形ばかりの許可証をかざしながら、敷地内の
目ぼしい箇所や見学可能な場所は見て回るが


今のところ 目立って怪しいモノはない





「…私の財布も、見当たらぬな」





手錠は外されているものの、"重要参考人"
肩書きがあるので 隊士に両脇を固められつつ


彼らと同行するは 先頭の土方に訊ねる





「ところで瞳孔マヨ殿、この餃子工場は本当に
近頃の事件に関係があるのか?」


「分からねーから探ってんだろうが」







直感と、最近になって変わった事項などから
"王餃子が怪しい"と睨んではいるが


店舗で行った事情聴取でも特に収穫はなく


どの加害者も"単なる客"以上の関連は見られず

店の関係者も皆 特別おかしい部分はなかった





なので 彼はこの調査でまともな手がかりが
つかめる確立は低いだろうと想定している





というか気分としては 早く切り上げたかった


むしろ適当なヤツ(山崎)にここを任せるなり
後日探るなりして、隣の現場に移りたかった





「気が乗らねぇなら先に隣行っててくだせぇ
この工場、やたら広くて入り組んでるみてーだし」





だがサボり魔にしてトラブルメーカーの沖田を

第一級容疑者(無論、である)と共に
今更 目の届かない場所で野放しに出来ない











第三訓 最低限のマナーぐらいは守りましょう











「あ、これが店で出す餃子ですか?」


「はい、品質に異常はありません 全て正規の
材料を厳選して使用し 真心込めて作っております」


「えっああ、そうですか…」





どことなく会話のかみ合わない作業員に
軽く辟易しながらも聞き込みを続けるかたわら


要注意二人組はベルトコンベアに釘付けだった





「おお…餃子が流れてゆく…」


「一個くらいパクってもバレねーかもな」


「おいコラ 警官が犯罪促すんじゃねーよ」


「いいじゃねぇですか、もしやらかしたら
代わりにを流しちまいましょーや」


「パトリオットの製造工程!?」





振り返りたくない記憶を思い出し、ついつい
タバコへ手を伸ばしそうになりながら


自制を利かせ、土方は根気よく出入り可能な
箇所へ足を運び 管轄の人間に事情を伺う







そして、あらかた捜し回った結果







「…特に 怪しいモンは無かったですね」





呟かれたその一言が 全てを物語っていた





「副長の言う通りムダ足でしたね、さて
早く隣の現場に戻りましょうか」


「なぁ…馬鹿デカい敷地と建物のクセして
入れる場所が少なすぎねーか?


「工場なんて大抵どこもこんなもんですよ」





言われてみれば 関係者や社員じゃない
自分達が見られる場所が少ないのは当たり前だが





建物内の制限の多さと、社員などの奇妙な発言


ついでに工場内で清掃に勤しんでるハズの
万事屋トリオに遭遇しないのも相まって


王餃子に抱いていた疑惑は土方の中で強まった





…とはいえ、明確な事件関与はおろか
テロの証拠なども 今の所は見つかっていない







「今後どうすっかは考えるとして、とりあえず
予定通り一旦こっから引き上げ…」





引き連れていた人員を確認して ようやく


二名ほど足りない事に土方が気付いた





「ってアレ?おい、総悟と槍ムスメはどうした」





おずおずと、隊士の一人が手を上げて答える





「隊長なら先程"連れション行ってくる"って
ちゃん引っ張ってきましたけど…」


「総悟ぉぉぉぉぉ!!」











工場片隅にある業務員用のトイレの個室にこもり





「三回も書き込んでやったのにwwwまだ
のーのーと運営とかwwまじバカすこのサイトww」





ズボンを下ろした先程の警備員が
ニヤニヤしながら携帯画面へ文章を打ち込んでいる





"とっとと閉w鎖ww"…と、あと死ねウンコ
管理人wとか書いてや」


言いかけた言葉を遮るように ノックの音が鳴る





入ってまーすww…あーあともう十分ほど
ダラけててもバチあたんねーだろwww」





お世辞にも 仕事熱心とは言いがたい台詞を
吐き出す合間もノックは止まない





あ゛ーもううっせぇなぁ!使用中だっつの!
さっさと諦めて別の厠いけよボケが!!」






思わず叫んだ次の瞬間


ドアの隙間から刃先が突き出して、勢いよく
振り下ろされてロックする金具部分を断ち切る





そのままドアが開いて 刀を携えた沖田と
呆気に取られた警備員とが対面した





よぉ長ウンコ野郎、ふんばってっとこ悪ぃが
テメェここの地図持ってか?」


「へっ…は、はひっ!!


慌てて立ち上がり ズボンをはき直すと


ポケットに突っ込みっぱなしだったしわくちゃの
見取り図を震える手で相手へと手渡し





「そ、それじゃオレ仕事あるんで…サーセンw」





愛想笑いを浮かべて警備員は厠から急いで
立ち去ろうとするのだが





「おーい警備員さんw忘れモンだぜぃ?」


「へ?いや別に忘れモンは…」





立ち止まった一瞬で、手にした携帯を沖田に
奪われ…流しそびれた便器へ放り込まれた





「えちょっ…オレの携帯があぁぁぁぁ!!





悲惨な末路を辿った携帯を救出しようと警備員が
個室に戻ったのを見計らった彼は


すかさず接着剤を塗ったドア部分を閉めて

隙間からも接着剤を上塗りして"故障中"
張り紙をしっかりと貼り付けた





「え?ウソ…マジ!?開かないんすけどぉぉ!


「ここが表でよかったなぁ…現実や裏だったら
アンタ、息の根止まってるぜぃwww」





"してやったり"な凶悪ヅラで笑いながら


背後の叫びを後に、沖田がトイレから出る







外で待っていたが 無表情に呟く





「総悟殿…流石に少しやりすぎでは?」


「犯罪の芽を積むのもオレらの仕事だぜぃ」





芽どころか土壌ごとダメにしている気もするが


面倒なので彼女は気にしない事にした







「しかしながら…工場とは妙なところだな」


「お前の脳ミソの中身に比べりゃこれぐらい
全然大したことねーだろぃ」





のもらした率直な感想を、先を行く沖田は
振り返りもせず切って捨てる





建物内で改めて耳を澄ませば 蒸気の
吹き出す音や独特の機械音などに混じって


O・N・E!O・N・E!王ギョーザ!


…と、おなじみのCMソングが大音量で
繰り返し垂れ流されているのに気がつく





ガラス窓から内部を覗けば、BGMに合わせて


ベルトコンベアや機械の横に並んだ従業員が
黙々と作業を繰り返している光景も見下ろせる





「見れば見るほど、うさんくせートコだな…」







口には出さないものの、土方と同様に彼も

この場所について妙な違和感を感じてはいた


だが 今までの事から考えて、普通にやっていたら
証拠など何も出ないだろう…





と、考えて勝手に行動したワケでは勿論無い





沖田は単純に ここで帰ったら始まってしまう
隣のテロ捜査に加わるのが嫌なのであっ


「勝手にモノローグで語ってんじゃねぇよ
名誉毀損(きそん)あたりでぶち込むぜぃ?」



「誰と話しているのだ…で総悟殿、行く先は?」


「あん?ヤバいモンっつったら大概地下か上って
相場は決まってらぁ、まず地下に降りるぜぃ」





言って、辿りついたエレベーターのボタンを押し


開いた扉を潜って沖田とは床を踏みしめ





「って、アリ?」





異様に暗い内部に違和感を感じて ざっと見回し


最後に下を見て…彼は気がついた





「…ああなんだ エレベーターの欠陥かぃ」


「そうなのか?私はてっきり工場独自のものかと」


「んなワケねーだろ、一旦降りっから先出ろよ
 一緒だと死亡フラグが発動すらぁ」





かなり失礼な発言をしつつ、彼女の後に続き
外へ出ようとエレベーターの天井を踏みしめ


作務衣姿が入口を潜り抜けた直後





外側の扉が閉まり始め、同時に駆動音と共に
彼を天井に乗せたままエレベーターが上昇し始めた






「総悟殿っ!」


「わかってらぃ!」





外側のドアが閉じ切るよりも早く出ようと
駆け出す沖田だが 足を取られて転ぶ





ゲッ!こ、こんな時に…!」





運悪くワイヤーにズボンが引っかかってしまい


おまけにエレベーターの駆動のせいで下へ
巻き込むようにズレかかっている





うわばばば!ヤバいヤバいヤバいぃぃぃ!!」


いつになく必死な形相でズボンを引っ張るが


焦りまくった状況では上手くワイヤーから外れない


手間取っている合間に外扉は完全に閉まりながら

上昇を続けるエレベーターの下へ送られていく





天井同士でのサンドイッチを脳裏に浮かべかけ―







ガキン!と鋭い音が鳴った直後、両扉が再び
勢いよく左右へと開く





「総悟殿!早く!!」





その声を聞き、なんとか外れたズボンに構わず
外部と内部に繋がった扉の隙間へ滑り込み


スレスレの所で彼は 元の階へと戻ってこれた







…涙目になりながらも若干千切れたズボンを直し


扉をこじ開けようと差し込んでた槍をしまった
と目が合い 沖田は不機嫌そうな顔をした





「…土方にゃ言うんじゃねーぞ」


「了解した」







しばらく、お互いが沈黙したまま先へと進み









…やがて何事も無かったように元の調子が
戻った頃には、下の階のカギつきドアの前で
図らずとも土方と合流していた





「相談も無しに勝手に行動してんじゃねーよ!」


「オレぁ逃げ出した重要参考人を捕まえて
そっちに戻ろうとしてただけでさぁ」


「だから"ソレ"はクロだと決まった時の
手段だっつってたろーが!」





どうやら同行させていたを、わざと
工場内で逸れさせる事によって


"逃げた重要参考人の捕獲"という大義名分で
内部の捜索を行うつもりだったようだ





「まー何にせよオレのおかげで自由に
動けたんだし結果オーライじゃねぇですかぃ」


「お・ま・え・は勝手な行動を自戒しやがれぇ!」


「それより瞳孔マヨ殿、私の財布は見つかっ」


てねぇよ!テメェは空気読め槍ムスメぇぇ!」





流れで頭を引っぱたいてから、彼は続ける





「…で?この先は向こうから施錠されてんだが
どうやって突破する気だ、破壊以外で」


先にクギを刺され 露骨に舌打ちして沖田は
バズーカをしまう





辺りを見回し…扉の少し上の辺りに
頭がギリギリ入りそうなくらいの通風孔を見つけ


は懐から取り出した信玄袋を土方へ渡す





「一時預かっていてくれ、落とすなよ」


あん?…おい待て槍ムスメ、何する気」





止める間も無く、通風孔へ飛び移った彼女は
よじ登ってその中へ頭を潜り込ませ


続いて パキリ、ゴキリと異音を鳴らしながら

身体も一緒に捻り入れてゆく





黙ったまま 二人は通風孔に消える身体を見つめ







…やがて完全に一人の人間が姿を消した直後
程なくして、カギの外れる音が響き





「待たせたな では参ろうか」





ドアを開けて出てきたが信玄袋を奪取した





「ピーマンの血筋ってなぁ便利なモンですねぃ」


「…マジで月の化身かっつーの」


なんぞと軽口を叩き合い、二人も扉を潜った









ドア一枚を隔てた先は 何処かの研究所
似たような風景をかもし出していた





「土方さん、この見取り図にゃこんなトコ
まったく描かれてねぇようですぜ」


「だな…いよいよ怪しくなってきやがっ」





歩いていた土方が、何気なく目に付いたドアを
開いた瞬間 その場で固まった





「どうかしたのか?瞳孔マヨ殿」





二人が彼の視線を追って室内を覗き込めば







並んだケージの中で忙しなく騒ぐ動物達に混じり


一際デカい奥のケージから身を乗り出した近藤が





あ!トシに総悟にちゃん!?
何でここにいるの!?いやそれより助けて!!」



「それこっちのセリフぅぅぅ!!」





土方の絶叫が 怪しげなBGM流れる廊下に響いた








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あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:掲示板や拍手なんかは 大概サーバーに
ログが残っているので、そこから手繰って
悪質な書き込み相手を通報出来るんだよね


沖田:確か罰金(10〜20万)や下手したら
懲役喰らいやしたよね?こー言うのww


土方:なんでそっちに食いついてんだぁぁ!
本編の話をしろ、本編の!


狐狗狸:って言っても大して進まなかったしなー
ついでにアニ銀じゃバラガキ始まったし


近藤:関係なくね?てーかどうせならそっち先に
書けばよかったんじゃないの?やる気あんなら


狐狗狸:ごもっともだが、黙れゴリラ


近藤:月明け早々オレの扱いヒデェぇぇぇぇ!




…ゴメンなさい、驚愕の事実もとい展開は
次になりそうです 期待せずに待て次号!


様 読んでいただいてありがとうございました!