頃合いと見て船から御庭番衆が引いた事に気づき





追えぇぇ!!忍どもを一兵たりとも逃すな!!」


また子さん深追いしてはいけません!!
御庭番衆の目的は、我々の兵力を分散させる事です』


艦内より武市は、伊賀衆と交戦している第七師団と
合流しての挟撃を命ずるが





「そっちはもう万斉に向かわせた」





出入り口の壁に背を持たせかけ


夜兎勢が伊賀衆を壊滅していると口にした高杉が
好きにさせてやれ、とせせら笑う





「どの道伊賀も現政権ももうシメーだ
最後の祭り位はでにやらせてやるさ」


「た…高杉さん、ど…どこへ」





通路を進みつつ、彼は振り返ることなく淡々と答える





「全てを終わらせる前に
終わらせなきゃならねぇ奴がいる」






将軍や政権がどうなろうと


銀時が生きている事、そして彼を殺さねば
"世界が終わらない"のだと高杉は確信していた







…その言葉は正しく


中心にした茂々を護り、時に彼の援護を受けながらも


銀時達六人の円陣は代わる代わる攻めて来る
夜兎の軍勢を捻じ伏せてゆく





だが依然として敵の数は多く

誰が倒れてもおかしくはない





「将軍の護衛が将軍に護られてたら世話ねぇな」


「見た通りだ 全員、あるもんはパンツの中まで
ひねり出さねぇと生き残れねぇよ」





けれども、茂々の心にはもう迷いはなかった





「案ずるな、空いた背中は互いに護り合う
…それが「ダチ公」であろう」


「へっ、一体どこのどいつだ
将軍様に汚ねぇ言葉教えたのは」


「トモダチンコの方がよかったアルか」


「そうか…そんな言い方もあるのだな」


「これ以上余計なことを教えんな」


「将軍殿とトモダチンコとは心強いな」


「さっそく覚えたての言葉を駆使すんな槍ムスメ」





危機的状況とは思えない空気に乗って銀時も
彼が影武者じゃないか、と軽口を叩くが


近藤は笑って否定する





「いや…将軍様だ
間違いねぇ、オレ達の将軍様だ











第六訓 護る者、支える者











一糸乱れぬ団結を見せる彼らの前へ
同胞の屍を越え





「一応こう見てて絶滅寸前の希少種なんだぜ
もうちっと丁重に扱ってほしいもんだ」


部隊を引き連れた阿伏兎が悠然と立ちはだかる





「だがどうやら先に絶滅すんのは
アンタらみてぇだな、サムライ」



「お前は…」


「久し振りだな嬢ちゃん、あの後大変だったんだぜ
団長にこっぴどくお灸をすえられて」





神威の妹であり獲物でもある同族の神楽に対しても
生きて帰すつもりはないと口にし





「ふざけるな!!勝手に人の国を踏み荒らしてるのは
お前達の方だろ!!」



「そうかい、オレには踏み入る前からとっくに腐って見えたが
オレ達が手を出さずとも勝手に腐り落ちるほどにな」





非難する新八の台詞を嘲笑い、高杉に借りを
返しているだけだとうそぶく阿伏兎へ


は表情を崩さぬまますっぱり言い放つ





「そんな事はどうでもいい
お主らは友と兄上を害なす故斬る」



「うん、そっちの嬢ちゃんは単純でいいわ
こっちも余計なためらいなしに殺せるし」


「…どこにいる 奴は、高杉はどこにいる


「少なくともあんたがこれから行く
地獄(ばしょ)にはいねぇ」





いつになく真剣な銀時へそう答えた彼は

"道案内は送っておいた"と得意げに言い放ち





「忍に侍 仲良くこの国と一緒に滅んでいきな」


左手につかんだ、包帯を巻いた百地の首を掲げる







それでも佇む銀時達の様子は変わらず





「悪いがそいつにゃ先導は務まらねぇ
そいつに務まんのは精々…」 「給仕だな」





訝しげな顔をした阿伏兎が 左手の首の視線に気づく





「ココアでも飲むか、それともまっ赤な紅茶か」





閃光とほぼ同時に起きた爆発に気を取られた夜兎達へ

モモちゃん胴体部分の手裏剣による一撃を食らわせ





「立て、侍
忍もこの国もまだ死んではおらぬぞよ」



モモちゃんを操った鎖を手に現れた女給姿の百地が
手裏剣片手に彼らの先導を買って出る





生きていたんですね百地さん!!
つーかそれ手裏剣にもなんの!?」


「言ったぞよ 忍は死んでおらん」





並の無表情で先を往く彼女は


夜兎達が壊滅した忍はみな
自分の傀儡術によって操られた死体…


あの時死んだ 藤林一派の者達だと答える





そして百地に続いて駆ける銀時達を追う夜兎勢を





「真の忍の戦は、これからぞ」





地面から這い出た黒衣の忍達…

残る伊賀勢が相手取り、足止めを務める





「だが夜兎(あやつら)が相手では
それも幾ばく持つか」







実際、不意を突かれた数人の夜兎は被害を受けたものの





「なる程これが本物の忍法か、まるで妖術だ」





爆心地のほぼ中央にいた阿伏兎は


新調した左腕の義手を
吹き飛ばされただけでほぼ被害はなく





「どいつもこいつもオレの左手に恨みでもあんのかぁぁ!!」


どころか若干怒りで攻撃力などが上がっていた







崖同様に里と外界を隔てる空掘へ掛けられた木造の橋に
全員が差しかかった辺りで、百地が呟く





「…よくきけ、西の岩壁 摩利支天の彫像近くに
里の者のみが知る抜け道がある」





言いながら七人を先へと進ませ





「そなたらは将軍を連れ伊賀から抜け出すぞよ」


「百地殿、お主何を」





彼女は後から来るであろう夜兎達を食い止めるべく


手裏剣を繰り、橋を大きく両断した





「たとえ伊賀が落ちようとも この国を沈ませる
ワケにはいかん」






最後まで使える事が出来ぬ事を茂々に詫びる百地だが





「忍だけじゃ心許なかろう」





彼女一人を残して行く事を良しとせず


破壊の直前で里側に残った橋へ飛び移った近藤と土方が

しがみついていた縁から這い上がりながら続ける





「こいつは忍と侍の共同作戦のはず」


「なら侍(オレたち)にも手柄を分けてもらうぜ」


「近藤さん!!土方さん!!」


「ってワケださっさと行け」


「あとはお巡りさんがついてなくても出来るだろ
ちゃんも、あと少しだからガンバってくれよ?」





長い付き合いの中、一度も"依頼"を口にする事の
なかった真選組(かれら)だったが


だからこそ…この土壇場で万事屋(かれら)を信じた





「こいつが真選組(オレたち)の最初で最後の依頼だ
万事屋 将軍様を頼む








新八達三人は到底その選択に納得が出来なかったが


真正面から言葉を受け止めた銀時が背を向けて





「承った」





同じタイミングで背中を見せた二人へただ一言
そう言ったのを目にして


互いに覚悟を決めて進み始める





"全員で生きて戻る"ために、振り返らず走り出す





「前を見ろ オレ達ゃ見ている方向はバラバラでも
帰るべき場所は、同じだ」



「ああ…像まではこちらだ!」





茂々の案内を頼りに、橋を抜けて四人は
密集する木々へと足を踏み入れる





「全蔵も、像へと向かっているだろうか」


大丈夫ヨ将ちゃん
きっとさっちゃんと一緒に像の前で会えるネ」


「…奴等に気づかれてなければよいが」





の懸念が的中したかのように





横合いから、数人の浪士と斬り結ぶ黒衣の忍が現れた





銀さん!あれってもしかして…!」


「まあ、分かっちゃいたさ」





閃く白刃を握る腕を槍の刃が斬り落とし

出来た隙に神楽と新八が潜り込んで浪士達を昏倒させ


助け出した忍の元へ銀時と茂々も駆け寄った





「お前達…御庭番衆か!?」


「お懐かしゅうござります将軍様、頭は猿飛に連れられ
先に抜け穴へ…お急ぎください」


分かった、それと不躾ですまないが頼みがある」





僅かに微笑んだ忍が、手ぬぐいを渡して彼らから離れ





「やはり高杉一派がここまで来ているか」


「この分だとあのバカもきっとどっかでツラ拝むアル」





倒れた数人の浪士を見下ろし
対決の時が近い事を悟った銀時が静かに口を開いた





「賭けになるかもしれねぇが乗るか?テメーら」


問われて、首を横に振る者は誰一人としていない





「「無論だ」」


今更言います?ソレ」


「で、何すればいいアルか?」





四人への返事は満足げかつ不敵な、頼もしい笑みだった





「奴等がやってるコトをそっくりやり返してやんのさ」














折りしも、摩利支天の像がまつられた岩場では





「帰れねぇよ もうどこにも」





瀕死の全蔵を連れて脱出しようと仕掛けを動かした
猿飛が 背後から高杉に腹を貫かれ





「この国には、お前達の帰る場所も逃げる場所も
もうどこにもねぇ」



仕掛けの先にあった洞穴から夜兎を引き連れた神威が

ヒザをつく彼女へ銃口を向け、引き金を引く





吹き飛ばされた彼女が仰向けに倒れ


間を置かず武市が浪士と共に森林から現れ

陽動の御庭番衆の動きから
この場所を把握した、と口にする







…けれど神威は常とした笑みを崩さぬまま





「鼠ってホントに袋に入れると暴れるんだね
こういうのをこの星じゃ「窮鼠猫を噛む」っていうんだろ」


己が傘の銃身に刺さったクナイをかざした


間を置かず





「動くな」





そのクナイで弾道をずらし急所を逸らす事で
猿飛を護った全蔵が


側の木へ身体を預けつつ、浪士達の背後へ睨みを利かせる





動けば、全員のケツにコイツをブッ込む
痔は一生モンだぜ?ケツは大切にした方がいい」





自分へ生きて帰ろうと言った彼女が先に死ぬ事も





「全蔵…私…」


「いつも、勝手に一人でいくのはオレで止めんのはお前だった
いつもバカやらかすのはオレで いさめんのはお前だった」





悔いて謝る事も許さず 薄く微笑んで言葉を紡ぐ





「オレはブス専だが、猿飛
てめぇのブサイクな泣きっツラおがむのは もう御免だ







絶望的な戦力の差や状況でも 彼は諦める事を止めていた





「死に損ないが私達全員を串刺しにするより
私達がボロ雑巾を二枚引き裂く方が早いと思いますが
「動くなと言ったのがきこえなかったのか」


上げた武市の右手の甲には、瞬きの合間にクナイが刺さり





「死に体とはいえ忍の技 お前達の目でとらえられるか
オレの技は刹那に終わるぜ」






降り注ぐ無数のクナイは浪士達を次々と屍へ変える





それでも神威と高杉だけはクナイの雨を
一歩も動かず、片手に握る獲物だけで弾いて裁き





「なるほどシンスケ、確かに「無駄なあがき」
ケツにブチ込むとのたまっていたのは
オレ達の目を上に向けさせないため」





二人の足元へクナイを受けて浪士の死体が転がり


その内の一つに紛れて、死体の下から飛び出した
全蔵が両腕からクナイを放つ直前で


刀と傘の先端が彼へと突き付けられた





「ただのめくらましだ
忍(てめーら)の忍術(こざいく)は見飽きたぜ


「めくらましなんかじゃねぇさ」


それでも全蔵は諦めずに待っていた


瀕死だからこそ鋭敏になった感覚で察知して


ダチ公だからこその信頼で待っていた







「てめぇら特大のケツの穴におあつらえ向きな
とっておきの忍術は…もうとっくに、使ったさ







それが功を奏してか





仏像の上から高杉と神威の頭上目がけて降りた
銀時と神楽が、飛び降りざまの一撃を食らわせる








轟音が大地を揺るがし柱のような土煙が彼らの姿を隠し





「しっ…晋助殿!!
しっ白夜叉だ!!討ち取れぇ!!



二人の登場に気を取られた浪士と武市を
新八とが背後から薙ぎ倒した





思わぬ奇襲に洞穴から飛び出そうとした夜兎達だが


張られた鋼糸が先頭の一人の首を飛ばし
後に続く者達の足を止める





動くな、真打のご登場だ
てめーらはおとなしくそこで護りでもかためてな」





片膝をつき、対峙した夜兎達へ放てるように
クナイを握る全蔵の右手は震えている


…その手首をそっと握って支えたのは





「クナイの投げ方は、そうじゃない
しっかり握れ 全蔵





右腕でしかと、助け出した猿飛を抱え


口元を手ぬぐいで覆う事で"あの時のダチ"として

覚えていた約束を果たすために駆け付けた茂々だった





「ようやく会えたな 私の、御庭番衆」





誓いと再会が叶い忍と将軍が感極まって思いの丈を
隠さずに瞳や口元から溢れさせる中







立ち込めていた土煙が晴れて





「遅かったな 待ちくたびれたぜ銀時
この国を壊すのも護るのも オレ達しかいねぇだろ」



奇襲を刀で受け止めた高杉が、着地し立ち上がった
銀時へと濃厚な殺気を突き付け





「やれやれ国を護る最後の切り札にしちゃ
ずい分粗末なのが出てきたもんだ」



同様に、勢いを乗せた傘の一撃を自前の傘で防いだ
神威を見据えて神楽は銃口を向ける





「ガキどもを引き連れ
まだくだらんままごとを続けていたか」





かつて共に戦場で戦い、共に全てを失った二人の内


力を得て "誓った国への復讐"を成せるまでに至った高杉は


国に迎合し、子供ら二人を引き連れ
国を護る為地を這う銀時には何も護れないと断言するが





「高杉、オレぁお前がどんだけ強大な力を手に入れようが
どんだけ巨大な軍勢を引き連れてこようが何も恐かねぇよ」





相手が百の者を捨てる間に千の者と繋がり


千の者を壊す間に、万の者に助けられた彼は





里で敵と戦う真選組や御庭番衆の忍達


将軍と忍二人を狙う銃撃を影ながら斬撃で落とす





「たかが幾千の軍勢がどうした
オレ達は万事(よろず)を護ってきた三人だ」






何よりも、ずっと側で戦い続けた
新八と神楽の力と絆とを信頼していた





「オレ達ゃ 万事屋だ」







それでも高杉の決意は揺るがない





「銀時、ままごとはもうシメーだ

この国にお前が護る価値なんざねぇ
この国に…オレ達が護るもんなんざ、もう何もねぇ





師を奪った国に恨みを募らせ


相手の抱えた決意を"ままごと"と切り捨てて


それももうじき国と共に壊れるのだと
刀を構えた彼は諭すように言う





「銀時、お前はもう一度全てを失う」


「…オレは 何も失ってなんかいねぇよ
ただ一つ」





かつての攘夷戦争で、襲い来る天人の軍勢へ
互いに背を預け立ち向かっていた二人は





「護る背中が減っただけさ」


今 それぞれの想いを抱えて刃を交える