「足手まとい背負ってそんだけ吼えるとは
上等だぜェイェ刻んでやるぜゥアァァ!!」
挑発に、刃を生やして邪苦は再び
足に力を溜めて飛びかかる体勢へ入る
照準は勿論 彼女と背後にいる"ニセ吸血鬼"だ
「くそっ…この状況じゃ下手に加勢出来ねぇ」
唯碗を背負いまともに動けぬ彼へ
眼前の男を見据えたままで、が小さく呟く
「銀時、奴がこちらへ突っ込んで来たら
全速力で横へと飛べ」
「……りょーかい」
短く返した次の瞬間 防御も叶わぬ
刃の弾丸と化した男が突進を始めた
「ギィヒェアアォウァァアアハァァア!!」
邪苦との距離がぐんぐん縮まって
衝突する直前で、銀時が横へと大きく跳び
目の前にいたが棒高跳びの要領で
槍を地面につけて倒立し
遠心力に乗って相手の上空を飛び越えた
「なっ…飛び越えただとうゥイィアァ!?」
無理矢理立ち止まり、振り返った猫背の男を
白き花を思わせる白刃の弾幕が襲う
悲鳴すら飲み込むような閃光の洪水が収まれば
両手や身体から生やしていた邪苦の刃や爪が
全て木っ端微塵に砕け散り
「な…なんだこの技、ウァアァァァァ…」
「その身に刻め愚か者 それが有守に伝わる
人を護るための奥義(ちから)だ」
邪苦自身も その場に膝を突いて倒れた
相手が動かなくなったのを見て取ると
立ち上がった"ニセ吸血鬼"が大儀そうに一息ついて
「っし、吉田も倒したし行くか」
「…何故ゆえお主が偉そうにするのだ」
無表情からのツッコミを無言で叩き返した
第十四訓 能力はムダなトコでも使われる
ターミナルまであと十数メートルの車道付近で
「おボロボロボロボロロロロロロロロロ」
「お前どんだけ吐いたら気が済むんだよ!
胃腸でも鍛えてんのか!?」
ニンニク一気の弊害により啓一は
電信柱の側に縛り付けられていた
何故か人形の追跡が少し前に途絶えたのが
救いとはなっているものの
こうも度々足止めを食らって
土方は苛立ちを隠せずにいるようだ
「ったくターミナルまであと少しだってのに
これじゃいつまで経っても…」
「トシぃぃ!こんな所で何やってんだ!!」
振り返った彼らの前に、ブレーキをかけた
パトカーが止まり そこから近藤が顔を出す
「ちょうどいいとこに来た、近藤さん
ターミナルまで乗っけてってくれねぇか」
「それはいいけど…その人はどちら様?」
「あー…詳しい事は省くがコイツは啓一だ」
「え゛え゛え゛え゛え゛え゛!?」
「経緯は追々話す、それより奴ら三人の動向は?」
問われて 運転席に乗っていた隊士が即答する
「殺取二人の内、刃物を出す小男は先程
倒れているのを見つけて捕縛されたらしいです」
「そうか…あと唯碗の方は万事屋と槍ムスメが
一緒について行動している」
「いつの間に…まあ何はともあれ今は
ターミナルに行くのが先だな、二人とも乗れ!」
「おぉっありがとうゴリラ!」
開けられたドアに二人が乗り込みかけて
ドン!とボンネットの上に 人形で固められた
雲みたいに見えるシロモノが落ちてきた
その上に乗った杭印が長い髪を振り乱し
眼を零れ落ちんばかりにかっぴらきながら
四つん這いの状態で、叫んだ
「超働きたくなあぁぁぁい!」
『ほぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!』
悲鳴を上げて車から飛びのいた二人を
追うように、雲の人形達が次々解けていき
中にいた近藤と隊士が柄に手をかけながら
杭印を捕縛しようと車を降りる
「お、お前は完全に包囲されている!
無駄な抵抗は止めて大人しくボンネットから
降りなければ…ってウワァァ!」
「え、あちょっ!どこ入ってんの!?
フンドシの中はダメだって!そ、そこは…」
が、ソフビ人形がズボンの裾から何体も潜り込み
「「ア゛ッー!!」」
何ともいえない切ない叫び声を上げて
両方同時に 尻を抑えて倒れこんだ
「ゴリラたちがたおれたっ!?なんで!?」
「聞くな!大体分かるがお前にゃ十年早い!」
言いながら二人は足元に寄っていたソフビ人形を
急いで踏み潰していった
四つん這いの姿勢のまま 暗い瞳が彼らを見やる
「人形超無駄にしたわ…邪苦が超捕まったから
私が超殺らなきゃなんないとか超面倒いんだけど」
「心配すんな、テメーを斬ったら仕舞いだ」
「じゃあ超近寄らせなきゃいいのね」
低い唸り声をもらす杭印の動きに反応し
一体のカー○ル人形が、うつ伏せの状態で
宙へと浮き上がっていく
「に、人形がういたぁぁ!?」
跳躍してその上に乗った彼女は
いまだ眼を疑う金髪吸血鬼を見下ろして
「超本気出すのは超疲れるから、後は
人形達に超任せるわアァァァア゛ァァアァ」
恐怖を煽るような奇妙な動きで人形達を操り
彼らを囲みながらその輪を狭めさせていく
素早さを増したマネキン達を切り捨てながら
虚空を睨み、土方はチッと舌を打つ
「あの女斬るのが一番手っ取り早ぇが…
あの距離じゃ跳んでも届かねぇな」
「だったら…投げればとどくのか?」
鋭い眼光のみが背後の吸血鬼へと向けられる
「届かせる自信はあんのか?」
「野球とケンカなら…負けねーぜ!」
自信満々に答え、彼の手が腰の辺りを掴むと
グッと上へ持ち上がろうと動き出すが
「っだだだだだ!お前っベルト周り掴むなよ
股食い込んでる!マジ潰れるコレぇぇぇ!!」
「それぐれぇガマンしろよマヨデカぁぁぁ!」
やはりそれなりの重量がある大人を持ち上げるのは
彼の怪力をもってしても少し手間で
更に、周りで群がる人形達の猛攻がその邪魔をする
けれども その痛みに耐えながら
「うおぉぉぉぉぉぉあぁぁぁぁぁぁぁ!!」
歯を食いしばり力一杯、啓一が両手を跳ね上げ
直後―土方の身体が高々と宙へ舞い上がる
「なっ…!?」
彼の刀が閃いて 人形を一刀両断し
慌てて身を逸らした杭印が
足を踏み外して人形から転げ落ちた
操られていた人形全てもまた
糸が切れたようにその場に崩れ落ちる
着地ざまに刀を構え直して土方が距離を詰め
バネ仕掛けの如く、杭印が身を起こして叫ぶ
「痛かった超痛かった超超超痛かったぁぁ!
超死にさらせアァア゛ァァア゛アァァァ!!」
女の咆哮に倒れていた人形達が起き上がると
「なっ、速…!」
凄まじいスピードで彼に向かって突進し
「よりによってパッドかよもみ心地悪ぃ〜」
ムニ、という場違いな擬音が
再び人形達を地面へ落とす
「せっかくデカいおっぱいモめたと思ったら
キタイはずれでガッカリだぜ、ウィヒヒ」
「おまっ…緊急時に何やってんだぁぁぁ!!」
背面に回り遠慮なく胸を揉む金髪へ、反射的に
操られた人形のカウンターがお見舞いされたが
「…ダメだダメだ、ぜんっぜんダメだぜ!」
額から一筋血を流しながら それでも
啓一の手は彼女の胸から離れないまま
「やっぱ人形のコーゲキより女王のパンチのが
全然イテェし早ぇーよババア!」
ついに服を破って、その部分を露出させた
「イアアアァァァァァアァァアァァァ!!」
思わず両腕で胸を覆ってしゃがむその頭に
柄の一撃を当てて昏倒させると
上着を脱ぎ、彼女の身体にかけて土方は呟く
「ったく無茶しやがってバカ野郎が」
「なんだよマヨデカ、オレだってガンバったろ」
不満げに頬を膨らませる吸血鬼の頭へ
「甘ったれんなクソガキ…ま、さっきよりゃ
ちったぁマシな面構えになったがな」
彼は、強く手の平を押し付けて口の端を上げた
――――――――――――――――――――
作戦が講じて 先にターミナルへと辿りついた
銀時達は特務管夫婦の船へと案内された
「おお、お待ちしておりました王子!」
変身を解き、元の姿へと戻った唯碗へ
レチマはうやうやしく頭を下げる
「おや?ご友人の姿が見えませんが…」
「瞳孔マヨ殿と共に来る故、心配は無用だ」
「…まあいいでしょう ご友人が来られるまで
王子は先に船でお待ちくださいませ」
言って彼は少年を船内へと導くが
そこに銀時が待ったをかけた
「おい待てよ、単に船ん中立てこもっても
穴あけて押し入られたら袋のネズミじゃねーの?」
「我が歩執守の技術を侮られては困りますね
妻は生憎復旧中ですが、万全のセキュリティーに
最高強度の外壁を備えた我が船は
外部からの敵程度を許しはしません!」
堂々と言い切る彼に は無表情で感心する
「それはスゴイな だが船ごと狙われたら?」
「無いとは言い切りませんが…ここへ向けての
攻撃は逆に奴にとっても命取りとなるでしょうな」
「…よく分からぬのだが」
「まーつまりアレだろ、幕府を敵に回しちゃ
あっちもタダじゃすまねーってこった」
彼の言う通り、もし特務管夫婦の船を襲えば
必然的にターミナルが戦場になる
そんな事態を引き起こせば、その時点で
相手は"国際指名手配"と認定され
江戸警察を縛り付けている捕獲の制約が
消える、といった寸法だ
「あの…もし、それでもおそってきたら…?」
不安を露わにする唯碗へ、笑んで執事は答える
「その時は…船についている高出力波動砲で
江戸ごと焦土と化す程度で解決です!」
「オィィ!丸っきりテロの手口それぇぇぇ!!」
「テロ程度と同一とは心外な、この船の
スペックは一個大隊の戦艦にも匹敵するのですぞ」
「丸めて捨てろそんな無駄なスペック!!」
思わずツッコミを入れた銀時の頭上から
「なるほど…最新兵器つきの船とは妬ましい
ならば貴様を殺してでも奪うとしよう!」
声と共に、フード姿の巨躯が振ってきた
――――――――――――――――――――――
あとがき(というか楽屋裏)
狐狗狸:成金刃物バカ吉田と超絶ニート伽○子が
ここらで退場し、いよいよボス登場です
近藤:オレって今回の長編ロクな役じゃなくね!?
狐狗狸:だからゴメンって…一応何気に子供らに
いいトコも見せてるからそれでチャラで
土方:なるかぁぁぁ!ほぼギャグポジションだろ!
銀時:そだそだ!ギャグで崩すならもっと適任が
いると思いまーす大串君とか!!
土方:あんだテメェ?槍ムスメに見せ場
取られて寂しいなら立候補しろよギャグ要員に
銀時:うるせーよ伽○子にビビらされた挙句
台詞でキメてんのほぼ啓一だろバーカバーカ
土方:ガキかテメーは!あのクソガキと
精神レベル一緒なんじゃねーの!?
近藤:あーもうお前らちょっと落ち着きなさい!
狐狗狸:…行動分けてマジ正解だったかも
遅まきながら…全国の吉田&伽○子さん
ほんっっとーに申し訳ございませんでした!
様 読んでいただきありがとうございました!