這いずり回る人形の手が、無数に伸びる


意志を宿さぬ無機質な瞳が確実に己を捉え

主と共に群れを成してやってくる


掴まれた足や腕に纏いつくそれらは

いくら壊そうが振り解こうが 際限なく
彼らに向かって襲いかかっていく






「ちょっ…待ってマジ待って!
ナイナイナイナイ、アレは無いっっ!!





下手なホラーよりも恐ろしい光景は、六人


…特に銀時と土方の闘志を根こそぎ奪い
攻撃力と行動力を減退させまくっていた





「おおお落ち着けテメェら!要は操ってる
あの女たたっ斬れば収まるだろー…ぐあぁ!?


マペット型の人形に足を取られ、転んだ側から
女が新たな人形ぶん回しながら接近し


涙目になりながら刀を振り回して回避する土方





「なんだよコレなんだよコレなんだよコレぇぇ!」


「落ち着け、まだ慌てるような時間じゃないアル!」


「う…うわああぁぁぁぁ!!


待って唯碗君!一人で行くのは危険だ!!」


咄嗟に腕を引いた新八の判断は、正しかった







横手から飛び出した数本の刃物がスレスレで
唯碗の首筋を掠めて過ぎ


同時に 間に挟まっていた道路標識が途中から
僅かにズレ

真っ二つに切断されて落ちる





「こっから先はぁ通行止めデース、デス
デスデスdeathオーバー切るゥアァ!」






藍墨茶に変色した濃紺のコートを羽織り


頭皮も毛髪も焼けただれた顔面を、醜悪に歪めて
笑っている異様に猫背な男が行く手を塞ぎ


指の間から突き出た刃をハサミの如く刷り合わせ





ヒギャァアァァハハ!逃げろ逃げろォウ!

この邪苦の裂き爪から逃げられりゃあなぁ!」


周囲の悲鳴を煽りながら、威嚇するように迫り来る











第八訓 ホラーもくどけりゃギャグ











後ろからも人形軍団と恐ろしい形相の女が包囲を狭め





「に…逃げ場がない、挟み撃ち…!?





追い詰められていく標的達の恐怖を味わうように

耳障りな刃音と笑い声とが更に大きさを増す







ブヒュゥァアァギャハァァハァァアァァ

「超ウゼェ超超超黙れぇぇ!」オガッ!?





だがそこで、相当苛立った叫びを上げた女が
側にいた人形の頭を掴んで勢いつけてブン投げ


見事に男の頭部へクリーンヒットさせた





「アンタのせいで超集中力散って、人形が
超操れないじゃない 謝罪しろ超謝罪しろ


何で仕事ン時まで人形ストライク!?
テッメェこそブッとぶの大概にしとけぁ杭印!」


「そっちこそ、超久々の地球で
テンション上がんのも超大概にしろっての」







二人が仲違いを始めたせいか人形の進軍も止まり


こちらの緊張の糸も切れたらしく、闖入者に対する
言葉が堰を切ってあふれ出す





何なのアイツら、軽くトラウマになりそうだよ!

つーかアレどこの悪夢街と英国城の犯人
混ぜこぜてんのぉぉぉ!?」


「しし知るかァァ!どーせなら得物をハサミに
変えるか赤と緑の横縞着とけェェェ!!」



「横縞なら赤白のをアイツが着ればいいネ
あの長編でも、グロ展開やらかしてたアル」


「言われれば確かにあちらも名は同じだ」


ツッコミきれないネタの山盛りはやめてェェ!
…ってさんいつの間に来たの!?」





さり気なく六人の輪に混じった彼女の作務衣は
あちこちボロボロで、


片腕に鋭い爪の一撃らしき跡が刻まれ
血がにじんでいる





「ね…ネーちゃん、そのケガ…!


「案ずるな…あの男との戦いが少々長引いてな」


「でも、どうやってここまで…」


「総悟殿の功績『省くな』





お子様二人組以外の全員の意思が、一つになった









いいですか?罪深き流派を使うアナタ程度が
私の邪魔をするなどあってはならないのですよ…」





苛立ちを乗せるトカゲ男に無表情で対峙したまま

は明らかに攻め辛さを感じて呻く





小柄な己よりも更に小さな相手は、その身に
見合った素早さと見合わぬ力とを持ち合わせ


そして剥き出した長く鋭い爪からは


独特の刺激臭が微かに漂っている





「毒持つ爪か 無策に近寄るのはマズイな」


「ご安心を…命までは奪わない程度に加減します」





発条仕掛けのように飛び掛かる男へ、槍の乱打が閃く


上方へ跳ね上がった矮躯が紫色の爪を振りかざすが

予想以上に早い反撃が その身体ごと一撃を跳ね返す





「くっ…やはり一筋縄では無いですな、だが


弾かれた勢いを利用して壁へ着地すると、男は
壁面を軸に跳んで再び上から襲いかかった





またも柄で防げど 今度は別の壁に張り付いて

高さを稼ぐ為に素早く這い昇り始める


「壁を移動手段にする程度は造作もありません!」





だが トカゲ男の這う建造物の壁へ素早く寄ると





「そうか…私もだ!


槍の刃先で壁を穿ち、駆ける勢いを巻き込みながら
接近したが相手へ刺突を繰り出す


咄嗟に防いだ片腕の爪が全て斬り飛ばされ


軽い出血を抑えながら 相手は小さく舌打ちする





「くっ…小癪な!」





路面へ着地しつつ、少女は続けて壁に張り付く
男を叩き落そうと距離を狭めて行き


十分な射程から放たれた槍底が急所を目指す





「だが、この程度の傷なら間を置かず復活可能!」





柄を掴み懐に入った男の、切られたばかりの爪が
素早く伸びて彼女の腕へとつき立てられた






即座に槍を回転させ 男を吹き飛ばして着地するが


一拍遅れて視界が歪みはその場に膝を着く


「しまった…!」


「恨むなら罪深き流派と己を恨みなさい!!」


怒りに任せ、必殺の一撃を繰り出すトカゲ男は







背後からの衝撃をモロに受けて吹き飛ばされた





「「ぎゃあぁぁぁ!?」」


何処からとも無く飛んできた浪人風の男に
挟まれる形で壁に叩きつけられ、

一緒くたに地面へ落ちるトカゲ男に





あー悪ぃ、当たっちまいました?」





あっけらかんと言い放ちながら

バズーカ片手に沖田が平然とやって来る





「助力感謝する総悟殿」


「なんでぃか またぞろどっかの
ゴロツキにでも絡まれてたのかよ」


「当たらずとも遠からずだな」







淡々とした会話の切れ目に、意識を取り戻した
トカゲ男が身を起こして沖田を睨む





不意打ちでバズーカ…だと!?
全く持って非常識極まりないではないか!!」


「別にお宅を狙ったつもりはねぇんでさぁ
所謂一つの事故って奴で」


「その程度で済ませると思ったら大間違いだ!!」







沸点の低いトカゲ男の標的があっという間に
沖田に変わったのを見て取り







「好機と見て抜け出し、お主らを探して
この場に辿りついたのだ」





「アレほど浪人捕獲にバズーカ使うなって
釘刺しといたのに総悟の野郎…!」


の説明に、現状も忘れ思わず頭抱える土方





「つーか毒持ちで来たのはいいけど、お前
この状況分かってんの?」


「大方は とにかくこの場の離脱が先だな」





精神を持ち直し、味方が一人増えた彼らの状況に

ようやく仲違いをやめた両者も気がついて
揃って顔をしかめる





「オイオイ、面倒そうなのが増えたぜゥアァ」


「アンタは超黙って仕事に超徹してて…

アア゛アアァア゛ア゛ァァアァア゛





目を見開き、唸りながらカクカクと首を左右に
傾ける女の動作はやはりおぞましかったが


能力が割れている以上脅威にはならない







が、その考えを打ち砕いたのは…あろうことか

ソフビ指人形や赤ん坊人形の奇襲だった





うぎゃあぁぁ!?
服に人形入った!気色悪いアル!!」


「わっちょ、暴れないで神楽ちゃブベ!





ソフビ人形が服のスキマから直接身体に動き回り
不快感を与えてパニックに陥らせたり


頭から眼球目がけて落下し、視界を奪ったり





「おい落ち着けテメーら…ってうぎゃあぁ!
どこ入り込んでやがる人形どもぉぉ!!


人の大事な部分で大暴れしまくったり





「ひっ、人の身体に昇ってくんなぁぁぁ!





いくつもの赤ん坊人形に足元から集られて
精神的にも恐ろしさを味合わされたりして


彼らは見る間に、窮地へと陥った





「アンタ超邪魔超どいてアア゛ァアアァァァア


「…っ誰が、退くか!」


毒により僅かに鈍る身体の動きと

背中にへばりつき、三つ編みを引く人形が
となり も女の攻撃を防ぐのが精一杯で





「ブヒュォウハァ!もらったぇあぁぁぁ!!」


大混乱となった隙を突いた男が爪のような刃を
甲高く擦り合わせて、寄り添う二人を襲う





「「うわああぁぁぁぁぁ!!」」





気付けど彼らの防御体勢は間に合わず―







その時 上空から重い地響きを立てて落下した
"何か"が振り上げられた刃を、斧で防いだ






「あ…あなたはさっきの!」


『敵・守護目標共ニ発見…防衛モード移行開始!





先程まで銀時・新八・唯碗の三人を追い回していた
謎の巨大鎧が無造作に斧で相手を払う





「チッ…デカブツが現れやがったぜぉえぇぇ!


「超囲んで潰せば超ワケないわよ!」


すかさず人形達の群れが固まって巨体を押し包むが


斧を両手に握り直し、"何か"はその場で回転して
襲い掛かる女の人形達をはね退ける





「つ…強ぇ 何だアレ?」


「皆様方、アレにとってはこの程度の防御
さして造作もありません」





啓一に答えたのは 近くの壁に張り付いたトカゲ男


すかさず緑眼を眇め身構える
手で押さえながら、銀時が淡々と相手へ問う


「待て…アンタ、何が目的だ?」


「その娘はご同胞ですか…まあいいでしょう
私達の目的はそこのお二人の発見及び保護です」


「啓一君と、唯碗君の?」





トカゲ男が頷いた直後、事態は変化を見せた





「あぁ超面倒い…超バテそう」


「ちいッ仕方ねぇ ここは一端引くぞうぇあぁぁ!





出てきた時と同じ位の速さで二人が消え


後には複数の人形の残骸と燦々たる通りが残る







軽くため息をつき、土方が壁上へと顔を向ける





「そこの壁に張り付いてるアンタ…このバカ騒ぎ
何なのか、屯所で聞かせてもらおうか?」





男はやや剣呑そうに視線を返し 言った


不本意ながら致し方ありませんね…そこの
お二人と皆様方もご同行願いますよ?」








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あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:トカゲ男とゼ○ラムのおどろおどろしさ
もーちょっと出してやりたかったです


神楽:所詮はそこがお前の限界アル


新八:勝手に決められてるし…にしても今回の
あのボケ合戦、ネタ分かる人いるんですか?


狐狗狸:全部分かったら友達になりたいですね
ついでに今回出たアイツの姿は悪夢街+吉田
追加でバイ オ4のガラドーr


銀時:全員ホラー関係には変わりねぇぇぇぇ!
つか最後のはカギ爪しか合ってねぇし!!


沖田:コイツら足して三で割る感じですかねぃ


土方:どわぁっ!?おま、何イキナリ
そんな写真を後ろからオレの目の前に出すの!?


狐狗狸:(嫌がらせ、だろーなー…)




異形達が語るはそれぞれの理由と二人の…


様 読んでいただきありがとうございました!