日が昇った頃合に、お登勢さんがまず
万事屋へと戻ってきて ニヤリとしていた





「仕込みはバッチリさね」


「そうですか…姉上達は上手く口裏合わせて
くれるでしょうけど、銀さんがこっちの思惑通り
動いてくれるかどうか…」


「安心しな、男ってのはテメーの不安の種を
そのままにしておける生き物じゃないんだよ」





戻って来た銀さんは スナックの前でしばらく
ウロウロした挙げ句、たまさんに言い訳してた





「べっ…別に一緒のゴミ捨て場じゃないからね!!

オレのゴミ捨て場とババアのゴミ捨て場は全く
別の所だからね!!」






たまさんから事情を聞いて、姉上達の所へ
確かめに動いたのを見て





「マジでババアの言った通りになってきたネ
なんだかワクワクしてきたアル私」


楽しそうな神楽ちゃんを横目に、僕もついつい
口元がニヤついてしまったのを覚えている







再び万事屋に戻って来た銀さんは やる気なく
ソファにしばらく転がってたけど





「どこ行くんです?」


「…ちょっくら近所に散歩」


思いつめた顔つきで出て行こうとしていたので


笑いをこらえつつ、いつも通りに送りだ…





開いた玄関先に 仁王立ちのさんがいた





「あんだよ、具合はどーしたよ?」


「もう平気だ それより聞いたぞ銀時」





アレ?銀さん 姉上達とはもう顔会わせたハズ

てゆうかこの人 六股には参加してないハズじゃ





考え込む僕らを余所に、彼女はさらりと

予想だにしなかった台詞を続ける





お主少しは猛省した方がよいぞ、昨夜は
どれほど兄上と店に迷惑をかけたと」





あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!まだ仕掛けが
作動する前からネタバラしはダメェェェ!!












「あぁ舞台裏にも苦労あり」











思わず叫びだしそうになったけれども


銀さんが手を顔の前に差し出して、それ以上を
言わせようとしなかった





あーうん 大体は把握してるから!じゃオレ
これから行くトコあるんで!」


「おお?そうか、気をつけてな」







無事、公園に待つ全蔵さんの所へ足を運んだのを
見届けてから…僕はさんに言う





「なんてタイミングで来るんですかアンタは!」


そうアル!危なく台無しになるとこだったネ!
空気読めないのもいい加減にしとくアル!」


「…何故そこまで怒られねばならぬのだ?」





どことなく悲しそうに落ち込んだ姿になったので





さんから、聞いてないんですか?」


「先程 銀時が訊ねた折聞いたが、昨夜あの男が
酔って皆に迷惑かけた…のでは無かったか?」


「大体合ってるアルよ で今みんな
銀ちゃんのためにドッキリ仕掛けてるアル」





僕と神楽ちゃんとで 標的のいない
今のうちに事情を説明をする









早めに帰ったから 二次会から先は又聞きが多いけど





初っ端の時点で、銀さんはハメ外して出来上がり

ひたすら絡むわ セクハラかますわ暴れるわ


ドサクサに紛れて殴られて 僕も散々な目に合った





その後、三次会・四次会へなだれ込むごとに
被害はひどくなり…







最終的に暴れた店の修理費を居合わせた全員に

割りカンで負担までさせてしまったのだそうな







「銀時(アイツ)の酒癖のヒドさは目に余るねぇ
…ここらで酒断ちさせるとするかね





そのお登勢さんの一言を皮切りに、


メンバーを募って、全員で"禁酒させる"ための
ドッキリを仕掛ける運びとなったのだ







「なるほど合点がいった そういう事なら
私も協力させてもらって構わぬだろうか?」


「いいけど しばらく銀ちゃんと話さない方が
いいアルな…ところで、昨日三途に行った原因は
結局なにアルか?」





聞かれて、彼女は眉間に軽くシワを寄せる





「兄上と合流して飲まされてからは、記憶が無い


「…思い出さない方がいいですよ、きっと」





むしろ僕らはその言葉で、三途行きの原因に対して
大体の見当がついた







仕掛けがバレないよう 銀さんや姉上達六人と
表立って接触しない事を教えた後





さんは、家へと帰っていった







ちょっと不安だけど…まあさんは裏方での
参加だし、上手く役割を振ってくれるだろう









一息ついた僕の心境を余所に





仕掛けの方は面白いように進み、長屋での
同棲生活六人分(正確には五人だけど)は


順調に夜を迎えていた







「ダーリンお帰りなさいVご飯にする?
お風呂にする?それともワ・タ・…シぃぃぃ!!






「何ノック感覚で穴あけてんのォォ!!」







「うかァァァァァ!!僕にさわるなァァ!!」





「いだだだだだだだだだ」





「おいィィィィィ死ぬぅぅぅぅ!!







……音声だけながら、何かが壊れる音とかが
やたら響いて 壮絶な有様になってるみたいだ


ハメるための仕掛けとはいえ 少し同情してしまう





盗み聞きたぁガキのくせに案外悪趣味だな?
野郎の様子なら後でいくらでも見れんだろうに」





厠から出てきた長屋の主へ答えつつも、僕は
ここの"斜向かい"へ聴覚を集中させる





「作戦は重々理解してるんですけど、姉上は
アレでもまだ嫁入り前なんですよ!?万一本当に
なにかの弾みで過ちでも起こったら…!!」


「オレが見た限りじゃ、どっちかつーと
過ち起こす方じゃね?お前さんの姉さん」


「人の姉をアバズレみたいに言わないでください」


「…アバズレと言えば 吉原のネーちゃんに
負けず劣らずもヒドかったな」





そっから連想すんのかよ、と入れかけたツッコミを


彼女の"酒癖"を思い出したために
寸前で 問いかけの方へと摩り替えた





「…抱きついたんですか?やっぱり」


「抱きつかれましたとも、思い切り







そう さんは酔うと男の人を誰だろうと
"さんだ"と勘違いして抱きついてくる


言えば人違いと気付くけど、そうすると


今度は兄自慢をループ交じりでまくし立てる





月詠さんほど暴力的にはっちゃけはしないけど


普通の女の子みたいに笑ったり泣いたり

コロコロ表情が変わるのは別の意味でタチが悪い





酔ってるから顔赤くなるし…声も、ちょっと
こう、舌ったらずになって結構悪く無いんだよなぁ









いやいやいや!何思い出しトリップしてんの僕!?

何ちょっと"うらやましい"とか思っちゃったかな!!





頭を振って邪念を追い出し、慌ててその場を取り繕う





「た…大変、でしたね」


「ああ…まあな」





な…なんだろう、この気まずさは…?





「ともかく…奴さんに今更コトを起こす度胸は
ねぇだろーが 万一やばそうな雰囲気なら
オレが何とかすっから、お前さんはもう帰っとけ」





全蔵さんにそう言われ…僕は頷くしかなかった











ドッキリ自体は姉上達を中心に進行するので


現場に加わってない僕らが一部始終を知るのは
撮り終えたVTRを見た後だったけれど





大まかな流れと現在の状況くらい

仕掛けの準備の合間に 教えてもらっていた







プラネタリウムですか…銀さんにしては
中々ロマンチックなトコ選びましたね」


「元々はの兄貴の案だぜ?奴の懐具合で
行けるし、六股バレにも都合がいいし
仕掛け人と標的の位置も確認しやすい、ってよ」


「至れりつくせり過ぎて、逆に
失敗フラグっぽいアルなー」


「兄上の策に不満とは聞き捨てならんな神楽」


「ってさん!?いつの間に!!」





真後ろに一抱えほどの風呂敷包みを抱えて
たたずむのはカンベンしてください





「兄上経由で 妙殿達から待ち合わせ時刻と
今後の流れを言付かった…ついでに差し入れを」


「珍しく気が利いてるアルな、今すぐよこすネ」





言葉半ばで神楽ちゃんが手を伸ばすけれど


ソレをあっさりかわして 変わらぬ表情のまま
さんはキッパリ言った





「その前に、神楽は先程の発言を訂正しろ


イヤアル 最近仕事も無くて鈍ってたトコね
食事前に軽く遊んじゃるヨロシ!」


「って待てコラチャイナ娘ぇぇ!
せめてこっちの用事済ませてからにしろぉぉ!!」







全蔵さんの叫び声なんておかまいなしに


完全にスイッチ入った二人は風呂敷包みを巡って
暴れだす…中身は諦めるしかないな、うん


なんとなくこうなるのを予想してたから 驚かないけど





いらん戦闘力発揮しやがって…猿飛が
狙われた時にいなくてよかったわホント」





止めようが無い攻防を共に眺めながら、僕は

アゴヒゲを撫でて不満げにため息つく相手へ
適当に相槌を打って 苦笑い









…実はあの時、トンキに行ってた僕らは


レジの前でさんと顔を合わせているんだよね







「この時間帯に会うメンツとしては珍しいですね」


「まーヒマつぶしがてらイボ痔忍者の買い物
頼まれてやってんだよね、お宅はお一人様?」


「いえ、と一緒だったんですけど…どうも
店内ではぐれちゃったみたいで」







事情を話せばきっと、彼女も戦いに
参加してくれていただろうけれど


天井近くまで雑多にモノが積み重なった
迷路のような店内を探し回る時間は無かったから





「すみません、僕らこれで失礼します」


謝るだけ謝って トンキを出ちゃったのだが





…確かにもしあの場にいたら、余計収集が
つかなくなって大変だったろうなぁ









差し入れがぁぁぁ!定春!
飲みこまず吐き出すネ!噛んじゃダメアル!!」



「「どうしてそうなったぁぁぁぁ!?」」





気がついたら、ぶら下がった作務衣の
肩から上は 定春の口の中にあって


のんびり傍観していた僕らは、大慌てで
彼女の救出に駆り出されざるを得なくなった











―そして予定通り いや予定よりも遥かに派手に
デートで六股がバレた銀さんは


しばき倒され、街外れに縛られて放置された





もちろん 一旦帰ったフリをした姉上達が


隙を見て料理を届ける手筈になっている
…のだが







「やっぱり銀さんには甘いモノよね?
玉子焼きとかおはぎとか」


「いや、あやつはひどく飢えておるからまず
量のあるをもって行くのが上策でありんす」


「ちょっとでしゃばんないでよツッキー!
彼のお腹を満たすのは私なの!私が一番先!」



「まあ待て カレーなら定番で外れがない
ここは僕に行かせてくれないか?」


「何言ってんだぃ?上げて落とすなら
初手はおふくろの味だろう?」







ここに来て、一日目から順番モメを起こしていた


てゆうか女子の皆さん 意外に夫婦のフリするの
満更でも無かったんですか?





思わずため息を吐いたら、隣からも聞こえたので


顔を向ければさんが 姉上達の議論を無表情で
見つめたまま ボソっと一言





「…兄上の料理ではダメなのだろうか?」


「さすがにそれじゃ意味ないですから…あ、いや
別にけなしてるワケじゃないですよ!?





緑色の瞳で鋭く刺され、つい必死で
フォローしたら神楽ちゃんに白い目で見られて


…無駄に余計に傷ついた









結局さんとの説得によって、


姉上達の女の争いは クジで決めた順番に従って
料理を運ぶ方向へと落ち着いた







ドッキリの仕込みの長さにいい加減 色々と
疲れてきていたけれど







『お前 今 酒やめるって約束したよな』





とんでもない顔した銀さんが大写しになった
VTRを見た瞬間 それらは全部吹っ飛んだ



てーか、もう笑いしか出てこなかった





何度見てもおかしくて 僕と神楽ちゃんも
泣きながらお腹抱えて大笑い





VTR自体はお登勢さんが禁酒の証拠として
預かる事になったけれど、イヤになるくらい
散々見た銀さんの顔は 思い出すだけで…ぷっ







「…新八も、少し笑いすぎではないか?」


そういうさんこそ 笑ってますよ」


「お主らに釣られたのさ…兄上の仰るように
これが銀時にとって、よい薬となるといいな」





…とても自然な 穏やかなその微笑みに
うっかり目を奪われて





「おやおや、仲がよろしい事で


東城さんの余計な一言のせいで僅かの間

笑いの種へと上げられ、僕は顔を赤くした








――――――――――――――――――――――
あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:忘年会での真実は六股(五股?)
除けば、たまの言った通りだと睨んでます


新八:これ一挙に詰め込みすぎでしょ…


神楽:話の肝、飛び飛びアルな


狐狗狸:"舞台裏"だから逆に本編はほとんど
絡まないね、むしろ合わせて読んでください


新八:不親切!?それはそうとさんに
飲ませたのは誰なんですか?


長谷川:…銀さんがしつこく進めるから、つい


新八:お前かぁぁぁぁ!!


東城:しかし、円滑に事を運ぶ手腕がありながら
どうして殿は裏方に徹したのでしょう…


狐狗狸:シャレにならないから(色んな意味で)




マダオはきっと 単独行動してたんだと思います
…ともあれ今年最後の短編をお送りしました


様 読んでいただきありがとうございました!