あまりの素早さに手元が見えず…どころか
帝王が二重三重にブレているような錯覚に陥る
「残像スゲェェ!何あの早さぁぁ!?」
「あん練りこんで…うわっ、もう皮に包んでる!」
「オレ達があれだけ苦戦した餃子を いとも簡単に
作り上げ、焼きに入っているだとぅ!?」
「解りきったことを…ワシは帝王だぞ?
貴様らとワシとじゃ餃子を作るスピードが違う」
恐ろしいまでに手際のよさと、熟練の技を
駆使した帝王の手によって
あっという間に…見事な焼き餃子が完成し
皿に次々と盛られていく
『ご覧ください!この丹精込めて練られたあんを
しっかり包む 皮の焦げ具合…漂う香ばしさ!』
「うあぁ〜ニオイがここまで伝わってくる!」
「餃子を…オレ達にも餃子をぉぉぉ!!」
思わずよだれを垂らし、スタジアム内に
乱入しようとする観客を スタッフが必死に抑える
「わわわ私にも食わせるアル餃子ぁぁぁ〜!」
「だ、ダメだよ神楽ちゃん落ち着いてぇぇ!」
「そだっ騙されんな!よーく考えろ
コスプレ好きのおっさんが作った餃子だぞ!?」
雇い主に面目潰されたので反抗する銀時だが
口の端からのよだれは神楽と同じぐらいダダもれで
あまりの展開に呆けていた土方が ハッと隣を見れば
うらやましげに帝王の餃子を見つめるゴリラが
「い、一個くらいもらえないかなぁ…」
「釣られんな近藤さん!あんな簡単に餃子が
出来るわけねぇっ、あんなのハッタリだ!!」
その抗議にプライドが刺激されたらしく
つかつかと歩み寄った帝王が、おもむろに
銀時と土方の口へ出来たて餃子を放り込む
二人は驚きながらも本能に従って餃子を噛み砕き
あからさまに顔つきを変えて 飲み込んだ
第九訓 残った餃子はおいしくいただきました
「どうしたのだお主ら」
「二人だけズルい餃子!オレ達も食いたい餃子!」
長谷川の抗議に、帝王は皿に盛り付けた餃子の内
山盛りとなった方をキッチンに残す
「よかろう、貴様らも絶望を味わうがいい」
別の皿を持って離れる帝王を見送りながら
残る六人も山盛り餃子へハシを伸ばして
口に広がるその味に、目を見開いて硬直する
「こ、このパリパリともちもち 相反する両食感を
見事に成立させている皮の焼き加減…」
「噛みしめるたび、あんからにじむ肉汁!」
「しっかりとした味付けなのに いくら食べても
飽きない味アル餃子!」
「その餃子を口にして…まだ言う事があるか?」
明確な差を感じて、なおも帝王へ対抗しようとする
気力など 彼らには最早残されていない
「これが帝王の餃子…なんてこった…
オレ達が、この味を越すなんて無理だ…!」
チーム万事屋・真選組の誰もが絶対的な餃子の
うまさに骨抜きになり
或いはハシを握ったまま 戦意を喪失していく
「当然だ、ワシは餃子帝王なのだからな
…さてお待たせして申し訳ない ぜひご賞味を」
振り返って恭しく一礼し、帝王は将軍と
特別味見役へ手ずから作った餃子を運んでゆく
スタッフによって審査員席に並んでいた
出来損ないの餃子達は片付けられ
誰もが固唾を飲んで見守る中
「うんまぁあい!サクリとした皮とねっとりと
やわらかなあんが口の中で渾然一体となった
このハーモニー…まさに王の餃子っ!!」
過剰に絶賛する味見役に促されるようにして
将軍も 期待に眼差しを輝かせハシを動かす―
「待たれよ!まだ勝敗はついておらぬぞ!」
が、ハシを置いたの啖呵によって
将軍の試食は止められてしまった
餃子にひきつけられた観衆や、打ちひしがれる
仲間達の視線を受け止め 佇む無表情の少女に
余裕たっぷりだった帝王が、始めて焦りを見せた
「小娘…ワシの餃子を口にして、何故心折れぬ!」
「確かに今まで食した餃子で一番うまかった
…しかし、作り手の心が 魂が感じられぬ!」
兄のために、いくつも餃子を食べ続けたのが
功を奏して中毒に耐性が出来たこと
そして奇妙な説得力が帝王をたじろかせる
置いてけぼりの周囲を全く気にかけずに
彼女は七人へと呼びかける
「しっかりせぬか…これしきで勝負を諦めるとは
それでもお主ら侍か!?」
「あのーさん侍(ソレ)と餃子(コレ)は
ニラとクレソンくらい関係ないんじゃ…」
もっともながらやる気のない新八のツッコミの直後
「そうだ…そうだよ、協力してくれた
みんなのために くじけるわけにいかねぇんだ」
我に返ったように、近藤が顔を上げた
「そうとも の言う通り勝負は決しておらん」
「ああ、まだ…終わっちゃいねぇよな」
触発されたように次々とチームの者達が
戦う気力を取り戻し、身体を起こす
そして土方と銀時とが 視線を交わして告げた
「おい万事屋…一時休戦だ、まずは
とにもかくにもこの茶番を終わらすぞ」
「気に食わねぇが飲んだ その代わり賞金は
オレらの総取りってことで!」
「汚っ!手を組む動機が汚っ!!
てゆうか何なのこの無駄に熱い展開!?」
万事屋と真選組両チームが、手を組んで
自分に挑む気満々なのを見て取った瞬間
帝王の闘志と魂にも、火がついた
「面白い!我が野望を阻止したくば…
ワシの餃子よりも上手い餃子を作ってみせろ!!」
高らかな宣戦布告に、黙って成り行きを
見守っていた観客達がわっと声を上げた
そんな異様な熱気の中で司会者は困惑し
いまだに一口も餃子にありつけないまま
餃子を下げられ、将軍は両目に涙をにじませる
『あ、あのーそちらの餃子の試食がまだですが』
「馬鹿者!既に冷めた餃子などお客様に出せるか!
餃子は熱々出来立てのものが一番ウマいのだ!!」
片付けておけ、と我が物顔でスタッフに命じて
再びキッチンへとつく帝王と
「よーし分担通り動けよテメーら…勝ちに行くぜ!」
「偉そうにしてんじゃねーよ」
早速 一致団結して反対側のキッチンで作業分担を
決めつつ動き出す銀時達とを交互に見やった後
『さーまさかの素人集団と帝王の対決!
果たして、勝つのはどっちだぁぁぁぁぁぁ!!』
ついには、ヤケクソで司会者も流れに身を任せた
野菜を刻む包丁の音がリズミカルに響き
よく練られたあんのニオイが、辺りに漂っていく
「チーム素人集団、さっきとは比べ物にならない
見事なコンビネーションを見せてますね〜」
「うむ…餃子の作り方も料理の審判も、これほど
過酷なものだとは知らなかった」
「あれ?上様…泣いてらっしゃいます?」
「将軍家は代々、ドライアイ気味なのだ」
『両サイド 餃子包みの段階まで入ったあぁぁぁ!』
わざとらしく盛り上げる司会者の言葉を
聞き流しながら丁寧にあんを皮へと包みつつ
「あん乗せすぎ神楽ちゃん!包み切れないって!」
「こうやって二枚重ねすれば解決アル」
「餃子っつーか球じゃんそれ!?」
騒がしくも楽しげなチーム素人集団の
やり取りを眺めるうち
帝王の心は定食屋のおかみや天人の客を相手に
日々腕を磨いていた屋台時代へと戻っていく
「…ワシはいつの間に、餃子の頂点などと
言うものに執着するようになった」
禁断のレシピを編み出し、周囲に認められ
天人のスポンサーにも恵まれて全国展開し
宇宙進出をも目論んだ "帝王"のきっかけは
『大将の餃子、さいっこーだねぇ!』
『こんなおいしいものが食べられるなんて…
地球に来て よかったです』
作った餃子をおいしそうに食べる 客の笑顔
もっともっと、たくさんの人達にこの餃子で
幸せを味あわせてやりたい―
「礼を言うぞ貴様ら…おかげで、忘れていた
情熱を思い出した」
言って、帝王は自らの王冠とマントに手をかけ
床へと豪快に放り捨てた
「"帝王"ではなく 一人の餃子屋の親父として
全力で叩き潰してくれようぞ!!」
「そう来なくてはな、相手にとって不足無し!」
「ちゃっかりドヤ顔でキメんじゃねーヨ」
桂の後ろ頭を叩く神楽の様子を目にして
は…楽しそうに口元を緩めた
「…ニヤつくヒマがあんなら手元見ろ槍ムスメ」
「おお、すまぬな つい」
「あーほら皮伸ばしすぎ、もーちょい優しく扱え」
いずれ剥いたり着けたりすんだし、とセクハラい
発言をかました銀時も殴られた
こうして涙目になりっぱなしな将軍を、解説
そっちのけで 味見役と司会とがなだめ続けた末に
見事な焼き色の餃子が二皿分 出来上がった
「ふ…例え結果がどうあろうと、ワシは
貴様らの健闘を称えようぞ」
「なーに勝ち誇った事言ってんだ 勝つのは
オレらだっつーの、おっさん」
お互いに、やり切った表情を浮かべて
銀時達と帝王は勝負の判定を静かに待つ
『さあっ、軍配が上がるのはどちらの餃子だ!』
最高潮に高まった期待を胸に、味見役と将軍が
摘み上げた餃子を口元へと持っていく
沈黙に包まれた 緊張の一瞬
を、巨大な地響きと轟音がぶち壊した
『な…なんでしょうこの音は!?…え!?』
スタッフからニュースを聞き、司会者によって
観客の視線がスクリーンの映像へと一斉に集まる
…そこには、スタジアムへと迫る奇妙な
巨大ロボットのライブ中継が映っていた
「な…禁止区域にて厳重に管理されているハズの
アレが…何故、作動した…?!」
辺りを踏み荒らし 口や手から三秒に一個
熱々の餃子を吐き散らしてゆくロボ
怪獣映画のような光景に、釘付けになったまま
帝王がそれっぽいことを呟きだし
いやな予感が 波の様に押し寄せた土方の元へ
駄目押しにスタッフが無線機を持ってきた
「どうした?」
『すいやせん土方さん、シクりました 山崎が』
ひったくった機械から間髪いれずに流れたのは
予感通り…やっぱり、沖田の声だった
"泊まり先"の施設でのんびり子供達をイジめ倒し
スタジアムへと向かう最中、工場の側を通ったので
首尾を確認しようかと立ち止まったら
隣のビルのテロの残党を見つけたらしい
『ついでなんでとっ捕まえたら、何人か工場に
潜り込んだって白状しやがったんで』
「で、そいつらダシに乗り込んだのかよ…
それとあの機械はいつ繋がんだ」
『すぐでさぁ、ヤツら例の禁止区域とやらで
あのロボ巡って暴れてやしてね 情けなく人質になった
山崎もろとも片付けたら弾みで動き出しちまって』
「って事はほぼお前が原因なんじゃねぇかぁぁ!」
無線機越しに土方が怒号をあげている合間にも
ロボットは、どんどんスタジアムに接近する
鋼鉄の足が通り過ぎた"直線上"はメチャメチャで
大混乱になったスタジアムの外では、怯えて
逃げ出す人々の安全確保と事態の収拾を試みようと
まともに動ける隊士の面々と 外国からの
ある傭兵部隊の数人とが精力的に働いていたが
「すっげー!?なんだアレっ、江戸マジすげー!」
「おいコラ何でついて来た!?子供は戻ってろ!」
「いーじゃん、オレらだって役立つぜ?なっイワン」
「いやいやいやさすがにムリだってケイイチ君!
ゴメンなさい副司令さんボクらもどりますから…」
…こんな風に、どさくさに紛れて見物に来る
野次馬なんかも含まれていた
「何という事だ…我が餃子への理念がメカ餃子
"王・8J"の暴走を招くとは何たる皮肉…ははは」
スクリーンを見上げた姿勢で帝王は、ただただ
乾いた笑いを浮かべている
『そんな悠長な台詞を呟いてるヒマがあったら
とっとと逃げましょう皆さんんんん!!』
スタジアム内に残っているのは 帝王と司会者
そして銀時達の八人だけ
将軍と特別味見役兼解説はとっくに脱出済みだ
もちろん、料理勝負どころではない
餃子を吐きながら進軍してくるロボを眺め
土方が誰にとも無く問う
「…なぁ、これ結局どうすりゃ勝ち?」
「とりあえず ロボぶっ壊したモン勝ちじゃね?」
気だるげな銀時の言葉が 両チームへと染み込んで
「「勝つのはオレだぁぁぁぁぁぁ!!」」
次の瞬間、先を争うようにしてバカ4人が
ロボへと特攻していった
「勝敗もう関係なくね!?逃げましょうさ」
「あの機械の首を、兄上の勝ち土産にする」
『あーっとここで黒髪少女も乱闘に参戦だぁぁ!』
「ってアンタもかぃぃぃぃ!!」
「「つーか無理じゃね!?サイズ的にぃぃぃ」」
残された側の、メガネとグラサンとゴリラの声が
誰にも届かず 空しくスタジアムに響いた…
―こうしてメカ餃子"王・8J"の乱入により
うやむやの内に餃子対決の結果は
番組ごと、闇へと葬られた
機械に破壊された物体の損害賠償や諸々の
責任を取る形で、王餃子チェーンは倒産
「…ワシもまた、一から出直しじゃ」
帝王本人も責務を果たした後、"本場にて
屋台からやり直す"と発言し 江戸を去った
同時に世間を沸かせた餃子ブームも冷め
それに伴い中毒者も落ち着いて、街は
すっかり元の平和を取り戻していったのだが
「迷惑をかけた謝罪も兼ねて、兄上とで作った
特製餃子を持ってきたぞ」
訪れたが 大き目の包みを掲げれば
真選組の隊士達も、万事屋従業員三人も
その中身から 数歩ばかり身を退いていく
「お主ら…何も逃げずともよいだろう」
ミリ単位で口角を下げてため息つく彼女へ
周囲を代表し…土方と、銀時は
げんなりとした顔でこの一言を口にした
「「も…もう餃子はしばらく見たくねぇ」」
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あとがき(というか楽屋裏)
狐狗狸:末なんでギリギリですが、バカバカしい
餃子話はこれでおしまいとなります
全員:ありがとうございました〜!!
土方:禁断のレシピだの何だの言ってた割りにゃ
ずいぶんあっさり中毒抜けるじゃねぇかよ
狐狗狸:中毒性があっても結局は餃子なんで
餃子耐性か強い意思があれば自我を取り戻せます
長谷川:餃子耐性て何!?
神楽:ちなみにおっさんの餃子はあの後
ドサクサに紛れていただいたネ
沖田:旦那方や土方さんらが作った害餃子は
スタッフがおいしくいただいたそうでさぁ
桂:それでこの屍か…あわよくば将軍もここに
混じっている事を期待したのだが
狐狗狸:将ちゃんは結局一口たりとも餃子を
食べられなかったので涙目のまま避難しました
新八:アンタ上様に何の恨みがあんの!?
銀時:つか賞金はどうなったんだぁぁぁ!
近藤:いくらなんでもロボ落ちは無いでしょ!?
…ハッ!まさかネタ切(ブツン)
狐狗狸:真実は闇から闇へ
皮に包んでポイしたくなるような餃子長編に
お付き合いいただき、ありがとうございました
次回は…例の長編を予定中(日程はあの方次第?)
様 読んでいただいてありがとうございました!