今年は、夕方にはぐっと気温が下がって
みぞれ混じりの雨や雪が夜闇にちらついていた


とはいえ積もるまでとは行かずに


大概は途中で止むか、残っても翌日の日光に
溶けて跡形もなくなっていた





…だがしかし 世の中に例外はつき物


寒かった夕方からの雪が見事に募って


翌日には、江戸を一面の銀世界へと変えていた







「いくら冬とは言え…この土地でここまで
積もらせるのは不自然ではないのだろうか」





息を吐き、両手を袖口へ縮めながら桂は
足元の純白を踏みしめる





今回の積雪量は膝丈よりやや上ぐらい


ちょっとした雪国クラスの積もり具合は

以前の"雪祭り大会"を思い出させる





「くそう…あそこでまさかエリザベスが
グーを出せるなんて、とんだ誤算だ…!」





じゃんけんでの勝負を思い起こして
震える彼の片手に握られた紐は


背後のスコップが乗ったソリに繋がっている





「とにかく、あまり目立つのもマズイからな
手近な場所で済ませるか…よもや手配中の
攘夷志士が目立っては命取りだからな」





ソリを引きながら、自覚の無い桂は辺りを
キョロキョロと物色して


やがて白い雪が山と盛られた軒先に目を留める





「うむ、この辺りでいいか」


やおら一人で頷いて、手近な所にソリを止め

彼は担いだスコップを軒先の雪へ向ける


突き刺していくつかの雪をソリへと盛り


適当な大きさになったのを見計らって

再びスコップを乗せてソリを引きかけて





うおっ!?な、何でこんな所に雪像が…
いや、樹氷か?これは」


桂は 人間大くらいの雪の塊に気がついた











「雪は誰でも創造者と破壊者の気分を味わえる」











「しかし…樹木としてはいささか不自然な
大きさだ、しまい忘れた観葉植物か?」





眺めているうちトラックが脇を通り過ぎた
振動で、一拍遅れて樹氷の表面が少し剥がれて





人の腕と袖が そこから現れる







なっ!?ま、まさか!!」





感づいた桂が大急ぎで樹氷を揺すり雪を取れば





予想通りそこから、立ったまま固まった
の仮死体が発見された









「まさか人間アイスならぬ人間樹氷で来るとは
…手遅れにならずにすんで安心したぞ」


「アイスになら夏に一度なり申したが」


「え!?二度目なのこれ!!?」





は、手渡されたお茶を両手で抱えながら
無表情にこくりと頷いた







あの後 桂は、大急ぎで彼女をアジトまで運びこみ


沸かした風呂へ直接放り込むことで無事に
意識を取り戻させたのであった





『指も身体も真っ赤だし…部屋、寒くない?』


「十分温かいゆえ、気遣い感謝するエリザベス」


こら、まだ濡れた衣服も乾いておらんだろう
じっと暖まっておけ」





たしなめられて、立ち上がりかけた
もう一度その場に座り直す





「お忙しいのに兄上にまでお手数をかけさせて
…真に申し訳ないな」


「まあ、ずぶ濡れのままでいたら風邪を
引くからな あの状態の生還では尚更だ」





仕事での疲労に加え、水を被って服が凍りつき


極端に動きが鈍くなった所 運悪く
屋根上から崩れた雪を被った


これが、人間樹氷となった簡単な経緯らしい





「…もしもあの時、雪山にいたなら雪崩れに
巻き込まれていたやもしれぬな」





それが"だけ""自分達や将軍含めて"かは
定かではないけれども







確信を持った桂の呟きに 残る二名が首を傾げる





「雪山?」


『ああ確か、前に銀さん達とかとかち合った
スキー場の話のこと?』


「そうとも、あの時はビックフットさんに
初遭遇して針治療を行ってもらったり 皆と
山小屋で暖を取ったんだったな〜懐かしいな」





自慢げに話す内容に心当たりがあってか

彼女も、続けて口を開く





「そう言えば…銀時も、真撰組の者達や
お主や将軍殿と会ったと言っていたような」


おぉ聞いていたか!そうとも、あの男
敵の大将ながら中々見所のある者でな
恐らくはあちらもそう思っているに違いない」


「いや、将軍殿とは稀に機があれば話をするが
桂殿の話題は聞いてはおらぬぞ?」


「『何ソレ初耳なんだけど!?』」





謎の繋がりに軽く脅威を感じつつ、改めて
桂はの服装に着目する





「それにしても…見つけた時も着替えも
同じような姿で寒くは無いのか?お主は」


「中に肌着があるので、さほどは気にならぬ」


「しかしだな、その作務衣はこの間の
銀時達とさして変わらぬぞ?寒そうだ」


『半袖だったよね、しかもおそろいの』





彼らの脳裏に ドクロの半そでTシャツを着た
万事屋トリオの姿が浮かんで消える





「アレは外道丸殿からの贈り物と聞いている」


冬なのに?変わった御仁だな…いや、オレが
言いたいのはそう言う事でh「外道丸は女人だぞ
式神の「話を最後まで聞いて!?」







こんな様子で、しばらく二人と一匹は室内で
温まりながらの世間話に花を咲かせていた





先程話題に上がった意外な接点から始まり

最近の幕府の動向、攘夷の傾向、勧誘に拒否


や万事屋達の近況、勧誘に拒否、近頃の
政治の不安に情報の不信頼、勧誘に拒否

真撰組での新たな動き、勧誘に拒否





そんな七割方の勧誘と拒否で時間を費やし





「きょ、梗子殿からの年賀状!?
それオレには届いてなかったんだけど!!」


童子の里から届いた、梗子の年賀状の話題で
落ち込む桂をなぐさめる一幕を過ぎて





そのまま会話は梗子や童子の里での
近況報告へとなだれ込んでゆく







「色々あったが、元気そうで何よりだ」


「昨日の電話でも、啓一や唯碗も皆と共に
雪合戦を楽しんだと弾んだ声音で言って」


ん?誰だそれは」


「天人の孤児「省くなぁぁぁ!」…今から
説明しようと思っていたのだが」





僅かに不快を示したに対し、彼は
慌てて自らの態度を訂正しだす





す、すまん てっきりいつもの行動なら
そう来るんじゃないかと思ってな…」


「まあ、謝ったのなら構わぬ故」





表情が和らいだのを見て ほっとして


さっきの会話で、桂は彼女を見つけた
元々の行動を思い出した





「そうだ、先程までエリザベスと雪かきがてら
かまくら作りをしておったのだが…よければ
も共に参加しないか?」


「かまくら?」


雪で出来たドームみたいなモノだよ
人が中に入れるくらい大きいヤツ、知らない?』







立て札を見つめて、ようやく合点がいった
は手をポンと打ち付ける





「おおアレか!それで桂殿は雪を集めて
おったのか…しかして何故にかまくらを?」


「いやまあ、再び雪山などで活動する事を
想定した擬似訓練の一環としてだ!

決して周りが雪で何か作ってるから真似した
などという浮ついた理由では無いぞ!!」





かなり苦しい言い訳だが、しかし彼女は
逆に感心を示しているようだ





「なるほど…流石は桂殿、日常に訓練を
取り入れるとは見直した」


『よかったら参加する?かまくら作り』





突き出されたエリザベスの立て札を見て


は、首を縦に振った





無論 お主らには迷惑もかけたしな」









時間を置いたとはいえ、周りの雪やかまくら用に
積まれた雪の山も 溶けずにしっかり残っていて





二人と一匹が協力して集め、踏み固めた雪山は


あっという間にドーム状ぐらいに大きくなった





「かまくら作りとは、中々に楽しいものだな」


「そうだろうそうだろう だがな
ここからが肝心要だぞ?気を抜くなよ」







雪山をくり抜き、出た雪を掻き出したり補強に
使うのも交代で行ってゆくが





順調に行動していく二人と違って


はこの作業に苦戦しているようだ





『力入れすぎ、壁を突き抜けちゃうよ』


むぅ…思ったより力加減が難しいな…」


「下向きでなく 真っ直ぐ奥へと掘るのが
コツだ…上手く慣らしながら、こういう風に」





桂も、ついつい雪を運ぶ手を止めて指示し


どころかスコップを握る手を 背中から
伸ばした手で包んで位置調整もしていて





『桂さん…それ、抱きついてない?


いや違うぞエリザベス、これはかまくらが
狭いからでだな、決して邪な意味は…」


「あの桂殿、手の甲が熱いのだが」


「そうか?初の共同作業で思いの外
士気が向上しているのかもな、志士だけに」





妙な取り繕い方をする桂に対して

顔を上げた彼女は 眉を下げて苦笑していた









夕暮れ時が迫る頃合に かまくらが完成して





「雪で出来ている割には温かいのだな」


「まあ、内部にて七輪などで火を起こせば
快適に過ごせるよう出来ているからな」





エリザベスが七輪を取りに行っている間


微妙に距離を開けて座る桂は、腕を組み
横目でチラチラと側の少女を気にしていた





、大分顔色はマシになったが…
指先などは冷えてはおらぬか?」


「そこまで案じずとも平気だ、むしろ
かまくら作りで少し熱いくらいだ」





答えて引き気味に隠した手を、彼は素早く掴む





嘘をつけ、また少し冷えてきているぞ」


「…お主は何故に温かいのだろうな」


「そちらが我慢しすぎているだけだ、全く
無駄に遠慮などするんじゃない」


「すまぬ そんなつもりは無いのだが」





無表情ながらも、困ったように言う相手を
じっと見つめながら


白い手をやや強く握り 桂はため息をつく





「よし、エリザベスが来るまでの合間
温かいモノを飲むとするか…おごってやろう」


「いや、そこまでしてもらうわけには」


「気を使うな、それとも照れているのか?
何 オレとてそれくらいの持ち合わせはあるぞ」







渋るに構わず、外へと引っ張り出した
彼の後頭部に雪球が直撃する





振り返れば 顔をしかめた銀時と新八がいた





「かまくら同伴でナニしてんだヅラぁ」


ヅラじゃない桂だ!勝手な憶測で物事を
見るんじゃな…ってリーダー何して」


「かまくらの強度を試してるネ」





てっぺんで足踏みした神楽の両足が雪を突き抜け

小気味よい音を立てて、かまくらに大穴が開く





ほらやっぱり壊したじゃん!
だから止めろって言ったのに僕」


「いーんだよ、まだ雪こんだけあんだから
あれぐれぇ修復可の…ぶおっ!?


へらへら笑う銀時の顔面が、雪まみれになった





「雪ネタの期限ギリギリまでスタンバって
やっと来た出番を邪魔しおって貴様らぁぁぁ!」



「てっめ…やりやがったなヅラぁぁぁぁ!!





なし崩しに彼らと桂の雪合戦が始まって


よく分からず眺めていたは、飛来する
雪球を避けつつ 彼の隣へ近づいて言った





「桂殿、ここは私も援護に回ろう」


「おおが味方してくれるとは頼もしい!
その調子で攘夷も「それはお断り申す」
そこは頑なに譲らんのだな!?





懲りないやり取りに残念がりながらも


僅かな指示に頷いて、移動する間際に
微かに笑いかけた彼女の顔を見て





自然と頬が緩むのを 桂は感じていた







……その後、二人と戻ったエリザベスは





槍で断ち割られた巨大雪球の半球によって

台無しになったかまくらの前で棒立ちとなる








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あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:雪ネタどうにか出せました〜樹氷と
荒い蘇生は無理くりですが、見逃してください


新八:無理でしょそれ てか勧誘多すぎ
あと桂さん、年賀状もらえなかったって…


狐狗狸:「桂と長谷川は住所が分からない」から
とか、けど"会えたらよろしく伝えてほしい"って
銀さんやあの人には伝言されてたのにねぇ…


銀時:あーうん、どうでもよくて忙しくて
すっかり忘れてたわ(てへぺろ)


桂:本音が見え見えだぁぁぁ!あとソレ
オレの"てへっ☆"のパクリではないかぁぁ!


神楽:パクってねぇヨ、出番来たからって
調子乗ってんじゃねーアル ヅラ


桂:ヅラじゃない桂だ!いいではないかリーダー
オレだってせっかく次は節分ネタだろうと思って
スタンバってたのにサイトでも原作でも無視とか
ありえないだろう!?季節的に!!


銀時:知るかぁぁぁ!んなもん空知か
バ管理人に直接抗議しやがれぇぇぇぇ!!




雪降って積もったら、桂のトコはきっと
攘夷活動完全オフになるんじゃないだろうか


様 読んでいただきありがとうございました!