皆の治療もつつがなく終え、茂々とそよ姫は
松平の船にて予定通り京へ移る事となった
「この国を このまま天導衆や喜々公の好きに
させるワケにはいかぬ
しかし江戸にはもう私の居場所はない」
両者に対抗するため 京にて幕府から追われた
自身の仲間を集めて新政権を樹立し天子を動かすべく
再起の時を 図るのだという
「そよ…お前は残ってもいいのだぞ」
「いいえ 私もお供し兄上様を支えます」
皆との別れがつらくとも
江戸で皆と笑って会えるのを信じるからこそ
そよ姫は兄へとついてゆく
真選組の者達は…天導衆との完全対立を避けるために
この時を持って護衛の任を解かれた
「江戸を託せるのはそなたらしかいないのだ」
「ご心配なく 江戸は
将軍様とそよ姫の帰る場所は我々が護ります」
部下も疲弊し 自身すら満身創痍であっても
近藤は胸を張って言葉を続ける
「我々だけでは難しいかもしれませんが
ここには将軍様の残してくれた頼もしき忠臣達がいます
だろ 御庭番衆」
自身を生かすために彼らが成した行動を
不意にしてでも、一人赴く事を謝る茂々の言葉を遮り
「どうせ止めてもゆくんだろう、なら黙っていけ」
「言わずとも やるべき事なら解っています」
将軍の務めを、民と国を護る"彼"を前に
将が変わろうと為す事は同じだと告げて
忍達は 全蔵は見送る
「オレ達ゃ 徳川茂々というダチ公の御庭番衆だ」
その一言に笑みをこぼして茂々は言う
「茂々でいい」
幼き頃にした"いつかの約束"を答えて
「茂々がいい そう呼び合える時代に再び会おう」
心から信頼する友と臣下に見送られ、一人の将は船へと向かう
「さらばだ、私の…ダチ公達よ」
第九訓 ダチ公の別れ
暗殺護衛任務と 忍の里での戦いの終結から二週間が経った
「目を覚ますどころか ピクリとも動かないっす」
今回の暗殺騒動による一戦で瀕死の深手を負った
高杉もまた昏睡しており
宇宙に浮かぶ船内の機器による治療を受け続けている
喜々に裏切られた鬼兵隊も、甚大な被害により疲弊していた
されど憂うまた子へ"白夜叉と切り結び、代償を払う"
覚悟が彼にあったと告げる万斉は
気を失う寸前の高杉の瞳に
強い意志がハッキリと宿っていたのを見て取っていた
「晋助 お前は白夜叉(あのおとこ)との戦いの中で…
一体何を見た」
一方で同じように宇宙へと逃れた神威は
腹部を貫かれ 同じように満身創痍の所へ
天老院にも裏切られ、春雨から追われる身となった
「順調じゃないか、これでまた海賊王に一歩近づいた」
にもかかわらず"己の敵が一つにまとまり殺しやすくなった"
と普段と変わらぬ笑みを浮かべている
「そーいう問題じゃねーだろ!
高杉達に借りを返すのは結構だ、だがこのままじゃ共倒れだ」
「こんなじゃ倒れないよ、オレもシンスケも
ただの人間だって案外しぶといモンだって知ってるし」
「まあ…確かにな」
脳裏に、船で対峙した沖田や
戦場でまみえても一切ブレなかったの姿を
思い浮かべて阿伏兎は納得する
「あの泣き虫だって 立ち上がってきた
何度倒れても…ならオレもこんな所で倒れられない」
二週間の月日の合間、江戸へと引き返した銀時達は
大半が入院を余儀なくされ
彼らの療養を他所に世間では
新たな将軍として台頭した喜々が、茂々不在をダシに
自らの傷すら都合のよいように口述し
『この新しき将軍 徳川喜々に 皆の力を貸してほしい
そして共にこの混沌とした世を変え
新しき時代を築こうではないか』
電波の力を借りて民衆へと白々しく喧伝していく
…それを、どこか冷めた目で見つめて
病院へと引き返す新八の側へ
「銀時の容態はどうだ?」
いつの間にか現れたが、黒い作務衣に身を包み
何でもないような顔で歩んでいる
「里での手当てもあって回復が早いみたいですよ
さんも無理しないでくださいよ?」
「私の傷など大したものではない」
「常人なら夜兎の蹴り受けた時点で致命傷なんですけどね」
「近頃の者は打たれ弱いのだな」
「少年漫画の主要メンバーと それにタメ張る夢小説キャラ
一般人と並べる方が間違ってますから」
呆れ混じりに言いつつも、茂々の不在と
先程の喜々の演説が引っかかっていたのだろう
「…銀さん これで…よかったんですかね」
見舞いに来た新八の言葉は、江戸と時代の行く末を
案じる不安として現れた
「政治は分からぬが 将軍ど…茂々殿は無事だろうか」
もまた言葉を重ね
訪れた間を 窓へ視線を向けたままの銀時が破る
「…夜明け前だ 夜明け前が一番暗ェ
だが目をつぶるなよ 闇から目ぇそらした奴には
明日に刺す光も見えねぇ」
"例えこの先 どんなに深い夜が待っていても"と
何がしかの覚悟を感じさせる言葉が続き
二人の面持ちが改まった直後
「銀ちゃん銀ちゃん 来たよ、手紙」
ひょこりと病室へ顔を出した神楽が手紙を差し出す
「もしや茂々殿のか」
「そうアル」
茂々の手紙、という単語に反応してか
病室の天井と 半身を起こした銀時のベッドから
見知った忍者がそれぞれ一名ずつ現れる
「何やってんだテメーは!」
「私はほら、銀さんが困っている時の為の
サポートをしようと思って待機してたのよ」
「人の股間ガン見しながら言うのやめてくれる?」
「全蔵さんまで何しに来てるんですか!?」
「オレぁまあヒマだから」
「絶対ウソアル、将ちゃんの手紙待ちだたね」
俄かに普段通りの騒がしさを取り戻しつつある
彼らを眺めながら は普段通りの無表情で言う
「お主ら、病院では安静にしろ」
「問題はそこじゃねぇんだよKY娘ぇぇ!」
…文が届けられた後
天子の庇護下にある御所にて
立場を問わず訪れる自身の忠臣や友人へ
信頼故に護衛を付けず会い、助力を頼む茂々は
友之助という幼馴染の配下に裏切られ
隠し持った毒針で 握手を交わした右腕を刺され
血を吐いてその場へと倒れ込む
「ス…スグに治療を…!!」
「し…しかし毒は既に全身に…
「いいから何とかしやが「もうよい」
それでも、彼は下手人となった友を咎めず
誰を恨もうともせずに
「これで ようやく私は ただの茂々に戻れるのだな」
笑みを浮かべ、自身の身体を抱く松平へ
最後の頼みとして…そよ姫の待つ場所へと告げた
死を待つばかりの姿と思えぬ穏やかな居住まいで
妹の入れた茶を受け取って飲み
「どうですか兄上様
今日はいつもより念を込めていれてみたの」
期待に微笑む彼女へ、優しい笑みで返して
「…そよ ただの兄に戻ってもお前のいれた茶は
やっぱりぬるいなぁ」
そのまま眠るように…静かに
そよ姫の膝へ 頭を預けて倒れた
「よっぽどお疲れだったんですね
今日は国も将軍の立場も忘れて、ゆっくり休んでください
おやすみなさい 兄上様」
―徳川 茂々の暗殺と その死は江戸へと伝えられ
悲しみの中、葬儀は粛々と行われた
「徳川茂々…哀れな男だ
おとなしく我等に飼われていれば死なずに済んだものを」
かつての忠臣にして友人ならば、己の信と彼らを信じた
茂々が護衛を拒むと踏んだ天導衆は
その男を下手人へと仕立て 茂々を葬った
…暗部を知る者ならば、容易にその事実に気づく
「…つまり、オレ達と出会わなければ…
アイツは死なずに済んだのか」
松葉杖をつき、川へ視線を向けたまま呟く全蔵へ
百地は淡々と答える
「…さてな、結果はどうあれこれは将軍が己で選んだ道」
時代に操られ続けた傀儡だった彼は
友と会ったが故に、生き方も死に場所も己で選べた
ある意味では救いであるその言葉も
「残念ながらもうオレに 友(そいつ)を
名乗る資格はねぇよ」
友を護る為に友を殺し、多くの犠牲を出しながら
護りたかった友を護れなかった
何一つ変えられず 敗けた奴に
友を語る資格はないと己を腐す全蔵には届かない
「残ったのは奴等の血で身を染めたこの 罪人だけだ」
百地の横を過ぎ、河原から立ち去る全蔵へ
その頭上にかけられた橋に 猿飛と並んで欄干へ
背を預けていたが振り返らずに言う
「ならば忘れぬまま生きればいい
かけがえのない 二人の茂々殿の分まで」
主語のないその呟きは、自らへの誓いでもあり
等しく仲間を…友を失った彼らへの
少女なりの不器用な励ましでもあった
それでも全蔵の態度は 変わる事が無かった
「…悪いが
そういう青臭いのは卒業してんだ、オレは」
黙したまま微動だにせず 彼が去るのを見送って
「あやめ殿、お主も戻るか?」
「…いいわ もう少しだけここにいる」
彼女の容態を案じるは、しかし未だ収まらぬ
胸騒ぎを覚えていた
時を同じくして 事実に気づいた者の一人である松平は
江戸城にて喜々との謁見を果たしていた
「オレは一度決めたらタバコの銘柄も
主君もポイポイ変えねぇ主義でな 喜々公」
直れと再三警告したにも関わらず、将軍の御前で
胡坐をかき あまつさえタバコまで吸い出しての発言を
激昂して咎める家臣を手で止め
喜々は冷ややかな皮肉を浴びせかける
「松平 たいした忠誠心だ
主君の命一つ護れなかった役立たずとは思えぬ」
「かつての主君を天子の鼻先で謀殺する大逆を犯し
その座を奪ったどっかの将軍程じゃねぇさ」
返す松平は、服毒自殺した下手人が縁者を人質に
取られていた可能性と
眼前の相手が "その一切合切を闇へ屠っている"と
暗に口にした事を確かめた上で
「仇討(コイツ)だけは自分(てめぇ)自身で」
単身乗り込み、握りこんだ毒針を放つべく左腕を引くが
「松平公 残念ながらアナタに人を裁く権利は
もうありませんよ、お捨てになってください
タバコも 毒針(それ)も」
背後へ現れた異三郎に牽制され
止む無く凶行を留める
「…佐々木、存外お前も忠誠心を解する男だったらしいな」
高杉と共に斬り捨てられたと思っていた、と告げる彼へ
異三郎は表情を変えず"最初から喜々に仕えていた"と返す
勝ち誇ったように笑いながら喜々は
異三郎が"警察庁長官"へ就任した事と
「残念ですが元長官
あなた達の時代はもう終わったんですよ」
「茂々公暗殺の捜査は佐々木に任せておけばよい
松平 お前が果たすべきはその責任を取る事だ」
松平及び、彼の部下である近藤へ処置を迫る
話題に上がった近藤は、ただ一人となった屯所の道場で
黙々と稽古に打ちこんでおり
「犬のお巡りが迷子の子猫そっちのけで迷ってたら世話ねぇや
稽古つけてやろうか、今なら杖(コイツ)でも勝てそうだ」
「ヘッ 遠慮しとくぜ
年中迷子のはぐれ雲のゆく先はお巡りさんにも解らんさ」
呼び出した銀時の軽口を受け流しながら
「あの時の万事屋(てめーら)への報酬 まだだったろ」
竹刀を収め、縁側へと腰かけつつ
「こんな時じゃなけりゃ 伝説の攘夷志士と
真選組局長がサシで飲む機会なんざねぇだろ」
用意していた徳利を掲げてから
「一杯つき合えよ白夜叉」
並んだ三つの猪口の内、二つを手にして一つを銀時へ渡す
「…普通、怪我人を酒に誘うか」
「んな事気にしてたら生まれた時から頭に大怪我負った
お前は一生飲めねぇだろ」
「オレより重傷なのいるだろ、とか
てめぇはジャングルで腐った果実の汁でもすすってろゴリラ」
「ゴリラは嗅覚いいから腐った汁は飲まねぇよ
…それに、酒(コイツ)でしか癒せねぇ傷ってもんもある」
酒を飲み交わしながら、今回の戦いで失ったものを振り返る
「敗者は失ったもんを数える事しかできねぇ
護れなかった味方 斬り捨てた敵、戦で生まれた咎
全てがその身に重くのしかかる」
全てが無意味となった寂しさを近藤は分かち合い
「勝とうが負けようが 何を護ろうが何を失おうが
戦に意味なんてねぇ、どう繕っても最後に残るのは
屍と罪だけの不毛な所業だ」
そこまでして護る価値のあるモノを、銀時は語る
「そんなくだらん戦(もん)が必要ねぇ時代を築こうと
敵ではなく自分と戦い続けた魂(おもい)達だけだよ」
別れの際に"友"として、信じて江戸を託した茂々の想い
「そして魂(そいつ)は、まだ死んじゃいねぇ
その思いをつなぐ者がある限り」
その魂は二人の中にも確かにあるのだと、お互いに知る
何も言わずに両者は互いの猪口と
真ん中に据え置かれていた三つ目の猪口へ同時に酒を注ぎ
腰を上げた近藤は三つ目をおもむろに手に取り
天へと振りかける事で、酒を手向ける
「ならばオレ達には、葬式も別れの言葉もいらねぇな
交わすのはこの杯だけで充分だ」
最後のひと口を飲み干して
同じ思いを持つ銀時へ、振り返ることなく近藤は
屍を越えてでも護るべきモノの為に言葉を残す
「トシ達に伝えておいてくれ バカなマネはするなと
江戸にはまだお前達が必要なんだとな」
白い隊服の一員を引き連れた信女と
そちらへ歩み寄っていく近藤の姿に、銀時は瞠目する
「確かに…つなげたぜ、それから…」
一度だけ振り返った近藤は
…己に起こる事を理解していたからこそ
「最後に三人で飲めて楽しかった
もっと早くに飲んどきゃ良かったな」
ただ大人しく彼らの元へ赴き、縄に着く事を受け入れた
―松平と近藤に下された沙汰は 斬首
そして真選組の解体であった
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あとがき(というか楽屋裏)
狐狗狸:一年以上間が開いてしまい、本当にすいませんでした
来年からはちゃんと更新いたします
喜々:許さん 腹を切れ
異三郎:喜々公、この者の処遇は後にして今はひとまず
挨拶を済ませてしまうのが先決かと
全員:閲覧ありがとうございましたー!!
銀時:つっても今回、二部構成的な感じで進行するから
よーやく一部のトコが終わっただけなんだがな
神楽:"将軍暗殺"と"さらば真選組"1セットにして
二部構成で行く話だだアルな
松平:んなぁ〜んでこんな遅くなったんだ?
もう年号まで変わってんじゃねぇかオイ
狐狗狸:ええまあそれは遅筆とTRPG関連にハマったのが
拍車をかけ「人様のせいにすんな」すんません(土下座)
近藤:とっつぁん銃はしまって!とりあえず来年からは
がんばるみたいだから、見守ってやろうぜ?なっ!
百地:そうじゃな、この長編が終了したらケジメにもなる
狐狗狸:ええとまあ そう言う事で一つよろしくお願いします
これにて将軍暗殺篇が終わり、さらば真選組篇へ参ります
様 読んでいただきありがとうございました!