包丁男の聴取の傍ら、
食い逃げについての事情聴取がすかさず行われた





「繰り返し聞くけど、店で食べたものは
今言ったモノだけで全部なんだね?」


「うぬ 餃子定食一人前のみだ」


「ウソつけ息のニンニク臭が尋常じゃねーぞ
間違いなく五食は食ってんだろ」


「神楽じゃあるまいに一時に五食も食えぬぞ
少し考えれば当然であろう」


「すましたツラで常識語んな、いっそ
清々しさ通り越して苛立ちに原点回帰するわ」





短くなったタバコを灰皿に押し付け、新たに一本
咥えなおして火をつけながら土方は


机を挟んで対面の、微妙に眉寄せた少女へ問う





「それで?あの店での食い逃げは初めてか?」


「確かに初めてだが、逃げてはおらぬ
くどいようだが誤解だ」


自覚がねぇってのは迷惑極まりないな」


「しかしちゃんが定食屋で餃子食うってのも
珍しいよなぁ…餃子好きなの?」







調書をしたためる隊士の言葉で 食べそびれた
餃子定食を思い出し、逆に土方が眉間にシワを寄せ


訊ねられた側は顔色一つ変えずに答えた





「いや特には」


「じゃーなんで外で食ってんだよぉぉ!」


「外の餃子の味を 知る必要があっただけ故
というか何故そこまで怒る」


「まあまあ副長…それで、サイフが無いって
気がついたのはどの時点だったの?」


「支払いの直前で たもとを探った折だな」











第ニ訓 別件は基本、つつかずスルーで











そこまではすんなりと答えるものの、逃げた点に
関しては徹底的に否定し


落としたと主張する財布の所在に関しても


"自分で取ってくる"の一点張りを
アニメ一話分(CM含む)ほど言い続けていた





っだあぁまだるっこしい!
なんで財布落とした場所が言えねーんだよ!
やましい事でもあんのか あん!?


「私のぷらり弁当だ、瞳孔マヨ殿に関係なかろう」


プライベートな 横文字使うなら
アイツらにでもきちっと教わって使いやがれ」





荒っぽく言い放ち、額の辺りを叩く土方だが

相手は無表情のまま叩かれたトコをさするのみ







そこへ取調室の戸を開き 隊士が戻ってくる





「えーとちゃん…今さっきお兄さんに
とりあえず連絡だけしておいたんだけど」





どうやらCM…もとい聴取の合間に彼女の現状を
に報告しにいっていたようだが


その表情はどことなく苦々しい





「あ、兄上は何と?


「いやその…今は手が離せないから 外食の
感想だけ教えてくれたら お金は後で支払うって」


「…そうか、ならいい」





隊士の様子ももちろんのこと、その安心したような
口調ににじむ諦めたような響きと


何よりの言動に 彼は当然 違和感を覚えた





「おい、実の妹がブタ箱入る瀬戸際って時に
あの男が手続きだけで済ませるなんておかしいだろ」


「仕方なかろう、兄上は餃子作りに忙しいゆえ」


「何でそこで餃子が出てくんだよ!?」


「兄上の望みの手伝…ぬがっ!


端的に言い終えようとしたの背後へ
入室ざまおもむろに回った沖田が


一本にまとめられた黒い三つ編みの端を握り


電球のヒモのように間隔を置いて引っ張りだす





「ラチがあかなくてうんざりでぃ、いつになりゃ
省かねーで説明する気になるのかなー
悪いのはこのスカスカピーマン頭か?え?


「ほどほどにしとけ
つか総悟、お前あの男の聴取はどうした?」


「まだ例の如く餃子餃子って喚いてまさぁ」





言いながらも、沖田は三つ編みを引くのを止めない





「話になんねぇんで身元調べたら、あの男の
財布から"王餃子"のレシートが出まくりやした」


「チッ…またかよ」


「そう言えばっ、兄上もその名を 口にしてた、な」







無表情を保ちつ言葉を紡ぐ 曰く





ある日、が客づてで口にした王餃子の味に
感銘を受け 以来 病みつきになったらしい





けれど有名店の上に江戸の支店は一つだけなので
仲の良い顧客でさえ入手が難しいようで







"ならば、作ればいい"





本気でそう考えた彼は、本腰を入れて

王餃子のタレの味や焼き加減など、徹底的な
情報入手の上での研究を行い始めた







必然、の食事は家でも外でも毎食餃子


外で食べたなら味の感想などを正確に告げる事を
義務付けられ、朝一での野菜の調達も
このところ日常と化していたのだった









新手の拷問?そこまで行くと中毒じゃねぇか
おかしいと思わんのかお前は」


「兄上の、ためなら餃子責め程度っ、苦にならん」


そこじゃねぇよ!むしろ栄養偏りすぎだろ…
悪い事ぁ言わねぇから一辺医者に胃袋見てもらえ」


「それはお主っ にも言えると、思っ」





話を聞くうち、地味に首の揺れるペースが
上がって行くのが気になるものの


背後の沖田は完全にお気に入りのオモチャ
遊ぶ顔をしているので 彼は放置を決めた





「にしても偶然て重なるもんですねー
昨日の現場の隣も、たしか王餃子の製造工場じゃ
なかったでしたっけ?」


「アホらしい…たかが餃子のチェーン店が
テロに関わってるとでも思ってんのか?」


「いやでも副長、前々からあの店クサいって
言ってたでしょ?餃子だけに」


「そう 言えば、撤収の、際に、そんなっ建物が」





視線を向けられ ハッと気付いた
口をつぐむが、後の祭りである





「オイ、まさかお前 財布落としたの
昨夜の事件現場とかそーいう展開じゃねぇよな?」


「…飛んだり、刎ねたり、落ちたからな
財布の 一つや二つ、落としてもっ已む無し」


「って本当にナニかやらかしてんのかぁぁ!?」





ほとんど自供に近い発言に青筋立てつつ


別件での重要参考人として彼女を拘束しなければ
ならなくなった事に対し、土方は自らの発言を
ちょっとばかり後悔し


ついでにきっかけとなった隊士を睨んだ







「だからっ私のぷらり弁とととととととと」


「オイやっぱソレ止めろ総悟 話が進まねぇ」


「えー?ようやっとテンション上がって
今がいいトコなんですが」


更にビート上げんなぁぁ!
しまいにゃ首ポロって行くぞソレぇぇぇ!!」






へいへい、とやる気のない返事と共に
沖田が髪から手を離したので


勢い余って机に頭を打ち付けて突っ伏す





「ちょーどいい、どうせ昨夜の現場にゃ
まだ隊員が残ってら ついでで隣の工場に
カチコミにいきましょーや?土方さん」







ため息をつき、頭をガシガシとひと掻きして





「面倒くせぇな…おい、生きてるか槍ムスメ」





彼は再び 対面の相手へ呼びかける













疑惑の王餃子チェーンの製造工場までは

アニメ一話分(CM含む)ぐらいの距離であった





工場の塀を挟んで隣の敷地へ目を向ければ


テロが起こった現場と、立ち入り禁止のテープ
そして忙しく働く黒い制服の隊士が見える





ちなみに現場のビルの資本は、外資企業の
傘下系列に入っている会社なのだが


前々からきな臭い疑惑の付きまとう企業 という


テンプレ通り…というかテロの標的になっても
別段不思議のない所だったりする





「見たところ、どってことねぇ工場だよな」





率直な感想をもらす沖田へ 側の隊士も頷いて





「ですね 査察の報告にも目を通しましたけど
特に怪しいところは無いみたいでした」


本命は隣の現場って事を忘れんじゃねーぞ?
何もなかったら さっさと引き上げるからな」





釘を刺しつつ、隊士数人を引き連れて

沖田と共に土方が工場へと近づいて行く







「うわ、警察だケーサツww何の用スかwww」


「近頃の事件で加害者が軒並みお宅の店
入り浸ってるのが判明したんでな、少しばかり
ここの関係者に話を聞かせてもらいに来た」





入り口のゲートに常駐している警備員は
ニヤつきながら、パタパタと手を振る





「いやースンマッセンけど社長命令で社員かぁ
アポのある人しか通せないって言われてるンスw
なんで、アポとって来てくださいww」


ざけんなテメェ、公務執行妨害でぶち込むぞ
つーか一々台詞に草生やすんじゃねぇ」


公務執行妨害www礼状とかあるんすかぁ?
あるんなら見してくださいよぉホラwwww」


「そーですよw見せてやれよ土方ぁwwwww」


「お前まで一緒んなって草生やすな総悟ぉぉぉ!」





拳を震わせ、刀へ手を伸ばす彼を周囲の隊士が
慌てて抑えてなだめこむ







「おい、そこどけヨ税金泥棒」





と黒い制服一団の横をすり抜け、青いツナギを着た
見覚えのある三人組がゲートの警備員に挨拶する





「ちわーす、本日も清掃しに来ましたー」


うはwww精巣スかwwご苦労さーんすw」


「清掃な、あと草生やすの止めろいい加減
テメーの下の茂みタマごと刈り取んぞ


「刈wりw取wるwwwマジパなすwwww」


「って、何でテメェがいるんだ万事屋ぁぁぁ!!





振り返った銀時が、いつも通りの死人の目で
やや巻き舌気味に答える





お仕事に決まってんだろ?とっとと隣の
テロの現場にでも顔出しに行けよ役立たーズ」


「テメェが言うな、生憎こっちも仕事だこの野郎」





火花を散らし合う二人へ呆れた眼差しを投げつつ

新八が自分達の現状の説明を買って出る





「僕ら、有名な王餃子の餃子を入手してほしいって
依頼を受けたんですよ…最初は」







夜通しで行列に並び、眠気を堪えて入手した
餃子を 神楽の胃袋から死守しながらも
どうにか依頼主へと届けた…まではよかったが


相手はその量に満足せず、支払いもしないまま
倍の数を彼らへ求めて


当然 銀時はその追加依頼にキレた





「こちとらやっとの思いで手に入れたっつーのに
餃子ごときであんな目にまた合えってか?
ふざけんなってそー言ってやったんだよ…したら」





銀時の言葉を引き継ぐように、神楽が人差し指を
王餃子の工場へと向けた





「自力で手に入れてやるて、家飛び出して
そこの工場に勝手に入ってっちゃったネ





彼らもすぐ依頼人を追い、どうにか捕まえたものの


その際 あまりにも暴れすぎたせいで工場内の
機械や施設を破壊してしまったので


弁償として働かされる事になった…とのコト







「そwれwはwww残念でしたねww旦那www」


「「だから草生やすなってのぉぉ!
何?流行ってんの?」」



「そこの安全地帯でぬくぬくしてるダメ警備員よろしく
割合落ち目の草飾系ってヤツでさぁwww」


「いや総一郎君はどう転んでも鬼畜系だろ?ドSだし」


「銀ちゃーん、そんなヤツらほっといて
さっさと仕事に行くアルよ」





神楽の言葉に気を取り直し、小バカにした笑みで
銀時達はワザとゆっくり工場へと向かって行った







再び施錠される入り口を悔しげに睨みつけ





「どーやら、それなりの理由がねぇと
あちらさんは歓迎してくれねぇみたいですねぃ」


「仕方ねぇ…槍ムスメ連れて来い」





土方は、予定していた作戦の実行を口にした









「…協力したら、誠に私は
無実と認めてもらえるのだな?」


そっちの態度次第ってトコだ、なんなら
ついでに財布も見つけといてやるよ」





とは言いながらも、もしも財布か昨夜のテロに
関与した証拠が出てきたら 速やかに別件で
再逮捕する算段を立てていたりするが


そんな彼の思惑に気付かず は付いて行く







交代したのを見計らって、ゲートの警備員へ
手帳を見せながら彼らは近づいた





「あの…当工場にどのようなご用件でしょう?」


「どうも昨夜のテロがあった現場から出てきた
人影が、工場に何かを落としたの
重要参考人のこの娘が偶然にも見ていたようで」





視線で示され、は無表情に会釈する





「犯人に繋がる重要な証拠かもしれないので一度
工場内を捜させていただいてもいいですかね」


「…少々お待ちいただいてよろしいですか?」





どうやらこの警備員は常識的な人間だったようで


内部に連絡が行われた後、土方達は無事に
工場の敷地内へ足を踏み入れる事となった








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あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:題名通り、別件については触れるつもり
さらっさらありませんので想像補完してください


土方:どストレートにあの餃子屋が怪しいのかよ


沖田:まあ、こいつにしちゃ話が早いでさぁww


狐狗狸:気に入ったのかモブ警備員の口調…
さてさて 次回は彼らのひと暴れフラグだな


神楽:え〜こいつら主体で話が進むのかヨ
餃子も食えないしやってらんねーアル


銀時:だよなー金もらいそびれるだけでなく
タダ働きとか 本当やってらんねー


新八:もうちょいやる気出せやお前らぁぁ!




疑惑の工場で、次々と驚愕の事実が明らかに!?


様 読んでいただいてありがとうございました!