戻って来た時、事態はさらにおかしな方へ進展してた





「暴れるだけしか出来ねぇお猿の大将にしちゃ
中々どうして粘るじゃねぇか」


「大将気取りはお互い様だろ?狼気取りの狂犬が
油断してるとあっさり殺しちゃうよ?」





合わせた両手を頭の上へ突き出すような姿勢のまま
対峙する晋助様と、夜兎高の狂乱ピンク


んでもってどっちが勝つかを今か今かとやらしい目で
見ている気がする他の男ども


…万斉とか夜兎どもはどうかわかんないけど


少なくとも武市変態はやらしい目で間違いない





でもって手を合わせる二人のすぐ真横で


ジャージ姿で頭にパイ投げ用のパイ乗っけて
荒ぶる鷹のポーズをしながら立ち続ける





「これは一体…どういう事だい?さん」


「負けた」


「だからなぜ端的な結論で済ませるんだ君は!!」


私の後ろにいた伊東が至極真っ当なツッコミをかますが


いつの間にか復活してたこの女…
ツラもポーズも微動だにせず目をしばたたかせるだけだった







―かったるい金曜の授業も終わって


カボチャとホラーめいた何がしかに侵食された町を
重たい荷物片手にそぞろ歩く





ったく何で私がこんなモンを…


どーせなら晋助様とハロウィンパーティーしたかった

それだったら一緒にコスプレしても盛り上がれた


てゆうかむしろ晋助様のコスプレとか見たい


絶対似合うしカッケーに違い…ってこれじゃ変態と
一緒の思考回路「何をしているんだね来島さん」


「うひゃっ!?」





運悪く、そこで町内パトロール中の伊東に捕まった











「作品と現実の時季がズレるのは稀によくある」











よりによってコイツかよ





「脅かすなっス!てゆうかお前こそ何やってるっスか
とっとと保健室帰れっス」


「生憎こっちも仕事だ、君らのような不良生徒が
問題を起こさないよう巡回してる」





眼鏡の奥の目があからさまにうんざりしてるのは
バレバレなんだよ今回くらい見逃せよ


愚痴りつつも追っ払おうとするけれど離れないしコイツ


うっとーしいコトこの上ないんで


いっそ囲んでボコにしてやろうかとワザと
たまり場にしてる廃ビルまで案内してやった





…え?どこぞの熱血教師ならいざ知らず


伊東みたいな冷血ヤローがほいほい怪しい不良生徒に
ついてかないって?


それに関しては全面的に認めざるを得ない


なので私は、エサとしてあの無表情女を使ったっス





さんが倒れているから、応急処置として
バンドエイドを買いに行ったというのかい?」


「何しろ急なコトだったもんで…ウチらが家まで送るのも
誰かを呼ぶのも、こっちが疑われるだけっスからね」





気絶したのは真実だし 普段が普段だけにこの方便は
異様な説得力を持っていた


何かの弾みで夜兎連中が伊東に絡むとかで乱闘にでも
持ち込めれば、面倒な茶番も終わらせられる


ヤツらへハロウィンにふさわしい恐怖を!


そしてあわよくば、晋助様と……





と、意気込んで廃ビルの一室へ飛び込めば







「この状態はいじめにしか見えないんだが」


「先程も申したが、合意の上の勝負の結果だ保険医殿」


「きちんと説明するつもりがないなら黙っててくれ」


目の前のこの惨状である





おかしい


ここを出る前まで、あの女は一回負けてジャージ姿になって
勝手に転んで気絶しただけだったのに





「アナタが戻るまでに 彼女への不戦敗罰ゲーム権をかけて
一度、それと復帰した彼女を交えて通算三度度勝負してます」


「それで始めに負け、晋助殿と神威殿が決着を「弱っ」


引っかけに弱すぎやしないかこの女







「予行演習なんだし これから強くしていけばいーじゃん
あんまり弱すぎても歯応えないし」


「大人数でワイワイやるんなら こーいう状況を
想定しといても損はねぇだろうからな」





合わせた両手を頭上へつき出しながら、ピンク頭から
視線を外すことなく不敵に笑う晋助様…


最高にかっけぇっス!!





「訳が分からん…頼むから、誰かこの状況に
至るまでの経緯を説明してくれないか」


「いやはや冗談のような話ではござるが…」





困り果てて額に手を当てた伊東へ 奇特にも万斉が
応える形でこうなったいきさつを語ったのだった









―特にやる事もシメる相手もおらず


晋助様とウチらが適当に街中をうろついていると





あの女が 服屋の前でこれ見よがしに
(少なくとも私にはそう見えた)悩んでうろうろしてた





「あれ?ちゃんだ、何やってんだろあんなトコで
おーモゲブッおい新入り、何フツーに声かけてんだ」


「え、いやまぁ知った顔に挨拶するのは普通じゃ」


「何度も言うけどアレは同じ高校にいるだけでウチらの
仲間でもなんでもないっス、むしろ敵っス!


「敵視してるのは またちゃんだけだと思うが」





晋助様も立ち止まって様子見をしてるみたいだったので
それにならって私らもやや身をひそめて観察


襟首つかんで止めた新入りの声は聞こえなかったらしく


しばらく店の前をうろうろしてたあの女が
意を決したように、店のドアを





くぐろうと一歩踏み出したアイツの三つ編みを


夜兎高のピンク頭が無造作にひっつかんで止める





ねぇ?そんなトコで何してんの」


「…入ろうか悩んでいる」


「それは見れば分かるよ、理由が聞きたいんだ」


「話すから三つ編みから手を放してくれ」





どうやら友達からパーティーに誘われたらしく


それにふさわしそうな洋服がないから、買うべきか否か
いまだに踏ん切りがつかないのだとか





「ツラに似合わず優柔不断っスね」


「いやいや、アレが乙女心と言う奴ですよ
アナタには皆無の代物でしょうが」


「黙れ武市」「せめて先輩つけてください」


何にせよこっちには関係ないコトだ







そう思ったのは夜兎の連中も一緒らしく





「あっそ、それよりもうすぐハロウィンなら
おかしでもおごってよ?」


「何故?それに今日はハロウィンではないぞ」


「いーじゃん10月ってことで
おかしくれないなら殺しちゃうぞ?


再び三つ編みつかんで強制的に引っ張りながら





夜兎三人組と が、まるで示し合わせでも
したかのようにウチらの前までやってきた





「あれ?何でこんなトコにたむろしてんの」


「それはこっちの台詞だコラぁ」


「わざわざ群れてガンくれるたぁ怖ぇえなオイ
あんまり怖すぎて思わず手が出ちまいそうだ





ワザとらしく笑いやがって、ケンカを売るなら買うまでっ

「おい
てめぇ何こっちの約束すっぽかしてんだぁ?」





…は?







予想だにしない台詞に硬直するウチらと、夜兎どもを置いて
晋助様は不敵な笑みで続ける





「オレらの格好とコミュニケーション術を学びてぇから
放課後顔出すっつってただろ、忘れたのか」


「そんな話は初み「また気絶して忘れちゃったでござるな
しょうがないな〜ちゃんは、さー行くでござる」





目配せされた万斉があの女をこっちへ引っ張りこみ





早めに家に帰りたいでござろう?なら少しばかり
こちらに話を合わせておいてもらおう」


ぼそりとささやいた言葉を耳にして合点がいった


なるほど…コイツをヤツらから助けた恩に付け込んで

おちょくり倒したあげくカツアゲコースっすね!


流石は晋助様!ホレボレするような悪っぷり!!





兄貴がどーたらとか訳の分からない理屈でごねるかと
ちょっと不安だったものの

緑色の目をしばたたかせ能面女は頷く


よしよし、素直で結構なコトっス


どうやらこの急な展開に ヤツらも呆れているようだ





「まぁ何にしろ、保護者がいるってんならとっとと
引き取ってもらった方がこっちとしても「いーねぇソレ」





ニコニコと笑うこの男の顔が、この時これほど
憎らしく見えたコトもないだろう





「オレも混ぜてよ?その遊びにさ」





…で、なし崩しに夜兎の連中を交えて





ちゃんにパーティーで浮かないような恰好とか
正しいリアクションを、ゲーム形式で教える方向性に」







ここまでの説明を聞いて 伊東は眉間のシワを深くしてため息





「…どうしてそうなった!」


「だよなぁ今時たけの○ニョッ○はねーわ」


「「そこじゃないだろ!!」」





微妙にずれた返しをする老け顔に
私と新入りのツッコミがハモった辺りで


いつの間にゲームを止めてた神威がこっちへ近づいてきた





「それで?頼んだモン買ってきてくれたー?」


あっ!コラ勝手に漁るなテメェ!てーかそれは
晋助様のために買ってきたモンっス!!」





伸びて来た手を避けながら、袋からくそデッカいカボチャ
大工道具に布…それといくつかのお菓子を取り出していく





でかっ!!どっから買って来たんですかこんなの!?」


「ハロウィンっつったらカボチャだろ」


「煮物にするには量が多いのでは?」


さん、この場合のカボチャは飾り付けのために
使うモノだ…しかし 少し大き過ぎないか?」


「ええ、ランタンとしては些かサイズが」





こっちを向いた晋助様が、楽しげにその言葉を否定する





「誰がランタンにするっつった」


「へ?でもこれ料理とかには使わないんですよね?」


「…作ろうとしたってここでは無理だしな」


「分かったよ晋ちゃん!
羊毛と合体させてカカシにするんだね?」


「それどこのゲームの話?」





的外れな回答をする似蔵と新入りを横目にアホ毛ピンクが
ノミとハンマーとノコギリを拾い上げる





「この子がかぶるに決まってんじゃん♪」


「おいアホ毛団長、なんでオレらに工具渡した」


「だってドベ2は阿伏兎達じゃん だから罰って事で
カボチャくり抜いといてよ」


「ふざけんなアレほとんどイカサマじゃねーか!」





ギャーギャーとやかましくなった夜兎側とカボチャを
見比べて、ふいに能面女が問いかけてきた





「何ゆえカボチャをかぶるのだ?」


「そりゃーまぁ外国じゃ定番のコスプレっスから」


「またちゃんの言う通りでござるよ、カボチャ大王は
白 龍に並ぶぐらいの仮想でござる」





とっさの答えに便乗する形でフォローする万斉…





色々言いたいことはあるが、一々ツッコむのも面倒なので
スルーして…おくつもりだったのに


何と!カボチャが一国の主となっていたとは!」


「「驚くポイントそっちぃぃぃぃ!?」」


やっぱこの女おかしい、何かおかしい





やはり納得がいきません、仮にも女性なのですから
その利点を生かした格好をさせるべきでしょう」


「またその話を蒸し返す気っスか武市変態ぃぃぃ!!」


「変態じゃありませんフェミヌィッストです」





散々罵声を浴びせたにも関わらず懲りないこの七三は


鼻息荒くコスプレ用のカタログ片手に ウチらの方へと
後ずさりする能面ピーマンににじり寄る





「小悪魔系やゴス魔女も悪くはありませんがここは定番の
アリスを絶対領域マシマシで行ってみませんか?きっと
似合うと思うのですよ色合いとしても」


「ぜ、絶対領域?」


「武市君、それ以上近づくと別の事案で通報せざるを
得なくなるんだが」





もういっそ通報しろ伊東、構わないから





「てゆーかいい加減帰る気にならないんスかアンタ」


「そうしたいのは山々だが、真剣に私へ色々と
教えてくれるお主らの好意を無には出来ぬしな」





思いっきり騙されてる、どこまでバカなんだこの女


いっそいつもみたく兄貴兄貴わめきながらゴネてくれりゃ
こっちもワルらしく振る舞えんのに

あの時 ゴネなかったコイツを褒めた自分を殴りたい





舌打ちしつつ緑色の目から顔を反らすと

似たような鉄面皮でこっちを見てる伊東と視線がかち合った





それで?わざわざ僕をここまで連れて来たのは
彼女をどうにか帰らせろと言うコトか」


「まあ、引き取ってもらうに越した事はないっス」





この頑固女のペースに乗せられて なんかもう不良ってか
仲良しこよしみたいな空気になってるし


大体 似た様なやり取り小説版で新入りにも





「って万斉先輩!何勝手に新作ポッキー持ってくスか!」


「おっと失礼、トリック・オア・トリートでござる」


おざなりだなオイ!て、よく見たら他のお菓子も
各々勝手に取られて…あああ!カボチャプリンまで





「また子殿、あの菓子が欲しかったのか」


「べ…別にアンタには関係ないっス!」





コンビニで買えた最後の一個だったけど、悔しかったんで
意地でもそれは口に出さない





「そもそも"トリック・オア・トリート"っつー掛け声が
気に入らねぇな、やってる事は菓子の強奪だろ?」


「まさに今の君達だな」





その程度の嫌味は もはや慣れたものである





「確かいたずらをされぬよう菓子を渡すのだったな
言われてみれば一理ある」


「だが菓子を狙うなんざ初心者だ、いいかぁ?
オレ達ぐらいなら相手との命の駆け引きを楽しむ
まさに"トリック・オア・デリート"ってヤツだ」


「えー"トリック・オア・デストロイ"じゃないの?」


どうあがいても破壊!?
ハロウィンそんな殺伐としたイベントじゃねーから!」


「拙者に妙案が、"トリック・オア・デトロイド"
呼びかけて菓子の代わりにバンドメンバーを募るのは」


「露骨に誘導してんじゃねぇぇぇ!」


「はい!オレ"コロッケ・オア・ブレッド"がいいと思う!」


それコロッケかパンんん!二つ合わせなきゃ意味ねぇぇ!!」


"アリス・オア・メイd「とりあえず穏便に
"兄上・オア・兄上"で済ませぬか?」


「「「もうお前らの願望しかねぇよその問いかけえぇ!!」」」







その後も晋助様達と夜兎どもとでハロウィン談義が
白熱してゲームバトルになだれ込んで


決着がつく前にポリ公が乱入して強制お開きになって





そのどさくさであの女連れて伊東がいなくなったのは
結果的にはまー狙い通りだったけど







「釈然としないっス…」





モロモロに対するモヤモヤを翌週まで引きずって
いつものたまり場で 誰にともなく呟く





「大丈夫?オレの予備のコロッケパン「いらねーよ」


つぶれたパンを渋々しまう似蔵から目を背けたとこで


会いたくない能面ヅラが、倉庫のドア開けてやって来た





「何しに来たっスか」


「いや、お主らに渡すものがあってな」





言いつつ能面は取り出した二つの袋のうち


妙にデカい方を似蔵に

もう片方の小さい方を 私へと寄越した





「これって…」





中身は簡素な容器に入った 濃い橙色のプリン
プラスチックのスプーンが一つ





「兄上からの裾分けだ、保険医殿にも礼として渡した」


これクッキーじゃん!もらってもいいの!?」





渡された袋を覗きこんで 大喜びする似蔵へ
この女は憎らしいぐらい涼しい顔でこう言った


構わぬ 遅れはしたが菓子を渡すのが
教わったハロウィンの作法であろう?」







似蔵から袋を奪い取り、プリンと一緒に
つっかえして追い出したくなる衝動に駆られるけど


まあ…食べ物を粗末には出来ないし?





偽善者ぶっちゃいるけど、こっちに敬意を表して
菓子を献上した部分は評価して受け取ってやる事にする





「いっとくけど、この程度でウチらを懐柔できるとは
思わない事っスよ !」


「…顔が赤いが風邪でも「しゃあぁらあぁぁ!!」





いらん事言いかけた"センパイ"を頬をつまんで黙らせたので


この失態は 晋助様にも誰にもバレずに済んだ








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あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:仕事が忙しくて、気づいたら10月が
あっという間に過ぎててロクにハロウィン満喫すら
出来なかったので書いた 一遍も悔いなし


また子:悔いろおぉぉぉ!


伊東:時季外れもいい所じゃないのか?


狐狗狸:いいんです、この話の中じゃ10月末頃!
作者権限濫用しまーす意義なんか認めん!


阿伏兎:どんだけハロウィン好きなんだよ


万斉:もはや病気と変わらんレベルでござるな


高杉:オレぁ退屈をぶっ壊せりゃなんだって
構わなかったから、どーでもいいがな


神威:てかそっちにだけお菓子もらえてズリー
あの子、結構薄情だなー仕返しに


山崎:やめたげて!つか他校の生徒なのに何で
"貰えて当然"みたいな顔してんの!?




云業さんテラ空気…カオスな仕上がりになったけれど
これもハロウィンって事で(←無理)


様 読んでいただきありがとうございました!