あの星の執事と名乗った方からの通話を最後に

電話を終えると…梗子さんが詰問してきた





「先程の電話…失礼ですが詳しい内容を
お伺いしても?」


「大丈夫です、心配する事は何も…」





努めて笑顔に振舞って見せるけれど、真摯に
訊ねる彼女にどうしても隠し通せず


私は内に秘めていた全てを話した







「まさか…あの二人が、歩執守星の…!?


「いつかは言わなければ…と思ってましたが
二人を見ていたら…とても言い出せなかった」





あの子達もまた 自分の子の様に想えて


いけないとは知りつつも、何も伝えられず
手放すことが出来なかった





「お気持ちは分かりますわ…私もまた
ここの孤児達をと思う女ですもの」





優しく語りかける梗子さんの言葉でも

胸に沸いた不安は拭えなかった





どうか…どうかあの子達をお救い下さい…!











第十訓 神出鬼没でしぶといのが
ホラゲキャラの真骨頂












薄い夕闇に包まれた郊外の木の、上の枝に跨り

啓一は赤い眼をぼんやり空へ向けていた





「そんな所にいては危ないだろう」


「なんだよネーちゃんか…ほっといてくれよ」


「断る 今日お主を預かるのは私だからな」





キッパリ言われるけれど、それ以上問わぬ
に少しだけ安堵し 彼は一人呟く





「オレさ、カーちゃんのこと大好きだけど…

でもやっぱ気になってたんだ、母ちゃんのこと」





相槌は短く「そうか」の一言だけ


それでも本人が言葉を紡ぐには十分だった


「聞けなかったけどカーちゃんがそのこと
オレやイワンにかくしてたの…本当は知ってた


だから大人になって、いつか自分の星
行ってみたいなって二人で言ってたんだ」





基本は性格的な力関係により上下の間柄だったが

問題児コンビの仲は、周囲が思うほど
悪くはなかった


啓一の機嫌がいい時などは宇宙の話や
一緒に遊ぶものの相談をしていたくらいだ







それだけに現実は 彼にとって重過ぎた





「でも、イワンが王子でオレらが命ねらわれて
そんなのっイキナリ信じられねぇよ…!」






涙声で思いの丈を吐露した少年に、
無表情のままで柔らかく語りかける





落ち着くまで側にいる…帰りたいなら
共に行く故、私に声をかけろ」





頬を濡らした涙を拳で擦りながら 彼は返す


「……ありがとなネーちゃん」







灯り始めた星と静かな時間とが心を落ち着け





(…もう少ししたらもどって、それから
イワンと話でもしよう)


大分気分が持ち直してきた彼が木を降りかけ…





刹那 近くの木から目の前へ、刃物を剥き出し

ただれた顔を笑みに歪めた男が飛びかかる


「ブヒョウァハァ!一っ番乗りぃぃいぃやぁ!!」





怯え硬直する啓一の首を裂かんと刃が薙がれ


寸前で、伸び上がるように飛来した槍の一撃が

凶行を防ぎ男を木から叩き落す





「す…すげぇぇぇ!
ネーちゃんのコントロールマジすげぇ!」


「啓一、決してその場を動くな!」





跳ね返った槍をしっかりと掴み取って


は木を背に襲撃者へと立ちはだかる





少し先の地面に着地した邪苦がようやく
身を起こすと 驚いたように歪な目を見開いた





おぉっ!?得物が槍にその軌道…オメェ
有守流の槍使いかゥアァァァァ?」


「だったらどうした」


「オレのボスもその流派を伏見だか何だかから
教わったとか言っててなぁ、オレも地球に
その流派を使うヤツの話を聞いてたんだよぉ」





両手に生える、爪に似た数本の刃を
男は狂ったように素早くすり合わせて笑う





ひょっとしてテッメェかァアァァアァ?
"亡霊葬者"ってぇのあぁ!!」



「…その名で呼ぶな」





対し、水平に槍を構えた彼女の緑眼は
無表情に似合いの冷たさを孕んでいた









屯所の一室の隅で充電するマリエズに
見守られながら、二人は夕食を取っている





「どうだい唯碗君?おいしいだろう、それ
ついさっき作ってもらったばっかなんだ」


「はい…あ、ありがとうございます」





明るく笑いかける近藤におずおずと頷く
唯碗の様子を 薄暗い廊下で眺めながら





「王子も大分ご気分が優れてこられたようです
あなた方と局長殿の心遣い…誠に感謝致します


レチマは歯の無い口を緩く釣り上げて微笑む





が、次の瞬間飛び出した言葉は厳しかった


「しかし…あの少年の迎えに民間の人間達
まして有守の娘をつけるのは感心出来かねます」







飛び出した際には流石に対処に戸惑い、王子を
優先した為その場から動かずにいたものの


王の命令もあり元々責任感の強い執事は

啓一を迎えに行くと宣言したのだが





『悪ぃけど、オレらが先にこいつらの世話を
頼まれてっからよぉ〜奥さんと待っててちょ』


言い放った銀時を先頭に万事屋トリオが
彼を置いて、二人を探しに出て行ったのだった







「オレ達にしても奴らの勝手な行動にゃ
ほとほと迷惑してるんだがな」


「ま、アンタら二人よりは信頼が置けまさぁ」


沖田の台詞に若干気分を害した視線が飛んだが





「それよりいくつか聞きたいんだが…まずは
殺取とか言った、あの二人組の情報からだ」





気にせず土方はレチマへと詰問する





「"春雨"ほど知名度は高くありませんが…

金の為に行った 連中の数々に及ぶ非道
私どもも色々と耳にしております」





"邪苦"は自らの身に刃物を生やせる天人で

その特性による両手のカギ爪をすり合わせた
頭部切断を好んで行い


"杭印"は念動力を用いた人形の操作を駆使して
彼と組んで行動する天人との事





「ふーん、で土方と旦那がビビリ倒した奴らを
雇ってるのはどこのどいつで?」


んだとコルァ!オレはビビッてなんかいねぇ!」


「検討程度はついておりますが…そちらについては
私達が捕縛いたしますので余計な手出し
行わないでいただけますか?」







拒絶するような物言いに 二人は違和感を覚えた





「アンタらの任務はガキどもの発見と保護だろぃ?」


「特務管権限が政府高官同等の権力を持つ事を
お忘れなく…無論この件も全て他言無用です」






露骨な圧力行使に、怯むことなく土方は訊ねる





「所でよぉ、アンタらの星で内乱を起こしてた
首謀者はとっ捕まったのか?」


「…星の機密を私がアナタ方程度に話すとでも?」


「つまり伏せる必要のある人間…恐らくは
国のお偉いさんか何かが絡んでるってトコか」





ピクリ、と彼の身体が小さく震えたのを
両者は見逃さなかった





「ついでに思ったんですけどねぃ、ひょっとして

その首謀者とやらが 雇った賞金稼ぎと
一緒に江戸に来たんじゃないんで?」







鋭い指摘と視線に 隠し切れないと悟った執事は
やや声音を低くして言葉を紡いだ





「王も同じ見解なればこそ、"兵"ではなく
"特務管"を保護へと向かわせたのだと思われます


…二人の保護が最優先事項ですが、本来私どもは
"首謀者"の調査と捕縛を主に行っていたのです」


「ってこたぁ、もしガキどもを護れなかったり
ソイツを下手にこっちが傷つけでもしたら…」


「間違いなく"国際問題"程度として我らを含めた
関係者は全員処断、最悪国交も断たれましょう」





襖一枚を隔てているだけなのに 廊下の空気は
明らかに重く凝っていた…











執拗に啓一を狙い、木へと迫る猫背の男と


それを阻止し追い払う少女が、数えるのも
バカらしいほど互いの得物を薄闇の中で閃かせる





「貴様…何故あの女と共にこの二人を狙う!


突き出される両手の刃を受け止める





知るわけねぇだらぁ!?ボスは王子もソイツも
気に入らねぇから殺せっつってるけどよぅおぁ!」






せせら笑いながら邪苦は一端後ろへ下がると


地面を蹴って跳び、刃を生やした全身に
回転を加えながら一直線に突っ込んできた





縦に構えた槍の柄で突進を受け止めながら
相手の軌道をズラして左下方へ抜けさせるも


擦れ違い様に脇腹を切られ、彼女は眉をしかめた





「オレにコレを使わせるたぁ流石は有守流だが
…正直、聞いてたよりキレがねぇなぁウァア?」


「それでも貴様を掃うには十分だ」


「へぇえ…じゃあテメェ殺してガキも殺うぅえ!





再び弾道の如く突っ込む相手を迎え撃つ形で
槍の刺突が繰り出されるが


直前で両手を広げ 生やした刃を地面へ刺し込み
邪苦が無理矢理軌道を変えたため


槍先は残像を貫いて地面に穿たれるのみ





それを引き抜き身構えるも、強烈な痺れに
襲われて彼女は少しよろめいた





…こんな時に身体が…!」


「もらったその首、ブッチルィィイィィ!」


すぐ側に迫った邪苦がに照準を定めて
カギ爪にも似た刃をすり合わせる





「ネーちゃ…!」


っ!」


銀時がようやく、戦う二人の姿を見つけて
駆け寄るが……間に合わない





凶刃が根元を刈り取り、血飛沫が舞って


の黒い三つ編みがボトリと地面に落ちる








…そう、三つ編みだけが







間一髪 スレスレで身を引きつつ屈んで回避した
本人の首からはいまだ幾筋の血が流れているが


切り落とされるまでには至っていないようだ





オイオイ避けんなよぉ?キレイに首が
切り落とせねぇだろうァアァ…オガッ!?





刃を剥き出していた邪苦が強烈な殺気に身を捻る


直後、後頭部に木刀の一撃が掠めて過ぎた





オイオイ避けんなよぉ吉田
キレイにその頭ヘコませらんねーだろ?」





距離を取りながら、男は若干イラついた顔で
攻撃してきた銀時を睨みつける





「テッメェウエェあの時の脱糞ビビリかぁ!?
仲間はまだ漏らしたまま帰ってこねーのかよぅ!」



誰が漏らすかぁぁ!ついでにビビってたのは
オレじゃなくてアイツの方だから!!」


「どーでもいいんだよぅあぁ!オレの邪魔すんなら
みーんなまとめてブチ殺オガッ!?



いきり立っていた横っ面に消火器が飛来し

邪苦は今度こそ溜まらず地面に倒れて悶える





もう一発くらいたくないなら今すぐ消えるヨロシ」


新八から消火器二本目を受け取り、神楽が言う





「クソッ…ここは逃げるが勝ちだぜぅえぇぇぇ

だがっ王子どものニオイは覚えてんぞぉ!
スグ戻ってくるからなぅああぁぁ!!


身を起こした邪苦が 地を蹴って飛び上がり


近くの木の枝へ移ると、そこから素早く
別の木へと飛び跳ねて消えていった





猫背の男が消えたのを見計らってから

二人は銀時達の側へと駆け寄っていった








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あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:若干シリアスに迷走(?)してますが
次回辺りギャグ入れてく…つもりっす


銀時:ギャグ所じゃねーだろこんなん!
つーかいきなり国際問題みたいになってるしぃぃ!


狐狗狸:そりゃーまぁ国交のある所が絡んでるから
何かあったら責任問題、下手したら戦争になります


土方:さらっと言うなよオイィィィ!


沖田:首謀者っつっても犯罪者に変わりねぇんだし
しょっぴいちまえば同じなんじゃねぇですかぃ?


狐狗狸:そう簡単にはいきません…外国でも
重大犯罪者だと同じ国の警察組織しか逮捕権限とか
無いって聞いたことがあったような無いような


土方:うろ覚えじゃねぇかぁぁぁ!!


神楽:ふわふわした感じで毎度書くからネ
アイツんトコみならってきっちりググれよカス


狐狗狸:ちょちょちょっ消火器はらめぇぇ!!
(飛来しそうな消火器に怯える)




ショートになった彼女の髪は戻るのか?
「そっちが重要事項ぅぅぅ!?」


様 読んでいただきありがとうございました!