その日、私に回ってきた仕事は
ある意味 かなり難しいことだった





―年と背格好が近いやつの方が、ボロは出にくい―





内容は ある娘の身代わり…要は





「麻奈子様を探すため、我らもう血眼
捜しているのです それはもう!


家出した麻奈子殿を見つけ出すまで

権力を持つ父親や周囲に家出が発覚する前に
影武者をして欲しいとの事だ





それなりに高額の値で 出来る者も
かなり少なかったゆえ、引き受けた


それもこれも全て 兄上に貢献するため!







口調や姿などは 側近殿達の協力により
多少は誤魔化せていた故


滞りなく任務を果たせる…と思っていた





麻奈子殿の父上殿が、真撰組に
娘の警備を依頼しなければ





――――――――――――――――――――





その日、オレらに回ってきたのは
ある意味 退屈な仕事だった





内容は平たく言えばまぁ

脅迫状が送られたりでうちの娘が狙われてるから
警備して欲しいっつー在り来たりな金持ちの依頼


何でもお偉いさんの言うことにゃ


ここの高利貸しのオヤジは表でも裏でも権力持ってて
お世話になってるんだとか





そいつの側や娘の側、あとオレらを囲む
手下どももいかにもっぽい輩だらけだ





「ったく、オレら薄給の芋侍がガキのお守りたぁ
やってらんねーよな世も末だよ」


ボソリと呟いた一言が聞こえたらしく、





「何か言うたかのぉ」





目の前でふんぞり返った油ギッシュな
典型的成金風オヤジ


…まーぶっちゃけ依頼主が睨んできた


すかさずオレは 隣の土方指差し





「って土方さんが」


「言ってねぇよ!!」





そのまま延々と怒鳴り始める土方やらを
無視して 娘の方に目を向ける







はずかしがりやで無口で顔を隠しがちで、


取次ぎも側近の奴らが主にやってるから
殆ど会話を交わさないのがどうも胡散臭い





オレの視線に気付いてか、目が合った





さほど化粧っけのないそこそこ見れる顔立ち
茶色の眼に 浮かべた微笑


だが、その笑い顔がどっかぎこちねぇ





腹に一物あるっつーよりは笑い方に
慣れてねぇ…ほとんど笑ってねぇ笑い方


……なーんか、アイツに似てんなぁ





黒髪おさげで緑目のブラコン女が頭をよぎる









「いや〜麻奈子さん、お美しいですね」


「当然じゃ 三国一の美女じゃからな!」





気付いているのかいないのか(まぁ後者だねぃ)
のんきに笑う近藤さん







けど土方さんも違和感を感じ取ったらしく







「…総悟 あの娘、なんか見覚えがあんだけど」


「奇遇だねぇ 土方さんもそう思いやすかぃ
ちょっとカマかけてもらえやす?」





小声で短く言葉を交わし

土方さんは眉をひそめながらあの女に問いかける





「なあ娘さんよぉ、ひょっとしてオメェ
どこかで会ったことねぇか?





動揺を露わにしたのは あの女じゃなく
依頼者のオヤジだった





「ててててテメェ!なに大事な大事な嫁入り前の
麻奈子に色目をつかっておるあぁぁ!!」


見ていて笑いがこみ上げてくる程の慌てぶり


正にキング・オブ・親バカでさぁ







呆気にとられる土方に周囲から注がれる
侮蔑の目 目 目


これは土方の評判を落とすチャーンス!


オレは声を大にして棒読み気味に叫んだ





「うわー土方さんが寂しい独身生活に嫌気が差して
勤務中に依頼人の娘口説き始めたぁ〜」


「何ホラ吹きはじめてんだ総悟!ちょっと黙れ!!


「しかも暗がりに連れてってマヨ子に調教
したいとか言い始めてるぅ〜」


「テメっマジ黙れ!てゆうか調教は
お前の専売特許だろうがドS皇子ぃぃ!!」








思惑通り キレたオヤジが近藤さんに





「局長さん、そんな男は警備から外してくれぃ!!


と頼み、抵抗する土方コノヤローを
近藤さんと隊士達が抑えて外へと引きずる





「悪い トシ!あとでお妙さんのとこに
一緒に飲みに行ってやるから!!」


いるかぁ!それお前が飲みに行きてぇだけだろ!
放せテメェらああぁぁぁぁ!!」


「ザマーミロ〜 いい気味でぃ」


「覚えてやがれ総悟おぉぉぉ…!!」





土方の遠吠えが響き渡る中


あの女の側にいた 手下の一人が
うろたえたのをはっきり見た











「ばっくれる奴は代理の気持ちも考えろ」











あの二人と目が合った時


感づかれたかと、内心冷や汗をかいた





しかし瞳孔マヨ殿は警備から外され

総悟殿も基本裏口を警備することとなり


とりあえずは順調に進んでいるようだ









少しして、側近殿から朗報があった





殿、今 捜索をしている者から
無事に麻奈子様を見つけたと報告がありました」


「それは真か」


「ええ、こちらに急ぎ向かっているそうなので
もう少しの辛抱です」







入れ替わる手筈は後に…と言って、側近殿は
父上殿に呼ばれて席を外した





「よかった…」





後は麻奈子殿と入れ替わることだけだと
安堵の溜息を漏らし







「――ん?


…今、何か強い殺気を感じたような





気のせい であろうか?







―――――――――――――――――――――







「近藤さん ちょいといいかぃ?」


至急 伝えるべき用事があり、

近藤さんが警備してる部屋へ駆け込むと





おおっ総悟!いい所に来た!
この人達をどうにか抑えてくれ!!」







近藤さんがオヤジを中心にする側近を含めた
手下どもと、それに対する奴らの間に立っていた





オヤジの側には戸惑っているあの女

なにやら暴動でも起きそうなムードだ





「随分物騒なようですが どうしたんで?」


ねぇ総悟!理由聞くのはいいけど
まずこの人達を抑えるのが先」


「麻奈子様が偽者だと疑う者が騒ぎ始めて
こんな騒ぎになったのです」





近くにいた一人が困ったように呟く





「ワシのこの麻奈子が偽者だとォ!?
そんなわけがあってたまるか!!」



断言するオヤジに、抑えられてる側の
一人が頭を振って口を開く





元締め!この麻奈子様は本物の麻奈子様では
ありません!!」


「もしも元締めのお命を狙う者だとしたら
どうするのですか!!」


「何を言うか!
本物の麻奈子様に決まっておろう!!」



「元締め!こんな確証のない戯言
聞き入れることはございません!!」





疑う奴等に否定する奴等の水掛け論


ぎゃーぎゃーやかましいねィ…





「コラお前何するんだ!?」


「うるさい正体を現せ この偽者め!」


「きゃっ」





近藤さんの腕をすり抜け、女の腕を無理やり
掴んだ男を 反射的に突き飛ばす







「…証拠があれば納得だろぃ なら
この女が本物か偽者か試せばいいじゃねぇか


「え、ちょと 総悟おぉぉぉ!?







―――――――――――――――――――







総悟殿の提案により、私が本物の麻奈子殿
試すための質問が始まった


確認と不正防止の為に、と総悟殿が
側近殿達と私を引き離したので





「それじゃーまずは オヤジのフルネームと
生年月日と行こうかぁ」


「え、は はい…」





手助けのないまま聞いていた記憶を頼りに
質問を乗り切ることに、不安を感じている





「好きなもんは?」


「くさやの…干物…ですっ」


「女の子がくさやの干物好きって
どんな味覚してんのォぉぉ!?」



「キサマ ワシの麻奈子に
ケチつけるんかぃィ!!」








父上殿の怒りに触れたのか、勲殿は
手の者達に何処かへ連れて行かれた


それを止めることなく総悟殿は質問を続ける





「世界で一番大切なのは?」


「無論 あ」


言いかけて、側近殿の強張った顔を見





「…お父様ですわっきゃっはずかし


うつむき気味になるべく恥ずかしそうに答えなおす





任務を忘れてうっかり兄上と答えそうになった

ううむ、これは恐るべき質問だ









幾つか質問は続き


今の所、何とかボロを出さずに済んではいる


が 周囲にいる配下の者達の視線は

疑いの色を濃くしていた







「いつまでこんなことをするつもりです?」


「あの女を締め上げて本物の麻奈子様の
居場所を白状させるべきだ!」






側近殿達と二言三言、言葉を交わす総悟殿に
他の者達が不満げな声を上げ


つまらなさそうに溜息をついて舌打ちし





「それじゃーこれで最後といこーかぁ」


総悟殿はニヤリと笑って、言った





「本当に親子だったら、今ここで
親子の抱擁 出来やすよねィ?」








……よりによって、もっとも難しい質問だ





本来の麻奈子殿は 恥ずかしがりや


しかし、本当の親子である父君とは
抱き合うことも出来るやも知れぬ


頼みの綱である側近殿達は

総悟殿に脅され、一切身振りも手振りも
出来ぬ状態にある





ここは 己で答えを出すべきだろう







もしも、本当の父上とだったなら…恐らく私は









「………はい、出来ます





――――――――――――――――――――





その場の空気が凍りつき





元締めは身体をぶるぶると震わせて


握り拳を作り 勢いよく顔を上げると―





「ま 麻奈子おぉぉぉ!
ついにこの父の愛が伝わったのかアアァァァ!!」



涙を滝のように流して 親子の抱擁を
行おうと猛ダッシュでへと駆け寄っていく







唖然と固まり、一同がそれを見つめる中





「こんな茶番はもう沢山だ!!」





手下の一人が悪鬼のような表情で
を睨みつけていた







視線が男へと注がれ、その刹那





「計画の邪魔しおって偽者めぇ…
その男諸共切り捨ててくれるわあぁぁ!!


血走った目で刀をサヤから放ち

叫びながら男は突進してきた





迫る白刃には反応が遅れ









刀が振り下ろされたのと ほぼ同時に


総悟がどこからともなくとりだしたバズーカを
男に向けて盛大にぶっ放した





「ぎゃあああああああぁぁあぁぁ!!?」


「麻奈子!?麻奈子ーーーーー!?」


「麻奈子様!元締めぇぇぇぇ!!」







もうもうと吹き上がる煙に、
いくつもの人々のざわめきが起こり


煙が治まった後 の姿はなかった





そこには 少量の血痕に倒れ伏した男だけ







『な…麻奈子様はいずこへ!?』


「麻奈子 どこじゃ麻奈子オォォォォ!!


「どーやらあの男がお宅の娘さんを
狙ってたみたいだねぇ」





室内にいた全ての者達の視線は
部屋の入り口に寄りかかる総悟に向いた





「元々 娘さんを人質にするかして脅すつもりが
偽モンだったから騒ぎ起こして連れ出して
本物と交換〜とか言うつもりだったんじゃないかねぇ」


倒れた男を冷たい目で見下し、淡々と告げる





「そ、それよりワシの麻奈子は
どこじゃおんどれあぁぁぁ!!」



「ご心配なさんな、本物は ここにいまさぁ





総悟は爽やかに笑い、右手に持った鎖を引いた


すると部屋の入り口から麻奈子が現れる







鎖付きの首輪を引かれ、嬉しそうに前に出る
何かに目覚めちゃったっぽい麻奈子


みんなの視線は良くも悪くもくぎ付けである





「ま…麻奈子がマゾ子にぃぃ!?」





元締めの血の叫びが室内に木霊した







―――――――――――――――――――――







もうもうと立ち込める煙の中、側近殿達が
私に近づき 出口の方を指し示した





殿、依頼は遂行された ここは我らに
任せて早く逃げられよ…報酬は後でお渡しします」







色々と聞きたいことはあったが


必死に促され、その場から急ぎ 立ち去った









あの男の殺気に気付いたものの 僅か避け損ね

不覚にも左腕を負傷していた


幸い大した怪我でもなく、姿を普段着に
戻すと共にすぐさま止血も済ませた





しかし多少血が抜けたせいか 少し視界がぐらつき


側にあった路地塀に頭を預けて目をつぶる





意識が少しずつ遠くへ とおくへ…









「見ぃつけた」





聞こえた声に顔を上げると、総悟殿がいた


遠のいていた意識がすぐさま浮上する







「やっぱテメーか


「何のことだろうか?」





表情を変えず、普段通りにたずねるが





あの女の影武者、お前だろィ
その左腕の傷が動かぬ証拠でぃ」


鋭いその目は 嘘やごまかしの通ぜぬ雰囲気だった





…恐らく私の居場所も微かな血の跡と臭い
見つけ出したと思われる





「いつから気付いていたのだ?」


「オレが裏口見張ってた時に 見張ってたはずの
麻奈子だっつー女が現れてよ」







それから総悟殿の話によると





裏口から帰られた麻奈子殿を追って

後から現れた側近殿達を問い詰めた所


影武者のことや麻奈子殿の家出のことなど
全ての事情を聞き出せたらしい


そして総悟殿は本物と影武者とを
どうにかして入れ替える策を考えてた所

あの騒ぎがあったとの事らしい







便乗してワザとボロ出させて連れてきゃ
本物と楽に入れ替われると思ってな」


あと見てて楽しかったし、と付け加える総悟殿





…そんな深い考えがあったとは恐れ入った





「会った時に影武者だとは思ってたが、試して
やっとお前だと確信が持てたんでねぃ」


「なるほど…本物の麻奈子殿を
無事保護していただき まことにありがとう」


「そうじゃねぇだろぃ」







私の言葉を遮り、総悟殿は不機嫌そうに呟いた





そうじゃないとは どういうことだろうか?」


「仕事だからって 赤の他人と抱き合えって
言われて、抱き合えるのかよこのアバズレ







…何がズレているのかわからぬし、


親子なら抱き合えるだろうと聞いたのは
他ならぬ総悟殿のはずだが





何か怒っているのだけは分かり


すまぬ もし無き父上とならと考え、
つい勢いで…我ながら軽率過ぎた」





私は頭を下げて謝った







「…あんまり心配かけさせんなぃ 





舌打ちを一つすると、総悟殿が私の右腕を掴み





「怪我の処置してやるから来い ついでに
土方闇討ち手伝えよ?」


早口で捲くし立てながら、何処かへ引っ張ってゆく







「…総悟殿 頬が赤いが風邪だろうか?」


「うるせぃ黙ってついて来い」








――――――――――――――――――――――
あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:銀魂ファンと沖田ファンと全国の麻奈子様、
大変スイマセンでしたあぁぁっ!!


沖田:いきなり土下座たぁ、わかってんじゃねぇか


狐狗狸:あの…言ってる側から背中を踏まないで
ください地味に痛いです


土方:てーかなんでオレ速攻退場だぁ!!


近藤:オレもなんか殴られたりして損な役割じゃね?


狐狗狸:…ごめん、沖田主体だし ただでさえ
オリキャラが出張って面倒だったから


土方:ハッキリ言いすぎだろコラ!


沖田:ところで土方はほっといて…
の影武者は中々見事だったねぃ


狐狗狸:まー兄貴に事前連絡もして、カラコンつけたり
側近の人に聞いたりの徹底振りで


近藤:兄貴の事前連絡は関係ないんじゃ


沖田:(遮り)しっかし、オレの計画邪魔しやがって
あいつもっと強く蹴っ飛ばしときゃよかったな〜
まあ後で土方とっちめて発散したからいいか


土方:よ く ね ぇ よ!!(怒)


狐狗狸:…殺伐とした真撰組の内部をお送りしました


近藤:放送!?




首輪ネタも噛ましたり、カオス駄文でスイマセン


様 読んでいただきありがとうございました!