低い唸りをあげながら迫り来る巨体は
速度こそあまり速くは無いものの


三人がどのような細い路地を擦り抜けても





『ミ・ツ・ケ・タ ミ・ツ・ケ・タ』


一文字の目を光らせ、先回りする





「ななな何アレ何あのゼイ○ムもどき!?」


「知りませんよ!てゆうか怖いんですけど
アレ本当に機械とかじゃ…うわぁっ!!


銀時と新八は、横手に迫った"何か"の
フルスイング斧をギリギリしゃがんでかわす





もちろんあちこちの壁が壊れたり

周囲の悲鳴や怒号が上がったりするけれど


どうにかあの巨体を振り切ろうと必死で
走り続ける三人には 構う余裕などない







「ま…待ってください二人とも…うわっ!





一番後ろで喘いでいた唯碗が、つまづき転ぶ





「唯碗!」


慌てて駆け寄る二人だが "何か"は既に
彼の鼻先にまで接近しておりとても間に合わない





逃げようと後退りながら、涙声で少年は叫ぶ


「こ…こわいよぉ…あっちいって!





…途端 "何か"の動きが止まり


次の瞬間には踵を返して立ち去った











第七訓 みんなのトラウマは永遠に











「え、あっさり逃げてった…?」


「おい お前アレと知り合い?」


全然知らないです!ほっ本当です!!」





先程までの追跡劇が嘘みたいなあっけなさに
狐につままれたような顔をしていたが





「とりあえず、神楽ちゃんと啓一君の二人に
早い所合流しましょう」


「はい!あの…さんは大丈夫でしょうか?」


「ああ見えてバカ強ぇから心配すんなって
…バカでしょっちゅう死にかけるけど」


「死!?」


ちょっと銀さん!一言余計すぎ
唯碗君余計に怯えちゃいますって」


気を取り直し、三人は路地をひた走り…







「お前の目ぇ節穴アルか税金ドロボー!」


「あんなガキんちょ一々気にしてられっか!」





そこで折りよく 神楽と土方の言い合いにかち合う





「あにやってんだオメーら」


「ほら保護者来たぞチャイナ ガキ探すなら
テメーらで勝手にやれ、オレぁいそがしいんだよ」





殊更機嫌の悪そうな相手を睨む神楽の側に
五分刈り金髪頭が見えないことを見て取って


「ちょっと待って神楽ちゃん…
啓一君は?一緒じゃなかったの?」





不安げに新八が訊ねれば、三人へ顔を向け
彼女は思い切り側の黒髪を指差す


「聞いてよ、この汚職警官ちっとも話にならないネ」







――――――――――――――――――――――







今日はそれなりに人数いたし、啓一が決着
つけたがってたから野球やってたネ





「くっそ…やるじゃねーか女王」


「あたりまえアル、伊達にかぶき町の女王
名乗ってないヨロシ」





男なら野球とか豪語するだけあって、さすがに
コントロールは中々いいスジしてる


けど…ヒットとキャッチがまだ甘い


そっちはの方がまだ鋭角ヨ(死ななきゃ)





「みとめるぜ、たしかにパワーはすげぇや…
けどそれだけでオレはまいらねーぜ!


不敵なホームラン予告に、バッテリーの
よっちゃんを始めとしたみんなが声を上げる





「うおぉ〜がんばれケイイチー!」


「負けんな神楽ちゃーん!!」


「…そこまで大口叩けりゃ上等ネ!
最強の一球打てるモンなら打ってみるアルぁ!」



「ああダメだダメだ全然ダメ…ん?」





盛り上がってきたグラウンド上の対決
思い切り振りかぶって―


投げた必殺の球が 跳ね返って私の後ろへ飛ぶ





ちょっと遅れて私とバッターボックスの間に

まるでイキナリ生えてきたみたいに
見事な電信柱が突き刺さった






『う…うわあああぁぁぁぁ!?





叫んで身を引く他の子達の合間を縫って

尻モチついた啓一に、フードを被った
やたらデカいヤツが飛びかかってくる





「っウィひあぁ!!


「いきなり何してくれてるアルかぁぁぁ!!」





回し蹴り食らわせると、妙に硬い手ごたえと
共に後ろへ怯んだソイツは フードの下から
目玉をいくつもギラつかせ


私を無視して 必死に逃げまとう啓一に
再度付きまといにかかった





「……無視してんじゃねーヨぉぉぉ!!







――――――――――――――――――――







「何度か蹴飛ばしたけど、アイツ妙に固い上に
ずっとこっちディスってたネ思い出しても腹立つ


「いやオメー個人の恨みはどうでもいいから」





…と目を見開き、思い切り血の気の引いた顔をした
唯碗が神楽へと詰め寄る


「あのっ、けけケイイチ君は!?


「追っかけ回された途中ではぐれたネ
アイツも姿晦ましたから、探してたアルけど」


「…その矢先に土方さんに会ったんだね」





説明によって現状に合点がいった一方

権力者への糾弾も忘れていないようで





「困った一般市民の相談ムゲに断るたぁ
汚いね、さすが汚職警官汚いなー」


「こういう時こそ働けヨ給料泥棒が」


「こちとら町で立て続けに起こるバカ騒ぎの
収拾で急がしいんだ!責任持てるか!!」



そりゃもうやらしい目つきの銀時と神楽へ
土方が青筋立てて怒鳴っていた





「とにかく騒ぎが収まったらテメーらにも詳しく」


「…ぎゃああぁぁぁぁ!!





唐突に、近くからけたたましい悲鳴が聞こえた





「あの悲鳴…まさか!


「ケイイチ君の声です!!」


即座に問答を止めて五人が悲鳴の元へ駆けつける









…そこには腰を抜かし路地にへたり込みながら
後退りしている啓一の頭へ


一抱えサイズの人形を叩き込もうとする女が





次の瞬間、ひしゃげて砕ける音が辺りに響き


伸びた木刀と真剣が 少年に直撃する寸前で
人形の半分を破壊していた






機械的な動きで距離を取って遠ざかり





「ケイイチ君っ」


「大丈夫アルか、啓一!」





女は、剣呑な目つきで啓一を守るように
取り巻く彼らを見据える





誰?アンタ達」


「いやースイマセンね、こいつの保護者代理っす」


「そこの女…テメェ公衆の面前で暴れて
一体どーいう了見だ、頭おかしいんじゃねぇか?」





軽い調子で頭を掻く銀時にも

いまだ刀を突きつけたままの土方にも動じず





「地元警察も保護者も超どーでもいいのよ
アタシはそこのガキに用が超あるだけ、消えて


半壊した人形を手にしたままの女は

整った面立ちに力を入れて、ジッと涙目の
少年だけを凝視し続けていた





「なんか尋常じゃないほど見られてるけど…
一体あの人と何があったの?」





聞かれて啓一は思い切り首を横に振る





「あの化け物からムチュウでにげて、迷子って
困ってたらあのネーちゃんがいきなり」


「オメー正直に言えよ?

あのネーちゃんの巨乳に釣られたろ」


指差す銀時の言う通り…こちらを睨みつける
彼女のぞろりとしたワンピースからは


双子山がこんもりくっきり盛り上がっている





ビク!とこれまた分かり易く少年は肩を上下させる


「だ、だって美人だしおっぱいデケーし
男だったらしょーがねーだろ!?」



「悲しい性だが責任転嫁は見苦しいぞエロガキ」


「で、でもいきなりオレの手ぇつかんで
どっかに連れてこーとしたのはマジだって!」


「それって…立派な拉致じゃないですか!」





叫ぶ新八へ 彼女はあからさまに舌打ちして
表情を益々険悪にしていた





「とにかく、屯所まで来てもらおうか?」


「超お断りよ」





互いに得物を手にした両者の空気が張り詰め…







「ちょ…待ちなさいそこの二人!」


一瞬触発の雰囲気へ、女の後ろ辺りから

何故か頭から絶賛流血中の近藤が割って入る





「そこのお嬢さんには屯所で話を聞くとしてもだ
そんな険悪な面で睨み合ってもしょうがないだろ
どうだ?ここはお互い物騒なモノは」


唖然と彼らが見つめていたのもつかの間


近藤は半壊した人形を叩きつけられて
あっけなく地面へ沈められてしまった





「近藤さぁぁぁん!?」


「なにアルかアレ、なんで血塗れだったアルか」


「…ネーちゃんからオレを助けに入ろうとして
ソッコーでなぐられてた」


「マジでか ちゃんと仕事してたんだなゴリラ」


「いやあの心配ぐらいしてあげましょうよ!





ある程度は場の空気に慣れ始めた万事屋トリオは
いつもの調子で会話を始めているが


子供二人は極端に口数も少なくなり、震えていた





「あの…早くここからにげませんか?
さんも、心配ですし…」


胸元を握り か細く呟く唯碗の隣で啓一が
何度も強く首を振って頷き





「だな つーことでそのイカレ女はよろしく」


「オイちょと待てテメーら!」





後の処理は土方に任せ、無関係を装いつつ
五人はその場からの撤退を図った







…が、女はそれを見逃す気は無いようだ







「あぁあ超面倒くさいわねぇ…超手っ取り早く
人海戦術で行こうっと」





ボソリと呟いて 自由になった両腕をぶら下げ

首を真横に傾げた女が目と口を思い切り開く


先程まで僅かに保たれていた均整がそこで崩れ





「ア、アアァアァ、ァァァアァァァァアァ」


暗い洞穴にもにた口から 低い低い呪詛の音を
漏らしながら機械的に肩を怒らせると


その動きを合図に町中からガラスの割れる音や
様々な物音があちこちから響き渡り…


ショーウィンドウのマネキンから
オモチャ屋のソフビ製の指人形までが一斉に
意思を持って動き出し、たちまち女の周囲に集った





「アァアア゛アアァア゛ア゛ァァアァア゛アアァァ」





血走った目で六人へと目を向けて

ぞろぞろと群れ集う大小の人形達と共に進軍し


足並みを機械的に揃えて存外早く迫り繰る様は





もはやホラーでしかない





『ギャアアアアアァァァァ!!』





迫られてる銀時達はもちろん、職務上対峙していた
土方や周囲にいた通りすがりの一般人だって
たまったものじゃない


たちまち通りは恐怖のどん底に落とされた








――――――――――――――――――――――
あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:存在ガシャーンされてた五話の人々も
片割れ登場っす、もう片っ方もまもなく来ます


銀時:来なくていいからぁぁぁ!!


狐狗狸:ちなみに白線の内側に下がらないと
引きずりこまれます、伽○子に


新八:伽○子っつったぁ!?ヤッパリあの人
そーいうイメージなの!!?


神楽:んなのどーでもいいアル、あのフードの
デカブツ マジムカつくねマジシメる


狐狗狸:私怨を燃やされてもアレが出るのは
もっと後なんで…あ、襟首掴まんといて


土方:てゆうかガキがらみの騒ぎで借り出されて
文句言われた挙句巻き込まれるって厄年かオレ?


近藤:ハッハッハ、まーしょげるなトシぃ!


狐狗狸:あのー…とりあえずアナタは
出血どうにかしてください




人形達に追われ、逃げる彼らの前に!?


様 読んでいただきありがとうございました!