季節が過ぎるのは早いモンで、もう春間近


春に公開予定だったらしい映画第二段も夏へと
移行して本誌以上にてんやわんやしてるけど


全く関係の無いこのサイトじゃ オレ達は
いたってのん気…ってワケでも無いけど

まあそれなりに仕事はしている





「今年も忙しねぇなぁ…ま、こんな仕事じゃ
一年なんかあっという間だけど」





張り込み用の物資を買い足した帰路で ふと思う





…そういや たまさんと出会ったのも

ちょうどこんな感じの日だったなー


最近じゃ優しくて聞き上手な性格を生かして


"ロボっ娘懺悔室"の二足のわらじで、ますます
ガンバってるみたいだし





「…まだ交代まで時間あるし ちょっと
様子見に行こっかな〜」


なんぞと言い訳めいた事言いながら、オレは
彼女のいるスナックへと足を向ける







あのお見合いの一件以来ますます、たまさんが
気になって気になって仕事がロクに手に付かない





…いやいやいや別に局長みたいに四六時中
ストーキングはしてませんよ!?


さすがに立場とかわきまえてますって!


自分の空き時間と、相手の都合のいい
時間帯をちゃんと抑えて行動してますって!





脳内で一人言い訳しつつさり気なさを装って





「「あ」」


路地の合間にある小屋の前で女の子とかち合う


いや、青い振袖と黒い袴で髪も軽くセット
されてはいるけど よく見ればちゃんだ





…ってちゃん!?











「地味だって生きている」











なんでいつもの作務衣じゃなくてそんな気合が
入ったカワイイ格好してんの!!?


…え?まさか、まさかまさかまさかなのか!?





「山岸殿こんにちは、このような場で奇遇だな」


由花子!?いや山崎だからオレ!!」





出会い頭のインパクトは、普段通りの
名前間違いによってすっかり吹っ飛んだ


てゆうかいい加減ちゃんと覚えろよぉぉ!





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とりあえず謝りつつ、挨拶を交わして訊ねる





「お主も卵殿に用があるのか?」


えっ!?あ、そのっいや!べべべ別に
大層な用とかってワケでもそのぉ…!」





…何故にそこまで動揺するのだ


この者は 私と話していると大抵は
脂汗を流しながら口ごもったりするが


何か持病でも患っているのだろうか?





まあ、そんな個人の事情はどうでもいいか


「急ぐ用で無いなら私に先を譲ってもらって
構わぬな?山崎殿」


「え、あ、それはまあいいけど…その格好
どうしたの?成人式はもう過ぎたよね?」


「頼まれて近くで面接に「説明プリーズ!」





兄上からの推薦により、この付近での会場にて
面接に行く運びとなったのだが


何故かこの姿で行くよう指定されたと伝える





「へぇ…いや桜の模様だし似合うけどさ
でも会場に行かなくてもいいの?時間大丈夫?」


「少し早めに来た故、まだ間はある」


小袖と袴は動きやすくて助かるが雪駄には
まだ慣れぬので、散歩ついでにここへと来た


それと…少しばかり話したい事もあったから





卵殿!頼もう…ぬ?留守か?」





ダンボールで出来た室内には、椅子と仕切りと
小さな窓以外には何もない


窓から覗くも 中には誰もいないようだ





「むぅ…致し方無い、日を改めるか」


「決断早っ、ええと…ちょっと待ってみたら?
てゆうかどんな悩みがあったのさ」


「詮無き事ゆ「まーお兄さん絡みだろうけど」





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言い当てられた、って顔したトコまでは予想内で


たまさん待つついでで軽く詳細を聞く事には
成功したんだけれども





「私は…自らの軟弱さが許せそうにない…」





まさかここまで思い詰めていたなんて


藪を突いて蛇出しちゃったかなー…空気重っ





「いやそれは少し考え過ぎじゃないかな?
槍の稽古もガンバってるワケだし無理しなくても」


「何を言うか!兄上をお護りするためには
心身ともに鍛えあげねば意味がないのだ!」



力説されましても、てか顔がちょい近いって







しかしまぁ戦う方面だけじゃなく精神修行とか
知識習得に勤しんでるのはとてもいい事なんだけど





「機械に慣れるべく片メガネ殿の送った教本を
読んではいるが 何故か途中で頭痛がするのだ」


「その手のモンは根詰めて読むモンじゃ無いから
そりゃ頭も痛くなるって…機械苦手なら尚更だろ」


「あと洋風の代物に慣れるべく写真がついた本を
眺めたりもするのだがそれも途中で吐き気が」


何で?!てゆうかそんなの初耳なんだけど!」


その二つは正直なんか違うような気がする





「で、ええとその辺の訓練?とかは
最近やり始めたの?」


「いや、前々から自身の修行としては
取り入れていたのだが…」


妙に歯切れが悪かったので突っこんで聞いたら

力を入れたきっかけは、やっぱりお兄さんで





この間"もうちょい条件いいトコ無いかな"なんて
呟きながらマンションのチラシとか見ていたとか





「あー、今ちゃんが住んでるトコじゃ
かまっ娘倶楽部に通うのも不便だもんね」


「うぬ やや距離が離れたのが難儀で…
何故ゆえ知ってる?


「ぐぐぐ偶然万事屋の旦那から聞いたんだよ」


キレイな緑色の瞳に見つめられて冷や汗が出た





ご…誤魔化せたかなー…無表情な相手って
こういう時分かり辛いから困る







「兄上が望むなら どのような変化とて
慣れねばならぬのだが…正直挫けそうでな」





うつむき気味に真剣なため息をついた女の子が
"気になる"相手であるかどうかだけで


無関心でいられなくなるのは男の性ではなかろうか





「お兄さん思いなその気持ちは立派だけどさ
一人で色々やろうってのは効率も悪いし
やっぱり限界があるとオレは思うんだよね」


「一理あるな…だがこれは私の問題なのだ」


「言いたい事は間違ってないよ、でもね他の人と
協力して克服するのは恥ずかしい事じゃ無いよ?

なんて言うかさ、もうちょい人に頼りなよ!


「と言われても…これでも頼っている方だぞ」


いやまだ全然だから!むしろ5%の力も
出てないから!そー言うのだったらドンドン
協力するからさ、全面的に協力するからオレ!





ん?いい所なのに誰だよ肩なんて叩い…て!?





「店先で私の仕事を取らないでください
営業妨害にあたりますよ、山崎さん」


「たったたたたまさんんんん!!


「卵殿こんにちは、相談に参ったのだが」


「申し訳ありません 急用で席を外しておりました」





ペコリとお辞儀してから、たまさんから
視線が向けられて心拍数が自然と上がる





「あ、いや!ちちち違いますオレ営業妨害なんて
考えてませんから!二人でアナタを待ってる間
ちょっとちゃんの相談に乗ってただけで」


うぬ 山崎殿に悩みを軽く聞いてもらっていた」





あたふたしている間に、二人が世間話を
始めたので口を挟むタイミングを逃してしまう







…さっきの誤解されたかなーでもこの娘とは
特になんでもなくて偶然会って話聞いてただけで


って何で脳内で言い訳してるんだオレは


でも、気分はまるで浮気現場を恋人に見られて
修羅場
ってる定番シーンに放りこまれた感じで





…だが悲しい事に 彼女らとはどちらとも
そこまでフラグが立ってはいないワケで


けど逆に言えば、として意識してもらえるか


ここがそのターニングポイントとも言える!


気の利く立ち回りをしつつ、さり気なく
かつ悟られぬよう二人に探りを入れたい


普段の腕前を活かす時が来たのかもしれない


…失敗は出来ない、ここが正念場だ退!





自分自身に檄を飛ばして 口を開いて―







「…話をしたら気が静まった、お主のお陰で
こんな私でも自信が持てる気がしてきた」


「きっとアナタならやり遂げられます アーメン」


って、いつの間にか自己完結してるぅぅ!





機械の事でしたなら私にお任せ下さい
様のお役に立てるのでしたら本望です」


「いや、私の方こそ卵殿が助力してくれるなら
百人力だ!ぜひともよろしく頼む


しかも協力者のポジ、たまさんに取られた!





「あ、あのっオレも力になれると思」


「「生憎(だ・です)が間に合って(る・ます)」」





食い下がったら、寸分の狂いのない真顔と
声音で駄目押しされてしまった…


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これほどまでに落ちこむ山崎殿を見るのは







『多々良木ど…いや、間違った七人岬殿』


どっちも間違ってますから!
山崎ですオレ!頼むから覚えてちゃん!』



『印象が薄いのでついな…いっその事
目立つ名に改名したらどうかと』


戸籍捨てろってコト?!あと間違ってるの
名前じゃなくて苗字だからね!!』





といったやり取りを行った後に





『ま、まさかちゃん それってオレに
婿養子に来てく『意味が分からぬ』


急に顔を輝かせて珍妙な事を申したのを
否定した あの時以来だ…





「しまった、そろそろ面接に行かねば
話を聞いてくれて感謝いたす二人共 しからば」


「お気をつけ下さいませ様」





面接へ行くべく私はその場を立ち去り、卵殿は
小屋の中へと入っていくのが見えたが


沈んだ背中は道路に取り残されたままだった









…どうにか会場へ間に合い、審査された後
結果待ちとなったのは喜ばしいではあったが


昼の内より怪しかった雲行きが崩れたらしく


日が落ちた頃には本降りになったので

あわてて洗濯物や布団を取り込んだのだが
間に合わず少々湿ってしまった…不覚





「まさかこんな急に降るなんて思わなかったね」


全くです、それよりも兄上 お寒かったでしょう
ただいま部屋を温めて茶もお持ちします」


「助かるよ」





急須に湯を注ぐ最中、窓を叩く雨粒が目に入る







そう言えば や…なんとか殿はしばらく
近隣にて外での張り込みだと申していたが


仕事といえどこの夜雨には参っているやもしれぬ





ぼんやりと考えていると、電話の呼び鈴が鳴った





おや、こんな時間に誰かしら」







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日中はあったかくなって来たものの、夜はまだ寒い


特に今みたいな風も雨足もやたらに強い日
外で張り込みだと たまったモンじゃない





ああ…味噌汁飲みてぇ…てゆうかあったかい
手料理とか作ってくれる嫁さん欲しい


疲れて帰ってきたオレを優しく癒してくれる


細やかな気配りが出来る嫁さん

で、悲しいかな たまさんの顔が浮かぶ辺り
オレの脳ミソは単純d


ぬっと上から小さな人影が降りてきたんで

あやうく口から変な悲鳴が上がりそうになった





「配達に参ったぞ」


ちゃん!てか配達って誰から」


「仕事ゆえ来れなんだが、差し入れと言伝を
届けて欲しいと卵殿から申し使った」


「たまさんから!?」


「うぬ、"風邪に気をつけて下さい"との事だ」







タッパーに入った煮物の温度もだけれど
その言葉が、何よりも温かく胸に染み入った


オレの心配をしてくれるなんてどんだけ女神なんだ





「…ん?何このチクワ」


「ああ、それは私の差し入れだ 余り物だが」


またそんなピンポイントかつタイムリーな!





いや、まあもらうけどね!余りモンでも
わざわざオレのために持って来てくれてるし





「アレ?そう言えばその服、昼間と同じ
カッコだよね 着替えなかったんだ」





いつもなら作務衣のハズなのに、と問いかけたら


"今気がついた"って様子で服を見てた





「少しバタバタしていたので着替えそびれた」


「アハハ、あわてんぼうだなぁ」


「速達でと頼まれたし…寒空の下 働くお主に
励まされた分を返したいと思ってな」





そう告げたこの娘の雰囲気が、どことなく
やわらかかったのは気のせいじゃない







…あれ?あれれ?オレもしかして


二人の娘とフラグ 立っちゃってます!?





「帰りがけにあやめ殿の怪光線を受けて
三途に行ったからというのもあるが」


「その一言で台無しだよ!」





ああもう、素直に夢ぐらい見させてほしい








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あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:早春になっちゃったけど、フラグに揺れる
ザキの話です…本人が勝手に揺れるだけですが


山崎:身もフタもねぇぇぇ!怪光線とか
チクワ入れるくらいならもう少しフラグの強化とか
たまさんとの会話を増やしてくれても!


狐狗狸:三途行きと沖田の乱入が無くなっただけ
マシな結末ですよ?あと送られた教本だけど…


山崎:(実物見せられ)広辞苑並!?
どんな代物送ってんの佐々木の旦那ぁぁ!!


たま:栄養が著しく偏ってらしたので
差し出がましくもお二方の橋渡しをしたのですが


狐狗狸:あんぱん主食じゃねーチクワ増えたけど




たまとフラグ成立するのもアリと思ってますが
公式での扱いと空回り振りじゃ 道程は遠そうです


様 読んでいただきありがとうございました!