前回のあらすじ : 帝王の餃子のせいで
宇宙がヤバい、まず江戸がヤバい
なので真撰組トリオ(+)と
万事屋トリオで料理対決してもらいます
「ざっと今の状況をまとめるとこんなとこだな」
「なるほど、分かりやすいな勲殿」
「感心してる場合か槍ムスメ、そもそもお前
本気でオレらに協力するつもりあんのか」
「仕方なかろう、渡世の義理だ」
無表情で言い切る彼女の脳内がどうなっているか
一度見てみたい、と土方は眉を寄せて思った
先日 工場への潜入とその後のゴタゴタを経て
またぞろ現れた中毒者の捕縛や、他の仕事が
残っていた為 近藤達はそれぞれ持ち場へ戻り
結局テロとの関与が見つからなかったは
他の隊士に引き渡され、取調べや手続きを
終えた後に一旦家へと返されてから
再度の聴取も兼ねて 屯所に呼び出され
「餃子を…もっと、餃子を!」
「おらキリキリ歩け!フラフラすんな!」
現在、廊下にて彼らと共に奇妙な足取りの
中毒者が連行されて行く様を眺めているのである
「餃子は恐ろしいな、大半の者があの調子とは」
「オメーの兄貴も似たようなモンだろぃ」
「失敬だな総悟殿、兄上はあのような状態では無いぞ
単に餃子作りに並々ならぬ熱意を燃やして
今朝から語尾に"餃子"がついた程度ゆえ」
「それもう立派にこじれた中毒者じゃね?」
真っ当なツッコミがかまされた直後
廊下を踏み鳴らしながら、ダンボールを抱えた
隊士を引き連れて松平が現れる
第六訓 修行パートは地味だから基本カットで
「おーいたいた、オメェら王餃子の連中と
餃子対決だかなんだかすんだって?」
「え、とっつぁんいつの間にソレを…てゆか
何でここに?あとその餃子何?」
「いやーもらいモンなんだけどよぉ、こんなに
食いきれねぇから馴染みの店の子たちとついでに
テメーらにもお裾分けしに来たわけなんだがよ」
くい、と親指で差されたダンボールには
デカデカと"王餃子"の名前が刻印されている
「ついでに対決、三日後に大江戸スタジアムで
やるっての伝えとくぞぅい」
TV局側にも話がついているらしく特番として
大々的に注目されるので恥だけは晒すな、等
発破なのか圧力なのか分からない発言をかまし
部下と共に食堂へ向かう松平の背を見送った…後
"思ったより 大事になってる"
その単語が三人の脳裏に浮かんで点滅して消える
「どーいう手ぇ使いやがったんだヤツラ…
こりゃ益々持って時間がねぇぞ」
「土方さんの言う通りでぃ、負けちまったら
オレらも江戸も後が無さそうでさぁ」
「ああ…もはや一日も無駄にはできん
残る日数で餃子作りをマスターせんとな!」
「正攻法で行く気満々!?問題はそこじゃ」
ねぇだろ、とあくまで料理対決にこだわる
二人へ根本的に説得しようとして
彼は途中で言葉を止めた
「そういや、さっきとっつぁんがオレらにって
持ってきたの…あの店の餃子だったよな?」
「ええ、そいつがどうかしやした?土方さん」
何気なく答える総悟だが、よく見れば微妙に
小バカにしたような笑みを浮かべている
―土方の決断は早かった
「隊士どもの口に入る前に規制かけねぇと
餃子中毒が屯所に蔓延しちまうぅぅぅ!!」
「あ!そっか…ってそりゃヤベぇぇぇぇぇ!!」
ドタドタと慌ただしく食堂の厨房へ向かう彼らを
廊下に残った二人は眉一つ動かさずに見送る
「…瞳孔マヨ殿も中々に大変だな」
「悲しい中間管理職のサガってヤツさぁ」
他人事のようなのセリフに相槌を打って
傍観者を決め込んでいた沖田だが
間を置かずに駆けてったハズの土方が駆け戻り
「オメーらも働けぇぇぇ!」
二人は握り固めた拳を脳天に頂戴していた
いち早く気付いた土方と、ワンテンポ遅れて
気付いた近藤とで屯所内の餃子感染は防げた
…のはその日のみ
松平からの差し入れというのもあり、食物を
粗末にはできないので 廃棄を決定するまで
一時的に隔離されていた餃子は
翌日目ざとく発見されて隊士達の胃袋へと納まり
「心臓ガ、息ノ根ヲ止メルマデ…
餃子屋ニ向カッテヒタ走レ餃子!」
「どんだけ餃子に脳味噌侵食されてんの!?」
翌々日にはもう屯所内の五割以上が餃子中毒に
陥る事態となってしまったのだった
「意地汚ぇ連中ばっかか畜生ぉぉぉ!!」
ニンニクとニラを刻む、土方の怒号が厨房に響く
「副長、もうオレらだけじゃ中毒者を抑えるの
キツいです!ここは一つあの人らと連携取って」
「無駄だ」
「どうやらあっちのグラサンらも中毒に陥った
奴等(の)でてんてこ舞いだそうですぜぃ」
「むぅ…凄まじい感染力だな」
新たな皮として小麦を練る傍ら、答えては
ほやほやと湯気の立つ焼き餃子を
つまもうとする沖田の手を器用に払い落とす
「何すんでぃ」
「つまみ食いはいかぬぞ総悟殿」
「ど、どうかな君?」
エプロン姿で不安と期待に胸を膨らませる
局長の姿が 中毒をまぬがれた隊員達の涙を誘う
けれどもは動じずに口内の餃子を飲み下し
箸を置いて、厳しい顔つきで評価も下す
「具の練りも皮の接合も焼き加減も甘い餃子!
そんな事ではあの餃子に追いつけません餃子っ」
「くそう…餃子の道は険しいぜ!」
「諦めるな勲殿、兄上が口をつけただけ
まだ希望は残されているぞ!」
みじんに刻んだ野菜をボールにまとめつつ
冷めた目で茶番を見つめ、土方は再三再四
"オレ何やってんだろ"と自問自答を繰り返す
もはや明日が決戦間近となっている状況でソレは
あまりにも今更過ぎるのだが
仕事と中毒者への対応となし崩しに決まった
餃子修行に追われて精神に限界が来ていた彼は
休憩の合間を見計らい、彼女を捕まえて言う
「いいか槍ムスメ、オレ達がこれからやんのは
江戸を賭けた負けられねぇ戦いだ」
「うぬ、それ故こうして兄上の指導を受けている」
「…だが、ヤツらといまだ差がありすぎる
オマケに対決までの時間が残り少ねぇ」
が余計な言葉を挟む前に、"そこで"と続け
「敵の餃子について探り入れて来い」
彼は 真剣な眼差しで山崎との工場再潜入を命じた
「へーい、どちら様ですk「フハハハ!貴様らの
対決を風のウワサで聞いたぞ、この餃子伝道師
カツ・ラーユーも直々に助力しよう!喜べ!」
チョビヒゲの"怪しい中国人"スタイルに扮した
桂を前に、近藤は興味なさげにため息をつく
「またアンタか、スマンが修行の方は
もう間に合ってるから」
「なんだとぉぉ!いやちょっと待てよく考えろ
助っ人は多い方がいいと昔から言うではないか
…あ、コラ無視して扉を閉めるなぁぁぁ!!」
屯所の門前での小競り合いを他所に二人は
アニメ一話分(CM含む)ぐらいの距離にある
製造工場へ辿り着き、塀を越えて敷地へと入る
「人使い荒いのは元々だけど…今回は更に
輪をかけて意味不明だ、何がしたいのあの人ら」
「敵情視察だそうな 瞳孔マヨ殿曰く」
淀みも表情も無いに対し、言いたい事は
恐らく山とあっただろうけれど
言っても無駄だと理解していた山崎は
時間の無駄を省くべく、言葉を飲み込んで
物陰から様子を伺い…固まった
「ドスコイ警備だよ チェケダウ!」
先日、土方らが入った建物を中心に 二つ三つ
倉庫や小規模のビルのような建物があるのだが
ビルの一つ、入り口の側にある木の幹に
2m以上ありそうな巨漢がつっぱり稽古を―
「え…何コレ?何でお相撲さんがいるの?」
「どれ…警備員では?」
「いやいやいやおかしいおかしい!確かに
制服着てるけどマゲつけて稽古って!!」
「そこにいるのは誰でゴワスか!」
マズイ、と小さく零して
「一旦ここから離れよう!」
彼女を促し共に走り出す山崎へ 警備員は続ける
「逃げても無駄でゴワス、そっちから濃厚な
ニラとニンニクのニオイがするでゴワス!」
「こんな餃子臭いトコで分かんのそんなモン!?」
巨体に見合わぬ素早さで駆け寄ってくる力s…
じゃなくて警備員に応戦するか否か
しばし迷っては、足を止めて身構える
「ちょっ…何してんのちゃん!?」
「案ずるな、命はとらぬ」
「返答(こたえ)になってねぇぇぇ!!」
彼の絶叫を耳にしながらも、慣れた手つきで瞬時に
組み立てられた槍の柄が素早く動いて―
背後からの足音に、急に警備員が顔色を変えると
元来たビルの入り口へとすかさず駆け戻っていく
彼女がそれを追えば、巨体は入り口の辺りで誰かと
会話をしているようだった
「勝手に出てきちゃダメでゴワス!戻るでゴワス!」
「スイマセン!姉に会いに行くだけなので
どうか一度だけ見逃してください…この通りです」
聞き覚えのある声と共に、警備員の手に何かが渡される
しかし生憎彼女からは 巨体が邪魔で相手が見えない
「ぎょっぎょぎょ餃子定食券んんん!
おいどんに これをくれるでゴワスか!?」
「こ、声が大きいですよ!」
「ゴッチャンです!休憩いただきまーす!
…あ、皆にはナイショでゴワスよ?」
意気揚々と建物の中へ入って行く警備員を見送り
ほっと息をついた彼は、直後に肩を叩かれて
真っ青な顔をしながら慌てて振り向く
「うわぁっ!さんどうしてここにっ!?」
「それはこちらの台詞だ新八、何故ゆえお主は
賄賂を渡してまでここから出ようと?」
「頼むから見逃してください!これが
ようやく掴んだ脱出のチャンスなんですっ!!」
新八は必死な顔つきで両手を合わせていた
…場所を移して理由を聞けば 始めは給料と
食事の心配から解放されるなら、と新八も
この工場の異様な部分に目をつぶっていたのだが
延々と大音量のCMソングが垂れ流され
部屋の装飾も壁紙もエプロンの柄も三食全ても
餃子・餃子・餃子…と餃子一色
オマケにトイレの芳香剤まで餃子の香り
「いくら餃子が自慢の工場だからって、ずっと
こんな調子じゃイヤにもなりますよ」
「兄上の為なら苦には「一緒にしないでください」
…む」
ならば、と残る二人の様子を聞いてみたところ
神楽は既に重度の餃子中毒となっており
銀時は生来の甘い物好きが幸いして 軽度で
済んでいるが、代わりに金に憑かれているらしい
「とにかく、ここにいたら僕までおかしく
なりそうです…いや おかしくなりかけてます」
「どういうことだろうか」
餃子による餃子の為の餃子三昧な日を過ごす内
気がつけば、王餃子のCMソングを口ずさみ
餃子の皮の歯応えやヒダ 焼き加減を
所構わず半日ほど真剣に考え続け
どうかすると 自分が応援しているアイドル
寺門通の曲や顔まで餃子に取って変わられて
…要するに、新八もまた中毒一歩手前のようだ
「今では食事の時間が一番の楽しみに
なってきている自分が怖いです、僕」
「かなりの重症だな…つかぬ事を聞くが
そちらはどんな餃子を作るつもりなのだ?」
空気を読まない質問に首を傾げつつ、精神が
参りかけている新八は素直に答える
「二種類の水餃子で挑むって言ってました
さっぱりさとコクのある味わいをそれぞれ
異なる歯応えで表現する為に、食材にも―」
「おっと、ネタバレはそこまでだ餃子」
思わず身構える彼らを、ガタイのいい警備員が
数人がかりで取り囲んでいた
その中には 何故か同じ制服姿の長谷川がいた
「ちゃん!?こんなトコまで一人で
どうやって入ってきたの餃子っ!!」
「いや、一人では…ぬ?」
少女が周囲を見回すも、共に行動していた
山崎は忽然と姿を消していた
「先程までいたハズ…マダオ殿、もう一人を
見かけなんだか?」
「いや誰を?てか見てないから、そもそも
それ質問の答えになってない餃子」
「とにかく知り合いといえど勝手に入られちゃ
困るんだ、さ帰った帰った!!」
戸惑うを、警備員が両サイドから一人ずつ
抑えて工場の外へと引っ張っていった
そろりと忍び足で逃亡を試みる新八も
長谷川ともう一人の警備員に取り押さえられ
「悪いが新八君、君は厨房(こっち)だ餃子」
「は、放してください長谷川さんん!
僕ぁもうこんな労働環境イヤだあぁぁぁ…!」
嘆く声ごと建物の中へ引きずられていった
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あとがき(というか楽屋裏)
狐狗狸:あくまで中毒には個人差がありますが
軽度=餃子が気になる、末期=語尾が餃子に
土方:なるかぁぁぁ!って何で毎回あとがきの
ツッコミやらされてんだオレぁ!!
沖田:そいつぁバ管理人の都合ってヤツでさぁ
ま、土方さんには似合ってやすぜ?猿回しポジ
土方:よし総悟お前 首一回転するぐらい殴らせろ
近藤:落ち着けってトシ、どーどー…それより
万事屋が軽度の中毒ってどゆこと?
狐狗狸:度々、食事の合間に甘味の摂取を
挟み込んだ結果です…この辺は次回以降語るつもり
新八:ちょっと待ったぁぁぁ!脈絡無く桂さんや
長谷川さんが出た事に関しては!?
狐狗狸:あの二人にいる?脈絡なんて
三人:オィィそれ完全にご都合主義ぃぃ!!
ついにやって来た対決当日!真撰組の面々の前に
助っ人として"彼ら"が姿を現す…!
様 読んでいただいてありがとうございました!