影武者と言う、最高権力者ゆえの習わしによって
幼き彼らは必然的に出会った


当時 敵の多かった定々は"己の後継者"を護る為

公務の全てを影武者に押し付け 何人も見殺した





そんな影武者の一人…影丸が拉致されたと聞き





どこ行くのよ、全蔵

あんたまさか将軍様の意向に背くつもり』





猿飛が咎めるのも構わず


宵闇に紛れて全蔵は、彼を助けようと城門を潜る





『将軍なんてどこにいるんだ、オレぁ講義で教わったぜ
将軍って奴は民と国を護る大層な奴だと』





その為に生きる影丸を見捨てる将軍家を見限り
一人行こうとする全蔵の前へ





『そうか 将軍とはそういうものであるか


ならば、余の務めに手を貸してもらえるか


数人の忍の子を引き連れた茂々が呼びかけた





茂々もまた、自らの身代わりとなった少年達に
思う所があったようだ





「某がその事実をしったのは全てが終わった後
血塗れた茂々様が帰ってきた時でありました」





御庭番と共に影丸を助けに敵地へ潜入し

乱闘の末、彼を庇い胸に深い傷を負った茂々は


それを責める事無く…肩を貸して
共に戻った御庭番衆が責を負わぬよう取り計らった





『案ずるな、影武者とはこんな時のために
あるのではないか』






事件の一切を定々から隠すため


影と己を入れ替え、傷を癒すまでの半年

茂々は影武者として御庭番衆と共に過ごした







滔々と語られる舞蔵の言葉の続きは


満身創痍でなお敵を屠り

畑へ落ちた船上で戦い続ける全蔵の脳裏にも
チラついていた





『オイ…将軍 クナイってのはこう投げるんだ』





そこでの彼らに立場の違いはなく





オイ将軍、忍がそんな怪我で
メソメソしてたらいけねぇよ』





授業中にこっそりジャンプを読みかわし
共に叱られる、ただの少年達としての日々があった





『茂々』


『…ようやく 名前で呼んでくれたな』





別れ際の"ただの茂々"が口にした御庭番衆と将軍の務め


そしてお互いが自らの職務へ着いた時
共に国の為に戦える日を楽しみにしていると願った誓い


…それが傷だらけの全蔵を立ち上がらせるが





「へ…へっ」


敵陣にいる自らの現状と、忠義や忠節とは程遠い


最初で最後の任務に彼は自嘲する











第五訓 友の決意











『あの時あの方に拾ってもらった影丸(こ)の命
あの方のために使わせてくれ』






のヤツ…本当余計な勘だけはいいよな」







仲間を犠牲にしてでも将軍に引導を渡す


ただそれだけの為に身を削る全蔵だが


ついに背を刺され、足を止めた直後に
残る浪士達の凶刃が一斉に迫る





…それでも、全蔵の面持ちに後悔はなく





主君や王ではなく 茂々というダチ公の為に
死ねる大バカ者としての最期に微笑んでいた












興味を失くして背を向けた高杉達の耳に


いくつもの刀が落ちる音が響き渡る





振り返った彼らの視線の先には全蔵を襲い

クナイを額に穿たれて倒れる浪士達と







「触るな、そいつに…
御庭番衆(わたしたち)の頭に 触るな


片手にクナイを握り、船のデッキの天井に
佇み睥睨している猿飛がいた





「さっ…猿飛…!」





飛び降り様に彼女が甲板へ蒔いた煙玉が
煙幕として鬼兵隊全員の視界を奪い


高杉を狙い投げられたクナイの雨により
浪士が命を落とし、万斉とまた子が防御へ回る中





「どうやら間に合ったみたいねん、いくわよん

みんなぁぁ!!私達の頭を 全蔵を護れェェ!!





薫を筆頭に駆け付けた御庭番衆が残る敵陣を引き受け


乱戦と煙に紛れて、瀕死の全蔵を担いだ猿飛が
艦からの離脱に成功した













…渡り廊下から煙を上げている本艦が視界に入り


前だけを見て走るよう背中越しに茂々へ怒鳴る銀時だが
足を進める彼の悔恨と疑念は晴れない





「それが…私の…将軍の戦いであると

無数の仲間の死を踏み台にしても世のため…
民のため生きのびろと!?」


「将軍殿、辛くともお主は生き延びてもらう
私達が生かす」





少し先を駆けるが当人なりの激励を送るも


将になった事を悔いる茂々の涙は止められない





「私にとっては、全蔵も
そしてそち達も 護るべき大切な民だというのに」






「将軍、全蔵(アイツ)は
アンタのダチ公は死んだりなんかしねぇよ」





けれども…銀時は信じていた





「何故ならアイツにゃ
オレのダチ公がついてっからだ」



猿飛が全蔵を助け出す事





「それにの言う通り将軍、アンタは…
こんな所で死んだりしねぇよ 何故なら」





廊下の屋根を破壊し、自分達五人の行く手と
背後に三人と二人の夜兎が立ち塞がっても


最後まで全員が屈せず戦い続ける事を





「アンタにゃ オレ達ダチ公がついてっからだ」









その意思は


全蔵を支えて歩き続ける猿飛も抱いていた





バカ、ガラじゃない事するなって
私に言ったのは…どこのどいつよ」


「確かに…ガラじゃねぇ」





けれど思う以上に強大な敵と戦い続け





「このオレが…猿飛…お前に
最期を看取られる事になるたぁ」





限界まで体力を酷使していた彼は

諦めたようにその場にへたり込んで呟く





「いけ 猿飛
猫は、最期を人に見せねぇもんだ」







彼女はなおも左腕を取って呼びかける


「何言ってんのよ、それくらいの傷で諦めたら
の事 二度と笑えなくなるわよ」





それでも動こうとしない全蔵へ





「立って…走るの…走りなさい!!





涙声になりながら猿飛は


務めが残っているのに、自分達御庭番衆を置いて
どこへゆくのか
と問いかける





身命を賭して将軍の命を繋ぎ 忍の里を護った





「でも…アンタが本当に果たさなきゃ
ならない務めは、まだ果たされていないでしょ」





そう言って猿飛は再びしっかりと肩を貸し


全蔵を支えながら前へと歩き出す





「生きて帰るのよ…将軍と一緒に 私達と一緒に
あの江戸に、みんなで一緒に帰るの






それが御庭番衆である前に、将軍である前に


「友達が果たすべき 務めよ」







何よりも大事なその務めを胸に





五人の夜兎が突進してきた瞬間を見計らって


銀時達も廊下の端から崖下へと身を投げる





虚を突かれ一瞬立ち止まった夜兎の顔面へ


屋根の支柱を掴み、反転した勢いで廊下へと
戻った銀時の木刀が叩き込まれた





落下した彼らを覗きこもうとして彼の反撃に
気を取られた二人のアゴを


つかんだ淵から逆立ちの要領で這いあがった
神楽の両足蹴りと


槍を使い崖を駆けのぼったの槍の柄がかちあげる





「わ、わーーーーーー!!」





落下の勢いを木刀で殺しつつ崖を下る新八は


共に下っている茂々の手をしっかと握りしめている


しかし二人の後を追って二人の夜兎も崖を下り


それに気を取られた銀時の頭を、彼が攻撃した夜兎が
後ろから掴んで側の柱へ叩き付ける





「銀時!」


危なっ…」





神楽の警告に、防御こそ間に合ったものの
夜兎の蹴りをまともに受けた


壁に深々とめり込まされて血を吐く





神楽も背後からのフェイスロックにもがき


追いついた二人の夜兎が茂々と新八を
叩き殺すべく、手にした傘を


「しょ、将軍様ァァァァァァ!!







振り下ろす寸前で 彼らの動きが止まる







「オイ、気をつけた方がいいぜ」


崖へ通ずる大穴から飛び出した
近藤と土方の刀に、胴体を貫かれて





「なんでもこの里にゃ侵略者を阻む
こわーい罠があるらしいから」


「近藤さん!!土方さん!!」





とはいえ傭兵部族の名は伊達ではなく


串刺しにされても二人は、ニヤリと彼らを笑い
下へ着地した茂々へ銃口を向ける





…だが


近藤と土方の出現に意識が逸れたのを利用し

三人へ止めを刺さんとしていた廊下の夜兎達が


腕力と飛ぶ斬撃に振り払われ


体当たり気味に獲物で腹を貫かれて落ちてくる





ちょうど、引き金を引く寸前だった
串刺しの二人を巻き込む形で








「銀さん!!神楽ちゃん!!さん!!」





着地のついでに地面へ叩き付けた夜兎五人が
死んでいるかを確認し


銀時は崖から降りて来た二人へと言う





「…やれやれ、ようやく忠臣のご登場か
落とし穴から参上とは優雅だねぇ」


「そうでもねぇさ」





七人が見上げた、渡り廊下にはぎっしり
夜兎の軍勢がひしめいている





「岩の隙間に光が見えた気がしたが
まだまだ光陽(ひかり)は遠そうだ


「…流石は宇宙最強の戦闘種族」


「だな、たった5人倒すのにこの体たらくだ」





どうしたもんか、と呟く銀時へ刀を構えて近藤が答える


「どうもこうもねぇ、相手が誰だろうが
やらなきゃやられる…そんだけだ」


「皆の者、ここからが正念場だな」


「ええ…どうやら今や僕達が将軍様を唯一護れる
最後の忠臣みたいですからね」



「冗談キツイぜ、よりにもよって最後に残ったのが
コレか…面接からやり直してぇ気分だ」


そのまま返すアル 将ちゃんを護って
討ち死にならまだしも」







続くように各々が武器を手に茂々を囲み





「「「てめぇらと心中だけは御免こうむるぜ」」」





不敵な笑みを浮かべ、廊下から飛び降りて迫る
夜兎の群れへと対峙する





「相手は夜兎
あの軍勢とまともにやり合えば勝ち目はねぇ」


「ガラにもねぇ、やる前から弱気か」





タバコを咥え軽口を叩く土方へ


銀時もまた笑みを崩さず軽口を返す





「きこえなかったか、まともにやったらの話だ」





同時に神楽が10m以上の巨岩を持ち上げ





「ここに、まともな奴なんていんのかよ」


「ふんごォォォォォォォォォ!!」


降り立とうとする夜兎達のど真ん中へ投げつける





直撃は避けても転がり落ちる岩に巻き込まれ
半数以上が地へ叩き付けられ


大量の土煙の中でヒザをつく







そんな好機を、忠臣達は見逃さない






「違ぇねぇ この人数で夜兎とやりあう時点で

まともじゃねぇや





煙を縫って先駆けた銀時・近藤・土方の一閃で
数人の夜兎を薙ぎ払い





「走れェェェェ!!」





切り開かれた道を続こうと駆けだす茂々の足首を
倒れ伏す夜兎の一人がつかみ


更に頭上からもう二人が強襲する





が、足元の一人を新八が仕留めて引き剥がし





「将軍様、早く!!」





神楽とが残る二人を引き受けて
彼らを先へと進ませ、敵へと連撃を浴びせる





けれども夜兎二人はそれを腕で防ぎながら
彼女らの身体へ反撃を加え


硬直したその身体目がけ傘を打ち降ろす





そこへ駆け付けた近藤が

敵二人の背と胴を斬り払って防いだ





「立てェェェェェェ!!」





すかさず蹴りと斬撃が二人の夜兎を沈めるも
よろめく少女らへ


走るよう促す近藤にも新たな夜兎が接近する





懐まで近づいた一人の攻撃は耐えられても


背後に隠れるように追従するもう一人の傘は
防御が間に合わず直撃を喰らう





…それでも近藤は倒れる事無く

殴った夜兎の足をつかみ





「頑丈なのは、てめーらの専売特許じゃねぇよ」


右側の流血もいとわず、佇む一人へ向けて
足をつかんでいたもう一人を投げ当てた後に


刀で夜兎二人を貫いて


崖の淵にあった岩まで押し込んだ





渾身の力を込めた突進を受け


血を吐きながらも岩と味方に挟まれた夜兎は
死力を振り絞り、傘で近藤の頭部を狙うが





神楽の蹴りで岩ごと崖下へと蹴り飛ばされて落ちた





「立て」


「走るアル」







いまだ押し寄せる夜兎達を防ぐ銀時と土方だが


隙を突いて間を抜けた一人が、茂々と新八へ
迫るのを見過ごせず刀を投げて足止めした彼は


結果として対峙していた相手に傘で頭部を殴られる





「土方さん」





獲物を失い深手を負った土方へとどめを刺そうと
動く夜兎へ、銀時が横薙ぎに木刀を叩き付けるが


傘で防がれた直後


背にしていたもう一人の振りかぶった傘の
対処に間に合わず


一撃を頭部にもろに受けて吹き飛ぶ





その手から木刀が離れたのに気づいて


「銀さん!!」





叫んで彼の木刀へと向かう新八の目の前に


おぞましい笑みを浮かべた禿頭の夜兎が立ちはだかる





地を踏みしめ自らの木刀を振るう少年の決意を
踏みつぶすような一撃が迫り







「武人ならば喉を裂かれても動いてみるがいい」





次の瞬間、死角から滑り込んだ槍の刃に首を突いて
裂き切られて夜兎はあえなく倒れる





さん!」


「行け、新八!!」





頷いて二本の刀を拾い上げた新八と


茂々の投げたクナイが間に合い





傘を握る腕の動きを一瞬止められた夜兎二人を


血を流しながらも立ち上がり

武器を受け取った銀時と土方が討ち取った