色気のねぇ作務衣は、桜だらけの川縁じゃ
あからさまに浮いていた





「よぉ」


「こんばんは銀時…お主、二次会とやらで
"からおけ"屋へ行ったのでは?」


「うるせぇな、途中で抜けてきたんだよ」





新八のオンチと、HDZ48の曲取られて
キレてる神楽の被害に会いたくねぇし





「昼間あれだけマヨ殿らと騒いでいた
男の台詞と思えぬな」


「いーんだよ花見は無礼講っつー、現実でも
漫画やアニメでも暗黙のルールがあんだから」


「限度は弁えるべきだろう」





表情変えずに次から次へと
減らず口叩きやがってこの小娘は





いつも通りに三つ編み頭をひっぱたいて


の袖やらケツについた花びらに気づいた





「お前、さては三途帰りだろ」


「いかにも」


いかにも、じゃねーよ」


慣れたとはいえ、死にかけといて
顔色一つ変えずにその受け答えはねーだろ





あと原因は すぐ横の階段から
足踏み外して転げたとかそんなだろう





ため息ついでに川っ端にいるワケを聞けば


相変わらずの、近くの店で働く兄貴待ち







「さすがはクソがつく程のブラコン
面白味もなんもあったもんじゃねーな」


「私の勝手だ…気に入らぬなら去れ」


「ほとぼりが冷めるまで厠(ここ)で
もーちょい長グソしてくわ」


「それならそれで構わぬが」





そう私が返した直後


ふいっとどこかへ行ったと思ったら…





ほどなくして銀時は缶の飲み物
手に戻り、近くの段差に座りこむ











「KYも空気にのまれる」











あに見てんだよ?一口よこせってんなら
お断りだからな」


「言うつもりもない」





不自然な甘い匂いにまじる酒の香

銀時がチビチビとすする缶から嗅ぎ取れた





舞い散る花びらをしばし眺め


その内の一つが、段ボールを
まとう浮浪者の頭へと落ちたのを見届けて


何とはなしに浮かんだ疑問を訊ねた





「恒道館道場は、あれからどうなっている?」


「相変わらずホームレスどもの溜り場だが
新八やお妙は、がんばってるみてぇだぜ?」


「そうか」







一殿の一件以来


とんと無沙汰をしていた故、少しばかり
気にはなっていたが安心した





「気になってんなら、能面ヅラ見せろっての」


「塾頭の志を継ぐ者も多いゆえ
呼ばれぬ槍の講師が参るのも気が引けてな」


「九兵衛で事足りてっからな、ひょっとして
嫉妬してるちゅわ〜ん?
あっさり役目取られてNDK?NDK?


喜ばしいと思うが?九兵衛殿なら
私より遥かに立派な講師となろう」


「へ〜余裕な対応だねぇ〜九兵衛といい
ゴリラといい"必殺技持ち"の余裕アピですか?
一緒に船にカチコミ行ってマカデミアンナッツ
喰った中だから悔しかねぇってか?へぇ〜


「もう酔ったのか」


酔ってませんん〜むしろお前のが
自分の善人ぶりに酔ってんだろがバーロー」





…それなりに付き合いはあるつもりだが


意味もなく不機嫌になったり

よくわからぬ暴言を浴びせたり


いまだに、この男はよく分からぬ







「ともあれ、飲み過ぎは身体を害すぞ」


「オメーが言うな死亡フラグ製造娘」





毒づきつつ適当に小言をいなして


チューハイ片手に、昼間とはがらりと
装いを変えた町並みを楽しむ





町の灯りに照らされた桜は


軒並み並んだどきついネオンと看板と
べったりと暗い空と水とを背負いながらも


浮き彫りにされたみてぇに、鮮やかに目を引く





昼間のバカ騒ぎも嫌いじゃないが





「…これはこれで風情があらぁ」


「うぬ、だが兄う」


またぞろ空気の読めないブラコン一つ覚え
炸裂すんのかと近くの小石を拾う





…が、そっから先に続くハズの言葉が無く


妙な座りの悪さを感じながら首を捻りゃ





は、ただ黙って桜の木を仰いでた





「いつものブラコン自慢はどーした?」


「…口に出すだけ野暮と思うた」


「テメェの迷惑なブラコン振りを自覚したか
ちっとは成長してんだな、胸以外」


「お主は学ばぬがな、過ちとか」





ムカつく程の能面ヅラでムカつく事を
しれっとほざいていたけれど


ピーマン色の目は舞い散る桜に釘付けで


何だかんだでこのバカ娘も、こうして
黙ってりゃ女らしく見えて





「…コレが結野アナならなー」





わざとらしく口走って


オレは、チューハイをくいっとあおる





「そういえば銀時」


「あん?」


「故あるとはいえ…お主と総悟殿の
斬り合い、実に見事だった」


「あー…あの鈍刀の時の事かよ
てか何で連想したよ?まさかケツの穴か?」


「どちらかと言うと桜だが」





ああ、紅桜から鉄子の流れ


ツラ変わんないせいで余計に
分かりにくいってーのこの天然バカ





「つかお前途中からオレらの戦い眺めて
ラスト、破片拾い手伝っただけじゃねぇか」


「仕方なかろう 後で鉄子殿から事情を
聞いたのだし、別件で」


「三途ってたんだろ」


言葉を先取りしてやりゃ
ぬ、とか呻いて押し黙る







「どーせそんなこったろうと思った」





やや顔を赤くしながらも


とても楽しげに、私を単純だ
罵りながら笑う横顔は


眼下にたゆたう水辺の照り返しと


周囲を埋める桜の空間に不思議と合っていた





「それよか鯔のヤツがさ、新作の漫画のネタ
何かねぇかって言ってきたから思い切って
ヒロインをビッチにしろっつったんだけど」


「びっち…おお、あのカバンなどの
高級店の屋号だな」


「そら美恥だろが でそしたら鯔の野郎
初っ端からそれは嫌とか顔に似合わず
青臭ぇコトぬかしやがってよぉ」





そこから先日 神楽とお通殿が
組んで歌手の仕事をした一件やら


新たな四天王としての会合で


妙殿や七三殿、アゴ美殿と話し合いから
転じての酒盛りに発展したコト


魂が入れ替わった時 勲殿や総悟殿らと
自堕落な暴走の限りをつくしながらも

ひそかに真選組や新八、神楽らの
様子を見ていた際の愚痴など





銀時は、思いつくままに酔った勢いで


笑って 私の知る過去や
知る由のなかった話を口にしていく







さわさわと、銀色の髪が揺れる


風に乗って 景色を彩る薄紅が
銀髪やしっかりとした肩口へと落ちる





気ままな軽口に相づちを打つ内





どうしてか…不可思議な気分

階段に腰かける男に対して抱いていた







この、時折感じる 頭が熱くなるような


心臓を捕まれたような息苦しい感覚は
一体何なんだろうか






兄上のお側にいる時の心安らぐ時とは
明らかに違って落ち着かなくて


不安で、どうしていいか分からなくなる





手が 口が勝手に動きそうになるけれど


…なんとなく止めてしまう





「あのハゲがまるまる二話CMに費やすなら
オレらだって長編一本、いやアニメ一話分
無駄遣いしたって何の不都合も」


「ほうほう」





……身体に負担をかけ過ぎたのだろうか


変調をきたし始めた兆しやもしれぬ





何にせよ、兄上にご迷惑をかけぬ為にも
今後健康法も色々と模索して行くべきだn


「人の話ちゃんと聞いてんのか?」





いつの間にか 銀時が睨め上げるように
こちらを見据えていて


探るような低い問いかけに


何故だか、少し気圧されてしまった







「すまぬが、もう一度頼む





見上げたガッチガチのツラに舌打ちし





「しょーがねぇな、じゃもっかい
言うから今度はちゃーんと聞けよ?」


親切心の塊であるオレは脳ミソすかすか
ピーマン娘にも分かりやすく


最近の消費税の話にかこつけて


値段ぼったくるソープの話
順序立てて説明してやる





「…そんな話だったろうか?」


「細けぇことはいいんだよ、大体
世間話ってなぁ脱線すんのが相場だろ」


「ふむ、そういうものか」





物わかりがよろしい事でケッコウ





チューハイの残りがキリよく空になって


逆さにふってた所で、背後の気配が
かすかに動くのを目で追う





「そろそろ兄上の仕事が終わる頃ゆえ」


「へいへい」





適当に返事した直後、強い風が吹いて


細けぇ花びらがバラバラ頭やら顔やらに
降ってきたんで払いのけて


ひらいた目玉に飛び込んだのは





絵に描いたみてぇな花吹雪を背負って

枝へと、ぼんやりした顔を向けた





?」





呟いた自分の声がいやに頼りない





目の前にある桜も小娘も


やたらハッキリしてるくせに、何だか
ひどく現実味がないように見えて





仰いだ能面ヅラも、だせぇ作務衣姿も


この桜の花と一緒に消えちまうんじゃないか






…なんて、この時のオレは


ガラにもない事を本気で考えちまったんだ







「…銀時?


立ち上がりざま、とっさに掴んだ腕の
言い訳を口にしかけて





見下ろす緑眼の揺らぎが


ちょっと前 上の空だった時に
一瞬だけ見えたものと同じだと気づく







「さっき、何考えてたんだよ?」





掴まれている腕が熱い


何故だか、息がしづらい、苦しい





苦しい?どうして?





普段は死んでいるハズの瞳が光を宿していて


逃れる事が出来ず 私はじっと答えを
理由を考えて…思い至る







「何か、よい健康法が無いかと思案していた」





そう答えた瞬間


腕の力が急に抜け、銀時は普段通りの
腑抜けた表情と態度へ戻ってゆく





「あぁそう」


「うぬ、兄上の為に立ち働くにも
まずは健康でいなくてはならぬからな」


「はいはいそうですね聞きたくないです」





露骨にいやがり、腕を離して座り直し


分かりやすくそっぽを向いたので


ため息をつき 私は兄上を迎えに
短く挨拶をして踵を返す







「お主もあまり遅くならぬ内に戻られよ」


おう、とテキトー極まりない返事をして


座ったままで肩越しにちらりと
桜並木を歩くダ作務衣娘の後姿を見送り


オレは、酒くせぇため息をついた








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あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:キャラの台詞を起点に、視点が
銀さんとウチの子とで入れ替わってます


銀時:分かり辛ぇことこの上ねぇぇぇ!


狐狗狸:やってみたかったんですよ
セリフきっかけの場面or視点転換


銀時:思いつきだけの浅知恵で書いといて
桜前線逃すとか 本末転倒じゃね?


狐狗狸:そこは…仕事で色々げふんげふふん


銀時:あと、前回からちょいちょい長編とか
原作ネタぶっこんでるよなお前?
あざといわーさすがバ管理人あざとい


狐狗狸:だってHZD48編はウチの子
完全に部外者の立ち位置だし


銀時:まぁ九兵衛やら月詠とキャラ被るし
死亡フラグ背負ってるからバックダンサーにゃ
出来ねぇわな、あのバカは


狐狗狸:むしろバックで死亡フラグ
差し迫るから 大惨事のニオイしかしませんし




階段での高低差があるので、銀さんが
立ち上がると夢主と目線が並びます


様 読んでいただきありがとうございました!