連日の酷暑に辟易し、涼しい場所へと
退避した銀時達や同士数人の姿を探し求めて





民家の屋根やビルの屋上を伝いながら


路地を見下ろしているとともう一人
知った顔を発見する





「そんな暑苦しいカッコしてて辛くないか?」


「慣れればそれほどでもない」





位置的に二人はオレに気づいてないようだが


こっちからは話し声がそれなりに聞き取れる
…若干、セミの鳴き声が邪魔だが





「仕事での傷とか気にしてるのか?それも含めて
の個性じゃないか〜あの時の水着だって
似合ってたし、もっとオシャレしてみないか?」


「お気遣い感謝するが、これが一番落ち着く故」





あの時って何だ?よもやオレだけハブられた
例の海上基地での一件の事か?


てゆうか水着?!ほぼ年中作務衣で通す
腕や足を露出させただとおぉぉ!?


聞いてないぞ!そこら辺詳しく…


いや別に決してやましい思いはない!単に
思い出話の一環としてだな、いやそれはともあれ







「色々世話にもなったんだし遠慮すんなって!
オレが可愛いの選んでやるからさ」





話しかけてる相手の表情は分からぬが





どうせおそらく他の女子へ向けるような
笑みを浮かべているだろう事は想像に難くない





「丁重にお断り申す、それよりも
お主仕事はよいのか?」


なぁに心配ご無用!こうやって地域の人々と
触れ合うのだってオレ達の仕事の内なんだぜ?」


「少しは省みろ」


「手厳しいなぁ〜人間、時には息抜きだって
必要だろう?だって思いっきり
オシャレすりゃお兄さんだってビックリして」


「私ごときが兄上を驚かせるなど
天地がひっくり返ってもありえぬ話だ」


「そこまで卑屈にならなくてもいいだろ
オレに任せてくれりゃ輝かせてやるぜ?お嬢さん」











「蛍は光ってるから人気があるんだ」











極端に反応の薄いこやつに対して
一歩も引かぬ度胸は、なかなか見所がある


しかし同時に 壁に手を着きなおも誘う様が
板についているのが何故か腹が立つ





…ここで会ったのも、何かの縁と思い


あとついでに路地へ降りるのに都合がよいので







「何なら今からでも一緒に店に…アベバー!





狙いを定め、無事にナンパ軍人の頭を
踏み台にする所までは成功したのだが


勢い余ったか跳ね返り 慌てて壁に手足をつく





「このような場所で会うとは奇遇だな


「む、桂殿こんにちは」


「今日も元気そうで何よりだ、さてせっかくだから
攘夷浪士見学会に「断る」まあ最後まで聞け」





ムササビのごとく身体を広げて 上から
見下ろす男(オレだが)に話しかけられてる


にも関わらずこの娘、全くの無表情である





「オイ人を蹴りつけておいて何だよアンタ…
てかももう少し疑問をぶぎぇ


性懲りもなく復活しかけた金髪グラサン男を踏みつけ
黙らせながら、引き続き説得を試みる





「まあ見学会といっても主体は近隣の山奥で
この時期見れる蛍観賞でな、皆で自然の空気に
触れ 生命の美しさを感じる事で連帯感を狙う」


「ほう、山奥で蛍が見れるのか」


「しかもその後にはバーベキューと花火も控えていて
お子様連れの家族にもご好評いただいている!」


「至れり尽くせりだな…して、その体勢は疲れぬか?」


指摘遅っ!まあ確かに股関節が引きつってきているが


この国の未来を見据える第一歩として、人員と
資金の調達が捗るのならばこんな物は屁でもない





だから早い所決断をしてくれるとオレの股関節が
救われるのだが、現在進行形





「それもそうだな、で?せっかくだから
お主も参加してみないか?兄同伴でも構わんぞ」


「兄上以外の者を誘っても構わぬだろうか?」


勿論だとも!ついでに銀時達にも声をかけて
おいてくれないか?いい機会だからな」





どうやら気乗りしない先程の誘いよりは
よほど興味を惹かれたらしく


取り出した手製のしおりを受け取って





「わ、分かり申した、出来うる限り助力致そう
だから降りてはもらえぬものか…


は、見学会の参加に快く応じてくれた









…まではよかったんだが





「蛍に花火か〜正に日本の情緒ってヤツだな!」


「だな、こーいう山奥なら怪談向きのそれっぽい
いわく有りげな祠とか一つはあるだろ?」





兄まではいいとして、どうしてこの金髪軍人や
長谷川さん、終いには将軍までいるのか





「マダオ殿、銀時達は?」


「暑い中ワザワザ山に行くのメンド…じゃね
浮気調査の依頼入ったから行けないっつってた」


どうしてそこで諦める!てゆうか何故
貴様までいるのだ将軍!!実はヒマなのか!?





「…重くはありませぬか?」


「人づてに蛍鑑賞ツアーなるものがあると
勧められてな、少し張り切って用意し過ぎた
何、帰りには軽くなるから案ずることはない」


「いやー流石は将ちゃん!日本ならではの高級菓子を
味あわせてくれるとは、その長髪とは大違いだよな!」





遠足気分によるギャップと中に入ってる
高級おかしで皆の気を惹こうという魂胆とは


やはりこの男…侮れない!どこかで事故に見せかけて


「しかしこのような山奥で蛍が見れるとは驚きだ」


「そりゃそーだ、今だとちょーっと
時期がおかしいよなぁ?ヅラっち」


「え、ああ詳しくは知らんが天人の来訪にて
一部変異でもしたか…他所からの外来種かもしれん」


「一理あるな 流石は桂殿」





おお!オレには分かるぞ!無表情だが
今!確実に!オレを尊敬の眼差しで見ている!


うむうむ、肝が据わっているだけでなく素直で結構!
付き合いの悪い天然パーマどもとは大違いだ


よーしここは攘夷時代の武勇伝も道すがら


「どこから来たにしても、蛍の輝きなど
キミが並べばかすむだろうさ?お嬢さん」


ちょ、横槍を入れてくるんじゃない貴様ぁぁ!


何だそのいかがわしく三つ編みに触れた手は!
が汚れるから離れろてゆうか手を離せ!





「貴様何を「ゴッペパァァァン!?」


「ご…ゴメンあそばせ…ちょっと立ちくらみが」





弱っている身を利用して思い切り股間に肘鉄
食らわせるとは恐るべし…!そしてGJ兄よ!









約一名の歩みに合わせてるせいか、予定時刻まで
蛍が潜む森林までたどり着けるか不安だったが





「つい先日の同窓会でも銀時や坂本と共に
昔の話で盛り上がってな!いずれ過去編
行われてオレの勇姿がWJに乗る日も近いぞ」


「それはちょっと盛り過ぎじゃないのか?
てかその幹事の黒子野って…」


「同窓会とはどのようなものだったのだ?」


「ふふん、聞きたいか、そんなに聞きたいか?





道中はオレが同窓会の武勇伝で盛り上げ


足元も自前の懐中電灯だけでなく、殿を務める
エリザベスが目からの光で安全に照らす





懸念していたグラサン軍人の魔の手も





オレや兄だけでなく、長谷川さんや将軍
そしてエリザベスもがさり気なく合間に入って
防御してくれているおかげでに害は及ばず







「いいか?山に入る前も言ったが極力静かに
するようにしてくれ、最近はところ構わず騒ぐ輩が
多いせいで管理団体やら環境団体が厳しいからな」


うぬ、承知している」


「目的地についたら懐中電灯は消してくれ
蛍は強い灯りを嫌うからな、無論タバコは厳禁だ
ゴミも持ち帰るようにするのがマナーだぞ?
無闇に草むらに手を入れたりしないように、それと」


「「しつけぇよ!どんだけ念押すのおォォォ!」」





と、やや騒がしいながらも全員が逸れること無く
到着し 後は蛍の飛行を待つばかり







そう、待つばかりだったはず、なのに…





「あの子は一体どこ行ったのおぉぉぉぉ!?」


一瞬目を離した隙に だけ消えていた







――――――――――――――――――――





蛍を待つ間に、真っ青な兄上の汗を
お拭いする手拭いを冷やそうと


耳を頼りに 近くにあった小川へ来たはいいが





いつの間にか奥の方に進んでたようで、気づけば
すっかり元の道を見失っていた







「確か、こっちで間違いはないはず」





記憶や周囲の風景や風向きなどを頼りに歩くが
暗さとぬかるみで足元がおぼつかない


…土地勘のない場所で勇み足が過ぎたようだ


今頃、兄上や桂殿達は心配しているだろうか


これ以上迷惑にならぬ内に早く戻らねば





「せめて明かりが見えれば…」





木陰も濃く、あたりを包む薄闇と草木に遮られ
光らしきものはほとんど見えない







静かで 暗くて たった一人で…







これしきで不安になるなどらしくない


私はもう あの頃のようにただ泣いていた
幼子ではないのだ、これしきのことで


「―っふぁっ!?





踏み出した足がぬかるんで滑る


その場に倒れるかと受け身をとるけれど

身体はどんどん斜面を滑って下がってゆく





ちらりと見た先には崖があった





何かにつかまろうと手を伸ばして枝をつかむけど


へし折れて 身体ががくんと下がって







―落ちかかる私の腕を、誰かがつかんだ





引っ張り上げる相手の力を借りて
崖からどうにか這い上がる





懐中電灯を手放したせいか、闇に紛れて
側に佇む男の姿は見えないけれど


兄上達でないことだけは分かる


……捜索に駆られた桂殿の同胞の者だろうか





「危ないところでしたね…大丈夫ですか?


かたじけない、助かり申し」


今一度、顔を上げて礼を言うけれども





そこには誰もいなかった







――――――――――――――――――――





転がった懐中電灯を頼りに明かりをかざし







「勝手な行動をするなと言っただろう」


誠にすまぬ、慢心故の不徳だ」





ようやく見つけたへ、しっかり注意を促す





「てっきり足を滑らせてそこの崖から落ちて
滝壺に浮いて三途に行くんじゃないかと心配で」


「途中までは、しかし助けてもらった」


「何が!?誰に!!?」





詳しく聞けば、本当に足を滑らせて崖から
落ちかけ…た所を見知らぬ男に助けられたらしい





「礼の途中で消えてしまったから、名も
聞けなんだ…誰だったのだろうなアレは」





え?オレ、お主と合流するまでの道で


そんな男はおろか他の明かりなど見なかったぞ?


バーベキュー会場に待機していた同志には
まだ声をかけてはおらんし、仮に来たのだとしても





明かりもなしに このぬかるんだ斜面を


オレやに気付かれず立ち去るなんて芸当
人間に出来るわけが…







いやいや!もう怪談を
語るには時期として遅いし!旬過ぎちゃってるし!





だが待て、三途から戻るのが平常なこの娘なら


戻るついでに一人二人連れてきてたとしても


山にいた何かを呼び寄せてしまったとしても
おかしくはないかもしれない







他にも呼び寄せる可能性だってあるかもしれない





「桂殿?どうかされたkさあ行くぞ!
ぐずぐずしていたら間に合わないからな!」






そんなことはない考えすぎだ、しかし!
ここは皆の元へ戻って早いとこ蛍を見終えて
山を降りた方がいい!


そう新たな事故とかよからぬ災難とか
奇妙な世界への突入とかが起こる前に!






駆け出して少しして 背中に軽い衝撃が伝わった







「置いていかないで」







聞こえる声がか細くて、すがるように
着物を握る手の感触が弱々しかったので


それらしい雰囲気に恐ろしい記憶が蘇りかけ



本気で上げかけた悲鳴を 無理やり飲みこむ





「なっ…悪ふざけはやめんか!」





裏返った己の声を自覚しつつも
振り返ると、手はすっと離れた


よかった…やはりだったか全く人騒がせな





「…すまぬ、今のは忘れてくれ」


うつむき気味の無表情が何故か哀しげに見える





…いや、哀しいのだろう きっと





大丈夫だ、置いて行ったりはせん…
皆の所へ戻ろう」






息を合わせ、並んで再び歩き出したオレ達を


導くかのように緑色の光がひとつ、またひとつ

宙に浮かびながら漂い ぼんやりと辺りを照らす





瞬きほどの時間だけ 目の前を通り過ぎる
光虫を負う娘の楽しげな顔も浮かんで消える








集まってゆく淡い光を目指して





お!ちゃん見つかったのか〜」


よかった…怪我とかない?大丈夫?」


「心配かけ申した、すみませなんだ


「気にするな、無事で何よりだ」


「そうとも…さ、蛍鑑賞を楽しもうぜ」





集った皆とともに笑い合い 山林を照らす
緑光の粒子を 消えるまでただ眺めていた








――――――――――――――――――――――
あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:本当は7月〜8月中旬に書くつもりでした
時系列的には合併号の前日かもしれません


桂:かもしれないという考え方はかまわんが
多様はよろしくないな、というかあの状態では
オレがを壁際に追い詰めてるようではないか
名誉毀損による謝罪と賠償を


長谷川:北をネタにするのはヤバいってぇぇ!


将軍:大事もなく、美しい蛍の舞う様も
間近で見れて満足だが…を助けたのは
果たして誰だったのだろうな?


狐狗狸:解釈はお好きにどうぞ、黒子野さんでも
桂の指摘通り化けちゃった人でも


長谷川:うーん…実体験って部分はウリになるけど
イマイチ怪談らしい恐ろしさに欠けるなぁ


将軍:怪談といえば…バーベキューや花火の際
聞き覚えのない声や、気配がしたような


桂:き…貴様もずいぶん肝の小さい男だな
ありもせぬ過去の記憶に囚われるなど


長谷川:それはお前らだぁぁぁぁぁ!!


二人&管理人:ぎゃあぁぁぁぁぁぁ!!




蛍は平家か姫の亜種かも…ついで退助様と
察しの良いMGSファンの方々、ゴメンなさい


様 読んでいただきありがとうございました!