夏が去ったといえ いまだ陽気が高い日中だが
現在、夜兎工業高校の視聴覚室の窓は閉ざされ
黒いカーテンで内側を覆われている
薄暗い内部ではあるだけの扇風機が稼働され
ひしめく男子生徒達が立ち込める熱気をこらえて
ある一点へ視線を集中させている
勿論、悪名がツイート全国拡散するほどの不良高
男子生徒達が真面目な目的で集まるワケが無く
「よーし、それじゃ始めるよ〜」
現れた神威の手により、TVデッキへ
一本のビデオテープが押し込まれてゆく様を
居並ぶ男たちは固唾を飲んで見守り…
『やぁだ、どこ見てるの?んもうエッチね』
「「「うおぉぉ!待ってましたぁぁァ!!」」」
ほどなく画面に映し出された、色気たっぷりの
女優の姿に数名の男たちが興奮して叫び
「声がでけぇよすっとこどっこいども!!」
すかさずもれなく全員阿伏兎に殴られていた
このAV上映会の会場は当初、不良達の自宅で
持ち回りをしていたのだが
続ける内に人数が増えてきて 家族の目を
ごまかすのも中々難しく
さらに参加者の中に星海坊主(キョウシ)による
強制補習参加者も少なくないため、大体
今の形に落ち着いたようだ
上映用のテープは会員カードを使って
ビデオ屋で借りてきたり、自らの、もしくは
兄や父などの秘蔵品をこっそり持ち寄るため
モノによってかなりマニアックだったり
アタリハズレが激しい事もある
「こないだのデブ専ドS女教師モノは
さすがにヒドかったよなー」
「うっせぇ!テメェの持ってきたガラス瓶と
音叉つかった変態プレイAVよかマシだボケ」
盛り上がる場面までの雑談でその辺の議論を
していた彼らがメンチきってつかみ合いかかり
次の瞬間に、強烈な蹴りで物理的に鎮められた
「エロいモノの管理はことさら厳重に」
「うるさくしたら肝心なトコが聞こえないだろー
静かにしないと殺しちゃうぞ?」
「「はい」」
埋まったまま大人しくなった不良二人を
満足げに眺め、再び微笑んだ神威は
阿伏兎の隣に座り直して話しかける
「今回のコレ"制服野外デート"だっけ?
持ってきたヤツかなーり溜まってるよね」
「言った側から騒ぐなよアンタも、つか
今いいトコなんだから後にしてくれ」
「だって中身イマイチなんだもん…けど
このビデオの子ちょっとちゃんに似てるね」
この子のが胸もあってやらしーけど、と
つけ足して ケラケラと彼は笑う
いつも通りの相手の反応と予想だにしない名前に
呆れた顔を一瞬向けてから、すぐさま阿伏兎は
TVに移る痴態へと目を戻して言う
「全然似てねーだろ 眼科いけよ番長」
「オレ目はいい方だよ?それにちゃんだって
オカズには悪くないと思うけど?」
「バカ言え 色気も胸も愛嬌もねぇガキに
誰が欲情なんざするもんか」
「あっははは♪だよね〜」
あっさり肯定する神威を、流石に若干ヒドいと
思いながらも いつもの事だと思い直し
彼は盛り上がってきたビデオの内容に没頭する
……それから時間が飛んで夕方頃
「あれ?」
「何だよ?財布でも落としたってのか」
眉をしかめる阿伏兎へ、自分の身辺をごそごそ
探っていた神威が笑顔で言った
「あちゃー、どうしよ阿伏兎
あのAV入れてた袋 どっかいっちゃったっぽい」
「…はあぁぁぁ!?」
あの後つつがなく上映会が終了し、さて撤収と
いった所で見回りの教師が視聴覚室に近づいたので
不良達は事後処理を急いで済ませてその場から退散し
その際 神威がビデオを持っていったのだった
「学校フケた時にゃ持ってたんだから
多分さっき寄ったどっかにあんだろ、戻るぞ番長」
「えー面倒くさいよ、失くしちゃったもんは
仕方ないんだし後で持ち主に謝っといて〜」
「テメェで謝りに行け!つかさくっと帰宅しようと
すんな、イモ引いた合コン女かアンタは」
端から探す気のない神威を引きずって
立ち読みしていたコンビニやいつもふらつく
盛り場を散策して目を凝らす阿伏兎だが
一向に探し物は見当たらない
「ヨソ見ばっかしてねーで少しは協力してくれよ」
「だーってつまんないんだも…お?
あれってちゃんと銀魂高校の生徒じゃん」
歩道橋から半ば身を乗り出す神威の視線に
つられて見下ろした並木道で彼も
立ち話をすると近藤を見つけた
「あの二人、何話してるんだろ?阿伏兎
"聞き耳"で振ってくれる?1D100で」
「振らねーよTRPGじゃねーんだから
普通に耳をすましゃいいだろ」
茂る木のせいで姿は見えにくいが、話し声は
問題なく二人の耳に届いてくる
「…まーとにかく、またウチの不良が
ちょっかい出したらいつでも言ってくれ!
それと今回のオレの活躍と雄姿をぜひとも
お妙さんに伝えといてくれると嬉しいな!!」
「了解した して勲殿この品についてだが」
「あ、う、うんそれね…悪いけどオレには
心当たりがないなアハハハ」
訊ねられ、ロコツに近藤が挙動不審になるけれど
彼女が指し示している品は 歩道橋側からでは
木の枝と葉に邪魔されて見えないようだ
「じゃーちゃんが何を持っているのか
"アイディア"で振ってね 1D100だよ?」
「それもういいから、つか地の文に干渉すんなよ」
律儀にツッコミつつ、下で繰り広げられる会話の
成り行きを見る彼の脳裏に 一抹の不安が過ぎり
「あ!なんならオレが持ち主探しておくから
一旦ソレ預かっておこうか!いや決して下心とかは
全くないから安心してくれ!オレにはお妙さんが」
「いや、お主の手を煩わすのも悪いし
道中人に尋ねつつ 交番に届けようと思う」
「イイことだけど人に聞くのは止めといた方が」
ほどなくソレは現実と化した
「しかしこの"現役JK青○中×しパラダイス"という
品を落としたのはどこの誰なのだろうな?」
「話聞いてぇぇぇ!お願いそれ口にしないで!
月詠先生の英語エロ知識並にヤバい単語だし!!」
近藤の叫びに重なるように阿伏兎が顔をしかめる
表情一つ変えずに、彼女が言ったそのタイトルは
彼らが探してたAVのものだった
その事実と、これから彼女がやろうとするコトに
いやな予感を覚えたので100D100でSANチェッ
「クトゥルフ!?
あとそれどう足掻いても精神死フラグじゃね?」
「ダイジョブダイジョブ、生きてれば
ワンチャンあるって」
「ノーチャンすぎるだろ!つーかアンタ
どんだけこないだのゲームやりたかったんだ」
「大きい声出さないでよ阿伏兎、鼓膜が
破れちゃうぞ?それにほら」
と、神威が下を指し示せば は近藤と
別れて歩道橋下を通り過ぎていったようだ
「ちっ、面倒くせぇな…ただの女だったら
脅すだけで事足りそうなんだがな」
「けどあの子のコトだから 素直に言っちゃえば
あっさり渡してくれるんじゃない?」
「…それって、公衆の面前で堂々とエロビを
テメェの落し物として受け取りに行けって
コトだよな!?どんな公開処刑だよ」
流石に悪名高い夜兎工三羽烏の一人といえど
それは気が乗らないらしい
「いいじゃんオレら悪いコトしてないんだし」
「そこまで言うなら番長が受け取りに行けよ
元々アンタが落としたモンじゃ」
言いつつ阿伏兎が視線を向ければ、神威は
ひらりと歩道橋から飛び降りて着地し
そのまま平然とどこかへ歩き出そうとしていた
「ってオレら一応"普通の高校生"設定だったろ
フツーに降りるなよ、後どこ行く気だよ」
「帰るに決まってんじゃん、楽に終わりそうだし
それじゃがんばってね阿伏兎〜」
「ってこの状況で帰んのかおい番ちょ…
ああクソ腰が重いクセに逃げ足だきゃ早いな!」
思わず毒づいてから、深いため息を一つついて
どうにかイラだちを押さえこみ
「お嬢ちゃんにゃ悪いが…一発ぶん殴って
カバンをちょっくら借りてくか」
実に不良らしい発想に至ってを追い始める
当人は迫る不良に気づくことなく交番を目指し
人気のない路地に差しかかった辺りで
阿伏兎が距離を詰めながら拳を握り締めて
心の中で"加減は苦手なんだがなぁ"と呟きつつ
「おいお嬢ちゃん」
「ぬ?何だろうか」
立ち止まり、振り返ったへ拳を突き出し
民家の屋根から外れた瓦が彼女の頭部に
見事直撃し その場に倒れたのを見て
殴りかかろうとした体勢で固まってから
阿伏兎は相手を見下ろして呟いた
「…なにコレ、どこの三流殺人ドラマ?」
思わぬ事故での気絶はある意味ありがたいものの
どこか釈然としない気分になりつつ、カバンを
漁るために近くの公園まで彼女を担ぎ
適当にベンチに寝かせて 彼はカバンの
留め金にさっそく手をかけ
「うう…」
うなり声を耳にして一旦手を止めた
少し相手の様子を見てから、まだ気絶から
回復していないのを確認し
ほっとしつつカバン漁りを再開しようとして
阿伏兎は…身じろぎでもしたのか 彼女の
スカートが少しめくれあがっているのに気づく
ついでにその状況で
現在取り戻そうとしているAVの映像が
頭の中にフラッシュバックする
「…いや別にタイプでも何でもねーし」
頭を振って必死に否定しながら、目をそらして
カバンを漁る方に専念しようとするが
逆にの事を意識してしまい
AVの光景も脳内でちらつき どうにも
気が散って探しもの所じゃなくなっていく
「だああ!本当マジ恨むわ番長…」
チッと低く舌打ちして、阿伏兎はめくれた
スカートの裾へと手を伸ばし
キチンとめくれた部分を直してやった
直後に彼女が目を覚まし 身体を起こす
「なんだ 気がついちまったかお嬢ちゃん」
「ん?お主は…阿伏兎殿か、何故ゆえここに」
「ちっと探しモンがあってな それで近くを
通りかかったらお前さんが倒れてて」
あ、と彼の言葉を遮って はカバンから
しわくちゃの紙袋を取り出した
「もしやこの"現役JK青○中×しパラ」
「そうだよオレのだよ だからとっとと返せ」
わざとくい気味に言い返して、ひったくるように
阿伏兎は袋を掠め取る
「よく分からぬが持ち主が見つかってよかった」
「ああそうだな、つかついさっき瓦がドタマ
直撃したってのにお嬢ちゃん結構タフだよな」
「多夫?」
「根性あるっつーこったよ平たく言やぁ」
「それほどでもない、それより私を
介抱してくれた礼がまだだったな かたじけない」
ペコリと頭を下げる彼女を見て阿伏兎は思った
"この女、起き抜けに強面の不良が至近距離で
いたってのにノーリアクションかよ"と
信じがたいほどのマイペースさに
イラだちとモヤモヤとよく分からない悔しさ
ついでに何か損した気分を覚え
「おいお嬢ちゃん…買いに行くのと金出すの
どっちがいい?」
「どういう意味だろうか?」
「そっち持ちで飲むモン買いに行くかオレに
任せるか聞いてんだよ、で どっちがいい?」
答えを聞く間もなく、彼は不良らしく財布を
拝借し 二人分のカルピスソーダを買ってきた
「温くならねぇウチに飲め」
「え、あ、うぬ」
放り投げられた缶を受け取り、おずおず中身を
開けるだが 中身が少しシェイクされたのか
勢いよく泡が吹き出してきた
「ふわっ!?」
「おいおいお前さんコレぐらいでビビるタマか?」
「何を言うか スカートを汚してしまったら
兄上にそれはもう叱られてしまうのだぞ!?」
「お、おお てかそっちかよ」
「無論だ!私にとっては最重要優先事項だ!」
「…団長、じゃなく番長トコと大違いだな」
思わぬ切り替えしからのいつもの態度を
見せる少女を、阿伏兎は珍獣を見る目で眺め
そこでさっきのAVの事を思い出したので
中身を確かめるべく袋を開けて…
袋の内側で広がる 瓦の余波による
予想外の大惨事を目の当たりにし
カルピスソーダを思い切り鼻から吹き出していた
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あとがき(というか楽屋裏)
狐狗狸:夏に上げる予定だったのに…
どうしてこうなった!?
阿伏兎:知らねーよ、てかあのお嬢ちゃん
落し物といえよくエロビなんぞ拾う気になったな
狐狗狸:タイトル名ほど外装が派手じゃなかった
または外装カモフラの可能性があるかと
近藤:って余計危なくねそれ!一見ソフトめな
エロビに見えて中身は意外とハー(瓦直撃)
阿伏兎:つかニ コネタいい加減しつけーよ
不良がTRPGやるっておかしーだろ
神威:いいじゃん、管理人のリア高時代の
男子グループが修学旅行にPSとか持ちこんで
部屋で桃鉄してたし オレだって遊んじゃうぞ?
狐狗狸:…アンタの遊びは私の謝罪のように
頭と命がいくつあったって足りんわ
方向性が色々間違ってる?残念!通常営業です
様 読んでいただきありがとうございました!