セミの鳴き声がうるさくて、けれどそれを
口に出すのさえ億劫になるほどの日中


むわっとしたイヤな熱気をはらんだ風に吹かれながら





「やたらムレちまって痒いったらねぇや…

黒とかこんなクソ長い袖とか裾でデザインした奴
どんな神経してやがるんでぃ…あーやってらんね」


自らの身を包む黒い制服に文句言いつつ


涼しいファミレスへ退避しようとしていた沖田は







「いい汗を掻いてドーナツを食べたいから
私の誘いにはいイエスで答えて」


「またそれか、今度は騙されぬぞ」


「じゃあ今から数えるわ、いー…」


言いさしての居合抜きを繰り広げる、自分の
制服に似た白い制服の少女と


続けざまの連撃をもありえない姿勢でかわす
灰色作務衣の少女を見つけた





「信女殿、数える前から抜き打ちはどうかと」


「叩く前から逃げるならいいじゃない」


「デケェねずみと遊ぶなんざ、ズイブンと
かわいらしいトコあるじゃねぇか白いの」






互いに残像を繰り出し切りていた二人は止まり
汗一つ無いような面持ちで視線を送る


けれど気にせず、普通に歩いて彼は





むんずと手近にいたの襟首をつまんだ











「無自覚ってのは往々にして恐ろしい」











「取り込み中悪ぃが、コレ借りてくぜぃ」


「横取りは許さない」


「…二人とも 私には用があるのだが」





そもそもモノ扱いで会話してるトコに関しては


ツッコミ不在と、の大雑把さ

ついでドS気質な二人により素通りである





そいつぁ残念だったねぃ、とりあえず
お巡りさんの目の前で騒ぎを起こしたからにゃ
覚悟は…あ、後はやっとくから帰ってどうぞ?」


「最近は汚れ仕事少ないし 汗を掻いてから
おごりで食べるドーナツは格別なのよ」


「奢らぬぞ、あと両腕が痛い」


「おっと?おたく頭が悪いのかぃ?
二人いたら分け前が減るじゃねぇか」


奢らぬぞ、そして関節外し見越して
耳を掴むのは止めぬかお主ら千切れる」







まるでオモチャの取り合いのような
暑苦しくも悲惨な攻防は


最終的に、仕事の連絡が入った信女が
退散したことによって終わり


競り勝った沖田へ が耳と腕をさすって問う





「して用件はマヨ殿の抹殺か?」


「そいつぁまだでぃ つかこの陽気じゃやる気も
ロクに起きねぇし、とりまお前の金で作戦会議な」


「特に用はないのか、ならば「帰ったら今夜
土方の部屋にぶち込む仕掛けをテメェの部屋に」

分かったギリギリまでは付き合う」





望み通りの相手の判断に、整った顔立ちで
得意げな風に笑って彼は言う





「精々オレの機嫌を損ねねぇこったな」





振り返らずに歩き出すその背を一瞥し


表情を変えぬまま彼女は従って歩く





――――――――――――――――――――







冷房の効いた店内で生き返った心地を味わいながら


窓際の席で外をほっつき歩いてる
汗だくなヤツら眺めつつメニュー開いて


盛ってる器から具材から盆までやたら張り切ってる
鰻丼セットの、一番高いのを頼んでやる





「物欲しそうなツラして、いやしいねぃ
そんなにコレが欲しいかぃ?


「いらぬ、それはお主の食物だ」





間髪入れずキッパリ断りやがったから、目の前

てーか目と鼻の先にウナギひとかけをちらつかせ


更に大げさにパクついて見せたけれど


この女、気持ち悪いぐれぇ微動だにしない





諦めて三口目からは普通に食いはじめるが
大して美味いとも思えなかった





「今通り過ぎたカップル、今時長袖ゴスロリ
頭におゆうぎ会みてーな紙テープ飾って歩いてたぞ
ありゃー熱で頭やられたに違ぇねぇな」


「総悟殿、行儀が悪いぞ」


「だったら楽しそうな話の一つもしてみろよ?」





辛気臭ぇ能面ヅラと差し向かいで食うメシってなぁ
余計に味気ねぇ、って挑発しても


このピーマンはすましたツラで水を飲むだけ


全くもってかわいげのねぇ…







「今年は晴れたな、七夕」


いきなり藪から棒になんだってんだ、てか
七夕はもうとっくに終わってんじゃねぇか」


「話題が欲しいと言ったではないか」


「じゃ来年の七夕にゃ、まともな脳ミソ頼んどけ」


「まだ結婚しておらぬ内から短冊に願はかけれぬ」


「人目に触れるように放送禁止用語でも
羅列する気かよ、驚いたねぃそんな変態趣味が」


「いや、夫婦で短冊に子を望む文を書くのが
七夕での習わしであろう?」



「やっぱ放送禁止用語じゃねぇかぃ」


噛み合わねーな いつものことだが


…お花畑と屍の山が混ざり合って異空間でも
生み出されてる気がするねぃ、コイツの脳内





タレの染みた最後の一口を胃にぶちこんだ辺りで





色気皆無なドブネズミ色作務衣の懐から


がおもむろに似合わない色合いの機械
取り出して、両手でいじくり始める





「旦那も含め万事屋連中は携帯もってねーのに
お前は持ってんのな、ガラケーだけど」


「片メガネ殿から寄贈され「知ってらぁ」





ちらりともこっちにゃ目もくれねぇで


必死んなって画面にかじりついて
ガチャガチャ操作してる姿は相変わらずだが





「ついでだ、"まなぁもぉど"にしておこう」


「機械オンチのクセに
やけに操作が手馴れてきちゃいねぇか?」


「日々学んでいるからな、とはいえめぇると
もぉど変更と電源ぐらいが限度だが」


「ふーんどれどれ」





掠めとって送ったメールを覗いてみるが





基本ほとんど、ひらがなで小さい「っ」とか
抜けてたり記号も句読点もないごく短い文章


本文を件名に入れてたり、予測変換かなんかの
ミスでおかしな内容になってたり空メールや
途中で打っちまってるのがあったり


携帯初心者の見本市でよくそこまで言えるもんだ





「返してくれ総悟殿」


「まだ見てる途中でぃ…って受信メールの量キメェ
近藤さんが姐さんに送んのと同じぐらいじゃねぇか」


「そうなのか?いやそれよりも携帯を…むっ」


テーブル超えて予想よりも長く伸びるの手を

敢えてスレスレでかわして





「せっかくだし初期設定のダッセェ壁紙よりも
いい壁紙貼っつけといてやるぜぃ?タダで」





こないだ嫌がらせ用に撮影した犬のウ○コ
添付メールで送って、そのまま壁紙に設定


ついでに検索して出た怪しいサイト(料金制)を
あらかたアクセスしてお気に入り追加したり


落とした嘔吐音SEを最大音量・スヌーズ
目覚ましに設定、っと





「妙な所をいじらんでくれ、まだ扱いに
慣れておらぬのだ…頼む、からっ返さ、ぬか


「うるせぇな、せっかく人が親切に
色々便利設定追加してやってんのに文句言うなぃ」





段々と激しくなる手の追撃をかわしながら
茶をすすり、メール設定へ接続しようとして





いじくってる携帯に メールが届いた


送り主は…佐々木の旦那か







[あんまりたんいぢめないであげてお(´・ω・`)


P.S.ノブたすと仲良しなんだね☆
今度私と三人で携帯ゲーム対戦やりませんか?]





あまりにも現状にぴったり過ぎる内容


そして申し分の無いタイミング







これにオレの脳内は、某吸血鬼のシルエットが
凄みのたっぷり詰まったポーズを取って





"貴様、見ているなッ!?"





と叫ぶトコまで余裕で自動再生しちまった





「…そんな返して欲しいなら返してやらぁ」


ぬ?まあ…そうしてくれると助かる」





返してやったにも関わらず嬉しそうにゃ見えない


そういや山崎辺りが、が携帯返せねぇで
ひたすら苦しんでるとか言ってたな…





「縛られんのが嫌なら、どっかに捨てちまえば
いいじゃねぇか?(オレぁ責任持たねぇけど)」


「不可抗力ながら何度もそうなった、壊した数も
片手を越した…だが新たに送られる」


「拒否るか送りk「返せぬ」





なるほど、財力があるからこそなせる
呪いに近い嫌がらせってヤツか





返却できない携帯とか、やっすいホラー映画で
定番のパターンじゃね?その内 今まで壊したり
捨てちまった携帯が百台ぐらい怨霊化して枕元に」


「それは困る、もう付喪神は懲り懲りだ」


珍しくセリフ通りの感情が 一瞬だけ見えた





「亡霊だの何だの冷やかされてるお前が
モノが動くだけの妖怪にビビるたぁ意外だねぃ」


付喪神を侮ってはいかぬぞ総悟殿!あの時は
清明殿達や正直殿の助力もあって助かったが人の力で
神となるほどの強大な呪詛にはそうやすやすと」


「うわ、あいたたたー!とうとう電波受信始まった〜
お前今すぐ病院行け、なっ?」



「私は健常だが?」


「顔色一つ変えず嘘つくなぃ、まあ変えるほど
顔面仕事しねぇけどなお前」





仏頂面がウリの土方アノヤローやドーナツ女でも

ここまでやりゃ、ちったぁ苛立ちを見せるのに





もうひと押しぐらいしてみるか





「ちっとションベンしてくるから逃げんなよ」


「逃げたりせn「おっと手と足が滑ったぁ」





席を立つフリして、迂闊にもテーブルに
置きっぱだった携帯を払い落として踏んづける


メリッと砕ける感触がしたから


念入りに、破片が散らばるよう床に擦り付けた





盆を片づけてた店員は真っ青なツラで顔を
面白ぇぐらい引きつらしてる


ああ安心しろぃ、テメェじゃねぇ





「物を大切にせぬとは何事か!」


どうせまたもらえんだろぃ?ケチケチすんなよ」


「その考えはいかぬ!それにこれで百台に
近づいてしまったではないか…」





あれマジで信じてんのか(コイツ)





「仕方ねぇだろ手と足が滑っちまったんだから」


「…次は気をつけてくれ」





落ち込んじゃいるのは雰囲気で何となく分かる


が、こんだけ反応薄めだとこっちの言葉を
鵜呑みしてるか分かってて許したか判断出来ねぇ


…ま、携帯壊せたし困らせられたから

今はコレぐらいにしといてやるか





「それじゃテンションあがってきたし、本題の
土方抹殺作戦を開始しまーすハイ拍手〜


ハイ拍手〜じゃねぇよオメーら、どんだけ
周りが引くやり取り続ける気なの?」





同時に首を向けりゃ、そこには死んだ目の
天然パーマ侍が佇んでた





――――――――――――――――――――





店の窓際に座る二人の姿が外から見えて





「すぐそこの席でちょっと前から見てたら
オメーらの周りの客、みーんな逃げる逃げる


「私達は普通に会話しているだけだが」


「客を神扱いで持て成して金もらうのが
客商売っつーヤツでしょ?」


「フリーダムすぎだろ特に総一郎君
サボりで店潰したら流石にクビ飛ぶよ?色んな意味で」


総悟でさぁ旦那 つかこの程度で潰れんなら
所詮それまでの店ってコトですぜぃ?」


悪びれる様子が欠片ほどもない沖田を横目で差し


拍手を止めたへ、呆れ混じりに銀時は言う





「アレだけやられて潰れてないお前もお前だが
色々ヒドイ目に合わされてるのに
よくまぁ沖田(コイツ)とつるんでるよな」





ほとんど間を挟まず、彼女は答える





「…悪戯好きにはほとほと参るが、それも
総悟殿の個性であろう?」


それは"やんちゃ盛りの子供を持つ従姉妹"
似た優しさに満ちた言葉で


苦笑ではあるが、その顔は確かに微笑んでいた


場にいた二人は認識し…目を丸くしていた







ぬぁっ!もうこの時間では今から出なくては
すまぬ総悟殿、作戦会議はまた後日誘ってくれ!」


ほぼ一方的に謝りながら領収書を手にし


返事も聞かずにレジで支払いを終えて
は店を出て行ってしまう







…その一部始終を見送って





「あの女…いい度胸してんじゃねぇか」


「相変わらず絶好調なツラしてるトコあれだけどさ」





何かを企んでいる微笑を浮かべる彼へ

銀髪天パは、さらりとこう言ってのける


「沖田君、実はのあの能面ヅラが変わるの
見たくて色々やってる節あるよね?気でもあんの?」






潮が引くように 悪人顔負けな笑みが引っ込んだ





「オレが自他共に認めるドSってのは旦那も
周知の事実でしょ?言っときやすがあのピーマンにゃ
玩具以外の価値はもっちゃいやせんぜ」


「どうだか、ホントはさっきの発言
満更でもねぇって思ってるだろ?」





アイツも付き合いいいよなバカだけど、と
訳知り顔で笑っている銀時へ


ややあって沖田は 真顔でこう返した





「旦那の枕元にも今夜辺り災害が訪れるんで
くれぐれも注意してくだせぇ、まあ無駄でしょうが」


「おー怖ぇ怖ぇ」








――――――――――――――――――――――
あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:この小説は雰囲気とノリと気分で
出来ています…って夢主いい目見てねぇー


沖田:盗み聞きはオレの専売特許のハズですがねぃ


銀時:違ぇーし避暑ついでに様子見てただけだし
ドーナツおごらすとか鰻おごらすとか、オメーら
厚かましすぎだろ オレも混ぜろ


狐狗狸:アンタもかよ!書いといてなんだけど
ドS発揮しすぎじゃないですか?アンタら


のぶめ:人の不幸はなんとやら


沖田:オレの不幸はお前のもの、お前の不幸は
お前のもの そして幸せが訪れる


銀時:逆ジャイアン!?なんつーか
Sにモテる才能でもあるんじゃねーの


狐狗狸:適当だな銀さん、そしてブレないな上二人




用がなくても構う相手×度量広い天然=
壮大に何も始まらない(でも大好物です)


様 読んでいただきありがとうございました!