わからない、何もかもが分からない


アレ?オレちょっと飲みすぎちゃったかなー





いやまぁ確かに まだ五月だってのに昼間が
やたら蒸し暑いもんだから暑気払いついでで
すまいるでしこたま飲んでたけど


そんでもって雰囲気でつい脱いでたらお妙さんに
そりゃもう見事なコンボ技食らって追い出されたけど





「うぉー、何アレすげぇ…」


なんかの特撮?警察呼んだ方がいいの?」





あーはいはいスイマセン 警察ここにいます…


じゃなくて!一体何がどうしてこうなったのか
誰か教えてください切実にぃぃぃ!!







―思い返してみると、夜中に彼女に会うなんて
いままでほとんど無かった気がする





「…ぬ、おぉ勲殿か こんばんは」


こ〜んばんはぁ〜、てかちゃん
こんな時間に一人れ出歩いてんの?」


「少々 用事があったのでな」





ふーんそうか、こんな夜中に大変だな〜











「懐かれすぎるのも困りモノ」











「でも、一人でこの辺をうろつくのは危ないよ
痴漢とふぁ多いし こんな時間だし」


「心配無用、痩せても枯れても私も武人ゆえ」


「そー言うことじゃないのぉ!
女の子なんだかるぁー危機感もってもっと!」



「確かに…もし万一争いに兄上を巻き込んでは
死をもってしても償いきれぬ」


怖いよその発想!?てゆーかオレが
言いたいのはちゃん自身の…うぷっ





たまらず吐いたオレの背を、女の子らしい小さな
手の平が優しくさすってくれている


あぁ〜やっぱこの子 いい子だわ





「ありがと…あり?何か顔色青いよ〜大丈夫ぅ?」


「少しばかり頭痛が……しかし、勲殿の気を
煩わせるまででもない 平気だ」





いつも通りの無表情で"大丈夫"って言っていた
あの子と別れたのはほんの数分前の話なんだが







…それが、どうしてこんな事に





ガードレール下の陸橋の天井に 頭から刺さって


青緑っぽい色の作務衣を着た身体が宙ぶらりん



漫画とかでも中々お目にかかれない状況


一体…一体、オレと別れた数分間の間に
ちゃんの身に何があったの!?ねぇ!!








「ちょっと、マズイってそれ…」


「いーじゃん こんなん滅多に見れないし
一枚くらい撮っときゃネタになるって」





ポタポタと流れ落ちる血と、増えてきた野次馬が
鳴らした携帯カメラのシャッター音が聞こえて


パニくってたオレの思考はようやく動き出した





「こらぁそこっ!何やってんの!!」


うおっ!?何だよおっさん、あっちいけよ」


「おっさんだけど警察なんですぅー!」





メンタル傷つけられつつも 野次馬押しのけ
天井から彼女の頭を引っ張り出して









そのまま適当な公園に駆け込んで





ベンチに座って、やっとこさ一息つく





げはーっぜはーっ…公園ってこー言う時
ホンット便利だわー…うぉっぷ」





再びこみ上げてくる吐き気をすんででこらえて


隣に寝かせたちゃんの顔を見やる





うわぁ…改めて見ると、血まみれでちょっと怖い


てゆうか痛そうだ 応急処置するべきかな?


とりあえず血を拭いて…絆創膏か?あったかな





懐を探って、出てきたのは何故かお妙さんの手拭い

…と使用済みティッシュと 店おん出された時に
ついでで叩きつけられた雑巾で





もったいないと思いながらも背に腹は代えられず


手拭いを濡らして、側にしゃがんだ体勢で
顔の血を拭き取ってあげた





「あ…意外と血ぃ止まってる あと傷口
思ったよりも浅めだ、よかった」





ちょっとシワになったけれど絆創膏を貼って、と







「んん…」





やべ痛かったかな、左側のほっぺの下らへんにも
傷あるから 慎重に貼らないと





…何か、覗き込んでるこの姿勢って


いかにも"少女の寝込みを襲うおっさん"みたいな
誤解を受けまくるよーな





いや違うから!あくまで怪我した女の子の
ほっぺに絆創膏貼ってるだけだから!!





よく分かんない弁解をしながら絆創膏を貼り終え


辺りに人がいないのを思わず確認して、つい
ほっと息をつい…いや だから別にやましい気持ちは


「…うぅ、兄上」


ふおぉぉっ!?び、びびびびビックリした

なんだ寝言か驚いちゃったよ勲!







鼓動を落ち着かせつつ隣に座り直して


黒い髪の毛を そっと撫でる





女の子の髪の毛ってどうしてこんな触り心地が
いいんだろう?つくづく不思議だ





こうしてると 本当に普通の可愛い娘さんにしか
見えないな…いや、ちゃんは元から
可愛い娘さんなんだけどね!





ついででほっぺも軽く撫でていたら、不意に
指が唇の端に触れた





「…あ、やわらかい」







意識しだした途端に うっすら開いた口元から
どうしても目が離せなくなって





出来心でつい…親指の先をつっこんで







予想以上のヤバさに、色々と後悔しながら
慌てて手の平を退けた





「いやいやいや…流石にコレは!流石にコレは
ヤバイだろオレっ!いくらなんでも!!」





絵面的にマズイって!文章じゃなかったらもう
15禁スレスレなエロ…ゲフンゴフン!


スンマセンお妙さんんん!決してアナタに対する
裏切りではないんです!ふと魔が差したというか
男の性が抑えきれなかったというか!!


断じてちゃんをそんないやらしい目で
見てたわけじゃないんです!信じてぇぇ!!







土下座したくなるくらいの衝動が落ち着いて





いまだに眠り続けるちゃんを見て
さっきの光景が、鮮明によみがえって来る





……もう一回 目に焼き付ける程度の時間なら
いいかな?いい、よね?





うるさく鳴る心臓を抑えながら手を伸ばして







「む…ここは?」


おおおお起きたのっ!?よかった!!」


口から心臓はみ出そうになりながら、音速で
手を元の場所へと引っ込めた


そりゃーもう声だって裏返る





「勲殿、大汗をかいてどうかされたか?」


どーもしないよ!?ここんトコ暑いからさ
汗がどっと吹き出ちゃっただけだよ!!」



「…今は夜中なのだが」





ああ、そんな曇りの無い緑色の目と無表情で
汚れたオレを見ないでぇぇぇ!





「ともあれ…勲殿がここまで私を?」


「まっまあね!でちゃんは何でまた
ガードレール下の天井に突き刺さってたの?」


「……うずくまったら飛びかかられて、撃退に
勢いあまって刺さった」


ダルくても省かないで!分かんないから!」





少しだけ間があって、言葉が付け足された





「吐き気と頭痛で屈んでいたら 妙な男が
息を荒げて飛びかかった故、撃退しようとして」


「妙な男って…どんな?」


「巷で流行のぱんすと?とかいう履物を頭に履い
「それ痴漢で確定ぃぃぃ!!」


やっぱりオレもついてくべきだったか!


でも、あのガードレール下にはそれらしきヤツが
倒れてたりとかしてなかったけど…





「ちなみに、ソイツはどーなったか覚えてる?」


「正直あまり…金的へ石突を打ち込んでからの
頭蓋狙いの一撃を決める所までは記憶にあるが」


い゛やぁぁぁ!!





自業自得ながらも痴漢への同情と、その状態で
逃げた根性を 股間を押さえつ評価した





「あぁうんそっかー…けどダメじゃないか、あんな
人気の無いトコで屈むなんて」


「すまぬ 気分が悪くて…」


「だったらなおさらあの時、オレに頼めば
家まで送ってあげたのに!」


「お主に負担をかけるのも忍びなかったし…





半分身を起こした姿勢のちゃんが、やや
気持ち悪そうに口元を押さえる





「大丈夫っ、気分悪いの!?


「…平気、だ 少しすれば、治まる」


無理せず吐いちゃっても構わないから!
ガマンは身体によくないって!!」







それでも空いた手で"問題ない"と言いたげな
ジェスチャーをする袖口からのニオイに気づいて





理由はないけど、本能的にこう思った





「ねぇ…ひょっとして、お酒飲んだ?





あ 一瞬目が丸くなった…図星っぽい





「別に怒ったりとかしないから 正直に言って」


「…勧められて、少し」


ちゃんは、申し訳なさそうに目を伏せて
ぽつりぽつりと呟く





どうも断れない雰囲気の中でお酒を出されて

飲んじゃって その後気持ち悪くなったみたいだ





「うんうん、ちゃん未成年だもんね
飲み慣れないだろうし そうなっても仕方ない」





法律的にはアウトなんだが、この場合
責められるべきはこの子でなく飲ませたヤツだ





「そう言ってもらえると…気が楽だ」


「そうかそうか!けど成人したら今度一緒に
お酒飲めるといいな」


いや それは止めておいた方がいいと言われた」





淡い希望を打ち砕かれて、少しばかりショック





「言われたって…お兄さんに?なんで?」


「飲むと見境なく抱きつくし、皆に迷惑を
かけ通しになってしまうからと」


何その酔いグセぇぇぇ!?


なんともうらやまs…けしからん!

それは確かに無闇に飲ませられないな、うん!





「まあ、お酒弱いなら無理して飲まなくても
いいと思うよ!オレはさ」


「心遣い感謝いたす 勲殿」





口元は手で隠れて見えなかったけど 目元が
ほんのちょっぴり優しく見えて


微笑んでるんだなって、分かった





それだけに フラッシュバックした指突っ込みが
思いっきり罪悪感となって心にのしかかる





いいんだよそんなの!さっきオレが吐いてた時
背中さすってくれたからおあいこだって!」


「お主には敵わぬな…少し気分もよくなった」


「帰るの?じゃあ家まで送ってくよ」


「いや、手当てと励ましまでしてもらって
その上迷惑をかけるワケには」


コラコラコラ!さっきも言ったけど
女の子が一人で夜中うろつくもんじゃないの」


ましてや気分が悪いんだったら、余計にだ





腕をつかんだまま オレは真っ直ぐに
ちゃんを見つめて言う





「ヤダって言ってもついてくから、いいね?





もう酔いは冷めたのに、顔がやたらと熱い







ややあって こくりと首が縦に振られた





「…かたじけない


「いいのいいの、市民の安全を守るのが
警察のお仕事なんだから!」





笑いながら頭をひと撫でして、立ち上がった
オレ達は公園のベンチを後にする







並んで歩いている間 こっそり袖口を握る
ちゃんの小さな手の感触が


くすぐったくて…何故かもどかしくて


同時に何故かお妙さんへの後ろめたさも募った








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あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:分かりづらいけど夢主デレてます
そして、いつか見たパターンでサーセン


近藤:え?デレなのアレ?


狐狗狸:逆にデレ以外の何に見えました?


近藤:いやーいつも通り、素直で健気で
可愛くてちょっとズレてるちゃんだなーと


狐狗狸:…うん、そうだね


近藤:その意味深な間は何!?あとさ、今回の
ちゃんはどーいう負傷なのアレ


狐狗狸:ああ、アレはいわゆる一つの
"飛び上がり自殺"というヤツです


近藤:何それぇぇぇ!?




毎度ながら ヘタれ優しい近藤さんが大好きです
そして夢主の酒グセ発揮時は目撃してない感じで


様 読んでいただきありがとうございました!