暴れるワケにも行かず大人しく外へ放り出され





「再度侵入を試みたが、警戒が固く諦めた」


と、は事の顛末をそう締めくくった







屯所を満たす白み始めた朝の空気に、普段より
五割増しで苛立った土方が 紫煙と言葉を吐き出す





「…で?オメーはヤツらの餃子の種類と
メガネの嘆きとあの工場の異常さと、ついでに
知り合いのおっさんの転職を伝えんのに
何で朝までかかってんだよ」


「仕方なかろう、三途に行っていた故」


「今の話のドコに三途へ行く要素があった!?
ちゃんと説明しろ順序だてて!!」



「出された後 財布を探していたらビルの残党が」


「もう財布は諦めろぃ、大方どっかの
ホームレスにでも拾われて酒代に変わってらぁ」


大丈夫だから!きっとその内見つかるって!」





欠片の救いも無い沖田の言葉に肩落とす
何とかなぐさめながらも近藤が続ける





「にしても中の人間まで出入りが厳しいなんて
…オレら、あの店の餃子に太刀打ち出来んのかな」





内心は定かでないにせよ、四人のため息が重なって







ダメだダメだ全然ダメだな!そんな弱ゴシで
カーちゃんのヤサイが使えんのかよ?」


小バカにするような低い声が、頭上から響く





バサリと大きな羽音が徐々に近づいて


部屋から覗く庭先に…右肩に一抱えのダンボールを
担いだ 金髪赤目スーツ姿の"吸血鬼"が降り立った











第七訓 夜中の料理番組やソレ系動画の閲覧は
胃袋と体重的に大変危険です












「悪ぃーな、遅くなっちまったけど届けに来たぜ!」


「啓一に唯碗、久方ぶりだが息災で何よりだ」


「って何フツーに会話してんだオメーは!
お前らも自然に空から不法侵入すんじゃねぇぇ!」





土方の怒号に、服に変化している唯碗が必死に謝る





「ごっゴメンなさい!ボクは止めたんですけど…」


「しょーがねぇだろマヨデカ、門のヤツら
カーちゃんのヤサイ勝手に取ろうとしたんだもん」





どうやら門前に配していた 比較的軽めの中毒者が
啓一の持つダンボールの中身に反応したらしい





「にしちゃー嫌いなニンニクを別途で用意するとか
軽犯罪やる気満々じゃねぇかぃ」





庭に出た沖田に、目ざとく尻ポケットから
はみ出したニンニク形カプセル入りの袋を指摘され

啓一が慌てて弁解する





「こ、これはババアがいざって時用にくれたんだよ
じゃなきゃ好きでこのスガタにならねーよドSっ」


「梗子殿がか…しかし、何故にニンニクなのだろうな」


あ、それオレも気になってたんだけど」


「お父さ…王様が言うには、ケイイチ君の一族は
大人になれば自力で変化できるけど
子供のうちだと特別な方法でないとダメらしいです」







唯碗の補足に付け加えるなら、ニンニクの成分が
啓一の身体へ作用を及ぼし 身体の変化を


「そー言う解説は歩執守ん時に済ませとけや」


「ま、何はともあれ二人ともよく来てくれた!


「ボクもみなさんとまた会えてうれしいです」





笑顔で天人宅配便からダンボールを受け取った
近藤が、ほんの少しよろける





おおっ…結構重いな、この中身」


「カーちゃんがたくさん持たせてくれたんだ
みてくれはアレだけど味はサイコーだぜ?」


「勲殿、もし辛いなら手伝おうか?」


「いや気持ちは嬉しいけどオレ一人で十分だから」







彼女にしてみれば"当たり前"の気づかいなのだが


遠路遥々やってきたお子様組の片割れは、相手が
近藤へ注意を向けている事を面白く思わず





「せっかく再会したんだし、ゴリラじゃなく
オレらんトコの話も聞いてくれよー!」


「ぬをうっ!?」





背後から抱きついたついでに、啓一の両手が


作務衣の上から胸元をわしづかみにする





「あ、ペタンこだと思ってたけど
ババアよりあんだなのおっぱ いぎゃ!?


肩口から覗き込んでいた啓一の顔面に


勢いの乗った土方のグーパンが炸裂した





「ドサクサに紛れて何してんだエロガキ」


ウィってー!なぐることねーだろマヨデカ!
いたいけな子供のやったことじゃんかっ!!」


「見た目と中身が完全一致でアウトなんだよ
公然わいせつでしょっ引くぞコラァ」





威圧感たっぷりなひと睨みで啓一が萎縮する傍ら


いまだ服に変身したままの唯碗が、即座に
胸の前で両腕を交差したへと告げる





「ゴメンなさいさん、ケイイチ君が
あんまり自重しなくてゴメンなさい」


「…唯碗が謝る必要はない それに啓一も
悪気は無いのだろう?二度とするでないぞ」


ちぇー…分かったよ、ゴメンな」





口を尖らせながらも素直に謝った"少年"へ


眉間にシワを寄せて側の近藤が言った





「全くけしからんな啓一君…それで
ちゃんはちゃんとブラつけてたかい?」


「そりゃねーよ近藤さん、コイツにゃ大して
揉むほど胸ねーでしょ?精々サラシが関の山でさ」





…新八か山崎、もしくは隊士の誰かがいれば
「それセクハラ」くらいのツッコミがあっただろう


けれども生憎適役のツッコミは全員出払い


いい加減ストレスと疲労の溜まった土方には

そこまで細かいやり取りをする気力はない





「てかさ、今ってギョーザが流行りなのか?
こっちでもギョーザギョーザさわがれてっけど」


「…は?ちょっと待て、お前らんトコ"も"?」


「はい、ボクらの住んでるトコにはニュースで
やってたみたいなコトは起きてないんですけど」


「確かに、啓一と唯碗に兆候は見られぬな」





の一言に、彼は八重歯を覗かせて笑う





オレのおかげだぜ〜なっイワン!」


「う、うん」









江戸での進出の前後、チェーン展開を考えていた
王餃子が地方での興業にも力を入れ


二人の孤児院がある地域にも


店が餃子販売のワゴンを走らせていたのだが…





ダメだダメだ全然ダメだぜ!こんなタレで
満足なんかできねーよ、ウィヒヒッ!」



け、ケイイチ君!マヨネーズ使いすぎ!
院長先生や梗子先生におこられちゃうからぁぁ!」





格安販売で仕入れられた餃子に、啓一がラー油と
マヨネーズをしこたまぶち込んで食べ



それを男子のほとんどが真似したので残りの
子供達(と大人の一部)の食欲が自然と失せた


そんなやり取りが功を奏して


後日、出てきた餃子による中毒者に二人の
孤児院の人間がリストアップされる事は無かった









「見やがれ、マヨが地方を救ったぞ」


「副長 ドヤ顔されてもマヨの功績ですからそれ」





真っ当なツッコミを入れたのは、いつの間にか
戻って来ていたボロボロの山崎だ





「なー、ダレ?この地味なおっさん」


おっさっ!?どう見てもほぼ同年代だろアンタ!
どこの誰だか知らないけど!!」


「見た目変わってるけど、こいつら
あん時の天人のガキどもだぜぃ?」


「え」


「お主ら初対面か、この男は 真撰組監察の…」


ジッと見つめた緑眼に、次の言葉を予想して
訂正の為口を開こうと山崎は構え





「鬼瓦殿だ」


「とうとう一文字もかすらなくなったぁぁ!!」


全く予想だにしなかった返答に
もはや脊椎反射でツッコミを入れた





「てゆうか昨日顔合わせてたじゃん!
一緒に工場に潜入までかましてたじゃん!


「それなんだが山崎よぉ、テメェ今まで
一つも連絡寄越さず何やってたんだ?





鋭い声と視線に、彼はぎこちない笑顔で口を開く





「いやいいトコまで行ったんですけど、やたら
警備が厳しい上に 例の変なドアんトコで
万事屋のチャイナ娘と鉢合わせちまって命からがら」


「囮を使ったのに、ガサ茶々も満足に
入れられねぇたぁな」





沖田の揶揄に、言い訳を止めて山崎は
恐る恐るといった仕草で土方を見る







…予想に反して 相手は不敵に微笑んでいた





「なーにサボってんだよ、まだ仕事が
途中だよなぁ?山崎」


「え、あの副長 それってまさか」


「それとも仕事が失敗して逃げ帰ってきたとか
士道不覚悟な台詞抜かすんじゃねぇだろうな」



「もっぺん行ってきまあぁぁぁす!!」





刀に手がかかったのを見て、脂汗を垂らした
山崎が風のような速さでそこから消えた





「まだ工場の内部を調べておるのか?」


「たりめーだ、この騒動を起こしてる連中が
あんな茶番の勝敗で引き下がるとは思えねぇよ」


「とかいって本当は勝つ自信ねぇんでしょ?」


上等だコラぁ、あんな連中に誰が負けるか」





あっさり挑発に乗る土方を沖田がからかう様子を


やれやれと眺める彼女の袖を、小さな手が引く





なーなー、まだ時間あるんだったら
江戸でいっしょに遊ぼうぜー?」





どうやらニンニクの効果が切れたらしく
啓一は、元の少年の姿に戻っていた





「ダメだよケイイチ君、ボクらもう帰んないと」


「いーじゃんもう一日くらい、あのニーちゃんに
頼めば泊めてもらえ「あれ君ら昨日来てたの?」





瞬間、子供二人がビクっと肩を震わせた





「何だよ言ってくれればウチで泊めてあげたのに」


「ごっゴメンなさい近藤さん…その、昨日は
色々あって言いそびれちゃって」





胸元の辺りを握りながら、170近い背丈を
の背後に隠そうとする唯碗の隣で啓一も頷く





両者のその様子は あからさまに怪しかった







「そういやオメー、槍ムスメと約束してたのに
今日になってやっと野菜届けに来たよな」


だ、だから色々あったんだって!本当なら
オレも昨日届けるつもりだったんだよっ」


「ほー?じゃあ何があったか言ってみろよ」





更に追求を重ねられて、窮地に陥った少年を







「騙されるな貴様ら!
その二人は王餃子側だぞっ!!」






塀の上から一人の男が駄目押しに糾弾した







不法侵入二回目ぇぇ!つーか誰だテメェ!?」


ふはははは!オレの名は餃子の伝道師
その名もカツ・ラーユー!それはともかくっ」





自信満々に名乗りを上げた桂(変装)は


片足を上げて両手を広げた"荒ぶる鷹のポーズ"
決めた状態のまま、少年二人を指差す





「悩める貴様らに敵の情報を知らせてやろうと思い
あの工場に足を運んで…オレは見たッ!









昨日 との入れ違いで工場に侵入した桂は


変身し、背中の羽で塀を越えて中へと入った
少年二人を偶然にも目撃し





「頼まれてた材料、もって来たぜ女王!」


うわぁぁぁ!?だだだ誰だよアレっ!!」


「そういやお前 アイツのあの姿は
見てなかったアルな…アレが啓一アルよ」





餃子を忙しく口に放り込む神楽と、手伝いで
来ていたらしい"金髪の青年"とが


スーツ吸血鬼から野菜入りダンボール
受け取っていた現場をも覗き見ていたらしい









「べ、別にヤサイはどっちも同じモン
運んでんだからズルじゃねーだろロン毛!」


「ロン毛ではないカツ・ラーユーだ!」





しどろもどろに反論する啓一を他所に、彼らの
視線が唯碗へと注がれる





「それ、本当なのかい?」


「は、はいっさんのお兄さんのコトから
ボクらがヤサイを運んでるって聞いたって…

実は銀さんたちが先なんです 頼んだの


バラすなよバカイワン!
せっかくのおっぱいネーちゃんさわりホーダイが!!」






どうやらあの手この手で言いくるめられたらしい





「むぅ…よもやこのような事態になるとは
しかし、素材の点では互角と言うコトか」


「どこまでも可愛げがねぇなテメェはよぉぉ!」





怒り任せに土方は、無表情なままの
の片頬をムニっとつねる







「おっ…オレら里に帰んなきゃ!TVでみんなを
オウエンすっからっまたな!


「ああああの、それじゃ失礼します…!」


気まずい雰囲気を察して、子供二人が
そそくさと逃亡の準備を始め





そうはさせじ、と沖田が二人の腕をつかむ





「世話んなった連中んトコへの挨拶がまだだろ
オレも付き合うぜぃ?まーだ時間あるし」


「い、いいよオレら二人で出来るしっ」


「まーまー遠慮すんなって、なっ?





黒い笑みで 有無を言わせる暇を与えず


沖田は真っ青になった啓一と唯碗を引きずって
"泊まり先"へと連行していった







「ちゃんと大会までに戻ってくるかなー総悟」


「…まあ、いなきゃその方がいいのかも
知れねーけどな 問題起きなくて」


「しかし、互角となればますます負けられぬな」





頬を擦りながらのに賛同するつもりは無いが


山崎が工場の内部を探り、王餃子を検挙する
証拠を見つけるにも時間が要る…ので





「…仕方ねぇ、こうなりゃとことん
茶番に乗っかってやろうじゃねーか」





半分本気・半分ヤケで土方も腹を決めたのだった








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あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:ついでに集中力的な意味でも危険です
サブタイは全く関係ないです 内容に


沖田:息抜きと資料ついでに動画見てて
まーた更新遅れたパターンかぃ、うんざりでさ


狐狗狸:しょうがないでしょぉぉ!展開に詰まって
焼き餃子の作り方とか眺めてて、文字通り
食い入るように見ちゃったんだから!腹へった!


近藤:分かる気もするなぁ、オレもTVで
うまそうな料理紹介されてると食いたくなるし


土方:近藤さん、ヨダレヨダレ…ったくあの女
結局ロクなことしかしやがらねぇ


狐狗狸:責めなさんなって、お兄さんの状態を
話したのって一話でとっ捕まる前だし


山崎:調査と妨害(ワケワカランシゴト)の
命令受けたと思ったら…何?この仕打ち


狐狗狸:不運としか言いようが無いね




今夜、大江戸スタジアムで熱い餃子の戦い
ついに幕を開ける…!!?


様 読んでいただいてありがとうございました!