左右の通路に分かれた彼らは、適当な部屋に入り
キャスター式のTV台でバリケードを張り
人形の侵入を防いでから
それぞれの子供に先程の"作戦"を説明する
「…恐らくあの野郎の狙いはこんなトコだろ」
あるモノを投げて寄越し、扉の前でたむろする
人形達に気を配りつつ土方は続ける
「奴らも動いてるだろうし、ここも長くは持たねぇ
一気に抜けるから準備できたら合「ヤダ!」あぁ?」
視線を向ければ 啓一は部屋の隅で涙目になりながら
震えてソファにへばり付いていた
「オレっ、もうこっから動かねーからな!!」
「あのな、こんな狭ぇトコでビビって
閉じこもっててどーにかなると思ってんのか?」
「なんだよお前だってビビってたじゃんかマヨデカ!
たっ、ただの子供が殺し屋なんかに
かなうわけねぇだろ!?殺されちまうよ!!」
「オイ、まだそうと決まったわけじゃねーだろ」
諌める声も、しかし怯えた彼の耳には届かない
「もうヤダ…なんでオレまでこんなことっ」
全てを拒絶するように頭を抱えて俯くと
悲鳴じみた弱音を口から次々と吐き出していく
「イワンのせいだ、アイツがいなきゃ
オレまでねらわれることなかっ」
言葉半ばで 啓一の頬が強く張られた
第十三訓 敵キャラの口調について
約一名後悔中
呆然とする少年の胸倉を思い切り掴み
「子分だなんだデカいのにほざいといて
ビビッてんじゃねーぞクソガキ!」
顔を突き合わせて土方が吼える
「いくら敵が怖かろーが、身体張って大事な舎弟
護ってこそ男ってモンだろ!根性見せろ!」
強い怒号に触発されて脳裏に浮かぶのは
―神様は、迷う誰かの心を正しい方へと
導き示してくださるのよ―
同じ境遇の二人へ神仏のことを教える"母"の姿
―だから啓一 アナタにもそんな風に誰かへ
進む道を教える人になれるって信じてるわ―
院長の優しい声音と彼の激が
ガキ大将の魂に火を灯す
「や…やってやろーじゃねぇか!」
啖呵を切り、啓一はビンのフタを開けると
鋭い八重歯を剥き出すように開いた口へ
中身を全て流し込み―咀嚼して飲み下した
――――――――――――――――――――
一方、が駆け込んだ後の一室でも
作戦の要である唯碗が中々腰を上げなかった
「頼む、どうしてもお主の力が必要なんだ」
「むっムリです…いつもみんなからトロイって
バカにされてたボクに出来ることなんて…」
大きな巨体を縮めるようにうずくまった少年は
消え入りそうなボーイソプラノでそう呟くのみ
「吉田どもがいつ襲ってくるかわかんねー以上
グズグズしてるヒマはねぇんだぞ?オイ」
「ごっゴメンなさい…ゴメンなさい…!」
押し潰すように両手で胸元を握り締める姿へ
深くため息をつき、銀時は低く言い放つ
「そうやって怯えたまんまで何もしなけりゃ
みーんなあの世行きかもな、お前さんも啓一も」
ピクリ、と唯碗の肩が小さく震えたのを
二人は見逃しはしなかった
「お主は…啓一と仲直りせずに死ぬつもりか?」
「そ、それはイヤです…でもっ…!」
とうとう涙を零した彼の両肩が 強く掴まれる
驚いて顔を上げた先には、の瞳があった
「友への悔いを残したまま死にたく無いなら…
最後まで、徹底的に抗ってやれ!」
芯を持つ眼差しに触発されて脳裏に浮かぶのは
―仏様はたった一つのお碗を持って、世界を
巡りながら優しい心で人々を救って来たのよ―
同じ境遇の二人へ神仏のことを教える"母"の姿
―その御心と器が備わるように
私はアナタの名をつけたのよ 唯碗―
院長の優しい声音と彼女の言葉が
内気な少年の魂に勇気を与えた
「銀さん…ボク、やってみます!」
少し声は震えていたけれども、窪んだ目に
しっかりとした意志が宿ったのを見て取って
「その意気だ唯碗」
頭に手を置き 銀時が力強く笑いかけた
――――――――――――――――――――
「さーて、そろそろ奴らの首を掻き切って
ボスんとこに届けようかねぅあぁあぁ」
腕から生やしたカギ爪を耳障りなほどすり合わせ
邪苦が店の屋上から入り口を見下ろし
ニヤリと下卑た笑みを浮かべる
人形を繰る手を緩めず、杭印は反対側にある
非常口へと目を凝らしている
「お遊びも超ここまでに欲しいモンね
超壊される度に人形集めるの超手間だし
やる気超途切れるし、邪魔だって超入るし」
「わーってるって、あの真撰組の
ゴキブリ連中どもとかウゼェしなァオォォオゥ」
「それじゃ王子超優先で超終わらせるわよ……」
おぞましく変貌した彼女の口から呻きが漏れる直前
カラオケボックスの入り口が開いて、そこから
人影が二人飛び出してくる
「おっ!正面からお出ましたぁずいぶ…!?」
襲いかかろうと邪苦が屋上から飛び降りかけて
次の瞬間、非常口からも二人分の人影が現れ
「な…なにゅぅああぁぁうあぁぁぁ!?」
殺取二人が、目を見開いて固まった
出てきた二人組のどちらにも子供の姿は無く
変わりにいたのは全く同じ背丈で金髪で赤目に
スーツ姿の"吸血鬼"が 一人ずつ
それぞれが別の方へと逃げ出すのを見て
彼女は戸惑いながら相方へと問う
「ちょっ…王子が超二人に分かれたわよ邪苦」
「違ぇし!どーせどっちかが片方に
化けてるだけだォアァァ!!」
「どーでもいいわよ、でどっちが超本物?」
振り返った邪苦は口角を歪に釣り上げて
「んなもんニオイで分かる……
ワ ケ ねゥェえぇえええぇえぇぇえ
だっるぅぅァああぁアぁあああぁ!?
こっちも分かれて追うぞぉ!!」
叫び様に屋上から飛び降りていった
「ああもう超使えない上に超面倒い…」
ボソリと呟いた杭印もまた、自ら操る
人形に抱えられて逃げた一組を追いかけ始める
二手に分かれた策は功を奏し
追っ手の攻撃が緩まった中、それぞれは
ターミナルを目指すのだが…
「うっぷ…き、キモチ悪ぃ…」
「たりめーだ一瓶一気にいくバカがいるか」
道中あちこちから這い出る人形を蹴散らすものの
口を押さえた啓一が、徐々に走るペースを
落としているせいで襲撃の回数が変わらない
「もう少し気張って走…どわっ!」
「って、ポスターにビビってどーすんだよ
ダメだダメだ全然ダボロロロロロロロロロ」
「お前ぇがダメだぁぁぁ!つか足元に吐くな!!」
土方と吸血鬼のやり取りと時同じくして
息を切らした"ニセ吸血鬼"もフラフラと身体が
左右にぶれ、進む足取りが頼りなくなっていた
その横をが変わらぬ顔で添いつつ訊ねる
「銀時 そんな足取りで大丈夫か」
「大丈夫じゃねーよ問題だ!つーか
重てぇなお前!提案しといてアレだけど!!」
「ゴメンなさい…ボクの体重は、変身しても
かわらないみたいで…」
申し訳なさげな声音は金髪の"顔"から…
いや 『変身した啓一の顔』のマスクに
変化した唯碗が発していた
「とりあえずオレの首から落っこちねーように
しっかりつかまっとけよ唯碗」
「は…はい…イタっ」
「悪ぃ、ちょっと電柱にぶつかったわ」
「気をつけぬか 唯碗だって痛いのだぞ」
「おーいオレだって痛いんですけd「なぁ
困ってんならその首軽くしてやろうかゥオァ?」
不意に足元のマンホールが切り裂かれ
落ちてくる鉄片を縫うように伸びた腕が
銀時の片足を思い切り掴んで引きずり込む
「ぎゃあぁぁぁちょ!足引っ張るなぁぁぁ!」
足を蹴り動かして穴から這い上がろうとするが
相手はいくつもの刃で身体を支えて
マンホール内に留まっているらしく効果は無く
どんどん彼の身体は地下へと引き込まれていく
「首刈られる覚悟は出来てるか金髪ゥエェオ!」
掴んだ足を更に引きながら笑う邪苦
の顔面人中にマンホールの隙間から
差し込まれた槍底が直撃した
「オガッ!?」
手が緩んだ隙をついて、銀時が足を引き抜く
がその後もの槍底攻撃は連続して行われる
「え…な、何をしてるんですか…?」
「しばし待たれよ この男を葬る故」
「いや今はターミナルに行くのが先だから
それにホラ、ガキの前でそこまですんのはどーよ」
「この者はこちらを殺す覚悟で襲ってきたのだ
ならば微塵の容赦もなく返り撃つのみ」
「どんだけ念の入った報復ぅぅ!?つか
もしかしなくてもまだ髪の件恨んでる!?」
真偽は定かでないながら、表情一つ変えずに
マシンガンの如く槍底で突くに二人は引いた
「ん?手ごたえが消えt「ウグアァアァァア!!」
刹那、側の路面が盛り上がって砕けると共に
回転した邪苦が現れて
「よっくもゴスゴスゴスゴス叩いてくれたなぅあ
テメェらの首も船に飾ってやるぜェエウェ!」
勢いを殺さぬまま地面を蹴り上げて
カギ爪の両手を広げ 金髪頭へ狙いを定めた
けれどその接近も彼女が身を挺して阻む
「さんっ!!」
「あんだよぉ、髪だけじゃなくやっぱり首も
刈り取って欲しいのか亡霊葬者ァアァア?」
身を幾つか切り、首に巻かれた包帯と
作務衣の腹も赤く染まった少女へ邪悪に笑い
邪苦は爪に滴る血を舐め取った
が…当人は怯むことなく槍を構える
「首を刎ねられる覚悟は出来てるか、吉田とやら」
「足手まといを背負ってそんだけ吼えるとは
上等だぜェイェ刻んでやるぜゥアァァ!!」
――――――――――――――――――――――
あとがき(というか楽屋裏)
狐狗狸:蛇足になるけど説明不足語ってきます
まず、唯碗は作中通り"吸血鬼状態の啓一のマスク"
に変身して銀さんに着用されてます
土方:重量そのまんまかよ、つか前見えてんのか?
狐狗狸:視界と呼吸は出来るタイプなので無問題
銀時:つーか啓一のヤツ、よくあんな重いの
背負ってダベってられたな
狐狗狸:そこは彼の怪力&身体能力が
関わってくるので当然としかいいようが無いです
土方:しかしこんな茶番がやりたいが為に
ワザワザ総悟使ってまで仕込んでくるたぁ
銀時:本当、くだらねぇ事しか考えねぇな
こーのバ管理人はよぉ
狐狗狸:……特別ゲストとして伽○子一家を
お呼びしましたので二人で対談してくださーい
二人:ぎやああぁぁぁぁぁあぁぁぁぁ…!!
サブタイの後悔した一名はもち邪苦です
…語尾がメチャクチャめんどいし
やたら長くて文に治め辛くて(泣)
様 読んでいただきありがとうございました!