本当に…然るべき務めを果せぬワシに

この男は、どれ程尽くしてくれたのだろう





「申し訳ない…客人のあなたにここまで
していただくとは」


「なぁに、お客様は神様じゃき!」


癖の強い黒髪の、背の高き別の星の男は
太陽のように明るく笑っていた





臣下に裏切られ、ワシは死の床に伏せりかけ


そのせいで余計な争いが起こり…
大勢の罪無き命が 奪われてしまった





だが…徐々に大きさを増した争いを


この男と、そして率いた貿易船の者達が
良い様に取り成してくれた


いや…この恩は感謝してもし足りぬ

ワシも、そして民もまたあなた方の功績を
代々に渡り語り継いでいくだろう」


「そんな大層なモンじゃなか!ワシゃー
単に仕事先の無益な争いば片付けただけぜよ!」





気楽なその一言は、側に勤めていた
あの男を思い出させた





「あやつが生きておれば、な…」





奴らを追った者達も、無論信頼出来る手合いだが


奴らを相手に無事やり遂げられるか…」





不甲斐ない自身の責務を取るよりも先に

ワシには、やらねばならぬ事があった







一刻も早くあの星から見つけ出し"保護"せねば


奴等に見つかり…消される前に





心配ないぜよ!お前さんの探しモンも
部下達もここも、きっと何とかなる!」





殊更強く言い切り 口元に笑みを称えて





「なんたって 地球(あのほし)にゃあ
頼れる男がいるきに!」



"侍"と自称する目の前の男―

坂本 辰馬殿は、そう言った











第一訓 異文化交流もいいもんですね











「へぶしす!」





日の光も幾らか和らぎ、吹き込む風も少し
涼しさをまといはじめた秋口


ヒマを持て余した万事屋に銀時のクシャミが響く





「あー誰かオレのウワサした?いやー人気者は
辛いねぇ、ドコ行っても引っ張りだこだよ」


「安心するネ、それだけは無いアル」


「いーやあるね オレ割と仕事多いし
知名度ウナギのぼりだし、歌でも出せば
赤丸急上昇爆発ヒット間違いねーよコレ」


「なら声被り金パとマダオでユニット組んで
橋の下でサブい歌でも歌ってくるヨロシ」


「どんなイケメン電波ラダイス?」


ただ一人せっせと室内の掃除に励む新八の
ツッコミが入った所で





卓上の電話がけたたましくなり始めた





「はーいもしもし、万事屋ですけどぉ?」


『お久し振りですね坂田さん…烏魔です』


「からす…あーあーあん時の貧乳ネーちゃんか」


『呆れた、失礼な態度は元からでしたのね』





ため息をつく電話口の声は

それでも出会った時に比べれば
すっかりと明るさを取り戻していた









ある時…江戸で起きた"成人幼児化事件"





その事件の主犯の片割れであった彼女

烏魔 梗子(カラスマ キョウコ)


銀時達に諭されて自らの罪を償った後


江戸から遠く離れた土地にある孤児院
童子の里(ワラシノサト)で子供達に囲まれ

日々懸命に働き、穏やかに過ごしていた







『院長を始めとする職員の方々も
良くして下さるし、子供達も素直でとても
いい子達ばかりなんですけれども…


ただ二人ほど 協調性にかけるというか
困った坊やがいるのよねぇ』





小さく嘆息し、梗子は本題を切り出す





『あの子達に、少ぉしばかり社会を
教えてあげてもらえないかしら?』



「は?ちょ何どゆこと?」


『つまりは、そっちで短期間ウチの子達を
預かって欲しいんです』







そこで銀時は彼女の意図を何となく察した





要するに江戸でのホームステイを依頼したいらしい





「そんな面倒なモンはアイツに頼めよ

あっちのがガキの数少ねぇし手もかかってねーし
多分そういうのノリノリでやるんじゃね?」





子供の下りで従業員二人が渋い顔つきになり
雇い主を睨みつけるが


生憎 図太い神経を持つ彼は平然と
受話器片手に足を組み、耳をほじっている





『あの人にもお電話差し上げたのだけれど

色々都合があって、断られてしまいまして』


どうやら既に先方へ連絡はしていたらしい





以前にも世話になっている恩もあってか

無理を強いることがためらわれたのだろう







殊更申し訳無さそうに口調を和らげ

梗子は相手へと頼み込む





『だから頼れるのはアナタ達しかいなくって
もちろん、後ほどお礼はお渡ししますわ』


「いやだから何でオレに話すワケ?ねぇ
ホームステイ先ならん家でもいーじゃん」


『お身内の方が…"二人は流石に無理"って』


「いやいやいやウチだってこれ以上は
一人も引き取り不可だからね!?」






…と そこで彼女の声音がトーンダウンした





『それ以上拒否するようでしたら、成人男性だけ
睾丸が腐り落ちる薬でも江戸に散布』


「やります!やらせていただきますゼヒ!!」







語られかけたその計画の恐ろしさは


乗り気でなかった彼を、承諾即決
せざるを得ない所まで追い詰める威力があった






『あらあら冗談よ〜アナタ達なら
引き受けてくださるって分かってるもの』





明るい声音に戻ってはいるものの


彼女の能力と、"やりかねない"と思わせる
行動力&迫力を知っている銀時は

いまだに冷や汗を垂らしたままだ





「あーそりゃどうも…で、いつ来んの
その問題児のガキ二人って」


『ちゃんと万事屋の場所につけるか心配なので
さんに迎えを頼んであります


恐らくはもうそろそろ江戸に着いてると思うけど
よろしく面倒見てあげてくださいね?』







そうして、二言三言会話を交わし







「オイオイ…マジかよ


受話器を置いた銀時は倦み疲れた顔つきで呟く





「どうかしたんですか銀さん?」


「何か面倒な依頼でもあったアルか」


「よりによってあの貧乳ネーちゃんがよぉ…」


「すまぬが、誰かおらぬか」





見計らったようなタイミングで玄関から呼び声が





「あっはーいさん 今開けまーす!





機敏に部屋を抜けて、新八が廊下を渡り
玄関を開け







「どわあぁぁ!?」





直後に彼の悲鳴が大きく響き渡る





「何だよ、うっさいネ新八ぃ」


「おいおい玄関先で騒いで何なわk」


ひょいっと部屋から後を追った銀時と神楽が
その場で 顔面も動きも硬直させた









見知った作務衣姿に隠れるようにして





「あ…あのっ…よよよ、よろしくお願いします





おどおどと挨拶をするのは黒髪ながらも

170近く青白い顔で 全体的に四角くゴツイ男


但し声は、似つかわしくない程のボーイソプラノ







どこからツッコむべきか固まる彼らへ


おいヘンな天パのおっさん、くさった魚の
目ぇしてる大人ってお前のことだろ?」





言い放つのは、その後ろからひょこりと
現れて玄関から上がりこむ小さな少年


こちらは年相応の声と外見ながら

五部刈りの金髪と赤い眼 それに口から
突き出た八重歯がどこか異質さを見せる







一拍の沈黙を置いた後





「何コレ?え、何コレつーかアレ
これぇぇぇ!?ガキどもってこれぇぇぇ!!


畳みかける予想外の展開に動転する銀時へ





「二人の名はそれぞれ 啓一(ケイイチ)
唯碗(イワン)と言うそうな」


無表情のまま静かに答えたのは
二人を連れてきた だった





背にいた大男が、早速三人へ頭を下げる





「は、はじめまして…イワンです」


そっちが!?てゆか、ずいぶんかっ飛んだ
名前付けたもんだなー親御さん」


「あの…なんでも院長先生が、ボクたちを
ひろった時に身につけてたモノから名づけたって」


もじもじと俯き気味に呟きながら唯碗が

胸元の辺りを少し強く握り締める





「そうなんだ…ええとさん、この二人とは
知り合いですか?」


いや 今日梗子殿からここへの引率を頼まれた」





端的な説明ながらも、先程の電話口での
銀時のやり取りを見ていたからか


二人もまた大まかな成り行きは理解したようだ







「ど田舎から江戸にやって来たのはいいけどよぉ…」





ジロジロと神楽とを見比べて





「ババアの知り合いの女ってみーんな
ムネぺたんこだな!ウィヒヒヒヒッ!!」






八重歯を強調するように、両手で胸に丸の形
作って突き出して笑う啓一へ


力一杯 神楽の拳固が振り下ろされた


うっさい!私はまだまだ成長期ネ!」


「イダッ!なにすんだよボーリョク女!」





流石に一溜まりもなかったらしく目に涙を溜め

彼は相手へと飛びかかっていく







「だ…ダメだよケイイチ君!
女の子に手をあげるなんて!!」





悲鳴染みた声で叫ぶ唯碗だが





「うるせぇだまってろイワン!おいお前!
女だからってヨーシャしねーからな!!」



「私とガチンコして勝てると思ってるアルか!
上等ネ、全力でかかってくるヨロシ!!





その声は全くといっていいほど無視されて


二人はそのまま取っ組み合い始めた








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あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:えー、いきなりぶっちゃけますが
坂本さんは終盤になるまでもう出番ありません!


新八:どんな長編の挨拶ですかそれ!?


坂本:アッハッハッハ まあ長編出演が
かませるだけでももうけもんじゃき〜


銀時:つか貧乳ネーちゃん反省してねぇぇぇ!
新たに罪犯す気満々っぽかったよ!?


狐狗狸:大丈夫ですよ、アレ彼女特有の
冗談ですから…怒らせない限りは


新八:物騒なこと言った!てゆうかそれ
冗談になってないからぁぁぁぁ!!


神楽:てゆうかレディーに対して本気で
失礼ネあんのガキ!


狐狗狸:……ゴメン、弁護できねー




二人の子供が 江戸へと寄越された真意は?


様 読んでいただきありがとうございました!