梅雨からしつこく続く湿り気と、それに伴って
空気を満たすうだるような昼下がりの熱気が
「何と…結婚には、接吻が必要なのか…!?」
「「「え゛え゛え゛え゛え゛今更!?」」」
少女の驚愕に彩られた声と それをかき消すほどの
やかましい叫び声でほんの少しだけ吹っ飛んだ
…彼女が一般人の常識に疎いのは知っていたので
他の連中ほど驚きはしなかったものの
流石に今のセリフはどうかと思った
「確かに兄上は敬愛しているが、いくら必要な事と
いえど人前で接吻をするというのは…」
「そこよりもまず気にすること一杯ありますよね?
一般常識とか法律とか」
行っていた家事を止め 新八が真っ当な意見を挟む
「ついでにジューンブライド狙いなら先月掲載しろや
何度時期外したお寒いネタで茶ぁ濁すんだよ」
「いつ結婚したとて目出度い事に変わりは無かろう」
「嫁になる前に空気読め、今の明らかにお前に
話しかけてなかったろーが」
お家芸のメタと自虐を吐き出した天パが、無表情で
首を傾げたの頭をペシリとはたく
「そもそも仮に結婚するとしても誰に仲人
頼むつもりだったんです?いやまあ、別に
深い意味とか無いんですけどね」
「わざわざ口にしてる時点で下世話ネ」
「不可思議な事を申すのだな、仲人は式の最中に現れ
涙を流しながら歌い踊る神の使いの一種だと聞」
「ちょっとお前が抱いてる"結婚"のイメージについて
腹割って話し合ってみよーか」
「切腹か」
「物理的な方向じゃありませんからね?」
釘を刺しておくのは正解だろう
「暑いと取り止めのない事が頭を占める」
と、ここでぐったりとソファにもたれていた
神楽がひょいっと手を挙げて言う
「話し合うならエアコンあるトコがいいアル
定春だってこの暑さですっかり参ってるネ」
「となると行ける場所は限られてきますね」
「あのバカップルんトコでいーんじゃね?こういう時こそ
クロスオーバー設定を有効活用すべきだろ」
「黒酢大葉?」
漢字を当てると意外とそれっぽいから困る
ともあれ蒸し風呂のような万事屋から外へ出て
じぃじぃとがなりたてるセミの鳴き声をBGMに
目当ての家屋へ移動をしてみるも
生憎 家主とその嫁と居候の娘は旅行中だった
「優雅なリア充だなちきしょーが、しょーがねぇ
ん家で満足するしかねぇか」
「あんまり長居しないように心がけますので」
「騒がなければ構わぬが…
いっそ清々しいほどの図々しさだなお主ら」
冷ややかな皮肉に動ずることなく我々三人と
一匹はの家へと移動し
彼女の入れてくれた茶と水とを振る舞われて
ようやく人心地着いた
「あ゛〜生き返る〜」
「クーラーもうちょい効かせるヨ
まだちょっとあっついアル、ねっ定春」
「くぅん」
「なら"こんとろぉらあ"「こっちで調整しときます」
機械音痴のこの娘にその手の物を極力触れさせない
というのは、仲間内での不文律となっている
ひんやりとした冷気と水分で気だるい体に
少しばかりの活力を取り戻してから
コップを片手に口火をきったのは神楽だった
「そもそもドレスのガン見とかウザいくらい結婚結婚
いてたクセに手順知らないのおかしいアル」
「どこから仕入れたんです?その偏った知識」
「大半は父上と人づての伝聞だ、まれに茶の間の
"てれび"で外国の式の様子などを見る」
「兄貴とな」
「確かに兄上が好んで"どらま"を見ているが
たまさかには世情を知るため"にうす"も見るぞ?」
万事屋でも昼になると銀時と神楽が、何とはなしに
TVをつけて眺めているのはよく見る光景だ
昼ドラ程度の修羅場など間近で見ているだろうに
好き好んで作り物の諍いやギスギスした日常を
惰性で見続ける その感性はいまだに理解が出来ん
「式場で両者が顔を近づけた折や、床の上で男女が
つかみ合いを始めかかると兄上が電源を切ったような」
「あ、それウチも一緒ネ
どーせ大したことないのに大人っていやらしいアル」
「オメーら非実在のガキんちょにゃまだ早ぇっつの」
こんな町、及び主人公と作品の元にいる時点で
すでに手遅れのような気はするのだが
…ついでにこの天パの嗜好を十分に反映した
映像媒体の隠し場所も知ってはいるが
その内の一つが 神楽の寝床の側に隠されている
機を見て教えてやるべきだろうか?
「その辺りの気まずい事情はともか「事情っつーっか
情事「ともかく!いくつか結婚についての知識とか
具体的に何やってるか聞いてもいいですか?」
新八の仕切り直しが入って、軌道修正
「まず兄ちゃんとの結婚はどーしても自分でなきゃ
ダメな感じアルか?」
「…そうでもない」
ほう、これは意外
この娘の性格を考えれば その一点は
断固として譲らないかと思っていた
「あくまで兄上にご満足いただけなければ意味がない
今の所は私が結婚するつもりだが、私以上に
よき人がいるならば」
「そいつと兄貴が結婚してもいいってか?殊勝だね〜」
冷やかすように言うこの天パ
いざ自分の身内、それも女が結婚沙汰になったなら
どのような形であれ取り乱すのは
今迄の経験上明らかだろう
…まあ 素で下手な女よりも整っているあの男に
寄り添う女など 皆目想像もつかないが
「兄上がお選びになった相手なら、余程の者で
なければ快く祝福するつもりだが」
「甘いネ、そこはもう少し慎重に考えるヨロシ
将来 自分の姉御になる人アルよ?」
面白半分だがもっともらしい神楽の発言に
ミリ単位で眉根を寄せたが口を開いた
「そうだな…まずゴンドラから華麗な着地が
行える身のこなしが欲しいな」
「初っ端からハードル高ぇ!」
「襲い来るゴンドラから自らの身を守れる程度に
腕が経つと望ましい、兄上も護れるならなおよし」
「なんでそこでゴンドラ押し?!」
「つかさりげなく自分を基準にしてねぇか?」
「何を言う、ゴンドラという未知数の相手に対しても
立ち向かえる度量がなくて妻が務まるものか!」
「「仮定の義姉(あね)に
何を期待してんだお前は!」」
当人の"兄嫁への理想"はまだまだ続くようだったが
戦闘方面での返答しか出てきそうになかったので
彼らはすっぱり切り上げる事にしたようだ
「少し脱線しましたから話題を戻しましょう
結婚の手順とか、基本的なトコは分かってます?」
「たくさん金が要るが 華美な着物やドレスを着て
式場で誓えば夫婦となるモノかと」
「大まかな部分は間違ってないアル」
「他にはゴンドラで神父と大魔王が出てきてビームが」
「そっから既に間違い起きてる!!」
詳しく指摘を続けていけば
どうやら伝達が混線したり 伝えた相手が
冗談めかして口にしたりと言ったものがほとんどで
結局知識については先にあげた大雑把な部分でしか
認識していなかったらしい
「乾杯の音頭も祝辞の電砲もお色直しも、ゴンドラで
行う必要性は無いという事か…」
「むしろゴンドラに依存しすぎてる時点で
おかしいでしょ色々と」
「あと祝辞の電砲なんつー物騒な行事はねぇ」
どんな風に生きれば こんな奇天烈な発想が出るのか
のどを潤しながら呆れ混じりの眼差しを送る
「結婚にこだわるんだったら、一度式場を
見学するかパンフレットでももらった方がいいですよ」
「パン麩…食物の一種か?」
「取説みたいなモンアル、見れば大体の値段とか
大まかな段取りや内容も書かれてたりするネ」
「それはありがたいな だが資金はどれ程かかるのか
把握しているから必要ないぞ」
金、の単語に
三人の瞳がきらりと光ったのを見逃さなかった
やや卓上に身を乗り出して彼らは問いかけを放つ
「そーいや結婚すんのに金貯めてるっつってたよな」
「うぬ、共に暮らし始めた時から欠かさず貯めている」
「それって餓鬼椿の件終わった頃からですよね
じゃあ、結構な額になってるんじゃ」
「そうでもない、夫婦生活での分もあるゆえ
第一 式場の豪華宇宙船を貸切出来るまでの分は
いまだ集まらな「どんだけスケールでけーの!?」
こちらはどうやら、相談した当の兄自身が
式場として希望したという話だが
恐らくはワザと実現不可能な場を選んだのだろう
…それでも兄の言葉を信じて律儀に金を貯め続ける
辺りが愚直なこの娘らしくもあるが
「確かに先は長いが、船を借りる当てはあるし
兄上も気長に待っていてくれるゆえ気は楽だぞ」
「アテって…辰馬さんですか?」
「後はアイツら外人部隊アルな」
表情を変えずが、首を縦に振った
まあ その辺りが順当だろうから当然と言えば当然か
「場所についても横に置いとくとして、だ」
くいっと飲み物を一気に飲み干して
銀時が、いつになく熱が入った面持ちで訪ねる
「もしも結婚したとして そっから先どーやって
兄貴を幸せにするつもりなんだよ?」
「案ずるな、そこに関しては抜かりなく考えてある」
起伏のほぼない作務衣の胸を若干反らし、声に
自信を満たしては答える
「コウノトリに祈願して子を授かり、家族となって
楽しい思い出をたくさん作って暮らす」
「わーいすごい具体的なようでフワフワしてるー
死ね もうお前三途に逝ってよし」
「三途なら万事屋へ訪れる前に行ったぞ」
「うわぁ」
い…今聞いたコトをありのままに話すぜ
いつアイツが死にかけるのかと思っていたら
この話が始まる前に当人はすでに
生死の境をさまよい終えてた
何を言っているのかry
「もうほとんど一発芸みたいなノリアルな」
「でも死亡フラグなキャラって シリアスな場面で
死にかけても"どーせ生きてんだろ"って
予想されるから緊迫感や重みが足りなくなるんですよね」
「新八それオレのメタ台詞ぅぅ!」
積極的にボケへ挑戦していくのは芸の幅を広げるのに
役立つだろうが、あくまで自分のキャラを弁えろ
ツッコミが出しゃばりすぎるとキャラがぶれるぞ
「な…何だろ、定春から軽蔑っていうか
厳しい批評を交えたような視線を感じるんだけど」
「それお前の勝手な妄想アル
所でなんか食べるもの無いアルか?」
こういう時だけ素早く立ち上がり、冷蔵庫へと
直行した銀時が声を弾ませた
「お、おあつらえ向きにスイカ冷えてんじゃん」
「いくら親しい中だっつっても許可取ってから
開けましょうよ!すいませんさん」
「構わぬ、もらいもので二人で食べるには多いと
兄上と悩んでいた所だ」
ため息交じりの気前のいい台詞に甘えて
二人は嬉々としてスイカを食べる準備を整えていった
冷蔵庫で程よく冷やされた赤い果肉に包丁が入り
半月がピザの切れ端の形へと変化してゆく
切れ端の大きさがやや不揃いなためか
一番大きいモノを取り合いする一幕があったものの
今はもう三人仲良く、黒いつややかな種が埋まった
瑞々しい赤色へとかぶりついていた
「んー!やっぱり夏はスイカアルな」
「おい銀時、軒下で種を吐くな行儀の悪い」
「これが伝統的なスイカの喰い方なんだよ
それにこーやって蒔いた種が成長してスイカに」
「なりませんから騙されないでください」
口の周りを赤い汁で汚し
塩を振り、皮までこそぐ勢いで果肉にむしゃぶりつき
満面の笑みを浮かべる連中を恨めしく睨んでいると
一旦台所へ引っ込んだが こちらへ戻ってくる
「貰い物だが、食うか?」
眼前に差し出されているのは ほぼ肉を削ぎ落された
豚の足らしき骨
「それどうしたアルか」
「兄上が客から貰ったそうな 肉を裾分けして
残った骨はだし汁に使うか悩んでおられたが」
なるほど 自分が食べれば好都合か
納得し、骨を地面へ置くように誘導すると
静かに置かれたそれへ 遠慮なくかじりついた
やや塩気が強いものの肉の味がしっかりと感じ取れ
カチカチと程よく歯に当たる骨の感触がたまらない
大概のものは難なく食べれる自分にとっては
十分に食べでのあるごちそうだった
「よかったアルな定春…それにしてもうまそうネ」
「神楽ちゃん、流石に骨を取り合うのは
ヒロインとしても人としても止めといた方が」
夢中で骨をしゃぶる合間に視線を上げれば
ゆるく微笑むの顔が見える
…もしもこの娘が誰かと番いになったなら
こうしてエサを食う自分を じっと見守ったり
食べ終えた後に やわらかく額を撫でたり
してくれる機会も減ってしまうのだろう
「うまいか?」
こちらの内心など知らない鉄面皮へ ただこう返す
「わん!」
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あとがき(というか楽屋裏)
狐狗狸:原作側がシリアス交錯してるし オリジ長編も
そろそろ終盤なんで息抜きで軽い話を書きました
新八:割と重い方じゃないですか?話題は
神楽:中身はスッカスカだから軽いアルけどな
銀時:のお頭の中身ぐらいにスッカスカだもんな
つか誰得だよ定春目線て
狐狗狸:このサイトで話を書いてる時点で
基本は私しか得しないもんしか書いてないですね
神楽:言われなくても周知の事実アル
定春:わん、わんわん くぅん
新八:え?何言ったの定春…管理人さん!?
何かすごい勢いで泣きながらどっか行った!!
銀時:お前ホントに何言ったのおぉぉ!?
輪をかけてゆるく、グダグダ夏話でお送りしました
様 読んでいただきありがとうございました!