馴染みの店でブスっ子を右に左に侍らして
笑いながら飲む酒は最高だ


相手が別嬪さんでも、店の雰囲気や
女の性格(なかみ)が上々なら悪くない





…だがオレがいる場所はそのどちらでもなく


えらく物の少ない殺風景じみた部屋
痛みに顔をしかめながら


部屋の主である能面みたいな小娘
正座で向き合っている


…ついでに言えば、妙に空気が重てぇ







「あんだよ、ヤケに機嫌ナナメじゃねぇか」


「…夜中に断りなく室内に入られたらば
普通は気を悪くするが?」


「だから言ったろ、一休みさせてくれってよ
オレだって誰が好き好んでテメーんトコなんか」


「なら早々に出て行ってくれて結構だ」


「スンマセン生意気言いました」





ちっきしょー…前の仕事で潰した連中の
残党がしつこく絡んでこなきゃこんな事には





いやまぁ返り討ちにはしたんだが


これまたしつこく残った雪に足を
取られちまって、不覚にも掠り傷もらうわ


すっ転んで尻をしたたかに打っちまうわ


…オレも随分とヤキが回ったもんだ











「天気も調子も波がある」











とにかくケツの致命傷がひど過ぎるんで


帰る前に一端

落ち着いて座薬ぶち込める場所がねーかと
腰をさすって走ってたら


ん家があったんで勢いで飛び込んで





『…全蔵殿 窓から訪問は行儀が悪いぞ』


それ所じゃねぇんだよ、一休みさせろ
てゆうかちょっと厠貸せ』


有無を言わせず厠を借りて





尻の危機はどうにか回避したものの


出てきた途端に、正座である







「まだ尻痛いんだけど胡坐掻いても」


「我慢してくれ」


鬼かお前は!せめて座布団の一枚でも
出してくれよ!!


てゆかこの部屋さっむ!





「おい…今月すげぇ雪が降ったのは
知ってんだろ?知ってるよな?


「承知しているが?」


「じゃあ暖房入れろよ、一応ここにも
エアコンあんじゃねーか」


「機械は使い方が「部屋の主なんだから
少しは分かれ阿呆!」






代わりにコントローラーで
スイッチ入れたついでに室内温度見たら





ひとケタって…物置小屋レベルだよね?

ここ仮にも人の部屋だよね?何で防寒具が無いと
凍死しかねない温度で平気なのお前」


「外よりは暖かいぞ?」


「大して変わんねぇから」


「文句が多いなら出て行ってくれ」





何だよ…能面のクセに
ヤケにつっかかんじゃねーか





「不法侵入ぐれぇで今更目くじら
立てんなっつの、慣れてんだろ?
万事屋しかり他の連中しかり出入りして」


「それを含め今よりお主に物申す


「な、何をだよ」





てゆうか何なの その無駄な迫力!


たかだか無断侵入と厠の拝借で


何でここまで
修羅場っぽい空気が醸されてんの!?





「…私と最後に会った日の事
覚えておいでか?」





訊ねるの声色がいつになく重い





…思わず圧されて、記憶を辿るオレ







えーとコイツと顔会わしたしたのは





そうそう 適当に雪が積もって
大雪警報が出回った頃だったな確か


いかにもな自営業のオッサンと部下が





何やこれぇぇぇ!おいコラァ
誰がエンコ詰める言うた!」



「え、だって兄貴"指詰めたい"って」


「冷えるけぇ かじかんどる言うたんじゃ」


とか、そっち系のあるあるトークと道具で
周囲の血の気を引かせてた街中で


冷えるケツさすりながらジャンプ買ったら





近くのアイスバーンですっころんで
倒れたらしい妙な着ぐるみが目に入って


…なんか挙動不審だし 聞き覚えのある声だなーと





「…まさかか?」


ピクリともしてなかったソイツへ寄ったら





「……すまぬ、起こしてくれ」





やたらとか細い声だったが、やっぱり
中に入ってたのはだったワケで







近所のバレンタインフェアの宣伝で


バイトしてた休憩中に案の定すっ転び
重さと手足が短くて起きれなかったとか





「誰か呼べよ、そもそも倒れてる
着ぐるみが路上放置っておかしくね?」


「仕方なかろう この"土下座太郎"
黙して頭を垂れるのが常らしい」


「ああ…今流行のゆるキャラってヤツか」


そういや、TVとかで見かけたな
このけったいなデザインと名前のキャラ





「って四つん這いがデフォなら、一人で
起き上がれなきゃ尚更ダメじゃねぇか」





声量を絞ってツッコめば デカい頭がこっち見た





「着脱は問題ないが…被り物は動き慣れぬ
汗を拭いたくとも、今は脱げぬしな」


「ま、着ぐるみ系は基本中身出しNGだがな」


「えぬじぃ?G嫌の親戚か?」


「まずG嫌が誰だよ…じゃ、オレ帰るわ」





…そうそう、ゆるキャラの宿命
苦労してんだなーと思いながら別れかけて





抑えた声が大分苦しそうだったもんだから





「金持ってっか?出会っちまった
ついでだし、飲むモン買って来てやるよ


「心遣いありがたいが、これ以上迷惑は」


「この後バッタリ倒れられても気ぃ悪いしな
自販機でいいだろ?ちょっと待ってろ」





わずかに開いたチャックから小銭受け取って


で、自販機に…あ!









思い出されたか?お主がした事を」


「…飲みモン買い忘れた事か」


こくりと、が首を縦に振る





まー確かに安請け合いした後


色々バタバタしてて、入ってきた仕事
行っちまって 今の今まで忘れてたが





「ってまさか、それを根に持って…?
おいおいおい!どんだけ前の話だと」


「笑い事ではない」





薄闇の中でも輝く緑眼が間近に迫り
思わずオレは腰を引く





「待ち望んだ水がなく、危うく
着ぐるみの中で乾き死ぬ所だった」


「知るかぁぁぁ!そんな状況になるまで
待たずに諦めて自分で買いに行け!!」



「待っていたら休憩が終わった」


「そんなのオレのせいじゃねぇぇぇぇ!」





だがこの小娘はお構いなしに無表情に
胸倉つかみかからん勢いで言い募る





「だのに期待し待っていた私を忘れ
お主は猫にかまけた後、そのまま悠々と
仕事へ繰り出すなど…」


「いやだからわざとじゃ、てか近い近い
おまけに何か踏んで…っぎゃ!


「狡いではないか」


「ズルいってーかズルむけるぅぅぅ!」





無意識なのかワザとか知らねーけど


お前のヒザ、股間おもっくそ踏んでっから!


後ろだけじゃなく前も再起不能になるぅぅぅ






分かった悪かった!だから退けぇぇぇ
踏んでるから!潰れちゃうから!!」






必死の訴えが通じてか


謝りながらアイツが下がったから
前の危機も無事回避





「ったく…こっちも仕事の後、あの大雪で
しばらく現地に足止め食らってたんだぞ」


「おお!それはご愁傷様」


「やっとの思いで帰れば雪かきで
腰と尻が痛むしよぉ…」





恨みを込めて睨みつけてやれば


少しばかり、の様子が落ち着きと
相応の申し訳なさを取り戻す





「む、それは済まぬ事をした
今から座布団を用意いたすゆえ」


「つかよぉ あの後のオレの行動を
お前に教えたのって万事屋だろ?」


「うぬ」







やっぱりな…とか言った時点で
そうじゃねぇかと思ったんだ





依頼だか何だか知らないが、飼い猫探し
オレを巻き込みやがって


むしろアイツらのせいでオレが
こんな目にあってんじゃね?


アイツらが怒られるべきじゃね?





「ヒマにかまけ、私への頼みを忘れて
探していた猫と戯れていたと事細かに聞いた」


「違ぇって 猫の方が寄りついてきたんだよ」


「…私へは寄りつこうとせず
逃げられたのだが」





言うその声は、どことなく悔しげだ


…珍しく拗ねてやがんのか?





「意外だな、動物なら何でも
懐くんじゃないのか」


「瞳を合わせれば何となく心が読めるだけ故
逃げられる事も少なくない」


「ふーん…懐かない猫をオレが
かわいがってたのが気に入らねぇか?」





少し間を置いて、首が縦に振られる


鼻で笑ってやったら アイツの眉に
わずかなシワが寄った





家では飼えぬからな…たまさか万事屋に
立ち寄った際には定春を撫でさせてもらうが」


「お前が頻繁に万事屋寄んのも
あのデカい犬目当てか」


「その目論見が無いといえば、嘘になる」





確かにあのデカいわんこは触り甲斐が
ありそうだが…何だろうな





ちょっと嬉しそうなそのツラで
あのわんこ撫でるコイツを想像すると


何となく、面白くない気分になんのは





ん?全蔵殿、怪我をしているな」


「何だやっと気づいたのか」


「座布団のついでに救急箱も持ってこよう」





さっさと立ち上がった作務衣姿が部屋から消え


あまり待たずに、座布団と
救急箱を持って戻ってきた





「手当いたそう じっとしていてくれ」


「いやいいから自分で出来るって…何だ
さっきとはえらく態度違うじゃねぇか」


「誤解も解けたし、怪我人を案ずるのは
当たり前の事だが?」



そういう恥ずかしい台詞を、どうして
至近距離で真顔で言えるかな この女は





「それに長居されて兄上に迷惑を
こうむられるのは不本意極まりないからな」





…そういう余計なひと言を、どうして
至近距離で真顔で言えるかな この女は





胡坐で崩した腰の辺りをおもむろにさすり





「ぬ?どうしたまだ尻が痛むのk」


様子を見ようとしたの腕を引っ張り

半ば抱き込むようにして耳打つ





「とっとと帰ってやるから精々もてなせ







固まったのを確認して、手を放してやる





「そうだな…熱い茶と、どーせオレの分の
義理チョコまだあんだろ?」


「む、う、うぬ…持ってくる」





顔は変わらなくても、取り乱した態度


ふらふら部屋を出てくアイツの姿は
かなり面白かったので


清々した、とひとしきり笑ってから


懐からジャンプを取り出して
読みながら茶とチョコを待つ姿勢に





「若い子からかって楽しいですか?全蔵さん」







降りかかった声と天井裏から現れた
小汚いツラに危うく悲鳴を上げかけた






「おまっ…なん、いつから!?


ちゃんに正座させられた辺りから」


「ほぼ最初からいたのかよ!!」





くっそ、アイツに気ぃ取られ過ぎて
この地味な兄ちゃんに気づかないとか


本当 今日のオレ調子悪すぎだろ…








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あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:最後でザキがいたのは、服部さん同様
偶然立ち寄ったからです…チョコ目当てに


山崎:いいじゃないですか!オレだって
雪のせいで色々大変でチョコもらう所じゃ
なかったんですから!!


狐狗狸:一応確認するけど…毎回VD
チョコもらってた?君


山崎:……アレ?ほとんど覚えがないや


全蔵:うわぁ…


山崎:止めてその"同情するわぁ"的な顔!
アンタはいいよ毎年ちゃんから貰えて!


全蔵:もらえるったって義理だぞ?
しかもアイツの事だから、世話になったやつ
全員に配ってんだろーし


山崎:それでも覚えられてんのと
忘れられてんのじゃ雲泥の差じゃん!!




疑似修羅場やらVDやら大雪をギリギリ
二月内に詰め込みました…無残


様 読んでいただきありがとうございました!