10月にはハロウィンに則った企業戦略を繰り広げ


それに乗じて浮かれるのがすっかり世の常と
なってしまったワケなのだけれど


生憎エリートの私には そのような俗事は無縁だ





とはいえ部下や仕事先の人間の中には俗事に
目を引かれる者も多いので、許容している部分も
あるにはあるのだが…





のぶめさんがミ○ドのハロウィン限定ドーナツ
買いに行ったきり戻らないのは どうにも問題だ





せっかく素晴らしいハロウィンデコを目一杯
施したメールを送ったというのに返信が無い


ハロウィンらしくジャックオーランタンとかいう
カボチャの灯篭の写真も添付したのに

それについての返信も無い





きっと近頃のハロウィンフェア一色の街中で
浮かれているか、ソレにつられて浮かれる
知り合いにでも引っかかっているのだろう







黙っていればああ見えて仕事に忠実なのだが


どこかムラっ気が多いのが、のぶめさんの
困ったところだ…やれやれ





「巡回のついでに 少しのぶめさんの様子を
見てきてくれませんか?」





手の開いている付近の部下に様子見を頼み


止めていた作業を再開させつつ内心にてため息











「カボチャはなんだかんだで煮物が一番」











エリートらしからぬ振る舞いをしていなければ
いいのだけれど…一応メールでも釘を刺しておこう





[ノブたす どこにいるの??ギザ心配だお〜
お返事ないと寂しいです(TT)
ドーナツ楽しみにしてるから早く帰ってきてネ


P.S 写真のジャコランタン キレーでしょ?]







仕事をひと段落させ、いくつか追加でメールを
送ったけれども返信はまだ無い





顔文字をしょんぼりしたものから
グレードアップさせるか真剣に悩んでいた辺りで


様子見を頼んだ部下が血相を変えて戻ってきた





申し上げます局長!実は…」


「おや、ずいぶん時間がかかりましたね
それでのぶめさんは見つかりました?」







部下の報告によれば…のぶめさんはどうやら
路上で槍を持つ少女と交戦中とのこと





なるほど、それで得心がいった





「申し訳ありません、止めようとしたのですが
こちらの声が届いていないようで」


「でしょうね」







仕方が無いので 現場へと赴くと


野次馬の集まった路上の中心で、まさに

白熱した乱舞が繰り広げられていた





「信女殿、そろそろここらで手打ちにせぬか」


「ドーナツは汗をかいた方がよりおいしいでしょ
それに、それを決めるのはアナタじゃない


「組手の付き合いにも限度があろう」


「組手じゃない、腕が鈍らないための運動
付き合えそうなのはアナタぐらいなのよ」


「…今からでも他を当たってもらえぬか切実に」





これだけの会話を挟みながら真剣と槍を交えて
戦う様は、もはや大芸道





自らの実力を鑑みない彼女の"鍛錬"には

とうに並大抵の人間では耐え切れなくなっている





私が止めるか本人が満足するか、はたまた相手が
倒れるまではその刀は鞘に納まらないが


死角狙いの剣撃と体術を、槍と身一つで防いで
反撃に出られるこの娘も大概である





さて そろそろ止めなければ見廻組(ウチ)の
外聞にも関わってくる







「お二人とも、そこまでです」





発砲がてらの呼びかけに 二人は同時に動きを止め


私の姿を目にすると、それぞれ獲物をしまう





「アナタと違ってこちらは忙しい身なので
気軽に引っ張り出さないでくれませんかね?」


「文句なら信女殿に言ってくれ、私は
巻きこまれただけ故」





あの時と微塵も変わらぬ真顔でさんは言う





いつ見ても奇妙だと思いつつも のぶめさんも
似たようなものかと思い直して口を開く





「すみませんね、エリートの仕事は激務なので
街中のお祭り騒ぎに浮かれてしまったのでしょう」


「他人事扱いは止めてくれぬか片メガネ殿」


「れっきとした謝罪ですよ?さて」


気づくよりも早く、取り出した手錠を
さんの手首にかけて槍の入った袋を奪う





「それはそれ、これはこれです」


「なっ…私が何をしたというのだ!」


「心苦しいですが往来での明らかな銃刀法違反
拘束させていただきます、ご足労願いますよ」


「し、しかし元はと言えば原因は信女殿なのに
これは少し理不尽では無いだろうか?」





視線を向ければ、のぶめさんは買ったドーナツを
むさぼりながら淡々と答える





「槍を持ち歩いて振り回した方が悪い」


「その通り、これからは槍を携帯電話に持ち替え
デコメに精を出すことをオススメします」


「横文字は分からぬ、それに機械は苦手だ
それはお主も承知しておろう」





確かにバラガキの一件で凄まじい機械音痴
発揮していたのは記憶に新しい





「ではメールから慣れることをオススメします」


「そういう問題では無いのだが片メガネ殿」





話をしている最中、背後の方で宜しからぬ発言が





「なぁさっきのシーン撮れてたか?」


撮った撮った!すげー大道芸だったな
後でニッコ動にでも投稿しよーぜ?」





整備していた野次馬の中から、携帯でムービーを
収めていたバカを突き止めて


注意しつつデータを削除させている最中





財界の大物によるハロウィンパーティーにて
頼まれていた"芸人の至急手配"の件を思い出す





そういった仕事は真選組万事屋に依頼して
もらいたいのだが、先方に文句は言えない


若干の不安要素はあるが…任せてみるか







さん、取引をしませんか?」


「取引?」


「ええ、こちらの仕事に協力し見事に完遂したなら
今回の逮捕は不問にして差し上げます」





緑色の瞳が、こちらを値踏みするように見ている





あの一件のことを踏まえれば妥当な態度だが


選択肢が無いことは彼女も承知している筈だ





「…内容を聞かせてくれ」







要点だけを説明すると 渋々ながらも納得したようで
さんは短く頷いた





「致し方なし、了解した」





が口にして歩き出した直後、たまたま通りすがった
蕎麦屋の自転車と衝突して倒れ伏した


…本当にこの娘に任せて大丈夫だろうか?









仕事先の場所と日時、その他の細かい打ち合わせを
書き記した書類に沿って抜かりなく説明する





無論 こちらの命令厳守と定期連絡を欠かさないこと


メールでの連絡の際、デコメはハロウィン
もののみ使用を許可することも伝達済みだ





「それと仕事中はキチンと人の名前を呼ぶように」


「分かり申したが…異三郎殿、この衣装は?」


「あくまで日雇いの芸人とはいえ 財界の方々が
集うパーティーです、失礼の無い様に雰囲気を
壊さずかつ高級なものを用意しました」





エリートの選んだ品に不満を挟むほど
愚かではなかったものの、ほんの数瞬





彼女の顔が朱に染まったのを見逃さなかった





「…アナタも照れるのですね」


「女子らしい衣装はその…慣れぬのだ」





のぶめさん並、もしくはそれ以上に顔の筋肉が
仕事をしない娘だと思っていただけに


その反応は少し意外だった









当日 仕事を始める前には報告があったが





[そろそろ出番ですね、ガンバレたん!
緊張してるならトイレは早めにネ(^^)


P.S 手の平にエリートと三回ずつ書いて
飲み込めば落ち着くお 効いたらメールしてね]





始まってからのメールはほとんど返ってこない


こちらのメール:10に対して、[か]一文字や
[かほちやけい おおうけ]などの
たどたどしいメールが1〜2の頻度である





念のために本命として用意しておいた芸人や
警護担当の部下に当人の状況を訊ねた所


かなり悪戦苦闘を強いられているらしい







『真剣に仕事に取り組んではいますけれど正直
危なっかしくて…え!パンプキンタワーを
崩して、それに巻きこまれたって!?』





向こうの惨状を想像し、彼女と関わる
真選組や万事屋の面々に同情を禁じえなかった









紆余曲折はあったものの…パーティーは
どうにか無事に成功を収めたようで





周到な用意と部下達のフォローに感謝する傍ら


戻ってきたさんの処遇に頭を痛める







用意したハロウィンらしくも高級な衣装は
どこをどうしたのか、あちこちが破けており


無表情ながらも恥じ入る心はあるようで


がっくりと頭を垂れて押し黙っている





「先方との会話も無教養丸出し、芸はそこそこ
受けていたものの途中失敗して怪我人が出る
一歩手前、おまけに連絡も満足に出来ない


日雇いとは言え、見廻組の仕事としては
あまりにもお粗末にすぎますね



「…面目ない」


「それでメールの返事が途中からぷっつり
途切れてしまっていますが、これについて
納得の行く理由を説明していただけますか?」


「教わった手順通り返そうとしたのだが…
どうしてか"めぇる"が戻ってきてしまうのだ」







手渡された携帯を操作してみれば


中身は初期化され、何故かメールデーモン
引っかかった不恰好なメールがいくつかあった





わざとではないにしてもコレはひどいが

携帯は無事に稼動している


あの時に比べればこの程度はカワイイものだ





「…無様とはいえ仕事は一応完遂したようだし
メールの返信や携帯の扱いも少し学んだので
それに免じて今回の逮捕は不問にしましょう」


「ま、誠か片メガネ殿!


「あくまでアナタの仕事を認めたわけでは
ありませんので、重々肝に銘じておくように」






悔しげな呻きの後に頷いたのを確認し、私は
さんの手の平に携帯を握らせる





「せっかくですしその携帯は差し上げます」


「いや片メガネ殿気持ちはありがたいのだが」


「それを教材に、以前お送りした携帯マニュアル本
一式を熟読し今後のメールにすぐ返信できるように
なってくださいね?」


「…お主もしや暇人なのか?」


「忙しいですよ?エリートですから」





不思議そうに首を傾げているが、私からすれば
こちらに疑問を持つ方が不思議だ





まあ のぶめさんと似た属性を持つようだし

あまり深くは考えないようにしておこう









差し入れのパンプキンドーナツを写真に収めて
添付したメールを送ってからしばらくして







[どなつ かわいいです]





思い出したように送られてきたメールを
振り分けたファイル内で保護をかけていると


以前の依頼先から電話がかかって来た





流石は見廻組、ユニークな人脈を持っている
おかげでこの度のパーティーは退屈せずすんだよ』


「お褒めに預かり何よりです、それで
この度はどのようなご用件でしょうか?」


『いやなに君が手配してくれた少女の方の芸人を
先方がすっかり気に入ってね 個人的な連絡先
知りたいと仰っているのだよ』





何を間違って彼女がお眼鏡に適ったのかは
こちらにはあずかり知らぬことなのだが





紹介するつもりは…さらさら無い





「申し訳ありませんが、アレは日雇いした
外部の者ですので そういった用件については
残念ながらお答え出来かねます」





穏健かつエリートな対応で断ったのだが


案外しつこく粘られ、いらぬ苦労をさせられた








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あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:ハロウィンが去る前に五時前ギリギリで
UPしております!初のサブちゃん夢でs


銀時:おいぃぃ!こっちでバラガキまだなのに
なんでこいつら出てきちゃってるワケ!?


異三郎:バラガキは諸事情で掲載が遅れるので
先行して出演させてもらったのですよ


のぶめ:年内まで待つつもりもないし


銀時:知るかよんな内輪事情ぅぅ!あと何で
ピーマン娘とドーナツ娘がバトってんの!?


異三郎:どうも真選組の一番隊長ともども
あの一件で目をつけてしまったようでして


のぶめ:相手として不足はないわね


銀時:出番無いのにツッコミだけのために
引っ張り出されたオレは不足だらけじゃあぁぁ!





顔会わせる度に強制バトルになるので
夢主本人はあんまり会いたくなさげのご様子


様 読んでいただきありがとうございました!