"当たり前"なんてものは、良かれ悪しかれいずれ崩れる





「時々思う 天下国家の事など何もかも忘れ
こうしていつまでも妹のいれた不味い茶を呆けた顔で
飲んでいられたらと…」





先代将軍・定々の謀殺を契機として


政権は荒れ 現将軍・茂々の身辺にも徐々に
不穏な影が差し始めていた





将軍暗殺計画ねぇ」





茶碗に仕込まれた毒を見抜いたさっちゃんは


後日 コンビニにて先代により解体された
御庭番の再招集を頭目であった全蔵へと伝えるも


相変わらずジャンプと自らの技を示す事にしか興味がなく





「忍者ってな少年漫画を地でいくもんだ、っ
あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛


「少年漫画 痔で染めてる奴に言われたかないわよ」


護衛よりも暗殺に関心を持つ彼に愛想を尽かす







クナイを尻に見舞って立ち去った彼女を見送り





「猿飛(アイツ)に伝えておいてくれ

似合わねぇマネして命を無駄にすんなって」





入れ替わるようにして隣でアダルト雑誌を読み始めた
銀時へジャンプを渡し、全蔵もコンビニを後にする





ダルさを前面に押し出した銀時の表情は


会計を済ませてコンビニを出てゆく時も





「こんな所にいたか、探したぞ銀時」


側頭部に刺さるクナイなど意に介さぬ鉄面皮を携えた
が現れた時も変わらない





え?お前それでずっとうろついてたの?
うっは恥っず、とりあえずソレ取んなさい頭のソレ」


「そんな事より今宵 時間はあるか?」


ねぇ聞いてる?ソレ取ってくんない頭に刺さってるソレ
矢ガモ女の同類とか思われたくないんだけど」


「質問に応えぬか」


「まず自分を顧みろ話はそれからだ」











第一訓 時は無情に過ぎるモンです











…すっかりと日も暮れて満月が顔を覗かせる夜半





「いいかコイツは密命だ 口外する事は許さねぇ
てめぇらには御庭番衆と組んで極秘任務に当たってもらう





暗殺の魔の手に備え、信頼のおける相手を自宅へと
呼び出した松平からの命令が大広間に響く





「このまま江戸にいれば将ちゃんは間違いなく暗殺される!!」


「アナタどうしたの暗殺って」


「すみません奥さん、酔っ払っちゃって
もーとっつぁん夜中なんだから声のトーン落とし」


「最早殿中とて政敵だらけで安全とは言えねぇ!!
下手人はオレが捜す!!京の帝の庇護をあおげぇ!!」



いやだから声デケェって!極秘任務なのに声デケェ!!」





お構いなしにテンション上げて内容叫びまくってる上司に


止まらぬ冷や汗を流しながらも、襖の向こうで
不安げにしていた奥方をなだめた近藤が


つられて声を張り上げる土方を取りなして座り直す





「とにかく決行は明日だからケツ引き締めてかかれテメーら」


マジで!?
ま…待てよ将軍様連れ出すって一体どうやって」


「そもそもこの状況で将軍を動かすのは危険すぎる
計画が露見したらどうする 将軍不在を政敵に付け込まれたら」





当然の指摘に対し、松平が用意した策は


御庭番衆の変装による影武者作戦だったのだが





「つまり将軍の代わりにこの影を残していけば
将軍出奔の事実は偽装できる」


「いや バレるだろぉぉぉぉ!!」





二人の前へ現れた影武者は、顔は瓜二つでも

松平の腰の高さぐらいの身の丈しかなかった





「心配すんな、よしんばこれで出奔がバレたとしても
さらに奥の手をうつ 京に向かう本隊とは別に向かう影を
用意し敵をかく乱する…こんな具合にな」





控えていた次の影武者は背丈もまともだったが





「今度はまともだ ちゃんとした征夷大将軍だ」


と思ったらどこ征夷大将軍にしてんだあぁ!
そこ足軽でいいから欲張んなくていいから」


「さらに東へ向かう影も用意する」


オイぃぃぃ下の征夷大将軍 東に向かっただけぇぇぇ!!
帰ってこい!!一旦帰ってこい」






ある一点を中心に、変装の方向性がどんどんズレてゆき





「とにかくいっぱい影を用意する「将軍んんんんんんん!!」


最終的にモザイク処理された棒状の物体
着ぐるみが広間へ雪崩れこんだため土方の不安が加速する





何考えてんだてめぇら!!それでもホントに忍か!!」





思わず一番近くにいたモザイクぐるみを殴れば





「忍じゃない、征夷大将軍だ」


「おっよく解ったな それが本物の将ちゃんだ」


「(将軍かよぉぉぉぉぉぉぉ!!)」





刺客を警戒し一時的に避難していた当人だったので
倍の冷や汗を流して謝る土方





「謝る事はない私が征夷大将軍だ」


「なんで姫様まで征夷大将軍になってんだぁぁぁ!!」


茂々の隣にいたモザそよ姫がそう返したのを皮切りに

他のモザぐるみも一斉に並んで自らが将軍だと主張を始める





「みんな心まで将軍になりきってる これが影武者というものだ」


「拙者が征夷大将軍「余が征夷大将軍d「私が征夷大将軍…
征夷大将軍とは何だろうか?」


「我が征夷大将軍だ「吾輩が三十万四代目征夷大将軍だ」


「カゲ汁ブシャァァァ!!」


後半キャラブレブレじゃねぇか!!カゲ汁って何だぁ!!

こういう時こそアイツらの技術力(ちから)借りて
それらしい影武者にしたてろよぉぉぉ!!」


「しょうがねーだろぃ、あちらさんも
メンドくせー事情で込み入ってんだからよぉ」





件の金髪の英雄と彼の傘下である外人部隊は少し前から
江戸を離れ、遠い異国の地で事案解決に励んでいる







忌々しげに舌打ちをしてモザイク影武者軍団の後列を眺め


…土方は、その四名の顔が知った相手であることに気づく





「っていうか…オイ…どっかで会わなかったかカゲッシー


「気のせいであろう」


「それ完全に無理あるからちゃん、つか君まで
そんなカッコしなくても」


「成り行きだ「納得できるかバカ娘ぇぇぇ!!」





能面着ぐるみへ最もな台詞を吐いた直後





「さっきから黙って聞いていればタメ語とは無礼じゃぞ
影とはいえ余は将軍 敵にバレぬよう将軍同等の扱いをせんか」


「いや正体既にバレバレだろーが!!」


万事屋三名を始めたモザ武者軍団が土方を囲んで蹴りまくっていた







と、ぐるんでない方の影武者の一人が変装を解く





「銀…さん?なんで…なんでこんな所に
もしかして私を…助けにきてくれたのねぇ!!


「その身体で近寄ってくんなぁぁぁ!!」





一部にモザイクをくっつけたまま 変装を解いたさっちゃんは
銀時…ではなく将軍へと抱きついた





「カゲ汁ブシャァァァァ!!」


「カゲ汁出さないでもらえます!?」


「マヨ殿カゲ汁とは「オレが知るか聞くなそんなもん!!」





全蔵に頼まれていた銀時はもとより





「そ…そなたらはまさか…余のために」


「兄上様がもう一度会いたいって言ってたから」


「姫様より賜ったクナイ文を言伝した次第」


さんから将軍様のピンチときき
いてもたってもいられず来てしまいました」


「前は私達が助けてもらったから今度は私達の番ネ!!」





繋いだ縁により、残る三人もまた茂々の力になろうと
影武者作戦に参加した事を知り


彼と周囲の影武者達は…熱くなる目頭を押さえ





「カッ…カゲ汁ブシャァァ


全員で着ぐるみの頭頂部から謎の液体を噴射した





「いやちょっと待ってください、何かいい話風味っぽいけど
こいつらホントに連れてくつもりですか?」





極秘のハズが色々ダダ漏れだと指摘する土方だが


万事屋達と将軍兄妹の人情味あふれるやり取りに

将軍だけでなく、近藤もすっかりとほだされていた





「まあいいじゃねぇかトシ ゴリ汁ブシャァァ!!


「ゴリ汁って何」


「トシ汁ブシャァァァ「オイ誰だ今勝手にトシ汁出した奴!!」


「ええと…私が出せるのは斬撃なのだが」


「いや対抗しなくていいですから、影武者減らす気ですか」


「汁の出し方が分かんないならおじさんが手伝っ
「松平公ぅぅ!それ完全にアウトですから!!」









とにもかくにも翌日に備え 集合場所などを取り決めて

全員 明日の作戦に備えて解散する





「三途に寄り道して遅れんなヨ」


「承知している」





あまりシャレになりそうもない挨拶をかわして

万事屋トリオと別れたが夜道を行く途中





人気のない通りの角の手前で ふと足を止める


「…用向きは何だ?





すっ、と彼女の左斜め後ろの軒下の影から
湧き出すようにして全蔵が姿を現す





「なぁに、単に通りかかっただけだ」





立ち止まったその場で向き直り 平素の無表情で彼女は言う





「銀時から聞いたが…あやめ殿への言伝を頼むならば
自ら将軍殿の元へ戻ればよかろう」


「護衛より暗殺の方が燃える性質でね」





昔から忠誠心も協調性も信念もなく、ただただ
己の技のみを信ずる忍はうすら笑うが


その笑みを 彼女は曇りのない緑眼で見つめている





「オレと殺りあってでも止めようとか思ってんなら」


「いいや案じているだけだ、お主もあやめ殿も
それから…将軍殿達も」





最後の一言に 僅かながら
前髪に隠れた全蔵の表情が変化する





「さして長い付き合いでもねぇクセに人のいいこって」


「護るべき主君であり、そよ姫殿の兄上でもあるゆえ」





さらりとそう答えるが 姫の為に城内へ
警備の目を掻い潜り潜り込んでいる事や


刺客と間違えられて三途を渡りかける話なども


人づてで聞き知っている彼は、ため息交じりに
潜んでいた影へ再び身を沈める





「お前がそうであるように…オレはオレの務めを果たすだけさ





…去り際に、その一言だけを呟いて









一夜明けた翌日 極秘任務開始のため


昨夜松平邸に集まった面々は三度笠で面体を隠して
大名行列の順路となる街道の側の森に集う





本物の将軍とそよ姫は、既に幕府御用達の貨物船の荷に紛れ
空から京へと向かっており


あれから厳選された三名の影武者のうち


一人は敵の目を留める為に江戸へ、一人は将軍出奔が
露見した場合に備えての陽動で海路を北に


そして残る一人が陽動のために陸路で西を目指す手筈だが





「陽動とゆうより影武者を餌に敵を引きつけ
獲物を腹から食い破る罠…それがてめーらだ」






将軍を狙う暗殺者を防ぎ、必ず捕まえる


その意思の元 松平は役職を問わず手練れを集め

御庭番衆による二重の構えを配する





「ここにいる連中は立場も身分もバラバラ
だが利害を越えて将軍のために集まってくれた連中だ」


集う者達はただただ黙してその言葉を聞く





警察庁長官の身分を自ら投げ捨て"将ちゃんの悪友"として
危険極まりない任務に臨むと松平と同じく


身分の貴賤も関係なく茂々のために集まり





「主君も家臣も関係ねぇ
ただ一人の将軍(ダチこう)のために 共に戦おう」



護るべく戦う意思を宿した彼らは





「必ず帰ってこい…あの将軍(おとこ)の国で再び会おう





最も敵の襲撃を受ける可能性の高い死地へ身を投じ


全員無事に戻る事を胸の裡で誓う







「頼んだぞダチ公ども そして影武者(かげ)よ」





そこで松平公の言葉と視線が駕籠へと向けられ

自然と周囲の者達の意識もそちらへと集まってゆく


それと同時に駕籠の戸が内側から開けられ





「あの、どーでもいいけど早くしてくんない
こん中スゲェ暑いんだけど


影武者役の銀時が、将軍用のカツラから自前の銀髪パーマを
はみ出させつつうんざりしたような口調でそう言った





「銀時 もう少し辛抱した方が」


の一声で我に返った土方と近藤は


迷うことなく全力で駕籠ごと影武者を崖へ突き落す





「なんでお前が影だあぁぁぁぁぁ!!」


いや死ぬコレ!影武者なのに味方に殺されるぅぅ!!」







…気を取り直し、即座に回収された駕籠に影武者を乗せて
一同は陸路を西に歩み始める





「影武者は敵の襲撃の際は 真っ先に狙われる危険な役割

そんな危ない役目は私に任せられないって銀さんが…」





頬に手を当て乙女の顔で言うさっちゃんへ


駕籠の戸を開け様に銀時はこう言う


「おいメス豚 キン○ダム読み終わったら次テラフォー○ーズ
全巻3分以内に買ってこい、できなきゃ打ち首な」


「どう見てもだらける目的だろうが!!」





バレバレな偽物の護衛に憤る真選組の二人は





「そち達はバカなのかえ余はお忍びで京に向かっているのじゃぞ
だったら多少の変装は当たり前じゃろうに」


「変装どころか全く別の将軍出てきたけどぉぉ!!」


「敵をだますのであればそなたらも一芝居うたねば
将軍に対してそんなに頭の高い家臣がいるか」


「オイぃぃぃ一体何人将軍入ってんだこの駕籠!!」


「神楽と新八も入ると言いだしたから三人だな」


「律儀に答えんな槍ムスメぇぇ!中どうなってんだ!!」


「しらねぇのか将軍っつったら参勤交代シフト制だろ
バカヤロー「参勤交代そういう意味じゃねぇよバカヤロー!!」





中から次々と顔を出す影武者トリオ+αによって
更に煽られ、思わずこう口走ってしまった





「上等だよ!てめぇみたいなバカ殿
オレが暗殺してやらぁ!!」






次の瞬間





頭上へ降り注いだクナイの雨と突き付けられた
刀剣の包囲網により 二人は駕籠を背に追い詰められる








「もう一度きくわよ、将軍を暗殺…」


「するワケないじゃないっすか〜!!」


「ジョークっすよジョーク!!ブラックジョーク!!」





ひたすらに焦る彼らへ さっちゃんは冷たい声音で告げる





「気をつけた方がいいわよ、御庭番衆も御徒衆も
異変があれば即座に動けるよう常時臨戦態勢だから」





たとえ影武者であろうと手出しすれば蜂の巣、と釘を刺され





「思い知ったか、これからは口のきき方に気をつけろ下僕ども
「お主も刺さっているが平気か?」ちょ空気読めお前は


自らに刺さるクナイを抜きつつも銀時は得意げな顔で

包囲から解放された土方らへ命令を下す





「とりあえず罰としててめーらが駕籠かつげ
ちょっとでも揺らしたら打ち首な」






悪鬼の形相で駕籠棒を担ぐ二人を目にして


周囲を警戒しつつ、は言葉に呆れを乗せる





「…少々図に乗りすぎではなかろうか?」


「何言ってるのよ、銀さんが私のために身体を張って
影武者を引き受けてくれてるんだからあれぐらい当然でしょ?」


「そう思ってんのはアンタだけよん」





先行き怪しき影武者作戦は 始まったばかり…








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あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:五時前になっちゃいましたが、拍手での
宣言通り三月末から将軍暗殺篇始めます


神威:アレ?オレらのパート丸々カット?


狐狗狸:いやあの次でちゃんと回収しますんで
首根っこつかむのは止めて…苦しい…


さっちゃん:てゆうか全蔵アンタ何してんのよ


全蔵:だから通りすがっただけだってーの
つか、今回かなり長丁場なんだが大丈夫なのか?


神楽:まぁどんだけ書くの遅○でも書き始めたら
更新だけはするバ管理人だから心配ないネ


新八:伏字それワザと?それとここのあとがきが
区切りつくまでしばらく出ない事を言っとかないと


そよ姫:あ、いるんですねその告知


銀時:ぶっちゃけ管理人楽してーだけだろ
まぁこのやり取りいい加減みんな飽き飽きしてんだけどな


土方:新たなスタイルの模索って言っといてやれよ
そこはぁぁぁぁ!!




次回は前日の敵側ターンから始まります


様 読んでいただきありがとうございました!