分の手前へと引っ張った





当然 引きずられるような形で
彼女はその場にしりもちをついて倒れる





「痛い、何をするのだ」


「それはこっちの台詞じゃボケェェェ!」





地面についた所を叩いて文句を言う


銀時が怒りをあらわに叫びかえす





「さっきはよくもやってくれたなぁぁ…
人の腹殴っといて詫びもなしか?あぁ?」


「余程痛かったのか、すまん」


「そんな薄っぺらい謝罪ですむなら
警察いらねぇんだよぉぉぉぉ!!」



「ならばどうすればいいのだ」







そこでニヤリと笑みを浮かべると





「お前のせいでまだ気持ち悪いんだから、
膝枕くらいさせやがれコンチキショー」


銀時はベンチを指差しつつ、そこまで
を引きずっていく







ズルズルと引きずられる彼女は全く抵抗しない





「むぅ 仕方がないな…しかし一つだけ
聞きたいことがある」


「なんだよ」


「ヒザマクラとはなんだ?」


「…お前 本っ当にバカだよな」











ベンチにを座らせると





銀時は手短に、膝枕は母の温もり
どうのだの優しさがあるだの

男のロマンがそうのだの


まあ平たく言えば膝枕の大切さ
虚実合わせて教えたのだった







「スマヌな 私は母上との記憶が無いゆえ
そのような事に思い至らなくて」


「まあそーいうこともあるさ気にすんな」





言葉は優しいのだが 銀時は一瞬だけ


"計画通り"

という言葉がピッタリな顔をしていた





「はーやっぱ若い子の膝枕はいいねぇ〜」





スリスリと頬ずりをしてしばらく
膝枕を堪能していた銀時だが







「……ん?」


急にピタリ、と動きを止めると


鼻をひくつかせて顔を上に向けた





 お前血の臭いすんぞー
どっかで死にかけたか?それとも生理?」





思い当たる節があるらしく、あっさりと
返事が返ってくる





「恐らく仕事のときのだ」


「物騒な事やってんな相変わらず
もっとマシな仕事やれよ」


「仕方なかろう 私はこの仕事しか出来ぬ」





見上げる視線をまっすぐに返す
緑色の目に 少し陰りが宿って消える





「仕事も大事だけどよ ガスは抜いとけ
気ぃ張りすぎっとテメーが辛いからな」


「そうなのか、肝に銘じておく」


「だからそれが真面目なんだっつの
もっと適当に生きりゃいいんだよ





ふっと笑って 銀時は手を伸ばすと


頭をポンポンと叩いて撫でる







手の平の温度を感じて の表情が
僅かながらに緩む





「そういえば銀時はあそこで
何をしてたのだ?」


「決まってんだろ 居酒屋をハシゴだ」


「居酒屋にはハシゴを上り下りしながら
酒を飲むしきたりがあるのか?」


「どんな居酒屋だ ねーよそんなルール」


今度はチョップを一発くらい


頭をさすりながらは そうか、と
納得したように呟いていた









「あとどの位でよくなりそうだ?」


「んーまだ痛くてなぁ もうしばらく」





言いながら太ももへと手を伸ばそうとする
銀時の言葉をさえぎって





!やっと見つけた!!」


公園にの兄 が駆け込んできた





「兄上!!」


「デッ あだだだだだだだだ!!!





勢いよく立ち上がって兄の元へ駆ける


その反動で膝枕していた銀時は地面に
転がって頭を打って転げまわる







「連絡してからしばらく待っても帰って
来ないし、あちこち探したんだから」


「すみませぬ兄上…」


「でも無事でよかったよ」





ほっとしたように言うの言葉に続いて





おいお前らあぁぁ!オレについて
何か言うことはないのかあぁぁぁ!!」


銀時の叫びが辺りに響く





「…あ!すまぬ銀時!!」


「ああ いたんですか坂田さん」





少し慌てながら駆け寄るとは
対照的に 冷静に返す





「いい大人がこんな所で何やってるんです?」


「仕事の関係で飲んでたんだよ悪いかコラ」


「うわ、臭い…」





吐き出される口臭には思わず鼻を摘む







「兄上 銀時は早く万事屋に送った方が
いいと思って連れて行こうと…」





申し訳なさそうに話すと銀時の顔を
交互に見比べると、


「なるほど、状況は理解しました」





銀時の手を取って、にこう言った





「それじゃ、僕が坂田さんを
お送りするから 先に帰ってて」







、と戸惑ういとまもあらばこそ





「了解しました兄上!」


右手で敬礼をし、わき目も振らずに
は家へと駆けていく







名残惜しそうに見つめる銀時の腕を引いて





「じゃあ後は僕がお送りしますから
自分の足で歩きましょうね?」


はニッコリと微笑んで歩き出す





「おーいお兄さん?もうちょっと
休ませてもらえないかなぁ」


わたくしの膝枕でよろしければどうぞ?」


「…スイマセン やっぱり帰ります」





女顔負けの営業スマイルに銀時は
渋々歩き始めたのだった







「つか、もう少しの膝枕で休んでも
いいじゃねぇか減るもんじゃなし」


「ダメです 銀さんはエロい客
同じオーラが出てますから」


「妹も妹なら、兄も兄だろ
過保護すぎるのもどうかと思うぞ」


「間違いが起きる前に妹を守るのは
兄として当然だと思いますけど?」


言い切るに 銀時は肩をすくめる





「テメーの妹なのに自立させる
自信がねーのかよ?」


「逆に銀さんはああいう妹
一人立ちさせて見守れます?」





じっと見つめてくる緑色の目は
不安でいっぱいだった





「……ごもっともだな」








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あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:ダメ大人な銀さんと酔いを醒まさせる
のやりとり書きたいがために作った話です!


銀時:いきなりカミングアウトぉぉぉ!?


狐狗狸:それがこのあとがきクオリティーですから


銀時:いらねぇよそんなクオリティー
つーかアレじゃオレ、セクハラ親父じゃねぇか!


狐狗狸:大丈夫 セクハラなのはいつもの事だし
ダメ大人な銀さんも大好きだから!


銀時:いらねぇよんなフォロー!
あとさりげなくダメ強調しやがったろ!


狐狗狸:ダメなのも時折煌くのも全部
ひっくるめて銀さんの魅力だと思ってるよ


銀時:やっぱワザとダメ強調してんだろ!
の膝枕が短いのも嫌がらせか!?


狐狗狸:膝枕は知りませんよ




本編よりもグダグダ度UPな後書き(笑)
カッコいい銀さん好きな方はスイマセン


様 読んでいただきありがとうございました!