爽やかな秋晴れが広がる天気は、ターミナル
見学を終えた二人の気持ちをより高揚させた
「人すっげーいた!んでもって船カッケー!!
さっすがターミナルだな、オレも船のりてぇ〜」
「オレもスッチーさんの上に乗りてぇよ」
「のるならおっぱいの上じゃね?ウィヒヒ」
「年の差猥談繰り広げんのは止めて二人とも!」
爽やかぶち壊しの彼らをスルーし、は
いまだ興奮冷めやらぬ少年へと訊ねる
「見学の感想はどうだった?唯碗」
「はい…聞いてたのよりずっと、人が多くて
近代的で…とてもビックリしました!」
「楽しめたんなら上々ネ」
そこでつつ…と側に寄った啓一が彼の脇をつつく
「おいイワン、ネーちゃんトコって
おっぱいデケー美人のネーちゃんいた?」
「…スゴイキレイなお兄さんならいたけど」
「うぬ、兄上はこの世で最も麗しいお方だ…
万一粗相あらば 厳しい仕置きがあると思え」
「「はいぃぃっ!!」」
低く放たれた後半の台詞と眇めた緑眼の鋭さは
有無を言わせぬ恐ろしさを子供組に植え付けた
「ブラコンはともかく、そこのガキンチョは
将来の為に厳しくいっとけよー」
「おっさんこそキビしくおこられるべきだろ!
夜中に甘いもん食ってたの、見てたぞオレ!」
昨夜の失態を指摘されても 本人はあくまで
ふてぶてしい面で金髪のデコを小突く
「オレはいーの大人だから、夜中過ぎたら
ガキに甘いモン与えないっつーのは約束だし」
「どこの吉田君ですか」
「ガキに正論吐かれちゃ大人としてもおしまいネ」
第六訓 良かれ悪しかれ驚きは日常ぶっ壊す
もはや様式美の域に達した万事屋トリオの掛け合いを
ひとしきり眺めた後 おずおずと唯碗は口を開く
「あの…ボクたち、どこに向かってるんですか?」
「もしかして…遊園地ってトコか!?」
「夢見すぎね、そんな金はウチにないアル!」
「威張るな元凶 まーでも間違っちゃいねぇよ
とりあえず眺めるだけでも勉強にならぁ」
言いつつ六人がやって来たのは…
かぶき町ならではの宿泊施設やレジャーが並ぶ
ピンク色18禁的な通り
「って大人の遊園地じゃねぇかぁぁぁ!!」
「新八、ここは遊園地で無く「言わないで!
理解して無くても空気は読んで!!」
「なーメガネ あのお城みたいなのって
なんであんな高いお金なんだよ?」
「あっアレ大人が使う所だから高額なんだよ!」
もちろん詳しい詳細なんて教えられるわけが無い
「ここは流石にマズイですって教育的に!
梗子さんにバレたら怒られますよ!!」
場所換えを訴える声に、しかし銀時は平然と返す
「性教育ってのは早めに正しく叩き込むべきだろ
情操教育の遅延が今の捻れたガキを生んでんだよ」
「早すぎるわァァァ!逆にトラウマ生みますよ!?」
「過敏反応しすぎね、それに性教育が遅れると
手遅れになるアル アレがいい見本ヨ」
「あの人は半ば不可抗力…って何ですかさん」
肩を叩き、彼女は表情を変えずに淡々と告げる
「お主ら…二人を放っておいていいのか?」
少し眼を離していた合間、啓一は巨乳の女性へ
眼を留めながらフラフラと四人から遠ざかりかけ
「おっ、兄さんいーガタイしてんじゃねぇか
どうだい?ウチで一発」
「えっああああのっい、一発!?」
唯碗は看板担いだおっちゃんに客引きされて
窪みがちの眼を白黒させていた
「どこ行く気だクソガキィィィ!!」
「ダメェェ!それ見た目は大人だけど実質子供!
まだ毛も生えてすらないからぁぁぁ!!」
すかさず適切な処置が施されたが、片方は
明らかに不満そうであった
「ながめていいっつったじゃねーかよ!
せっかくのデッケーおっぱいネーちゃんが〜!!」
「そんな見たいなら晴太んトコ連れてっちゃるネ!」
「ダメだってそっちも大人のコースぅぅ!!」
どう転んでも悪影響になりかねない道行きを
「神楽ちゃんに啓一〜一緒にあーそぼっ!」
通りかかった馴染みの子供達の誘いが寸前で止めた
「ご指名いただいちゃーしょうがないアル
こっちから先に消化で依存ないアルな?」
「トーゼンだ、今度こそ女王に勝ってやるぜぇ!」
意気揚々と 集団で遊び場に移動する両者を見送り
「ガキども同士で勝手に片付きやがって…
でお前どーすんの?このまま万事屋戻るか?」
問う銀時へ、唯碗は胸元押さえつつ答える
「ぼ、ボクはそのぅ…少し江戸のことを色々
学んでみたいと思うんですけど…」
「だったら図書館なんかいいんじゃないかな?」
「よし…なら今度こそ私がお供仕ろう」
申し出たへ、素直に頭を下げる彼は知らない
「よっよろしくお願いします」
残りの二人の顔が "不吉の塊"を見たかのように
ものすごく歪んでいた事など
図書館へ行く二人をそのまま見送った新八だが
心には漠然かつ確実な"一抹の不安"があった
「銀さん…あの二人がちゃんと万事屋に
戻ってこれるか、すっごい不安なんですけど」
「あーなりゃ もう運を天に任せるしかねーだろ」
数時間が経過し…図書館の蔵書を堪能した唯碗は
彼女に送られ、万事屋へと帰途を辿っていた
「いくつか書物を見れて勉強になったろう?」
「はい、ありがとうございます…
あの…頭、大丈夫ですか?」
度々見下ろす黒髪の生え際から額にうっすら
ついた流血痕は、例の如く軽い事故の産物である
「気にするな いつものこと故」
無表情で言う本人だが、普通は気になるし
道行く人もチラチラと視線を向けてはいるのだが
彼は押しが弱いので 勢いに呑まれて口をつぐむ
「アレ…?あの人たち、たしか昨日の…」
万事屋まであと少しの道程に差し掛かった頃合
二人は見知った姿と言い争う声を捉えた
買い物帰りらしいキャサリンと卵に
顔半分が隠れた襟のコートに深めに帽子をかぶり
やたらとデカい手袋をした、いやに小さい
不審人物が何かを訊ねているようだった
「知らないハズはありません、あなた達二人から
確かにニオイがするのです 隠し立てせずに
さっさとお引渡し願いたい!」
姿もそうだが質問というより尋問に近い口調が
強い不快感を与え、キャサリンの顔が歪む
「シツコイデスネ!ダカラソンナ話知リマセン!」
「見知らぬアナタにあのお二人を引き渡すワケに
参りません、失礼させていただきます」
二人は急ぎ背を向けながら立ち去ろうとする
…咎めるような低い声が、彼女らの足を止めた
「怪盗キャッツパンチ・元メンバーに殺人容疑で
指名手配されていた機械家政婦…調べはついてます」
眉をしかめて身構えるキャサリンと卵だが
「私の邪魔をするおつもりならあなた方の経歴程度
然るべき場所で"国際問題"程度として提起しても
全く一向に構わないのですよ?」
帽子の奥から、光沢を持って光った彼の眼差しが
意識的にその身を竦ませて―
「他者の過去を突く無粋な輩と話す気は無い
悪いが お引取り願おうか」
合間に割り込む形でが介入した
「何ですかアナタは…こ、このニオイ!?」
訝しげに言った不審者は何故か戸惑いの声を上げ
あちこちへ首を動かし…唯碗へ眼を留める
「お、おおっ…そこにいたのですね!」
そして感極まったように呟くと、次の一瞬で
路面を蹴り抉って 彼の前へと迫る
「う…うわぁぁぁっ!!」
唯碗は恐怖に囚われその場に立ち尽くし
不審者の残像が、突き出された槍の一撃に貫かれた
「貴様 唯碗に何をするつもりか!」
車の上へ飛び移った本体に、の一喝が飛ぶ
素早い動きであれど完全には攻撃を避けきれず
コートの襟部分が千切れて帽子と共に吹き飛び
…隠されていた、相手の素顔をさらけ出す
「いきなり攻撃しておいて私にその言い草…
何たる屈辱!無礼!厚顔無恥!!」
緑色の鱗に覆われた光沢のある皮膚と
爬虫類特有の瞳孔をした、赤い大きな瞳
激昂する口から飛び出す舌は先が二つに割れ
顔の形は…言うまでも無い
「と…トカゲ男だぁぁぁぁ!!」
誰かの叫び声により 一拍遅れて辺りがさざめく
「許せぬ許せぬ!礼儀を叩き込んでくれようぞ!!」
「二人とも、ここは私に任せ唯碗を万事屋へ!」
の一言へ、返事は即座に返された
「…了解しました」
「今ノウチニ逃ゲルヨガキンチョ!」
彼女達に連れられ遠ざかる唯碗を追いたくとも
目の前に対峙する相手がいるので叶わず
苛立ったようにトカゲ男は言葉を紡ぐ
「母国だけでなく地球にまで現れるとは…
それほどまでに血を求めますか、罪人め!」
「いかにも私は罪人…だが血を求めた事などない」
段々と温度を無くす無表情へ、手袋の下から
引き出した紫色の長い爪をせり出して
「いいえ、奴らと同じ有守流を使う…
それだけで既に罪なのですよ!!」
憤怒もかくやと言わんばかりに男は飛び掛ってゆく
「銀時様、大変です!」
開口一番叫んだ卵と、その後ろで息を整える
二人の姿に 玄関に立つ二人は眉を潜める
「どうしたんですか三人とも…ってアレ?
唯碗君、さんはどうしたの?」
「変な…変なトカゲの人に、おそわれて…!」
必死な彼の様子に 両者は有事を感じ取ると
外へと一端出ながら問いただす
「おい、何があったか説明しろ」
「…変ナトカゲ男ガ、ガキンチョ二人ノコト
シツコク聞イテテ 槍ムスメガ横カラ入ッタラ」
「唐突に唯碗様が襲われかけ…私達を逃がす為に」
そこまでを語った所で 屋根から銀時と新八の背後に
物凄い重量を持った"何か"が降りてきた
振り向けば…"何か"は二メートル位の人型をしていた
「え…えーと、どちら様?この方」
「しっししし知りません…!」
「生体反応感知…地球の生物では無いようです」
卵の言葉に、鎧武者にも似た"何か"が一歩踏み出す
五人はそこで 赤い液体に濡れた斧が
その巨体の腕に握られていたことに気付く
「あのスイマセン…その手に持った血塗れのオノ
まさか本物じゃありませんよね?」
「ンナワケネーダロ、コレアレダヨアレ
チョット早メノハロウィンカ何カデスy」
が"何か"は一つ繋がりの目らしき空洞を光らせ
『国ノニオイ…ミ・ツ・ケ・タ…!』
片言に声を張り上げると、腕を振り上げながら
彼らへ向かってガシャガシャ歩いてくるではないか
『ぎゃああああぁぁぁぁぁぁ!!』
通路から階段を急いで駆け下りた五人…いや
正確には、尻餅をついた唯碗を支えながら
逃げ出す銀時と新八の三人を目標に
マントを翻しながら"何か"は追跡を開始した
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あとがき(というか楽屋裏)
狐狗狸:ジャンケンで負けて啓一が万事屋に
一泊していった感じです、冒頭は
新八:え…ちょ、何この人達ぃぃぃ!?
狐狗狸:天人です 詳細やら来訪理由及び
二人に質問してた内容とかは次回以降で!
神楽:啓一マジ自重しろヨ、完璧銀ちゃんや
マダオみたくエロ大人の道まっしぐらアル
銀時:男はみんなエロいんですぅー!
むしろエロい方が健全なの、限度はあるけど!
キャサリン:テーカ私達巻キ込マレ損デスヨ
慰謝料五十億ヨコセヨ
狐狗狸:払えません、ついでに訴訟も反論も
出番についての割り増しも無効です
たま:私達はこれにてお役御免でしょうか?
狐狗狸:一応は…ただお登勢さんと共に
再登場する可能性は無きにしも非ず
連続した恐怖が、二人へ襲いかかる…!
様 読んでいただきありがとうございました!