複数の忍を紛れ込ませ、作戦開始と同時に暗躍させた
鬼兵隊と春雨第七師団の軍勢は


ものの見事に一切合切の布陣を崩してゆく





「侍以外にもあんな強い奴等がいたなんて
オラ ワクワクすっぞ


「ワクワクしないで仲間だからね
また変な気起こすなよ団長」





忍達に蹂躙される船の様子を艦隊の主砲に座り込んで
眺めていた神威は"誰が将軍の首を取るか"を高杉と
勝負していると現状を楽しみながらも


ただ眺めているだけに徹していた





けれど将軍の妹・そよ姫が数人に追われながらも
船内に逃げ込んだ後


転がった手首を踏みつぶし、姫を引き連れ

刀を手に現れた沖田が刺客を切り伏せる様を目にして


どうにも我慢が利かなくなってしまったようで





「今なら飛べる気がするし、ちょっと行ってくるね」


「あっオイ待てすっとこどっこい!





阿伏兎が止めるのも聞かず、砲台から飛び降り


甲板で沖田と交戦する味方を軒並み踏みつぶして
笑顔のままで答える


「そんな顔で見ないでよ アンタの同類(なかま)さ」





現れしな足元の死体をあらかた片付け

なおも庇われる姫を片づけるよう告げる神威に対し


沖田はにじむ不快さもそこそこに淡々と答える





「オイ、能天気に四六時中傘さしてる奴は
宇宙共通イカれてんのかい」


「アンタも同じだろ 同じバカの目はごまかせないってね
アンタも本当は将軍の首とかどうでもいいんだろ」





目の前の相手を、血の匂いを嗅ぎつけてここへ来た
人殺し…死と隣り合わせの戦場で生を感じ


強者を捜していたのだと問われても 彼の表情は変わらない





「テメェみてぇなチンピラシータ探して
ボロ船うろつくぐれぇなら三途に釣りに出た方がマシでぃ」


「そいつぁつれないねー困ったもんだ
安心しなよ 悪党しか斬れないってんなら」





言いながらおもむろに神威が構えた傘の銃口が火を噴き


そよ姫が、その場に崩れ落ちる



「オレはとびきりの悪党だよ」







硝煙が銃口と…姫を穿つはずだった凶弾を
叩き切った沖田の刀にまといつく





「なら、当ててみな 次はここに





自らの心臓を指し示し


"はずせばテメェのどてっ腹に穴が開く"
と宇宙の悪党を自称した男へ宣言し





「地球のおまわり なめんな」


自称・地球のおまわりが口角を吊り上げ凶悪に笑う





それを合図に踏み出した 互いの獲物の欠けた切っ先が

両者の心臓から少しズレた胸の肉を浅く抉る











第三訓 忍の大立ち回りは日本のサブカルならでは











抉る直前で折れ飛んだ本来の切っ先が甲板に落ち


流れる蹴りを屈んでかわした沖田がクナイを
拾うも続く左足の一撃を避けきれず壁面に叩き付けられる


衝撃で転がった左腕と 血にまみれた左袖の辺りを一瞥し


起き上がるよりも腕の心配よりも、側に転がる
自らの刀の先へ伸ばした沖田の右手をクナイで縫いとめ


目を見開いた笑みで突進してきた神威が嬉々として
握りしめた右の拳を突き出した





…が その拳は相手に届かず


袖に隠していた左手の刀に突き返されて阻まれる


死体の腕と己の右手を犠牲に作り上げた隙を狙い

無理やり手の甲に刺さるクナイを抜き、それを武器に
迫る沖田を神威は 怯む事無く拳で迎える





直後…二人のいる辺りで大きな爆炎が巻き起こった









神威と沖田が甲板で交戦を繰り広げる前後


激しい爆発を繰り返す船内の、忍と鬼兵隊による
侵略行為も着々と終わりを迎え





「きっ…貴様らには将軍様の首はとれんぞ…」


「そうかい そんなもんハナから大して興味ねぇよ」





黒い忍装束に身を包む高杉の手により





「オレ達が狙っていたのは首じゃねぇ
てめぇら将軍の手足だよ…あたりもはずれも
根こそぎ引き抜きゃ勝手に首も落ちるだろ」



将軍の影武者がまた一人屠られる





…そして峠での襲撃を受けた影武者(ぎんとき)達も


自分達を包囲する多勢の忍達を迎撃するも
護衛の者達や近藤らと分散させられ、苦戦を強いられていた





「くっそ、こいつらキリがねぇ!」


「こいつら…まさか伊賀の連中じゃ…!」





刀を振るう彼らに負けず、単身クナイを振るう脇の
背後から一人の忍が忍刀を突き入れる


が その凶刃を下からの突きで折り飛ばし


合間に入ったが槍の刃を振るい相手を葬り去る


薫殿!お主は先に!」


「わかったわん!」





彼女が立ち去るのを確認し、向かい来る相手を蹴散らし
自分も銀時達の元へ急ごうと林を駆け抜ける最中


スレスレで鼻先を掠めるクナイに足を止め


振り返ったは、白い装束に身を包んだ
忍の一団に紛れクナイを放った一人へ槍先を向け





その緑眼を…すっと眇める





「その姿…やはりお主」


「どうやら主の目は誤魔化せぬようじゃ、





己を囲む忍達に構わず、表情こそ変えぬものの

彼女はどこか咎めるような口調で訪ねる





知っていたのか、全蔵殿も…あの者達も」


「ああ」


「ならばこの者達を、お主を動かしているのは…」





問いかけに…対峙した者は首を一つ縦に振った





「察しの通り、服部全蔵だ」









空の上で爆ぜる船上にて、一人残された舞蔵は


同じく一人残され沖田の名を呼ぶ そよ姫を
見つけてそちらへと駆け寄る





ごっご無事でしたか!!早くお逃げください
あちこちで誘爆が…避難邸で脱出を…!!」


「待って、沖田さんが爆発に巻き込まれて
それに兄上様がまだ…!!





兄を案じるその問いに…彼は答えられず押し黙る





「G嫌 なんで何も…」





尚も問う彼女の首を叩いて黙らせ、姫を支える
舞蔵へ血まみれの沖田が言う





「モタモタしてねぇでさっさと連れていってもらえる」


「おっ沖田殿!!」


早くいけ、一人でも手に余る化物が十人
何分時間が稼げるか解らねぇぜ」





戦闘と爆発の余波で 拾った刀を杖に身体を支えた
沖田の言葉の合間に


降り立った夜兎達の先頭にいた阿伏兎が
倒れこんでいる神威の側に屈んで軽く呼びかける





おーい団長 だから勝手なマネはやめろっつったろ」





爆発の際 腹を船の配管らしき部品に貫かれているにも
関わらず神威は何事もなく起き上がる





「もろい船だな 折角いいところだったのに
爆発の邪魔がなければ…」


ああ いい所だった、あとちょっとズレてたら
ハタ迷惑なすっとこどっこいともお別れだったんだが」





ソレで死んでねぇとかどこぞの作務衣娘かよ、と内心思いつつ


沖田との戦いを再開しようとする神威を
"こんな船と心中はごめんだ"と引き留めた阿伏兎が続ける


「それにもう…片付いたさ





傘を手に迫る九人の夜兎を 迎え撃つは沖田ただ一人


その場にいれば誰もが悲惨な結末しか
想像できないであろう状況は、しかし訪れる事は無かった







そのへんにしときな もう充分だろ」





ちょうど沖田の背後に位置する艦内への入口の瓦屋根で


彼らを見下ろし呼びかけたた全蔵が切り離した
将軍の首を掲げて見せた為、全員の視線がそちらに集う





「お前達の主君は もう死んだ
お前達の護るべきものは もうない」



「流石は仕事が早いねぇ、他の忍どもとは格が違う





と、将軍暗殺計画の要である伊賀衆を束ねる頭目の
一人を褒める神威だが


甲板に着地した当人は不満げに夜兎の頭目二人を睨む





「伊賀を牛耳る三大上忍といっても服部(ウチ)は
とっくに江戸(シティー)派で通ってんだ」


他の連中の力を借りずとも、自分一人送り込めば
済んだと続ける全蔵を


大した自信だと傘先を油断なく向けつつ阿伏兎が嗤う











…全蔵曰く"烏合の衆"と称された伊賀衆の放つ
クナイの雨を回避し


カツラと羽織を縫い付けた木を足場に
空中へ舞った銀時と


合流した新八と神楽が追手を蹴散らした辺りで





「銀ちゃん」 「こいつら…」





樹上からの更なる敵襲をクナイで沈めて猿飛が言う





「周囲をかためてた斥侯部隊が皆やられてる
あの技、間違いない…私達と同じ伊賀流(もの)

コイツら、伊賀衆よ





この近くにある忍の里(くに)…伊賀の忍のうち


伊賀越えの功により家康公に召し抱えられ
江戸に根を張った"分派"の御庭番と違い


里に残る伊賀者には将軍家への忠誠心は無く


金と雇主によっては、同胞でも殺し合う
職業傭兵集団が将軍の首を狩るため動き出したと聞き





「そんな…将軍を救った人達が将軍の首を狙うなんて」


忍者総出で歓迎会たぁ 豪気な持て成しもあったもんだ」





動揺を隠せずにいる新八達と逃げ回りながら彼女は


今もなお攻撃の手を緩めぬ忍達を動かす者達の
正体について思考を巡らす





「近藤さん達、無事かなぁ?」


「大丈夫ヨ 歩く死亡フラグのがいるなら
逆にきっとフラグが折れて」


逃亡と思考に気を取られていた新八と神楽は


足元に絡みつく鎖と、地面からはみ出し足首を
掴む足とに気づかず囚われた






振り返った銀時と猿飛が見たのは





獅子のようなたてがみと 一体化したヒゲを持ち


首だけを残し地面へ埋め込まれた神楽と入れ替わりで
仁王立ちする藤林家当主・藤林 鎧門


女給に押された車椅子に乗り ミイラのような
包帯だらけの口から吐き出した鎖で


新八を樹上へ逆さ吊りした百地家当主・百地 乱破





伊賀を取り仕切る三大上忍の、頭目二人だった





「敵に忍がついているのをしった時から嫌な予感はしてた
…あなた達は、全蔵は一体 何を企んでいるの





忍に囲まれ 銀時と背中合わせで二人を睨む猿飛へ


吊られた新八から視線を外さず百地は返す





「忍はただ黙して任務をこなすもの、言えるのは
将軍を差し出さねばこの童(わっぱ)らは死ぬ
それだけぞよ」


「百地 はっきり申してやればよい
御庭番(きさまら)がいては我等の立身の邪魔になると





…笠をかぶる神楽の頭に乗せた足へ荷重をかけ


黙れと諌める百地を無視し、彼らへ言い聞かせるように


藤林は半年前 伊賀の空に砲弾の雨を降らせ
"傘を携えた異装の集団"が里を襲ったと話した





忍の技も通じぬ兵(つわもの)は言う





従わねば伊賀を根絶やし里を焼き払うが


将軍暗殺に手を貸せば新政権樹立後、幕府に召し抱え
新しき御庭番として雇用する…と







「そんな安い甘言に乗せられて!?」


詰る猿飛に対し 涼しい顔で御庭番設立の逸話を
引き合いに出す藤林の背後で


視線をかわし、白装束が数人動く





「真に恐ろしきは貴様らの頭 服部の小僧よ

元御庭番でありながら現政権に早急に見切りをつけ
既に奴らの懐に潜り込んでおった」





端々で服部への対抗心と立身の野心をたぎらせ
将軍の首を上げんと気炎を上げる藤林の言を


忍経由で女給から耳打ちされた百地が遮る





今しらせがあった 服部の小僧が将軍の首をとった
残念だったの藤林」





信じられない、と言いたげに見開かれる銀時達の瞳を


取り囲む忍達はただただ黙して見つめていた







…件の首を差し出し、下手人である全蔵は言う





「検分してくれて構わねぇ、間違いなく将軍
徳川茂々の首だ…元御庭番のオレが言うんだ間違いねぇ」


「元御庭番だからこそきいてんのさ
本当に 元主君を殺れたんだろうな」



将軍の務めとは民と国を護ること

そう言ったのは将軍(やつ)さ…その首一つで
無駄な戦争(けんか)が止められんなら本望だろう」






瀕死の沖田が、彼のその言葉をせせら笑う





無駄な戦争(けんか)?主君と御庭番(なかま)と
共に戦いもしねぇで 結局何一つ護れなかった奴が
ぬかすじゃねぇか」





それに答えず船の縁へ足をかけた全蔵が背中越しに

阿伏兎へ、全部隊へ"仕事は終わった"と伝えるよう告げる





「それから、仕事はスマートにこなすもんだってな」


「待ちやがれぇ!!」





横付けされた別の船へ飛び乗る全蔵を追う沖田だが


前方での爆発で再度壁へ叩き付けられてへたり込み
更に、大きく走った亀裂により物理的にも阻まれてしまう





「そろそろか…ゆくぞ」 「奴は?」


捨ておけ、もう戦う理由さえ失くした連中だ」







船と沈む運命の侍に興味を失くし立ち去る夜兎達の中


神威だけが振り返り、腹に刺さった配管をようやく
引き抜くと投げる素振りを見せて





彼と、歩みを止めた阿伏兎の真横を走った
一本の刀が深々と壁に刺さる






「やれやれ、あっちのバカもこっちのバカも
まだ殺る気マンマンのツラだ」






顔面の真横に突き立つ配管も気にせず沖田は笑う





「どてっ腹に穴開いてんのに元気たぁ
三つ編みの奴てのは宇宙共通で生き汚ぇのかぃ?」


「オレはこれぐらいじゃ死なないし、てーかもしかして
アンタもあの子と知り合い?ちゃんだっけ」


「常々尻軽だとは思っちゃいたが、アイツも
こんなイカレポンチとも付き合うたぁ趣味の悪い」


「その点は同感かなー股は顔面共々固そうだけど
あの子も結構面白いよね?」


「まあいい…戦う理由なんざ、てめぇで決める

地球には弔い合戦ってもんがある事
覚えときな 悪党



「ああ覚えとくよ おまわりさん」





炎と煙と爆発がいまだに収まらず、横半分に割れた船は
ついに自重に耐え切れず沈んでゆく











手柄を取られた、と揶揄されても


焦りを見せず藤林は足下の神楽を踏み潰し
辺りの地面を血に染めながら続ける





者ども、こ奴等にもう用はない!!一兵でも多く
将軍勢力を討ちとり手柄をあげ…」


周囲の忍へ呼びかけた直後に不自然に身体が傾き


見下ろした藤林は…斬り飛ばされて血を噴く左足

無事だった神楽の生首に気づき愕然とした





「なっ…「折角の指示 悪いんだが
オレ達ゃ てめぇの命令聞く義理はねぇよ


「トッ トシぃぃぃ!!「誰がトシだ」






忍に扮し背後より藤林に接近し、神楽を助けた
土方と同じタイミングで


同じ格好をした近藤も鎖を斬って新八を解放する





「違いねぇ、オレ達をアゴで使えるのは
天下で一人だけだ」



「きっ貴様ら!!いつの間に潜り込んでおったのだ…!!
だが甘いわ!足を落とした程度でワシが怯むとっ!?






体勢も崩さず両腕から取り出したクナイを


背後と足下へ投げつける胆力と速度は曲がりなりにも
三大上忍の一人に相応しいモノがあった


…が、それも飛び来た斬撃に弾かれて落とされ





「そこを退け」


息つく間もなく繰り出される
忍装束のの刺突を避けるまでの話だ





三人から距離を取った藤林は、欠けた左足によって
片膝をついた姿勢で包囲する部下達へ命ずる





何をしている!!早く殺れぇぇ!!
目の前に賊がいるのが見えんか!!
百地 貴様も…」


そこで黒目のみの向けた忍頭は再び気づく





他の忍達も…車椅子に座する もう一人の頭も
微動だにしていない事に





三大上忍中心の合議制となっている伊賀で
対等の立場である百地が


「わしも 敵と内通し伊賀に引き入れた
裏切り者の命令を聞く義理はないぞよ」


「もっ…百地!!まさか貴様!!」


「頼み事なら別だが、それも既に請け負っておってな」





この場で一番身分の高い者に指揮ってもらう事を
提案すると


白い忍装束の軍勢を割った一人の男が


藤林と対面し、刀の先を向けて凛然と応える





「将軍の名のもとに命令をくだす 賊を討て」





間髪入れぬクナイの嵐と


死んだはずの将軍の出現に藤林だけでなく
銀時達四人も驚きを隠せなかった