車椅子に乗せた包帯姿の人形はそのままで
「ひとまず将軍様を護るためにも
わしらの里へ案内しよう」
お下げの女給こと"本物"の百地と
白装束の部下達に先導され
茂々の脇を固めながら、銀時達も進んでゆく
「あやめ殿も無事で何より」
「ええ…脇さんは?」
「生き残った護衛との連携を取るべく一時離脱した」
顔色一つ変えぬ報告に"そう"とだけ彼女は返す
―百地の手のモノを連れた将軍の到着により形成は逆転
『きっ、貴様らあぁぁぁぁぁぁ!!』
あがく藤林の拳は将軍に届くより前に何十もの鎖に阻まれ
『将軍の首を狙い各地に散った貴様の兵(みかた)は
もう どこにもいない』
入れ替わるように車椅子を押して前へ出た百地が
裏切った藤林を部隊ごと一網打尽にする策を
潜伏していた将軍にも担わせた事
そもそも身分を隠し伊賀に潜伏するよう
事前に将軍が殿中から連れ出されていた事を
銀時達に合流する少し前に 土方や近藤
そしてにも手短に当人の口から語られていた
『…影殿も委細承知か』
『うむ、よもや忍の里まで春雨の手に落ちると
思ってはおらなんだが…』
『気にやまれるな、甘言に乗る内通者も珍しくはない』
最後の足掻きとばかりに藤林が、口から吐き出した
クナイを車椅子の"百地"の額と首へ突き立てるが
伊賀流開祖の名は伊達でなく
『修行が足りぬ
これが本物の「忍砲(にんぽう)」ぞよ』
『そっちが本体だったんかいィィィィ!!』
百地は車椅子ごと人形を大砲へと変形させ
藤林を一撃で吹き飛ばし
衝撃の展開で肝を抜かれた万事屋トリオを
更に仰天させたのだった
第四訓 超展開の天丼
それからは特に襲撃もなく忍の里こと
聖地でもある隠れ里 不知火へ辿り着き
里を囲む切り立った崖に一際大きく据えられた
要塞の一室に七人は通された
「将ちゃんどこ行ったネ」
「厠だとよ、忍の連中もついてる」
「そうとも 忍の神 摩利支天が護るこの地なら
将軍の身も安全ぞよ、茶でも飲んでゆっくり休め」
告げて百地が人形の口から吐き出させた茶を
湯飲みに注ぎ、彼らの前へと振る舞う
「飲め 里特製の茶、忍茶ぞよ」
「かたじけない、頂こう「頂くなよ!」
ためらいなく口をつけるにツッコんでから
おずおずと新八が口を開く
「…あのすんません百地さん
それって…武器なんですよね人じゃないですよね」
「童(わっぱ)どもに茶は早かったか
ならばこれでどうぞよ」 「わぁココアアル!!」
「百地さん それ大丈夫なんですよね
本体アンタなんですよね」
人形の尻からココアを、両腕から茶や刀を飛び出させ
自在に操りながらも彼女は答える
「わしは傀儡術を極めし忍、機械人形を操りながら
機械人形に操られる者 即ちどちらも本体
二人合わせて百地乱破ぞよ」
「あのぉ…よく解んないんですけど
下手したらアナタの方が人形に見えるんですけど」
「おいまたキャラ被りの危機だぞ?どうする」
「また意味の分からぬことを、しかし本当に
よくできた機械人形だ…あの者達にも勝るとも劣らぬ」
「モモちゃんは外国の者達とも並べる力量を持っておる」
誇りながらも百地が無表情で操るモモちゃんに
興味本位で同じく無表情なが触れた
直後 間を置かず
彼女の心臓目がけ包帯だらけの拳が文字通り"飛んで"きた
「ロケットパンチまで出たアル!カッケー!!」
「いや何で!?
てゆうかさんどこ触ったらそうなっ…」
衝撃で仰向けに倒れた彼女に駆け寄る新八だが
既に意識と脈はない
「し、死んでる!」
「また三途ったアルか」
「なんか久々に三途ってんの見た気がするわー
最後に見たのどんぐらい前だっけ?」
「月どころか年またいで更新滞ったから
の久々三途落ち着くアル」
「落ち着く要素皆無ぅぅぅ!!」
もはや親の顔よりも見慣れた光景に銀時達共々
近藤と土方もくつろいで茶をすするが
「案ずるな、モモちゃんには介護機能もある
そして時には便器にもなる」
万能さアピールで見た目的にアレ過ぎる簡易トイレに
変形したのを目の当たりにして
思わず茶を吹き出し二人は厠へと
「オイ厠はここにあるぞよ、そちらにいっても
厠はない 命もない」
駆けだした廊下の足元が開いて、近藤と土方は
野太い悲鳴を上げながら落下していった
「あちこちに機械の罠が用意してある
下手に動かぬ方がいい「遅すぎないその警告!?」
「今まで厠に向かい帰って来た者はわしを含め数人
厠に入った途端突然ひとりでに捻じれた者もいるとの話も」
「どこの暗黒大陸!?」
「なる程 確かにここなら将軍も安全かもしれねぇな…
ってアレ?将軍て厠に行ったんだよn」
忍の要塞と百地が誇る機械仕掛けの罠も伊達ではなく
「将軍まっ先に捻じれてんぞォォォ!!」
「そこかァァ!!捻じれるってやっぱそこかァァ!!」
護衛の半数と護るべき将軍が、かつてない窮地に陥っていた
…ともあれ今いる七人以外の部隊が敵の手により壊滅され
将軍を京へ移送する計画が破綻した以上
百地はこの件から手を引くよう彼らへ告げる
「だからこそ私達がやらないで誰が将軍を護るネ」
「敵は一国家に匹敵する武力を持った連中ぞ
護る…そんな通常の考えでは 将軍は再び死ぬ」
引く気のない四人へ、百地は覚悟を問う
「そなたらにできるか、あの服部の小僧のように
将軍を殺す事が」
…それから淡々と語られたのは
伊賀が春雨に蹂躙されひと月が経ち、里が
暗殺を肯定する藤林と拒否する百地で二つに分かれ
内乱寸前の緊張状態にさらされていた折
拠点を江戸に移した服部を味方につけるべく全蔵を頼り
そこで暗殺の主犯が一橋公を擁する過激攘夷浪士
…高杉一派であると教えられた事
将軍が将軍であり続ける限り止まぬ敵の手を止め
将軍と伊賀 双方を護り戦禍を拡大せぬため
"将軍徳川茂々"を殺し ただの"徳川茂々"に戻す
…影武者の命をも使い、死を偽装し社会的に殺す事で
全てを護る策を授け自ら汚名を着る事を選んだ
服部 全蔵の決意と覚悟だった
「…あの野郎、最初からそのつもりだったのかよ」
「なるほど…影殿達や全蔵殿の素振りに得心がいった」
「お、復活したアルか」
ちろりと目だけで訪ねる銀時へ
「生憎 算段と決意がある事ぐらいしか分からなんだ
告げれぬ理由(ワケ)も得心が行った…が」
身を起こしながらも返すの表情は鉄面皮だが
「それでもやはりあやめ殿達には
言伝るべきだったと私は思う」
声音には少しの不満がにじんでいた
振り返ればコンビニで出会った際に
既に彼の意思は固く決まっていたのだと
彼女もまた気が付き…立ち上がり外へ飛び出していく
「さっちゃんさん!!」
出ていった猿飛にも呆然とする新八にも構わず
将軍の生存を知らせるな、と忠告する百地だが
「…奴等が
将軍の首とったくらいでおさまるタマだとでも?」
直感し立ち上がる銀時の言葉を裏付けるように
不知火へ春雨の戦艦が接近している報を配下が百地へと届け
遠くの空からも五隻の船が銀時達の目や
抜け出した猿飛や将軍に見える形で迫りつつあった
「将軍暗殺の偽装がバレた!?
こ…ここに将軍が匿われている事を…」
「いや服部の小僧がそんな下手はうつまい」
戸惑う新八達を他所に 銀時は言う
「よく見とけてめぇら、アレが奴だ」
将軍が死のうと、政権が変わろうと高杉は止まらない
「奴を止めてぇなら
息の根を 止めるしかねぇ」
先頭の旗艦のデッキにて煙管をふかす彼もまた
銀時の存在と刃を交える予感を確信していた
百地への礼もそこそこに、四人も動き出す
「とっとにかく将軍の所へ行かないと!
てゆうか近藤さんと土方さんどこまで落ちたんです!?」
「ゴリラどもはてめぇで何とかするだろ」
「それよりさっちゃんはどうするネ!」
「奴等の接近はあやめ殿も気づいていよう
私達は一刻も早く将軍殿と合流し」
言いつつが階段を飛ばして階下へ降りた瞬間
足元がバネのように跳ね上がり、打ち上げられた
その隙を逃さぬよう壁から丸太が飛んできて
横殴りに吹っ飛ばされたは落下地点の床に
開いた穴へと吸い込まれていった
「ここでもフラグ回収したァァ!!
怖すぎるだろこの里おォォォォォ!!」
「ほっときゃその内リスポーンされっから行くぞ」
要塞内での移動に万事屋トリオが手間取り
ちゃっかり彼女が合流して将軍の元へ
たどり着くまでの最中
『もしもーし阿伏兎、今どこにいる』
里に迫る春雨の、一隻のブリッジでは
船を降りて活動していた神威からの通信が入っていた
『オレがいない間に面白いこととかやってないよね』
「やってないやってない」
『シンスケと一緒に伊賀とかいってないよね』
「いってないいってない」
姫と沖田、ついでえ首を斬られた将軍の身体を探し
夜兎数人を引き連れ墜落地点へ赴いたものの
見つけたのは船と避難艇の 無残な残骸のみ
『この調子じゃ姫様もみーんな死んじゃったね』
自分と張り合える強者がいなくなった残念さを
露わにする神威と裏腹に、阿伏兎は内心安堵していたが
『とにかくオレもそっちいくから居場所教えてよ』
「いや怪我もしてるし、しばらくゆっくりした方が
いいんじゃないかな」
『いいよ じゃあこっからいくから』
「そっから来れるの!?」
通信側からモニターを割って空間を飛び越えようと
試みる、重傷のハズの笑顔の団長に冷汗をかく
どうにかシリアスの法則が乱れる前にモニターを消し
息を吐いた阿伏兎には、全蔵の不在と
首実験の時の彼の態度が"嫌な予感"として引っかかっていた
『船を止めよ いかなる者とてこの忍の聖地を
無断で踏み荒らす事は許さぬぞ』
警告を嘲笑い、高杉は背後へ現れていた全蔵へ呼びかける
「安心させてやったらどうだ、お友達を
オレ達ゃ将軍暗殺の一件の礼をしにきただけだとな」
「礼ならオレが受けよう
連中はロクに役に立たなかったただのボンクラさ」
「功に執着するタイプにゃ見えねぇが」
「将軍の首をとったのはオレだ
褒章に興味はねぇがこの技をもってなし遂げた仕事を
横取りされる覚えはねぇ…その、功罪もな」
彼もまた、気が付いていた
高杉一派が伊賀を取り込んだのは暗殺の罪を着せ
一橋公に滅ぼさせる事で彼の嫌疑を晴らし
次期将軍へ押し上げるスケープゴートの為だと
「ナメられたもんだぜ、服部 全蔵の名だけじゃ
その罪(とが)負うには足りねぇか」
「お前が全て負うと?」
刀や大砲の筒を自らへ向けられても
動じることなく全蔵は、かつての家康公と共に
伊賀越えを果たした先祖の功績を口走る
「ならば将軍が堕ちる時も地獄の供ぐらい
務めてやんのが末裔(オレ)の役目だろ」
「伊賀越えならぬ三途の川越えにしちゃあ
供が足りねぇって言ってんのさ」
振り返らず高杉が手をあげ、大砲が撃ち込まれる刹那
「地獄への供ならもうガン首揃ってるさ ここに」
呟かれたその一言の意味を
デッキに集った万斉達や戦艦に乗る全員は
戦艦全ての砲門から吹き上がる爆発と煙で知る
「これでてめーらのデカチンは使えねぇ」
火器封じの煙幕、火霧(ほぎり)で高杉達を
自らの領域へ引き込んだ彼は
「はてさて何人地獄に道連れにできるか」
不敵に佇む高杉へ距離を詰めた
「忍の国にようこそ」
派手な炎と煙は必死に駆ける猿飛にも
「この期に及んでは遠慮は無用ぞよ
服部の小僧を一人で死なせるな」
要塞にて、集った無数の配下へ命ずる百地にも
そして階段を降りてゆく茂々にもハッキリと見えていた
「どこへ行かれる、将軍殿」
「逃げているツラには見えないねぇ」
降りた階段の先にいた、銀時とに目を見張り
「将ちゃん、これ以上はいかせられないアル」
「どうかここは僕らに任せて早く避難してください」
階段を降りて背後へ辿り着いた新八と神楽に
気が付きながらも退くように説く
「解っている…皆が余のために戦ってくれているのは
だが…だが、これ以上
私のために人が死にゆくのは見ていられ…っ」
木刀の切っ先を茂々の真横へと突き立てて
「銀さん!!「じゃあ死ぬか全部ほっぽりだしてここで」
自らの為に死んだ者達の命を無碍にして楽になるか
死ぬ者達を踏み越えてでも生きるか
好きに選べと言い、銀時は真っ直ぐな目で続ける
「一ついえんのは将軍(アンタ)が将軍(アンタ)の
戦いから逃げようが オレ達はオレ達の戦いから
逃げるつもりはねぇって事さ」
出し抜けに炎を上げた戦艦の一つが
彼らのいる階段の側の崖へ突き刺さる形で落ち
衝撃で飛んでくる岩をとっさに避けるも
うちの一つが新八へと直撃する…かと思われたが
「ぱっつぁん!あぶ…」
茂々が投げ当てたクナイにより防がれる
「将軍、アンタ」
「昔…投げ方を教わった 御庭番衆に」
落ちたクナイを拾い、茂々は大切な友人を
…全蔵を死なせたくないと答えた
「将軍様…「皆の者、構えろ」
鋭いの言葉を合図に、崖に刺さった戦艦から
出て来た者達の気配に銀時達も遅れて気づく
「やれやれまた船がオシャカだ
やってくれるねぇ 服部 全蔵」
複数の夜兎を引き連れた阿伏兎もまた
疑っていた通り"本物の将軍の生存"と
銀時達に気づいたようだ
「本物の将軍の首 みーっけ」
間髪入れず茂々目がけ投げられた傘を
銀時が体当たりで庇う合間も
夜兎の軍勢は船から降りて彼らを追い始める
だがしかし忍の里も黙ってそれを許しはせず
阿伏兎や夜兎達の前へ、幾人もの白装束が向かい来る
「なる程、忍の国のリベンジってワケか」
眼前の忍達を沈めながら阿伏兎もまた
凶悪な笑みを浮かべて歩を進める
「忍に侍、この国最強の兵(つわもの)が
タッグ組んで宇宙最強に挑戦とは」
茂々を護る形で万事屋トリオが前を
が殿(しんがり)を務めて要塞の回廊をひた走る
「護れるか オレ達からこの国を!!」
かくして命懸けの鬼ごっこが始まった
…そんな伊賀の一大事の傍ら
残った護衛軍の面々は、姫と負傷した者達を
治療しながら安全な場所へと輸送していた
寝台に眠る治療室の姫と護衛達を
入口の松平と舞蔵は、静かに見つめている
「よくあの惨状の中 生きて帰った…北は全滅だ
姫を護り抜いてくれた事、感謝するぞ爺さん」
「いえ全ては、沖田殿のおかげにございます」
包帯を体に巻き、治療用の機器をつけ昏睡に
陥っている沖田は
深手を負ったままで船が沈む直前まで
舞蔵や姫達の脱出を手助けし
避難艇に細工をして追っ手を見事欺いた
「彼がいなければ我々は誰一人生き残れなかった」
「フン…あの総悟(ワルガキ)がな」
舞蔵の言葉へどこか皮肉気に答えながらも
松平は、百地づてで密かにもたらされた
全蔵の"大芝居"の裏付けを取る
「間違いねぇんだな?」
「はい あれは茂々様ではありません」
念の為、回収された亡骸を調べた舞蔵は断言する
「あるべきはずのものがございませんでした 傷が」
「傷?そんな話は聞いた事がねぇ」
松平が訝しむのも無理はない
亡き定々公の庇護下で次期将軍として育てられていた
茂々に、そんなモノを負う機があれば
問題にならないはずがない
「茂々様のみならず影まで度々街へ連れ出していた
アナタでもさすがにそれは知りますまい」
少しだけ柔らかにそう言ってから
ソレは自分と茂々、そして御庭番衆しか
知らない秘密なのだと舞蔵は続け
即座に己の言葉を否定する
「いえ、茂々様と御庭番衆の絆の証にありまする」