夕方から夜にかけてのゴールデンの時間帯
スタジアムの両端に、特設のキッチンや審査員席
ステージなどがスポットライトに照らされ
『さー本日お送りするはずだった番組を変更し
この時間は "特番・激アツ素人餃子コロシアム
生放送SP"をお送りさせていただきます!』
リアルタイムで映像を送るカメラを前にした
司会者へ一旦、光と人々の視線が集中する
薄闇に包まれたスタジアムの客席には
「餃子は…餃子は、まだか?」
「こんだけの事やらかすなんて王餃子スゲーな」
中毒であるなしの区別無く、ひしめいた観客達が
対決が始まるのを今か今かと待っている
『頭角を現してきた有名店の指導を受けた素人と
独自の努力を積み重ねた素人…果たして
賞金を手にするのは どちらのチームか!』
「な、なんか予想よりもスゲー事になってんだけど」
「何考えてんだ あのおっさんは…」
「落ち着け貴様ら、食材と力量の点で互角なら
こちらにも勝ち目はきっとある」
タイミングを合わせ、ライトを浴びた司会者が
キッチンの片方を手で指して叫ぶ
『まず挑戦者は…まさかのチーム真撰組!!』
目も眩むようなライトと大袈裟な喚声を受けても
構う事なく彼らは会話を続けている
「で、何でテメーがいるんだよ伝道師」
「よいではないか 貴様らの仲間も戻らぬし
オレが代わりの人員と言う事で」
「何かうっさんくせーなぁ…本当にアンタ
うまい餃子作れんのか?」
疑わしげな近藤に対し、桂は自信満々に胸を張る
「任せろ 炒飯(チャーハン)はお手の物だ!」
「「オレらが作るのは餃子ぁぁぁぁ!!」」
周囲の熱気や状況に構わず が訊ねる
「瞳孔マヨ殿、餃子作りにこの衣装はいささか
不向きだと思うのだが」
「同感だが両腕持ち上げんな槍ムスメ」
「何故ゆえ?」
「お前がやると違和感が消失すっから」
土方の態度に首を傾げつつ、それでも彼女は
言われた通り両腕を下ろす
放送が始まる前に、楽屋にて桂以外の三人が
着る様に指示されたのは中国風の衣装
…というよりキョンシーのコスチュームであった
エプロン取って帽子を被り、札を頭に貼れば
どこからどう見ても完璧にキョンシーである
第八訓 お客様はモンスターです
普段のノリを発揮するチーム真撰組に呆れつつ
『えーオホン!余裕たっぷりな彼らの
対戦相手は…こちらのチーム王餃子!』
咳払いをして司会者が反対側へ手を突き出せば
スポットライトが向かい側のキッチンに
スタンバイしていた四人のキョンシーを照らし出す
「アレ?何で一人増えてんの!?」
「いやいやいや、そっちこそメンバー一名
違うヤツじゃん!てーか何がしたいのヅラぁ!!」
「ヅラではないカツ・ラーユーだ!
オレを無視し続けた事を今こそ後悔するがいい!」
「めんどくせっ!ウザい上にめんどくせっ!」
「ちょ待て万事屋、コイツお前の知り合いか?」
「いーや全然」
「フハハハハ図星を指されて無関心を装ったとて
餃子伝道師の座は渡さんぞ!」
「「いらねーよそんなモン!!」」
ちょびヒゲ桂の敵対アピールに、等しく苛立つ
銀時と土方を は変わらぬ顔で眺めて呟く
「なにやら因縁があるようだな…してマダオ殿
何ゆえお主がそこに?」
「オレが聞きたい餃子!急に彼がドタン場で
逃げたもんだから数合わせで入れられた餃子!」
「そーなんだ…てか大丈夫かい新八君、新八君?」
「はい、品質に異常はありません 全て正規の
材料を…って違うから!もうこれ拷問だから!」
支離滅裂な言葉と誰かに対するツッコミとを
ブツブツ繰り返す新八に、近藤は無言で引く
そして神楽は…と張り合えるくらい
ガッチガチの能面と化していた
「神楽、そんなに汗を掻いて大丈夫か?」
「べっべっべうぇ別っべちゅに平気アル餃子」
「無理をするな、そんな状態で「はいそこまで」
それ以上の追求を止め、銀時が小バカにした顔で
真選組チームの面々を見ながら言う
「お宅がいくら勝ち目が薄いからって、能面女で
こっちに揺さぶりかけんのやめていただけますぅ?」
「仕方なく組んでるだけだコラァ、テッメェ
この茶番で引きずり降ろしてやっから覚悟しやがれ」
一気に険悪さを取り戻した彼らを見て、ようやく
我に返った司会者が声を張り上げる
『早速両チーム、火花を散らしております!』
「ふふん…よき事よき事、餃子の名に
恥じぬ戦いを期待するぞ貴様ら!」
威厳たっぷりにマントをひるがえす帝王へ
観客は好奇とイタイ人を見る眼差しとを向ける
「うっわー何アレ」
「王冠かぶってるよ、誰だあのおっさん」
『えーこちら、本大会を開設した王餃子の社長
「帝王と呼ばぬか!」失礼、帝王さんです』
ますます強まる白い視線をごまかすように
司会者は番組を進行させていく
『そして審査員は…な、ななななぁ〜んとぉ!
まさかのこの方 ご登場でーす!!』
ドラの音とスモークという定番ながらも派手な
演出をかまされて現れた人物を目にして―
『征夷大将軍・徳川 茂々公ぅぅ!』
"将軍かよぉぉぉぉ!!"
銀時と新八と土方と近藤と長谷川は、心の叫びを
思い切り顔に出していた
「何でぇぇぇ!?何で上様がここに!?」
「おいコラ万事屋ぁぁぁ!どういうつもりだ
てかどうやって巻き込んだぁぁぁぁ!!」
「オレが知るかぁぁぁぁ!
マジ何考えてんのあのおっさんんんん!!」
「…将軍殿は餃子を好まれるだろうか?」
「案ずるな、相手が将軍であろうと
オレ達が味の革命を起こせば恐るるに足らず!」
ピントのズレた二名の頭が叩かれたのと
試合開始のドラが鳴らされたのはほぼ同時だった
『さー始まりました餃子対決!果たして見事
賞金を獲得する素人チームはどっちだぁぁぁ!?』
この状況で、もはや逃げることも後戻りも不可能
"絶対に 失敗(ヘマ)は出来ない"
腹を括り、決死の顔つきで指示を飛ばす彼らに
残る面子も自らの役割を果たすべく動き出す
その様子を、審査員席で将軍と特別味見役の女性が
少し離れた特別席で帝王が見物していた
「餃子というモノを食するのは初めてだが
どのような味か…楽しみだな」
「もしもお気に召しましたなら ワシの店の餃子も
ぜひともご賞味くださいませ」
「ほう、そう言えば巷を賑わわせている
王餃子とはその方の店であったな」
「ええ…小さな屋台から始めまして、様々な
店とシノギを削り店を大きくして参りました」
『なるほど…さて、両チームの動きは』
長話の気配を感じて 適当に切り上げようとするも
「無論、当初は閑古鳥が鳴く日も少なくなかった
だがしかし!ワシは日々努力を続けた…
血のにじむ様な修行を重ね、より餃子の旨みを
焼き加減の追及を続けてついに秘伝のレシピを」
司会者ガン無視で 帝王は熱弁を振るいだす
「おおっと、チーム真選組ここで具材を
鍋に放り込んで…炒めだしましたよぉ!?」
一方、特別味見役の解説で中継中のカメラが
鍋とお玉を巧みに操る桂に寄っていく
気づいた桂がカメラ目線で鍋を一振りすれば
見事なパラつきを見せた米が宙を舞って鍋に収まる
「って貴重な材料で何してんだテメェェ!」
「餃子に炒飯は定番だろうが!すなわち炒飯を
具にすれば最高の餃子が」
「無理だろ!つーか焦げてる焦げてるぅぅ!!」
指摘のさなか、背後から声をかけられ
「勲殿、次は何を刻めばよいだろうか」
「ああありがとう ずい分かかっ…てぇぇぇぇ!?」
振り向いた近藤が見たのは、まな板が埋まるほどの
刻んだニンニクとニラと野菜の山だった
「どんだけ刻んだのちゃあぁぁぁん!!」
「全て刻めと「だからって予備まで全部刻むバカが
どこにいんだあぁぁぁ!!」
足並みが揃わないチーム真選組の様子を
銀時が鼻でせせら笑う
「けっ、ざまーねぇな おい神楽!
この具 よーく練りこんであん作っといてくれ」
「りょっ了解アル餃子っ!」
裏返った声で返事をしつつ、渡された
ボウルの中身を神楽は混ぜ始める
が、三秒持たずにボウルが砕け シンクの上で
肉や刻んだ野菜類と満遍なく混ざり合った
「まさかの調理器具混入ぅぅぅ!?」
「ダメだって神楽ちゃん!この所 異物混入は
色々うるさいんだから全商品回収…じゃなくて!」
中毒のせいで本調子が出ない新八を無視し
神楽はなおも暴走を続ける
「こっこここれも練るアル餃子な!よーく
練りこんでおくアル餃子!!」
「ちょっ待っ やめて餃子ぁぁぁぁぁ!!」
止める間も無く長谷川が殴り飛ばされ
彼が捏ねていた皮用の生地に、本人の血と
グラサンの破片とが満遍なく練りこまれていく
「チーム王餃子、コレ大丈夫なんでしょうか…」
『こ…これは予想外の展開となって参りました!』
騒ぎ出す観客と 表情が険しくなる三人とを見比べ
司会者はもう冷や汗たらたら
しかし時間と予想外の出来事に追われた
彼らの暴走は止まる事無く、加速する
「とりあえず味だ!味がよけりゃ何とかなる!」
「どれだけマヨネーズを入れるんだ貴様ぁぁ!
血迷ったか!?血迷っているのか!?」
調味料としてあんに大量のマヨが投下され
「銀ちゃん、次これ包めばいいアル餃子!?」
「だからお前はじっとしてろって…だあぁ!」
伸ばした皮にまぶす片栗粉が分厚い層をなす
「おい槍ムスメ、皮に塗りこんでたコレ…
どう見ても水じゃねぇよな?中身、一体何だ?」
「皮がくっつかぬ時は、これで止めれば
問題ないと総悟殿に教わった」
「接着剤じゃねソレ!接着剤だよね?!」
油で熱せられた餃子から立ち上る、濃厚な
マヨネーズ・セメダイン・ニンニク臭の煙に
観客・司会・審査員二人に帝王がこぞって鼻をつまむ
「ねぇトシ…上様、泣いてない?目潤んでない?」
「この煙が目に染みたんだよ!きっとそうだ!」
一方 茹で上がりを待つ段階に入っていた
チーム王餃子の餃子が、突如
鍋に火柱を立てて燃えた
「餃子燃えたぁぁぁぁ!?」
「って待て待て待てぇぇ!何でお湯が燃えて…」
ニオイに異変を感じ、足元に転がったボトルの
ラベルを銀時が見ればそこには
デカデカとした筆文字で"大五老星(度数56)"
「ってコレ、酒じゃねぇかぁぁぁ!」
「違うぜ銀さん 命の水だ餃子」
「どっからどう見てもオレとお前とサシで飲む
安酒じゃねぇかよマダオォォォ!!」
ワタワタと新八が燃え上がる鍋の消火を行うのを
尻目に 手持ち無沙汰なが言う
「銀時、何ゆえ将軍殿は泣いておられるのだ?」
「何言ってんのちゃん!アレは泣いてんじゃ
なくて花粉で目が痒いの我慢してんだよ!」
こうして、無常にも制限時間が終了し
万事屋チームと真選組チーム 双方の餃子が
一応"完成品"として皿に並べられた
「か、海鮮と肉との二種茹で餃子でーす」
「ぐっ…具だくさんの揚げ餃子でーす」
真っ青になりながら、取り繕った笑みで
彼らは審査員席へ皿を並べるけれど
恐怖を浮かべた二人の表情は一向にやわらがない
「本当にあんなモン食うのか?」
「どうしたーハシが動いてねーぞー」
無責任な客席の野次に突き動かされる形で
「と…特別味見役として、賞味いたします!」
毒見…もとい味見の役を果たすべく彼女が
まず万事屋チームの餃子を口へと運ぶ
緊張した空気の中、もぐもぐと咀嚼し
…くわっと目を見開き 特別味見役は叫んだ
「め…めためたばかうまっ!」
『え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛』
スタジアムにいたほぼ全員が、あらん限りの声を
張り上げるが 彼女は本気らしい
「香ばしくコクのある歯ごたえのよい皮の中から
溢れ出る粉と肉汁と金属のハーモニー!」
言いながら、黒くぐずぐずな餃子をもう一口
「茹でた餃子の中にこれだけの片栗を塊のまま
内包するなんて…何て恐るべき技術でしょう!」
「「「いやいやいやいや」」」
力一杯首振って否定する天パとメガネと
グラサンをよそにチーム真選組の餃子も口にして
「まあ…こちらの揚げ餃子もやばうまっ!!」
特別味見役は信じがたいような感想を続ける
「ネチョリとしたセメダインの新食感と苦味
マヨネーズの酸味が混在する野菜とカリカリとした
炒飯にこれほどまでマッチするとは!」
あくまでも真剣かつ異様な持ち上げられ方に
万事屋・真選組両チームと司会者と観客は思った
"この女 絶対、舌おかしい"
「大変おいしゅうございました…ごちそうさま」
満足げにハシを置いた特別味見役によって
餃子を食べざるを得ない窮地に立たされてしまい
涙目でハシを動かす将軍を、見るに見かねて
『さぁ!それではいよいよ採点に移りましょう!』
司会者が進行を前倒しして皿を下げようとするが
当の将軍本人が、涙目のままそれを阻止する
「余は審査員として呼ばれたのだ 食さずに
判定するなど将軍家としてあるまじき行為だ」
『いやいやいや!味の評価はもう十分で
ございますので、後は飾りつけの評価などで』
「…とらん」
『はい?どうかしましたかー帝王さn』
眉をひそめつつ司会者が差し向けたマイクを
奪うようにしてもぎ取った帝王は、両チームを
力強く指差して、怒鳴った
『なっとらん!貴様ら餃子に対する姿勢が
全くもってなっとらぁぁぁん!!』
放り投げるようにマイクを司会者に返し
席を立った帝王がおもむろに両サイドの
キッチンを往復し、まともな具材や
生地や調理器具を一通り掻き集めると
ものすごい勢いで調理を始めた
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あとがき(というか楽屋裏)
狐狗狸:迷走しまくってますが、何とか終わりが
見えて参りましたので 四月中に突っ走ります
銀時:どんだけグダグダ引き伸ばしてんの!?
普通 短編で誤魔化すだろこういう時は!!
新八:いやここで尺稼ぐアイディア伝授されても
土方:お前いつもよりツッコミ弱ぇぞ、もっと
しっかりしやがれ 頼むからサボんな
神楽:『新八だから仕方ないアル、私を見習うネ』
桂:リーダー、エリザベスのモノマネが上手いな
近藤:いやそれ緊張してんじゃ…てゆかあの
特別味見役の人 どーいう味覚してんの!?
狐狗狸:残念な味覚してます
餃子による餃子のための餃子対決…完結なるか!
様 読んでいただいてありがとうございました!