啓一を枝から降ろし、無傷なのを確かめてから
「ったく、勝手に出歩くから怖ぇ目に合うんだ」
ため息混じりに銀時は苦言を吐いた
「悪かったよ、ゴメンなさい…でも女王
アイツを追っぱらうなんてマジでスゲーな」
「吉田には消火器アタック これ基本ネ!」
「使用方法違う気もするけど、まさか本当に
効くなんて…それより大丈夫ですか?」
問いかけるが、は怪我も人目も気にせず
切られた髪の前ではいつくばったままだった
「兄上にほめてもらった編み髪が…」
「この様子なら大丈夫だなこいつ」
「ね、ネーちゃんならショートも似合うぜ!」
「そうですよ、あの人もきっと事情を
察してくれますよ」
「……誠か!?」
顔を挙げ、ぱぁっと目に光が差した彼女に
励ました二人は少しだけ顔を赤らめた
「単純アルな…それより銀ちゃん
あの吉田リターンマッチする気満々だったネ」
「だな 面倒クセェし奴らに両方預けるか」
「や…ヤダっ!オレっネーちゃんとこでねる!」
かぶりを振り、啓一がひしとにしがみつく
「どうします?銀さん」
と問う新八だが既にその表情は苦笑混じりで
「…ったくつくづく面倒なガキだなオメェ」
渋い顔で頭を掻いた銀時に、神楽もまた
三人と顔を見合わせて笑ったのだった
第十一訓 一箇所にこもるのも
ホラーじゃ死亡フラグ
「アンタも災難だねぇ」
タバコを吹かしながらやる気の無い口調で
お登勢さんは続ける
「王子だか何だか知らないけど、ガキンチョに
妹共々振り回されたあげく自分家おん出されて」
「ええ…今回ばかりは少し堪えてます」
真撰組からの連絡の後から音沙汰が無くて
気を揉んでたら、案の定ヒドイ怪我で帰ってきて
短くなった髪はともかく首の手当てをしようと
救急箱を取りかけた辺りで
子供だけでなく万事屋の人達も家に上がりこんで
理由を訊ねたら…二人がある国の王族関係者で
賞金稼ぎに命を狙われてて、また襲撃があるかも
なんて予想だにしない話が飛び出して
あの大きな子はそのまま真撰組で保護してもらい
小さい子の方をウチで警備するみたいな
取り決めが万事屋の人達とあの子の間で出来てて
「万一戦場になった時のため、兄上は
ここから離れた場所に避難していてくだされ!」
…で有無を言えず、僕は定春くんの世話も兼ねて
お登勢さんの所へやって来たわけだ
「と住むようになってから、僕の神経は
音を立てて磨り減ってますよ」
「アシタ辺リ寿命カモシレマセンネ」
あの子がいたらシャレじゃすまないですよ、と
思いつつキャサリンさんの台詞を笑って流す
「それにしても…アイツらもアンタの妹も
よくよく厄介ごとに縁があるねぇ」
「皆さん、大丈夫でしょうか?」
どこか不安げな卵さん同様、僕とて皆さんが
心配でないワケは無いのだけれど…
「僕としては 家の修理費が出来うる限り
軽費で済む事だけを懸念しています」
きっとあの人達とあの子は、外野の不安など
どこ吹く風で乗り切るんだと思ってもいる
――――――――――――――――――――
大口を開けた神楽の欠伸に釣られ、銀時もまた
長い欠伸をして日の光に目をしょぼつかせる
「ったく…リターンウソかよ吉田のヤロー…」
「でも良かったじゃないですか、どちらも
何事も無く過ごせて」
あの後 真撰組側も万事屋側も
交代で見張りをしながら二人の警護に勤めたが
懸念していた殺取の再度襲撃は結局起こらず
再び関係者一同は真撰組の一室に集まって
これからの事を話し合っている
「油断は禁物ですよ皆様…奴等は金に汚いので
一度目をつけた相手はしつこく狙ってきます」
「心配ないアル!あんな吉田と伽○子コンビは
私達がちゃちゃっと片付けるヨ!」
「神楽ちゃん その呼び名は版権的にどうかと」
狙われている当の本人同士は、やや距離を置いて
ちらちらと見つめ合いを繰り返すばかり
唯碗が何かを言おうとするけれども
その度 啓一が首を背けてしまい口を閉ざす
そんなじれったいやり取りをする金髪頭を
軽やかに歩み寄った沖田が叩く
「な、なんだよドS…」
「昨日は大変だったろ?景気付けに
いーもん買ったからコレやるぜぃ」
「ウィヒ?イイやつじゃんお前…いぎゃー!」
受け取った瞬間、悲鳴が彼の口から漏れる
茶色い液体に漬かった白い物体が詰まった
手の平サイズのビンには
"たまり漬けニンニク"の文字がでかでかと
「にににニンニクじゃん!いらねぇこんなの!」
即効で押し返す少年の手に、無理矢理ビンを握らせ
黒い笑みで沖田は言った
「遠慮せずに受け取れよぉ なっ?」
「やっぱヤなヤツだ!マジドSコイツ!!」
「啓一パース!それ私が処理しちゃるアル」
「てめっチャイナぁ 人が好意でやってるモン
横から取ってこーとすんじゃねぇよ」
乱入によるいがみ合いというルーチンワークを
引き起こす二人を呆然と見やる少年の肩を
寄ったが突いて訊ねる
「声をかけぬのか?」
「あ、う…あのぅ首のそのケガ、本当に
大丈夫なんですか?」
か細いソプラノに 若干能面のような表情が緩む
「勲殿にも申したが心配には及ばぬ故…
唯碗はあの後、何事も無く過ごせたか?」
「はい、みなさんのおかげでボクは
大丈夫だったんですけど…その…」
窪んだ目が伏せがちに、近藤とマリエズを見る
「あんだよ…まさかゴリラがついに人外に
発情してガキの目の前で自慰プレ
「誤解招く発言すんなついにって何だよ!?」
とんでもない発言を遮ってから
「そこのデカイ奴が夜中ネズミと格闘しやがって
慌てて入った近藤さんもろとも張り倒したんだよ」
忌々しげに土方が目を向ければ、隅に佇んでいた
彼女は済まなさそうに頭を低くした
「申し訳ない…妻はその手のモノが苦手でして」
「いやー、あん時は額切って大変だったけど
唯碗君のお陰で助かったよ!」
ほがらかな笑顔で言われ、彼は身を縮めて
やや恥ずかしげに頬を赤らめた
「唯碗君、一体何をしたの?」
「あ…はい実はボク変身以外にも…いたっ!」
「お前一体何してるアルか!」
神楽の叱責が飛ぶが、啓一はスネを蹴った事に
何一つ言葉を放つことなく再びソッポを向く
「どうしたというのだ啓一は…」
「ほっとけよ、大方拗ねてんだろぃ」
「それで?これからガキどもはどーなんの?」
問いかけに、近藤はやや言いにくげに答える
「今の所はオレらと協力で警護らしいが…
二人が歩執守への警備手配をして、それが
終わり次第 子供らを連れて地球を経つそうだ」
「え…ちょっと待ってください!
二人を星に連れて行くんですか!?」
「お国の問題だの何だのが面倒らしいからな
元々の星に連れてく方が手間もねぇし安全だろ」
「孤児院側とは、もう話がついてるらしいぜぃ」
沖田の言葉を引き継ぐようにレチマも言う
「手配に関しても、王族の紋章と私達の身分証が
あればスグに終了する程度のものですよ」
「紋章…もしや、唯碗の"お守り"か?」
「有守の娘程度でもそれぐらいは分かりますか」
蚊帳の外でどんどん進んでいく話に、渦中に
いるハズの子供達は何も言わずにいるばかり
疑問も否定も言わず…ただボンヤリと見つめるだけ
あまりの無反応振りに、思わず神楽は問いかける
「啓一、唯碗 お前らそれでいいアルか?
こんな状態で無理矢理星に帰っていいアルか!?」
「ぼ、ボクは…ボクにはどうしようも…」
胸元をきつく握り締め、言葉を絞る唯碗に
「オレはどーでもいいけど、お前は王子に
なれっからうれしいんじゃねーの?イワン」
苛立たしげな一言がぶつけられた
「け、ケイイチ君…ボクは王子なんかじゃ…」
「うるせぇよ急にちやほやされやがって
そのウジウジしたタイドがムカつくんだよ!」
殴りかかろうとした啓一を止めるべく周囲が
動こうとした直前
「「ひぃっ!?」」
間にボトリ、と何か大きなものが落ちて
二人は尻餅をついてへたり込む
「大丈夫ですかお二方!」
身を案じつつ立たせるトカゲに彼らを任せ
ひょいっと畳に落ちた物体が拾い上げられた
「んだコリャ…ドナ○ドの首?」
「うぇ、そんなモンが何で天井から…」
土方と銀時に釣られるようにして、全員が視点を
真上へ傾けていくと
天井に開いた穴から人形が複数飛び出し
張り付き群がっているのに気付き
瞬間 それらが爆発的に増殖しながら
全て彼らに向かって落下してきた
『うぼわぁぁぁぁぁぁぁ!!?』
パニック状態になる中、夫婦二人は素早く
子供達を庇いながら退避を開始し
残る者達も急襲をしのぎつつ廊下へと出れば
行く先の天井が大破し そこから猫背の
コート男が落下してくる
「ったく…ここまで来るのにサツの連中ばっかで
手間かかったじゃねぇかぁうあぁぁうぁ!」
「そーなったのは全部超アンタのせいでしょーが」
手をすり合わせ吼える邪苦に、人形の群れに
混じってたらしい杭印がスゴい形相で捲くし立てる
「とっとと超仕事済ませて残りは超遊んで
超寝て超ダラダラして過ごしたいってーのに
何だって勝手に超抜け駆けしてくれてたわけ?」
「怠けて船の駐禁取られたテメェが言うなぅあ!
抜け駆けだろーが賞金もらって、オンボロ船を
金銀パールデコレーションしてぇんだよぅあぁ!!」
「ちょっ、アンタらまさかんな下らない理由で
賞金稼ぎやってんのぉぉぉぉ!?」
「黙れメガネぅえあ!
皆殺しパーティだヒャッハアァァァアァ!!」
『防御モード発動!』
斧を携えたマリエズが迫る邪苦の両刃を防ぐ
「今は王子達の保護が最優先です、皆様方
お早くお二方を連れてお逃げ下さい!」
執事夫婦に殺取二人を任せ、七人はすぐさま
人形を蹴散らしつつ外へと向かうが
追う奴らの数は一向に減らず 際限なく
各所から沸き出してくる
「ちっ、人形どもの数が多すぎる…」
「だったら減らせばいいアル」
直後、神楽と沖田に回し蹴りされ近藤と土方
両名が人形の群れの真っ只中へ放り込まれた
「ぎゃあああ!何すんの二人ともぉぉぉ!!」
「スイヤセン、オレら逃がすための囮ってコトで
あと土方くたば「テメェもくたばれ!」
退避しようとして、文字通り足を引っ張られ
沖田もまた人形達に群がられた
…そんな醜いイザコザ無視し
「アホどもは放っておいて行くぞテメーら」
「え、ちょいいんですか銀さん!?」
「…勲殿達の恩は、三途で報いる故」
「縁起でもないから止めてさんんん!」
四人は子供達を連れ 包囲の薄くなった
廊下を駆けて外へと抜け出した
――――――――――――――――――――――
あとがき(というか楽屋裏)
狐狗狸:えー前回に引き続き、ウチの子の髪は
肩までのショート状態でお送りしております
土方:そっからかよ!?心の底から
どーでもいいわそんな情報!!
神楽:よくないアル!髪は女の命ヨ!!
沖田:酢昆布くわえてる奴に言われてもイマイチ
説得力わかねーんだけどねぃ
近藤:いやまあ…短くはなったけどアレはアレで
似合ってると思うよオレは、うん
銀時:いやでもよぉアイデンティティの一つが
消失ってマズくねーか?…あーでも神楽の
兄ちゃんと被ってるからかえっていいのか?
新八:あの、髪型の話よりも重大なポイントが
あると思うんですけど皆さん
狐狗狸:確かに唯碗の力とか黒幕の正体とか
どーたら言ってたが…そんな事は無かった
新八&土方:今回の話っつーか長編全否定!?
お兄さんは長編では出番ほとんど無いながら
何気に気苦労多い人です(妹死亡フラグだしね)
様 読んでいただきありがとうございました!