「おい槍ムスメ 話がある」
兄上に頼まれた夕飯の買出しの途中
呼ばれて私は、その場に立ち止まる
「…私に何用か 瞳孔マヨ殿」
「その呼び名はオレにケンカ売ってんのかコラ」
何故怒るのだ この男は
とゆうより初めて会った時から
怒っている顔しか見たことがない
「瞳孔開いてるし、マヨ好きと聞いているし
そのままの呼び名だと思うのだが」
「上等だ しまいにゃ斬るぞ」
一般市民に刀を見せて脅すとは、
国家権力は常識を習っているのだろうか?
私は、この男が正直好きではない
元々後ろ暗い所のある私と、真撰組という
警察組織はあまり友好な関係は望めぬし
この男の尊大な態度と煙草を吸う様子が嫌いだ
特に煙草のニオイと煙は あの事件を…
あの男を、思い出させる
「生憎だが私は夕食の買出しをしている身
失礼させてもらおう」
一礼し、去ろうとする私を目で牽制し
「そんなに時間は取らせねぇよ
ちょっと聞きたいことがあるだけだ」
呼び止める瞳孔マヨ殿の様子は
何時もと少し、違う感じがした
…今日は 煙草の匂いがせぬ
「…なるべく手短にお願い申す」
「わーったよ、ちょっとそこの飯屋で
話すぞ ついて来い」
命令されるのは気に食わなかったが
時間は取らせぬと聞いたし、何故か
話を聞いた方がいいような気がして
大人しくついていく事にした
「落し物はガメずに持ち主か交番に」
そして、席について程なくして
目の前にやってきたのは…丼だった
だがしかし、普段見る丼とは様子が
少々違うようだ
飯の上に乗る具が見えず、
変わりにマヨネーズらしきものが
とぐろを巻いて山盛りになっている
「……何だろうか この珍妙な丼物は」
「カツ丼土方スペシャルだ、食え」
マヨ殿に食物をおごられるのは初めてだが
これは本当に食物なのだろうか?
…何であれ 食物ならば粗末に
するわけにいかぬ
「いだだきます」
両手を合わせ 私はカツ丼を口に運んだ
……マヨネーズの味しかせぬ
「どうだ カツ丼土方スペシャルの味は」
「兄上の料理の方が 数段美味い」
「食っといて言うかそういう事を」
睨みつけられても、それが事実なのだから
仕方ないだろう
本当に 瞳孔マヨ殿は付き合いにくい
「して 用件とは何だ?」
「食いながら聞けよ お前―」
「じゃねぇかぃ、何やってんだぃ
そんな犬の餌みてーなの食って」
声の方を向くと、総悟殿がいた
「あ 総悟殿、こんにちは」
「何だとコラ 何が犬の餌だ!」
「そうとも総悟殿、これでも一応食物だ
兄上の料理より数段不味いが」
「半分以上頬張っといて言う台詞か!!」
仕方なかろう 食物は粗末にすべからずと
兄上にきつく教わってもいるのだ
「まー結構似合ってるけどねぃ
捨てられて餌付けされてる野良犬みてーで」
「犬は野良より飼われている方が好きだが」
「そう言う問題じゃねーだろ
貶されてんのに気付け!」
怒鳴る瞳孔マヨ殿を尻目に
総悟殿が私の頭を撫でながら言う
「オレについてくりゃ 犬の餌より
スゲーもんを食わしてやるけど、どうだぃ?」
「やめとけ、こいつについてくと
鼻フック食らうのが落ちだ」
二人が目を合わせて火花を出し始めたので
もう一度本題に戻す事にした
「ところで、聞きたいこととは一体?」
「この前 お前ら二人と―」
しゃべり始めた瞳孔マヨ殿の言葉を遮り
「あ、副長と沖田隊長 ちゃんと
一緒に何やってんですか!」
ひょっこりと現れたのは…誰であったかな?
「えーとお主は…山口殿?」
「山しか合ってないよね!山崎です
ちゃんと覚えてくださいよ〜」
「すまぬ お主は印象薄くてな」
言った途端、山崎殿はがくりと身体を下げる
「何気にヒドイね君 オレら隊士全員
ちゃんの噂で大賑わいだってのに」
「…何故だろうか?」
「だって隊士内じゃ何気に色んな意味で
有名だもんちゃん」
真撰組の面々に有名…確かに槍を持ち歩くから
よく呼び止められる事もあるが…
とにかく気になったので聞いてみた
「色んな意味とは?」
「例えばまあその、バカで変わってるけど
可愛いから自分の女にしー」
人差し指を立てて言いかけた次の瞬間
何故か山崎殿は二人にボコボコにされていた
「女西?女は西にどうするのだ?」
「今のは忘れろ、バカのたわごとだ」
「大西の聞き間違いじゃないですかぃ?」
「総悟殿 何故二人で山崎殿を殴ったのだ?」
「奴によくねぇ霊がついてたんでさぁ
なっ 土方」
「おう そうとも」
総悟殿と瞳孔マヨ殿はほぼ同時に言う
二人が意気投合とは 珍しいこともあったものだ
「で、改めて訊ねるけどお前はあの日―」
「おお、トシに総悟にちゃんじゃないか
三人揃って ケンカしとらんとは珍しいな!」
「勲殿 こんにちは」
またもや瞳孔マヨ殿の話を遮り、
今度は勲殿が現れる
マヨ殿が立て続けに話の腰を折られ
さすがにいささかフビンに思えてきた
「二人でちゃんと楽しくおしゃべりか
うらやましいな オレも混ぜてくれよ」
「近藤さん こっちは真面目な話なんだ
悪いがあんたは向こう行っててくれ」
うっとおしそうに勲殿を追い払おうとする
瞳孔マヨ殿だが、
勲殿は逆に真剣な顔で交互にこちらを見やり
「何だトシ、まさかお前 ちゃんに―」
「近藤さん 向こうの通りに姐さんが
通ったのを見やしたぜ?」
「本当か総悟!?
今会いに行きますお妙さーん!!」
叫びながら一目散に勲殿が店を出て行った
「これで邪魔なゴリラはいなくなったし
遺言をどうぞ 土方さん」
「テメーらが何を想像してるか知らんが
そーいうのじゃねーから」
隣に座った総悟殿に睨みを利かせ
瞳孔マヨ殿がようやっと本題に入った
「単刀直入に言う マヨ型ライター
あれから見かけなかったか?」
「「マヨ型ライター?」」
私と総悟殿の声がハモる
…ああ、いつも煙草に火をつける時出す
あのマヨネーズの容器型のライターか
「この前テメェらとドンパチやった時に
マヨ型のライター落としちまったんだよ」
「まだあのライターにこだわってたんですかぃ
とっとと新しいの買やいいじゃねぇか」
「うるせーあのライターの使い心地
気に入ってたんだ、今更変えられっかよ」
チッと舌打ちを一つして、瞳孔マヨ殿が
口元に手をやりながら呟く
「お陰で煙草がまずくて吸う気がしねぇから
禁煙状態でここ何日も吸ってねんだよ」
…道理で煙草のニオイがせぬわけだ
「お前も当事者だから何か知ってるかと
思ってな 知ってたら教えろ」
「諦めなせェ土方さん あんだけ
探しても見つかんなかったでしょうが」
「オメーは黙ってろ!」
…そうだった すっかり忘れていた
「それならあの後、お主等が巡回の為
戦いを止めて去った時に落ちてたから拾った」
言った途端、瞳孔マヨ殿がテーブルを
勢いよく叩きながら寄ったので少し引いた
「本当か!?」
「なんでぃ、そんなもん拾わず
踏んづけて壊しちまっとけよ」
「壊されてたまるか、あれは特注品なんだぞ!」
襟首掴まれる総悟殿が言った通り
見つけた時、壊してしまう事も考えた
しかし 幾ら嫌いな相手とはいえ
その者の持ち物を壊すのは士道に反する
それに、これは瞳孔マヨ殿が愛用していた物
無くなって探し回っているやもしれぬ
そう考えて、思いとどまった
今度会った際に返すかと思い、
拾ったまま忘れていたが
先程の話で ようやく思い出した
「瞳孔マヨ殿 手を出されよ」
「あぁ?おう こうか?」
私は 懐からマヨ型のライターを出し
「煙草もお主も嫌いだが、落し物は
持ち主に返すのが礼儀だからな」
瞳孔マヨ殿の差し出した手に乗せる
マヨ殿は ライターを受け取って
「一言余計だ、でも…その、ありがとよ」
照れたような顔で 礼を述べた
…今まで見たことのないその顔に私は
一番驚かされた
「へぇ、珍しいねぇ 土方さんが礼を言うたぁ
雪でも降るんじゃないですかィ?」
「そう思うか総悟殿、私も驚いている
これは天変地異の前触れやもしれん」
「んだテメーら オレが礼を言うのが
そんなに不自然かコラ」
早速煙草に火を点けて、何時ものごとく
機嫌悪げに瞳孔マヨ殿が言った
「アンタが自然なのは 土の下に
埋まった時ですぜぃ」
「上等だコラ 逆にテメーを埋めてやらぁ」
…もう用は済んだし、そろそろ私は立ち去ろう
総悟殿に協力して瞳孔マヨ殿を抹殺したい所だが
買出しが出来なくなってしまうからな
「それでは私は夕食の買出しがあるから
失礼するぞ 総悟殿、瞳孔マヨ殿」
「あぁ?おう 邪魔したな」
「またなー」
そのまま背後で起こる戦いを無視し、
私は店を出て行った
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あとがき(というか楽屋裏)
狐狗狸:真撰組の話で少し真面目めなものを
書いてみました〜
土方:オィ もし今回、槍ムスメにオレが
話しかけなかったらライターガメられてたのか!?
狐狗狸:どうでしょ?ライター使わないし
返す他にやっぱ捨てるとかの可能性も
土方:ガメられるより性質悪ぃじゃねーかぁぁ!
沖田:ちっ、より先に土方のライター
見っけて踏み壊しときゃなー
土方:テメェの頭蓋を踏み壊してやろうかコラ
狐狗狸:ここで暴れないでー毎回毎回
被害にあうの私なんだからもおぉぉぉ!
山崎:オレの扱いぞんざいじゃないっすか?
もっとちゃんと話させてくれても
土方:山崎テメェ仕事しろオォォォ!!
山崎:うわあぁぁぁぁ!?
狐狗狸:あー…めっさボコられてる山崎
近藤:ちゃんみたく礼儀正しく素直な子には
オレのような快男児が似合う!
沖田:いや、局長は怪男児ですから
満月の夜にゴリラ男化しやすから
狐狗狸:うわ容赦ない言い方
たまには土方さんにもフラグを立てて
みたつもりです…ファンの方スイマセン
様 読んでいただきありがとうございました!