一連の騒ぎにより、破壊された通りの修復作業や
逃げ出した二人の指名手配を終え


彼らは真撰組屯所の一室に集められていた





「槍ムスメとアンタが起こした騒ぎと
ついでに総悟の処分は後で決めるとして、だ」


「それでそのー…あなた方は何者ですかな?」





なるたけ友好的に訊ねる近藤に、トカゲ男は
姿勢を正して礼儀正しく頭を下げる





「申し遅れました…私、歩執守星・執事頭の
レチマと申します こちらは妻のマリエズです」


その言葉に鎧武者っぽい巨躯が小さく頷く







瞬間、ほぼ全員の時が凍りついた





『え゛え゛え゛え゛え゛!?奥さんんんん!?』


「え?コレ女なの?どーみてもゼイラm」


「妻は寡黙につき余計な事を申さないのを
美徳としております…何か他に質問は?





むしろあり過ぎて困る所ではあるが、彼の機嫌が
急降下しているのと色々想像するのが怖くて


全員は喉元に留まる言葉を飲み込んだ











第九訓 ウツな不条理は高レベルのトラウマ











身分証らしき手帳を掲示した後、彼は居住まいを
正しながら静かに告げる





「さて本題に入りますが私達は歩執守特務により
特務管権限を用いて江戸へと参りました」


歩執守って言やぁ…昨今内乱が
鎮圧されたばかりの友好惑星国家じゃねぇか」





土方の一言により、新八も遅れて気付く





「たしか色々な資源や技術が、江戸にも
輸入されている所ですよね?」


「あ…ボクも名前だけは聞いたことあります」


「そいで内乱終結直後で忙しいハズの星から
ワザワザ江戸に何の用でぃ?」


「…その内乱が始まるよりも少し手前

行方不明になられた王子を探しに参ったのですよ」







調べにより脱出ポッドが二機、地球の日本に向け
射出されていた事実を突き止めたものの


王が臥した事により国政が悪化し


頻発する内乱が収まるまで 長年の間

国を保ち続けなければならなかった





「その為、王が持ち直し内乱が収まりし今!
王子を見つけ出し保護せねばならないのです!!」



と熱く語り続ける使命感高きトカゲ特務官は


江戸に到着し、すぐさま現地の警察組織に連絡し

内密に協力を依頼しつつその場を
拠点としての情報収集


王子と、共にいるはずの"もう一人"の捜索
開始しようとしていたらしい





「…しかし妻がどこかへ消え その上
"星の気配"を感知したものでいてもたっても」


「ちょい待つネ、なにアルか"星の気配"て」


「歩執守では王族かそれに類する種族のみ
"星の気配"と呼ばれる特殊な波長を発します」





もっとも、感じ取れるのはごく僅か程度の
種族ですが…と少々誇らしげに執事は言う





「ともあれ奴らが王子を手にかけるより前に
お守りしようとした所、邪魔されましてね


爬虫類特有の眼光に竦まぬのはどちらもだが

謝ったのは、だけであった





「それはすまなんだ…しかし何故ゆえ
離れた星の者が毒を用いる程、有守に恨みを?」





彼女へ注ぐ目つきは鋭いまま、彼は言う





「内乱の際、伏木と名乗る有守流の使い手が
何人もの同胞達を殺めたもので…あと毒は
ほぼ一日で抜ける弱麻痺性程度なのでご心配なく」


「そうか」


「「納得早いよ(さん・ちゃん)!?」」


「それよりさっきのイロモノ連中はなにアルか?」


「…アレは殺取(アヤトリ)と呼ばれた非道で
悪質な賞金稼ぎ程度の連中です、何処で聞いたか
王子のお命を狙っておるのですよ」


「「い、!?」」





物騒な単語に、二人が飛び上がる程青ざめる





「回りくでーな、つまりお宅らアレか?
こいつらのどっちかがポコ○ン星王子だと」


「歩執守です侮辱は許しません」





冗談交じりに言う銀時へ睨みを利かせてから


「"星の気配"を色濃く放ち、王の面影も強い
長らくお探ししましたぞ…王子様





レチマとマリエズが 唯碗の足元にひざまずく





本気としか思えないその態度に全員が驚き


大柄な少年はただ胸元を握り締めるのみ







ようやく沈黙を裂いたのは、啓一だった





「なっ…んなワケねーだろトカゲオヤジ!
こいつはオレの子分なんだよ!」


「これまで何を聞いていたのですかアナタ
言葉を慎みなさい にしてもアナタまで
"星の気配"を持っているのはどういう…?」


「そんなの知らねーよバーカ!」


「ダメだよケイイチ君…あの、ボクなんかが
王子だなんてなにかのマチガイじゃ…」


その様な事は決してございません!
私の誇りと名誉にかけて断言いたします!!」



「オイオイマジか、ややこしい事になってんな」





沖田もまた呆れ気味に口を開いた





「こういう時は保護者に聞いた方が
手っ取り早いでさ つーわけで旦那、説明を」


「いやだから預かりなんだってコイツらは!」







頭を掻きながらも渋々銀時は真撰組の
電話を借りて、孤児院の連絡先へとコールして





『あら、こちらにかけてくるなんてどうしました?』


「吉田と伽○子につけ狙われて正直
トラウマになりましたよチクショーぉぉぉ!!」



『はぃ?』


すかさず応対した梗子へ一発イヤミをかました







愚痴交じりで混線していた電話口でのやり取りは
ここでは割愛させていただくが


相手を変わりつつ一通りの説明がなされた後





『そういう事でしたら、院長にお取次ぎ致します』







少しばかり間を開け 通話口から院長を名乗る
還暦の女性が応答し…二人を拾った状況を語り出す





『はい…あの子達は裏山に墜落した機械の中
それぞれ収まって泣いておりました』





生まれた時から唯碗はあのお守りを、啓一は
テープレコーダーらしき品を握り締めていたらしい






そんな…院長先生、ボクらがフツウのカゴに
入れられてすてられてたって…」


「お、オレ信じねーぞ!カーちゃんになに
ふきこんでんだトカゲヤロー!!」



「まあまあ二人とも落ち着いて」


動揺する子供達を抑える近藤を横目に





「ご夫人、失礼ながらその記録媒体…
表面に何か記号は書かれておりませんか?」


『え、ええ…ありますわ』


「お手数ながら 口頭にて一文字ずつ
読み上げていただけますか」





受話器越しに読み上げられたそれを頷きながら
隣のマリエズに小声で伝え





「はい…はい、ご安心くださいませ
お二人は私どもの命にかけて守り通しますので

またご連絡いたします」


レチマは丁寧な口調で静かに通話を終了させた







そのタイミングを見計らい、土方は問う





アンタ、一体何をしようってんだ?」


より確実な物的証拠が残っているなら
そちらを表示した方が理解が早いと思いまして

歩執守星の記録媒体なら、認証コードにより
映像取得など我が妻には造作もありません」





つまりは里にあるレコーダーの映像を受信し
こちらへ映し出してくれるらしく


巨体から低い唸りが一定の間隔で流れてくる





「あの…それもう奥さんってより機く」


言いかけて 肩を叩いた神楽が首を振って止める





「新八ぃ、あのトカゲのおっさんは独身の侘しさ
紛らわしてるアルよ 指摘するのは酷アルぜ」


「そーそー 誰だって性欲持て余す夜がある
脳内嫁と南極二号で誤魔化す夜があっても」


きっちり意志も聴力もあるようで、奥さんは

失礼ぶっこいた銀時を拳一発で黙らせていた





「脳内に嫁はおらぬだろう、兄上はいるが」


「安心しろぃ オメーも同レベルだぜ」


お願いですから同列扱いは勘弁願えませんか
特に有守の娘程度などとは…」


『コード承認・コード承認 指定データヘ接続中…

バッファリングマデ、アト3分……』





抑揚の無い声音で読み上げたマリエズの眼が
強い光を放ち、側の壁に映像を映し出す









―ノイズの激しい画面に、宇宙関連の施設が現れる


くそっ…奴らが感づくのも、時間の問題か』


『あなた、急いで』





場面が激しく移り変わる中 脱出ポットらしき
機体と表面に振られた番号の"K−1"・"I−3"


眼のくぼんだ四角顔と金髪で八重歯の目立つ赤子


金色のメダルに似た、歯車の中で寄りそう鳥の紋章



そして顔がノイズで潰れた二人の男女を映した





『これが無事地球に届き…道徳ある人物が
見てくれている事を願います』






彼らはそれを前置きに画面の向こうへ語っていた







自分達の種族が代々王族に付き従い
補佐する役割を担っており


王妃が崩御し、王が弱ったのを期に王子を
亡き者にしようと企む者による暗殺を
寸前で察知して連れ出したこと


刺客が迫り時間も無い為、相手に知られる前に

王子と自分達の子供を地球へと送ること





『近い将来…歩執守に争いが起こるでしょう

ですからコレが最後のチャンスなのです』


『誠に勝手ながら…これを見ている方々に
二人の世話をお頼みしたい』





いつか彼らが成長し 争いがいつか収まった頃


江戸のしかるべき機関へ保護を申し出てほしい

どこか抑えた声音で、語っていた





『きっと望む報酬を約束されます…無責任ながら
せめてもの謝礼とさせてください』





一つ頭を下げ…いくつかの機械音が響き

直後に自動ドアに似た音と施錠を思わせる擬音がした







『どうか…どうか、これを見たあなた』





どこか泣き出しそうな嗚咽混じりの声で、女が
最後の言葉を放った





『レガーレ様と…息子のピエトロを頼みます』


同時に一瞬だけ鮮明になった画面に二人の顔が現れる





赤い瞳と金の髪 チラリと覗く八重歯


傷だらけの姿で慈しむような笑みを浮かべる
その頬からは…幾筋もの涙が流れていた





暗転した映像の中、発射音に混じって銃声と

悲鳴がそれぞれ二つ聞こえて―










『データ再生ヲ終了シマス』





無感動な声が 重くなった空間に空しく響く







画像に映されていた全てが、二人が歩執守から
やって来た王族関係者だと証明していた





まさか…このような事があったとは…」


「アンタ、知っていて見せたんじゃねぇのかぃ」


「ええ…王より賜ったのはあくまで王子と
もう一人の発見と保護のみ、それに彼ら夫婦は
当時王子を狙う賊として処断されたもので」


「ちょっとレチマさん!」


慌てて新八が忠告するけれども遅く





「あれって…オレの、父ちゃんと母ちゃん…!?





堪えきれずに 啓一が部屋を飛び出していく





「おい、待て!


「啓一!」


続いてがその後を追って駆けてゆく





「…大丈夫アルか?」





声をかける神楽だが、唯碗はただずっと
俯いたまま胸元の"お守り"を強く握り締めるのみ


見かねて銀時が肩を叩いて告げる


心配すんな あの面倒なガキどもは
あとでちゃんと迎え行ってやる」


「ありがとうございます…あの…スイマセン

……一人にさせていただけますか」





そこでパッとトカゲの執事が顔色を変えた





これは至らず失礼致しました王子 警察の方々
王子の部屋と私達の控え部屋、それと妻用の
バッテリーを速やかにお願いいたします」


「どこまでも慇懃無礼かアンタ!」


「てゆうかバッテリー式なの奥さん!?」





ゼイ○ム似の彼女に対する疑いは彼らの中で
より一層濃くなったようだった








――――――――――――――――――――――
あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:えー色々ツッコミが来そうなので今回
近藤さんと新八君のみ召喚しました


新八:いつの間に?!


近藤:はい!早速なんですけど歩執守って
そんなに有名な星だったんですか?


狐狗狸:イキナリ物語破綻しかねない発言キター


…ぶっちゃけ捏造設定内では有名で、技術や
資源輸入の関係で王族と幕府の間には
友好条約と密接なパイプが繋がってます


近藤:ほほうな〜るほど!


新八:…あの、僕ら襲った邪苦って人も
"星の気配"とかが分かる相手なんですか?


狐狗狸:奴は単にニオイを嗅ぎつけただけっす

"星の気配"が分かるのは作中で特務管夫婦と
発する側の人間、ついで黒幕のみなんで


近藤:さらっとネタバレ!?で黒幕って誰!


新八:いや流石にソレは「もちろん七話に
出てきた」バラすんかいぃぃ!!




もう少し蛇足るなら…二人の名前は一話で
語られてた通り、院長がポッドからつけました


K−1=啓一・I−3→引っくり返って
E−1=唯碗(但し当てた字には意味アリ


様 読んでいただきありがとうございました!