部隊が一軍 あやつと共に消えたと知って
何か起こすであろうとは予期していたが
…まさか地球でこのような暴挙を起こすとは
「あっはっは〜、警察の連中も大変じゃのう」
「笑っている場合かアホ頭 危うく客や荷に
被害が及ぶ所だったというきに…」
「誠に申し訳ない…だがワシが来たからには
もう臣下にこれ以上の狼藉を起こさせませぬ」
星の気配を頼りに、ワシは進む足を速める
第十六訓 遠き日の誓いは結構記憶に残る
襲撃者が床へ倒れ伏し、銀時が一息ついた直後
「銀さーん大丈夫ですか!」
「って、あのデカブツやっちゃったアルか!?
リベンジしたかったのにチクショー!!」
なだれ込むように新八と神楽が駆けつける
「あん?遅ぇよテメェら、ドコで道草食ってたの」
「いやターミナルがいきなり変な天人の兵隊達に
占拠されててここまで来るの大変だったんですけど」
「…え、ちょっマジでか!?」
「なぁ女王、ドSは?」
「後から来た税金ドロボーどもにとっ捕まって
後始末させられてたネ ザマミロアル」
どうやらターミナル内の兵隊達の大部分が
掃討されたのをきっかけに隊士達が突入し
現在は残りの残党の捕獲や、
中に残された従業員や客などの
救助活動を行っているらしい
「それよりこの状況どーするんですか?
誰かに見つかったらマズいんじゃ…」
「ンなこと言われても不可抗力だっつーの
なぁ…アレ?アイツどこいった?」
「また死亡フラグで三途ってるアル」
言って神楽がいまだ倒れているを指して
「うがあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
直後…咆哮を轟かせて襲撃者が起き上がる
「王子さえ…王子さえいなければあぁぁ!!」
ギラリと目を光らせる襲撃者へ三人が身構え―
「止めぬか大臣!」
低く厳格な一声が 全てを止めた
声の主は、奥の通路から現れたツギハギ顔の老人
病持ちの雰囲気を漂わせてはいるが
老人にしてはしっかりとした体格と背丈をしており
ヒゲを蓄えたその姿には独特の威厳が備わっている
「誰だあのジっさま」
「アレ?アイツの服のアレ…唯碗のお守りと一緒ネ」
「え…って事は…いやでもまさか」
老人の姿を認めた途端、襲撃者―
"大臣"と呼ばれた異形はその場にひざまずく
「お…王っ!?何故ここに!!?」
『えぇぇぇぇぇぇぇ!?』
前触れナシの超展開に唖然とする面々の前へ
「おぉっ!ちょーどいいトコに金時達がおる〜」
王の後ろからひょこりと現れた坂本が
カラカラと明るく笑いながら手を振った
「ってちょ…待て待て待てぇぇ!
何でテメーがここにいるんだ坂本ぉぉぉ!!」
「いやー仕事で歩執守寄ったら、何か揉めとっての
治めたついでに王様をここまで運んだんじゃ」
「「ウソォォ!?」」
「いやはや、此度は誠に感謝いたします坂本殿」
「まったく…ワシらは
タクシーの運ちゃんじゃないぜよ」
頭を下げてから、王は二人の元まで歩み寄る
「息子よ、そしてピエトロ…すまなかった」
「べ、ベツに王さまのせーじゃねぇし…」
「いや 全てはワシの不心得が起こした事じゃ
お前達にもレチマにも、この星の方々にも迷惑を」
言いかけて 王の瞳が倒れた少女を捉えた
「この娘は…?」
「そうだ…さん!今治します!!」
我に返った唯碗が彼女の手を取り、眼を閉じる
すると…見る見る内に身体についた傷が
塞がり、縮んで消えていく
「怪我が…治っていく…!?」
「歩執守の王族には、相手の治癒力を極限まで
高める事の出来る力が備わっておるのです」
「そりゃまたご都合主義な特技だなオィ」
「この際言いっこナシです銀さん!」
やがて 程なく全ての傷口が完治して
「む…神楽に新八、それに啓一と…辰馬殿も?」
長い黒髪を揺らしてが起き上がった
「ネーちゃん!」
「って髪の毛まで復活してるアル!」
「お〜ストレートも似合うぜよちゃ」
駆け寄る者達の中 勢いで抱きつこうとした坂本は
陸奥に、寸前で力一杯張り倒された
「…今更罪を犯した私を処刑しに来たというのか?」
苦々しく呟いた大臣へ 王は静かな眼差しを向ける
「それもあるが、ワシは一人の父親…そして
お前の親愛なる上司としてここへ来た」
「白々しい…私がどんな気持ちで側にいたか」
「内乱の戦渦を広げ 息子の命を狙い
無数の罪無き命を奪ったその罪科をワシは許せぬ」
遮るように言って、彼は哀しげな笑みを浮かべる
「だが…妻が亡くなった寂しさを支えてくれた
お前を愛する気持ちも また存在している」
『え』
トンでもない発言を放つ当人達は
周囲を気にせず、互いの世界を展開し続ける
「なら…ならば何故それを言ってくれなかった!
私はあなたの愛をずっと望んでいたというのに…」
「愛していたさ、だがお前は前妻に嫉妬し
地位のしがらみを憎み…息子を妬んでその目を
曇らせていたではないか」
「そんな…なら、私は何の為に…!?」
「いやいらないからそんなメロドラマぁぁぁ!
これ正直どこ向け!?つーか誰が得すんの!!?」
「愛があるならいいではないか新八」
「復活早々空気を読めオメーはよぉ!!」
まさかの大臣=女説と愛人説の同時発覚による
取り留めの無さ過ぎる場の空気は
「王様!」
特務管夫婦が登場したことで正常に戻った
「…レチマ、マリエズ 任務ご苦労であった
大臣の身柄を拘束して帰還の準備をせよ」
「はっ!!」
二人は一礼し、うな垂れた大臣を引き立てる
「帰るまでの間、ちーと船ン中見せてもらっても
構わんかのぅ!あっはっはっは!!」
「ご恩人殿の頼みとあらば、ただ余り内部を
弄らない程度で…もう乗り込まれますか!?」
「安心するぜよ 頭が何かしようとしたら
息の根ごと止めるきー」
辰馬の後を追う形で乗り込んだ陸奥の背を
睨みながらも 執事は妻と共に連行を再開し
「待ってください!!」
胸元を握り締めた唯碗の瞳が、大臣へと注がれる
「あやまってください」
「…命を狙った件に関してか?」
「ちがいます あなたにあやまってほしいのは
ボクでも、今回のことでもないんです」
七つの赤い眼が 驚きに見開かれる
「争いの原因があなたなら…ケイイチ君に
キチンと、それをあやまってください
ケイイチ君のお父さんとお母さんの分まで
ケイイチ君に、あやまってください」
"彼女"は立ち尽くす金髪吸血鬼を見やって
王の右腕として仕えていた男の面影を思い出す
「そうか、お前があの時の二人の…すまなかった」
下げられた頭に、答えられず戸惑ったまま
その場に俯く啓一へ銀時が問う
「オメーはコイツを許せるか?啓一」
「銀さん…」
顔を上げ、視線を交わした一瞬
普段生気が無かった瞳に光が宿っていたのを
目の当たりにして
その眼光に後押しされるように彼は
改めて大臣を見据えると…言葉を搾り出した
「…あ、あやまったんなら、ゆるしてやらぁ」
フッ…と小さく山羊頭は微笑むと
特務管夫婦に連れられて、船へと消えていった
「本当に皆様方にはお世話になり申した
此度の礼は後に行わせていただきます」
厳かに周囲へ告げて 王は子供達へ向き直る
「レガーレ、そしてピエトロよ
お前達には歩執守へ帰還し次第 王位を与え
これまでの償いをさせてもらいたい」
その言葉に…けれども唯碗は首を横に振った
「ボクは、このまま地球にのこりたいです
まだここで…レガーレじゃなくイワンとして
生きていきたいんです お父さん」
「本当にそれでいいアルか、唯碗」
「はい…ボク、決めたんです」
「だってお前が本物の王子だろ それなのに…!」
啓一へと頷いたその顔はとても晴れやかで
窪んだ目には澄んだ光が宿っている
「ボクにはちゃんとお父さんがいた
でも帰る家も、帰りを待ってる人たちも
なにより ダイジなトモダチがここにいる
…銀さんたちに、そう教えてもらったから」
少し呆気に取られた顔をした後
軽く四角い頭を叩いて
「カッコつけんなイワンのクセに…
ま、ワラシの里でカーちゃんと梗子のババアと
ダチどもがオレらの帰りをまってっからな」
啓一もニッと八重歯を覗かせて笑った
「…お前も同じ意思か?ピエトロ」
「子分をのこしてオレだけ星に帰れねーよ
それにオレの名前はケイイチだぜ?ウィヒヒヒ」
王は二人の出した答えに、どこか寂しそうな
それでいて満足そうな笑みを浮かべて
「そうか、なら互いに成長した時
改めて迎えよう……達者でな、唯碗に啓一」
そう告げて 最後に四人へ頭を下げると
静かに船へと乗り込んだ
「おんし、これでよかったがか?」
「坂本殿は…歩執守の紋章の意味はご存知か?」
「えーと、輪は全てへの調和で三つの穴は確か
王家が兼ね備える勇力・知恵・慈愛の得を
示しちょるんじゃったな」
「そう…そして紋章の寄り添う二羽の鳥は
力を統べる一族と、心を統べる一族が
寄り添う王家そのものを意味する」
呟く王が肩越しにちらり、と
元の姿に戻ってあたふたしながらも笑う
啓一と唯碗へ目をやって微笑んだ
「互いが並んで在ってこそ真の意味を持つ
どちらが欠けても成り立たない」
―こうして、一連の事件と共に
二人の社会科見学は終わりを告げた
一件は賞金稼ぎによるターミナルテロに納まり
首謀者の捕獲、及び暴動鎮圧の功績で
江戸の警察組織と"特務管に協力した"民間人四名へ
歩執守から報奨金が贈られた
…最も、万事屋は家賃と食費とパチンコで
スグに使い切ってしまったようだが
「お帰りなさい二人とも…
よく、帰ってきてくれましたね」
童子の里へ戻った唯碗と啓一を迎えた院長は
泣きながら、諸手に二人を抱きしめた
「なんだよ泣くなよカーちゃん!
ここがオレたちの家じゃんか!!」
「ただいま…院長先生(おかあさん)」
感動の再会が収まって、梗子が彼らへ顔を見せる
「唯碗君、啓一君 お帰りなさい
どうだった?江戸は」
「理想のおっぱいはなかったけど…
ベツのものは見つけられたぜ!」
「ボクも…ダイジなものが見つかりました」
顔を見合わせて満足そうに笑う二人に
「そう…色々教わったのねぇ」
成長の様子を見て 彼女は内心で銀時達へ感謝した
「ケイイチ君…ありがとう
ボク、もっとたよれるトモダチになるね」
か細いボーイソプラノに、返ってきたのは
加減と親愛のこもった背中叩き
「オレが強くなるからいーんだよバカイワン
強くなって…いつか女王かをヨメにすんだ」
「え!?」
「「何か言ったかしら?」」
訊ねる院長と梗子に両者は慌てて答えた
「「なんでもないっ!」」
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あとがき(というか楽屋裏)
狐狗狸:着地失敗しつつも、ギャグとホラーを
盛り込んだ友情長編が無事終わりました!
全員:ありがとうございました〜!!
新八:結局、あの大臣さんを倒しちゃったコトは
お咎めナシで済んだんですか?
狐狗狸:王様の取り計らいで不問に付されてます
…まあ友好結んでる王室絡みのゴタゴタは
公に出来ないから、色々情報は操作されてます
土方:さらっと危ねぇ発言して行きやがったな
銀時:てか辰馬が内乱収めたとか大臣が
女だったとかこじ付けもいいトコだよなー
神楽:どこぞの超能力より胡散臭いアル
坂本:アッハッハ、長編だけど泣いていい?
一番いい出番もらったけど泣いていい?
狐狗狸:いいんじゃないかな?
トンでも天人だらけの長編にお付き合いいただき
ありがとうございました〜!!
次回は……年明けてからになりそうです(遅筆謝)
様 読んでいただきありがとうございました!