「勲殿…見かけぬと思ったらこんな所に」
「近藤さん、姉さんの為たぁ言え現職の警官が
盗みに手ぇ出すのはマズイですぜぃ」
「違うんだって!それ誤解だから!!」
自分の目の前へと近寄った三人へ、近藤は
真っ青になりながら力強く首を振った
彼の話によれば…妙の頼みで王餃子の餃子を
手に入れようと奮闘はしたが結局成せず
最終手段として製造元へ直談判に行こうとして
『…おい!実験用動物が一匹脱走してるぞ!』
裏口で止まっているトラックの側で作業してた
従業員の一人のセリフをきっかけとして
『あ!本当だ、ゴリラが逃げ出してる!』
『いつの間に!?とにかく捕獲してつれてけ!』
『待ってぇぇ!オレは立派な人間…!!』
あれよあれよと言う間に群がってきた人々に
取り押さえられ、この有様となったらしい
「つーわけだ!頼む、何とかここの責任者に
話しつけて誤解を解いてきてくれ!!」
「知らねーよ!そもそも餃子の製造工場で
実験用動物に間違われる事自体異常だろ!!」
「…災難だな勲殿も」
「そーなんだよちゃん!分かってくれるか
万事屋の連中とは大違いだ!!」
ケージの中で涙ぐむ彼の一言に、土方が固まる
「おいソレどーいう事だ?近藤さん」
「いやついさっきな、万事屋と新八君がここを
開けたんだが あの二人覗いただけで話を
聞きもせずにどっか行っちゃって」
「何とも薄情な話だな」
表情を変えず不満を表すの後ろで
両者がアイコンタクトで自らの確信を伝え合う
「やっぱ徹底的に調べるべきだなこの工場
おら行くぞ槍ムスメ」
「ぬぉっ?!」
「そいじゃ、オレらで行って来るんで
近藤さんはそこでしばらく待っててくだせぇ」
引きずられていくと、振り返り様の
沖田の表情で 近藤は確信した
「ちょ!?何その嫌な笑顔!!待って!
やっぱりオレも連れてってお願いぃぃぃ!!」
…このままでは、色んな意味で終わると
第四訓 工場でのアクションって
正にフィクション!
ようやくケージから出れた近藤を含め
一行は目に付く場所を、片っ端から調べる
「にしても、うるせぇCMソングだな…」
「バ管理人並のループ魔でも
いるんじゃねぇですか?この工場に」
「るーぷ?何かを縛る道具か?」
真顔のボケをスルーしつつ、更に奥へ進む…と
「スンマセーン ちょっと厠行ってました〜」
間の抜けた銀時の声が聞こえたので、彼らは
角へと身を隠して 先の様子を伺う
ハイテクな機械式っぽさ満々な入り口の両脇を
力士のようなガタイの警備員がガッチリ
固めて、警棒片手に二人を睨んでいる
「そうか…で、合言葉は!」
「「茹でも焼きも最高 王餃子!!」」
頷いて、警備員は互いの手の平を入り口の
横にあるパネルへと押し当て
「おつか れやまです!通ってよし!!」
「「おつ かれ山脈!!」」
開いた扉を、頭を下げた銀時と新八が通る
「…あの言葉を繰り返せば通れそうだな」
「そうか?気絶させた方が早「黙らっしゃい」
の頭を軽く叩いてから、間を置いて
四人も警備員の側まで近寄っていった
「スイマセーン、オレら工場内の捜索で
やって来たモノなんですけど」
「そうか…で、合言葉は!」
全員で目配せをし、立ち止まって声を揃える
『茹でも焼きも最高 王餃子!!』
頷いて警備員が手の平をパネルへ押し付ける
「おつか れやまです!通ってよし!!」
「お疲れサ マンサ!!」
近藤の一声と共に、全員が入り口を潜り抜け
ようとする前にパネルから手の平が退けられ
扉が寸前で閉まった
「…アレ?」
不審に思って彼らが首を捻ると、警備員二人は
鬼のような形相で警棒を振りかぶっている
「「何をしに来た侵入者ぁぁぁぁ!!」」
「え゛え゛え゛え゛え゛え゛なんでぇぇ!?」
どうやら、最後の最後で合言葉を間違えたらしい
「らしいって何だよ!?アリかそんな展開!!」
地の文にツッコミ入れる合間に降ろされた
警棒を、先頭の土方と近藤はとっさにかわす
距離を取った二人へ 両警備員は身構えて
横へ回り込んだ沖田との一撃を喰らって
あっけなく床へと昏倒した
「オメーらいつの間に打ち合わせた!?」
「こんな事もあろうかと思いやして」
「結局、気絶させた方が早かったな」
「身もフタもないなぁ…」
彼らの手をパネルと接着し、開いた入り口を
通って四人は内部の散策を続行する
"O・N・E!O・N・E!王餃子!"の
BGMが一際大きくなりつつある地下の廊下で
「…あ、今 銀時達の声が聞こえた」
「マジかよ このうるせぇ洗脳ソングの
空耳じゃねーだろなお前」
四人は再び 青いツナギの二人組を目撃した
「あのー銀さん、ここら辺"立ち入り禁止"って
固く言われてた区域じゃ…」
「文句ならあのバカ娘に言えっての
それに黙って戻りゃバレやしねーよ」
ヒソヒソと言葉を交わす二人の背後へ
そっと、音も無く近づいて彼女は言う
「そうなのか?」
「うおっ!?って何だかよ脅かすんじゃ
…アレ!?何でがいんの!!?」
「冤罪を晴らす協力だ」
「どこまで説明省くんですかぁぁ!!」
「この工場と、近頃の事件の関与を調べるのに
不本意ながら協力させてんだよ」
説明がてら近寄った土方達に驚きながらも
新八は不思議そうに問い返す
「事件って…隣のテロじゃなくてですか?」
「餃子がらみの軽犯罪があるだろ?オレもその
調査に乗り出したらドジ踏んで捕まってな」
「いや、アンタは別件だから」
無論、ドヤ顔の近藤へのツッコミは忘れない
「旦那 清掃の仕事はいいんですかぃ?」
指摘に、銀時がガリガリと頭を掻きながら
「それがよぉ、さっきコンベアん近くで
掃除やってたら 神楽のヤツが…」
今までなけなしの理性で、我慢していたが
すぐ側で流れて行く製造過程の餃子に
辛抱たまらなくなってしまって
『も…もうガマンできないアルゥゥゥ!』
『神楽ちゃぁぁん!商品に手ぇ出すのは
完璧アウトだからぁぁぁ!!』
押さえ込んでいた新八と銀時の制止を降りきり
流れ行く餃子を追って、コンベアの流れに
身を任せ神楽は別の場所へ行ってしまった
…それで仕事を中断せざるを得ない、との事
「あー、確かにあの大食いチャイナを
野放しにしてちゃ 旦那の身の破滅ですねぃ」
「そうならねぇ為に被害を事前に
食い止めようとしてんだよこっちは!」
「どうだか…テメェらもここの連中に
加担してるんじゃねぇのか?」
メンチ合戦パート2を繰り広げる二人を放置し
「なぁ、それよりこのドア…何か怪しくね?」
近藤が示したのは、黄色と黒の縁取りが目に
鮮やかな一枚のドア
ノブがあるべき所には奇妙な鍵穴があり
"最重要機密につき、許可の無い立ち入り厳禁!"
と書かれたプレートが貼りついている
「あからさまに怪しいじゃねぇか、普通
餃子の工場にはねーだろ こんなモン」
「…カギがかかっていて入れぬようだ」
「ちょっとそこ退いとけー」
「心当たりでもあるのか?銀時」
横へ移動した彼女へ得意げに頷いて銀時は
…鍵穴に餃子を、二個ほど縦向きに詰めた
「何コノ卑猥な感じの鍵穴!?」
「いや形状的に餃子二個ぐらい入るなーと
ほら、重なり具合とヒダヒダがいー感じで」
「文章でもアウトぉぉ!これ挿絵とかだと
確実にモザイク入る類の絵面になりますよ!?」
「じゃついでに滑りをよくするために、隙間に
土方さんのマヨをつっこ「余計危ねぇぇ!!」
「勲殿、何故ゆえ目を塞ぐのだ?」
「見なくていいから!ちゃんにアレは
刺激が強すぎ「過保護な父親かアンタは!」
当然、ドアは開かず 喧しいぐらい流れていた
"王餃子"のBGMが警告用のSEへと変わって
間を置かずどこからともなく、警棒片手の
警備員が大挙をなして押し寄せてきた
「食イ物ヲ粗末ニスルナァァァ!」
「餃子なめてんじゃねぇぞぉぉぉ!!」
背中へ投げつけられる声から遠ざかりながら
眉一つ動かさず はボソリと呟く
「全く、この者達の言う通りだな」
「出来心だったんだよ正味な話!
つーかオメェは空気読めっ!割合マジで!!」
ひたすらに走って、六人はある室内へ逃げこみ
「最悪だ…何だってテメーらと一緒に
追われなきゃなんねーんだ…!」
「それ、こっちのセリフだ、コノヤロー…!」
入り口から外を覗いて 青い顔して新八が言う
「ヤバい…警備員の人がこの辺りうろついてる
これ、見つかるのも時間の問題ですよ?」
袋のネズミと化した彼らが辺りを見回すと
中腰の、ちょうどいい高さに備え付けられた
フタつきのダクトが目に入った
「なーんか、人が通れそうなダクトがあんな
これどうにかすりゃ向こうに行けるだろ?」
「よし槍ムスメ ちょっと調べて来い」
「了解した」
頷き、フタを外しにかかる彼女を横目に
銀時が怪訝な顔して土方を見やる
「おいお前、ナニをアゴで使ってんの?
お互い険悪な仲でしょ?何勝手に仲間扱い?」
「勘違いしてんじゃねぇ単なる捜査協力だ
頭がパーだと勘ぐりも下衆になるのか?」
「そっちこそ瞳孔開いてんのに思考が
閉鎖的で被害妄想激しいんでないの?
被害妄想のフィルターかかってんでしょ?
略してヒガモーなんでしょ」
「そういうテメェこそヒガモーじゃねぇのか?
僻みで毛根までねじれて来てんぞ」
「言ってる事上手くねぇからアンタらぁぁ!」
メンチ3rdを止めにかかる 新八のツッコミ直後
「…あ、オレの後ろに何やら説明書きがありやした」
気付いてひょいっと退いた沖田の背後に
四人が視線を集中させて…目玉をひん剥いた
そこにデカデカと"精肉用ミンチ機"の文字が
振り返れば、作務衣の小さな背中が
ためらいなく中へと飛び込もうとしていた
「む、何やら暗いしニオイが…おわっ!」
間一髪で 落下した彼女の足を銀時が掴み
勢いでずり落ちかけた彼の足を土方と近藤が
支える形となって引っ張り、留まる
「ちゃぁぁぁん!だ、大丈夫かぁぁ!!」
逆さまになった状態で 宙吊りのは言う
「…すまぬ、足が滑った」
垂れ下がった黒い三つ編みの毛先から
10cm下で、金属の刃が駆動を続けている
「もうちょっと慎重さを持てお前はぁぁぁ!!」
「悪かったオレが無責任だったゴメンんん!!」
この時ばかりは銀時も土方も涙目になりながら
ひたすら彼女を引っ張り上げる事に終始した
「あ…危なかった…本当間に合ってよかった…」
「間一髪でミンチが出来上がっちまうトコ」
「「グロい事言うなオメーはよぉぉ!!」」
惨劇をすんでで回避した三人は、荒い息を
つきながらもどうにか半身を起こす
「しかし困ったな、早くここを移動せねば
先程の警備の者達に感づかれるやも」
「あのー…どうやら、手遅れみたいです」
新八の言葉通り 気付けば彼らの周囲を
警備員の群れが隙間無く取り囲んでいた
「…はい 禁止区域に入り込んでいた者達を
全員取り押さえました」
無線で連絡しつつ、警備員達は六人が
抵抗などをしないように目を光らせている
あの直後で暴れるワケにもいかず
床に引き倒された土方は、銀時と新八へ
恨みがましい視線と言葉をぶつける
「テメーらのせいでとっ捕まったじゃねぇか!」
「んだとコラァ!人に罪おっかぶせやがって
冤罪で訴えんぞ税金ドロボーが!!」
「土方さん、ここは責任とってコイツらと
アンタが腹を切るしかありませんぜ?」
「さり気に人に罪押しつけたぁぁぁ!」
このまま果てしなく続く醜い言い争いに
終止符を打ったのは
駆け寄ってきた作業員の一人だった
「おい、そいつらを社ちょ…帝王の下へ
連れて来いとのお達しだ 連れて行け!」
『はっ!』
あまりの出来事にきょとんとした六人は
警備員に連れられ、上の階の立派な室内へ通され
そこで、うな垂れた神楽と対面した
「神楽ちゃん!どこ行ってたの!?」
「よーやく餃子にありつこうとしたら、いきなり
変なヤツラにとっ捕まって食べ損ねたネ…」
しょんぼりする彼女の両サイドを固める
力士並の巨漢二人組は、ボロボロである
「さて、手間をかけさせてくれたな侵入者ども」
よく通る低い声は、座り心地のよさそうな
椅子から立ち上がった人物から発せられる
勢いよく まとったマントをなびかせて
「ワシは人呼んで"餃子帝王"…
この世界の王(キング)だ」
餃子型の王冠を乗せた初老の男は
完膚なきまでに満面のドヤ顔で、そう言った
――――――――――――――――――――――
あとがき(というか楽屋裏)
狐狗狸:残念、あの返事までが合言葉です!
近藤:聞いてないよ!?それより檻に入るの
二度目だよ!ねこ篇以来だよ!!
土方:そこはどうでもいいわぁぁ!
いい加減訴えられるぞ、TB/Sに!!
狐狗狸:返事までだったらセーフ…のはず
銀時:いや、アウトじゃね?しっかし神楽
一体どんだけ暴れてんだ…
狐狗狸:食い物がらみだからねー、ちなみに
神楽ちゃんのやった分も入れると今回の
警備員の被害は十一人になります(三話も含め)
沖田:聞いて得すんのかぃ?その無駄情報
あと旦那、何でまた餃子を持ってたんで?
銀時:そりゃまーここまで来て、餃子を食わずに
いられるかぁぁ!!ってなモンで
新八:だからってパクるのは犯罪ですから!
つーかウソ予告のセリフここで使うの!?
餃子帝王と名乗る、この男の目的は…!?
様 読んでいただいてありがとうございました!