教えてもらったその場所は、校舎の外れにあった





あまり気にはしておらなんだが 聞いた通りに
古びていて小さな小屋だ


うっすらと開いている入り口からも声が聞こえる





「…もう待てないっス!数じゃ断然有利なんだし
さくっとカチこんで血祭りにするべきっス!」


「気持ちは分かりますが少し早計なのでは?」


「拙者も武市殿と同意だ、敵の出方がどうにも
大人しすぎる気がするのでござるが…」


「ぬるい事言ってんじゃねぇぇ!これはもはや
戦争なんだよ!そうっスよね晋助様!!」






物騒な事を話し合っているが…熱の入りようが
いつもよりも強いようだ





「いいんですか、その、止めなくて」


「オレぁどっちでも構わねぇよ…いつも通り
全部ぶっ壊しゃいいさ」


低い笑い声の後ろで、金属音と叫び声とが響く





…物々しい討ち入りに関わりたくは無いのだが
今を逃すと機会はやってこぬからな







大きく息を吸って錆びかけた戸を思い切り開く





「頼もう」





こうして見ると、確かに兄上が仰ったように
あばら屋に集まる浪人の群れに見えない事も無い


ボロボロのソファに腰かける晋助殿を中心に


また子殿と万斉殿と…妙な髪形の男が三人ほど
固まったその姿勢でこちらを見ている





その側では人と怪物との決戦がすでに始められていた





―テレビの画面の向こう側で











「目つきの悪い男子って面倒見いいよね」











「って 何勝手にウチらのナワバリに
入って来てるっスかぁぁ!今すぐ出てけっス!」


「あ、またちゃんホラ画面画面」


「うっさい今それ所じゃ…ってぎゃあぁぁぁ!
ディアブロ突っ込んで来たぁぁ!こっち来んな!





おぉ、火を吐いたりまるで本物のようだ


「最近の機械の進歩はやはりスゴいな」


「向こうで出たばっかのヤツなんだが、中々に
作りこみがイイだろぉ?」


「確かに…しかし電気はどこから?」





どことなく見覚えのある半裸の男が指差す方を
見れば、テレビから長いコードが外まで伸びている


なるほど延長コードか それは盲点だっ…





「うがああぁぁぁぁ〜死んだあぁぁぁぁ!!」





ゲームをする機械のコントローラー(らしきもの)を
握り締めたまま また子殿が画面の前でうな垂れた







「…取り込み中すまぬ」


「大丈夫でござるよ、それよりちゃんは
ここに何の用で来たんでござるか?」





そうだ忘れる所であった、と私は手にしていた
一つの袋を取り出して言った





「このパンの袋に名前が書いてあった故
誰のか訊ねたら、この場所に行き着いた」


あーっ!それオレのコロッケパンだよぉ!!」


「そうか、お主が持ち主か よかった」





進み出た 妙な髪形の一人へ落し物を差し出すと


相手はとてもうれしそうに笑って受け取る





「いやー拾ってくれてマジありがと!」


パンに名前つけるっておかしいだろがぁぁぁ!
てゆうか嬉々として受けとんな似蔵ぉぉぉ!!」






それよりも、中身のパンが原型を留めておらぬ事を
気にした方がいいような


あと今気づいたがあの髪型、新八の友のタカチン殿と
似ている…まあそれはどうでもいいか





「しからば私はこれで」





入り口まで戻ろうとした私の背に 声がかかった





「オイ待てよ もう帰んのかぁ?







振り返れば、晋助殿の笑みに触発されるように
他の者達もこちらを睨んでいる





「晋助様の言う通りっス!ウチらのシマにのこのこ
乗り込んで無事出られると思ってるんスか?」


「…落し物を届けに来ただけなのだが」


「問答無用っスよ!失敗したクエストの仇
キッチリけじめ取らせるっスぅぅ!!」



言いながら 涙目のまた子殿が入口との間に立つ





多勢に無勢、ここは下手に手向かうよりも
穏便に済ませて兄上の元に戻ろう





「分かった して何をすればいい?」


「せっかくだから、拙者が作った新しい校歌の
感想を聞かせて欲しいでござる」


「ちょっ晋助様より先に決めんな万斉先輩ぃぃ!
つーかまた校歌!?いい加減飽き飽きっス!!」





私は、逆に聞いてみたい気もするのだが





「それで、どうされるおつもりですか?」


「そうだなぁ…似蔵と格ゲーで勝負でもさせるか
負けた方はこの激辛ドリンク一気飲みな」


うへぇ〜女子でも容赦ないな晋ちゃんは〜!」





意外に物持ちがいいな晋助殿は…まあそれは
ともかくとして 機械は苦手だが


「じゃあそれで」


「いいのかよ!?」





機械の前へ座りつつ言ったら、何故か知らぬが
半裸の者にツッコまれた





「あんだ新入り?晋助様の提案に文句あるっスか」


「いやあの、彼女に悪気は無いわけですし
もっとこう 加減してあげた方が…」





しどろもどろの言葉に、七三の御仁が答える





「そうですね…とりあえず我々がここでしていた
行動を忘れてもらうことと、ブラのサイズ
教えるくらいで妥協してあげたらよいのでは?」





…何故だろう、こちらを見やる目がどことなく
気持ち悪いものをはらんでいるような





思わず身を起こし後退されば また子殿が
私の眼前まで近寄り


肩を叩きながら 顔を近づけてこう告げた





「ムカつくけど、やっぱ一応忠告しとくっス

あの変態にこれ以上関わりたくなきゃ 今すぐ頭下げて
全部忘れて急いで出てくっス それが身のためっス!」


「親指で指しながら力説しないでくださいよ
アナタのキャラじゃないでしょうそれ」


了解した、色々すまなんだ…それでは失礼致す」


「言い合いナシであっさり了承しないで下さい
いや素直なのはアナタの美徳ですが」





私が言えた義理ではないが、表情の無い御仁が
手を奇妙に動かしつつ にじり寄ってきたので


相手を避けつつ、素早く倉庫の入り口を目指す





あ、足元危ないでござるよ」





が 万斉殿の忠告と同時にコードへ足を引っ掛け
体勢がぐらりと崩れ


頭に テレビの角がぶつかって……







――――――――――――――――――――――





派手にテレビ蹴倒してが倒れる…どんくせぇ





うわあぁぁぁぁ!薄型テレビがぁぁぁぁ!!」


「ちょっ、お前おふざけもいい加減にして
とっとと起きるっスよ!この上更に晋助様に
迷惑かけるつもりっスか!!」






ギャーギャーとまた子が騒ぐが、反応が無い





おかしいと思ったらしい万斉が歩み寄り


軽く頬など叩いて…そして静かに首を振る





「いやこれ マジで気絶してるでござる」







一拍遅れて の額から赤い血の雫が垂れ


逆に他の奴らの顔から血の気が引いた





「たたたた武市変態が悪いんスよ!?


「変態じゃありませんフェミニストです!
どっどどどうするんですかコレ!!


「ヤバイよコレ、ばばばバレないうちにどっかに
埋めちゃった方がいいんじゃないかな!?」


「んな物騒な…保健室へ連れて行けば十分では」


何言ってんスかぁぁ!こー言うパターンは大抵
事故だったっつってもウチらが殺しの容疑者
なる流れじゃないっスかぁぁぁ!!」


「だから、気絶って言ってるじゃないですk」


黙れ新入りぃぃ!ブタ箱に入りてぇかぁぁぁ!」


ったく、相変わらずやかましいヤツらだ





「落ち着け」





一声かければ あっという間に視線が
オレの方へと集まった







「見た所キズは浅そうだぜ…保健室にでも
連れてきゃ間に合うんじゃねーか?」





「そう!それっスよ!!さすが晋助様!!


「冷静な判断…流石ですね」


「いやそれ拙者が先に言ったんだけど」





もっともな万斉の呟きは、届く事なく黙殺された









似蔵か新入り辺りに担がせてもよかったが





なんとなく気が向いたから オレが連れてく事にした


始終また子は不満げだったが、それはそれで
中々面白い眺めだった







背負った身体は見た目通りの軽さで 手足は
しなやかに細くて ぐにゃぐにゃとやわらかい





(コイツ)…身体はやっぱり女なんだな」





妙な感慨を抱きつつも保健室のドアの前まで
たどり着き、取っ手に手をかける


…硬い手ごたえだけで 引き戸は動かなかった







「伊東ならまだ外出先から戻ってねーから
カギ開かねーぞ?つか、後ろのはどうした」





顔だけ向けりゃ、ポケットに両手を突っ込んだ
風紀副委員長がこっちを睨んでやがる





「話せば長くなるんだけどよぉ…聞きてぇか?」





土方は不機嫌そうに 話してみろやと言った


なんでお望みどおり、多少の部分をかいつまんで
これまでの成り行きを説明してやった





「誰が信じるかんなヨタ話、と言いてぇトコだが
相手がソイツじゃ話は別だな」


「理解が早くて助かるぜぇ つーわけで
代わりにここのカギ取ってきてくれよ」


ざけんな、誰がテメェのパシリになるか」


こっちはケガ人抱えてんだぜ?それにオレだと
すんなりカギをもらえねぇだろうしなぁ」


「だったら伊東が戻るまで待つか?別に背中の
荷物を廊下に放り出して帰るとしても止めねぇぞ」


冷てぇな、小説じゃ同じクラスのよしみだろ?」


「後ろのソレはともかく、お前大して授業出てねぇし
こっちと扱いが一緒でもさして代わんねぇだろ」





立場柄から突っかかってるんだろうが、当たりが
いつもより強いような気がする


後ろのブラコン女が原因かも知れねぇな…





面白いんで、少しばかり焚きつけてやる事にした





「二人きりにしたらコイツにイタズラするとでも
思ってんのかぁ?ズイブン下世話なヤツだな」



「そんなちんちくりんでも一応はクラスメートだ
テメェなんぞと一緒にしてて面倒が起きたら
寝覚めが悪ぃーんだよ」


「安心しろ、テメェら風紀委員と違って
オレぁガキには欲情しねぇから」


「上等だコラ 置いて表出ろや高杉」





もちろん、答えはNOだ







――――――――――――――――――――――





人の声とズキズキとした頭の痛みに、目を開いて





「ん、オイ大丈夫か


ククク…なんだもう起きちまったのかぁ」







覗き込む晋助殿と十四郎殿の顔、それと周囲の
光景で 私は負ぶわれている事に気づいた





「む 何とか、それより迷惑をかけてすまなんだ」





頭を下げ 背から降りようとしたけれども


晋助殿は腕を緩めようとしなかった





「人の背で暴れんなよ また落ちんぞ?」


「いや、重いだろうから下ろしてもらっても」


「もーちっとばかし大人しくしてろよ
下ろした途端また倒れられても面倒だしなぁ」


安心しろ、そん時ゃ迎えぐらい呼んでやる
だから後はオレらに任せて高杉(テメー)は帰れ」


「これでも責任くらいは感じてんだぜぇ?それに
そっちだって仕事があんだろ?副委員長さんよ」





気を失っていた故どういう経緯があったのか
あずかり知らぬが、この二人の掛け合いは珍しい


しかも 互いに互いを気遣いあうとは





「晋助殿と十四郎殿は 仲がよいのか?」







問いかけてみれば 片方は笑み
もう片方は怒りを浮かべて答える





「あぁ、仲良しだぜ
「あぁ?どこがだ





…よく分からぬが これ以上何も言わぬ方が
いい気がしたので口を閉じた








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あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:傾城篇も無事終わったみたいなんで
出場記念と五月組祝いも兼ねて久々に杉様3Zです


万斉:それにしても、ちゃんはよく落し物を
拾う子でござるな〜


狐狗狸:本人が落とす方だから、色々と(笑)


土方:笑えねぇ冗談は止めろ!あと高杉テメェ
学校にゲーム機持ち込むな!つか電源拝借すんな!


高杉:固ぇこと言うなよ?何ならテメェも
他のヤツら連れて対戦しに来るかぁ?罰ゲームつき


土方:上等だコラ!弁天堂派の実力ナメんな!


山崎(モヒ):アンタらノリ良過ぎじゃね!?
つーか小説本編のネタバレ多いんですけどいいの!?


狐狗狸:まあ、色々捏造しまくってるトコロから
小説版からズレてるんでアレだけど、いんじゃね?




ゲームはMHでもよかったですが、3出たんで
まさかの洋ゲー(但し本物はPC用)


様 読んでいただきありがとうございました!