「あれだけの数のスタンドを同時に
使いこなすとは 見事だよ」






TAGOSAKUが抜け、元の大きさに
戻ったお岩殿がゆっくりと身を起こす





「ギン…それにあんたらも 流石は…
あのお登勢が送り込んできた奴等なだけあるね」





私達へ向けられた言葉と眼差しに
先程までの敵意は…もう無い







「こいつぁ…あたしの負けかね あんた」





隣に浮かぶTAGOSAKUへ
観念したような呟きがささやかれ…







『…オレが護ると言った筈だ』





漏れた一言を皮切りに 奴の気配が
膨れ上がってゆくのを感じる





『お岩…お前も…この宿も、オレが護ると
言った筈だ このTAGOSAKUが!!





己が身体を増大させたTAGOSAKUに


客や従業員達のスタンドが集い
…その身体へとへ取り込まれてゆく





『いや、宿のスタンドだけじゃない
この里中の生物のスタンドが
TAGOSAKUによって吸い取られていく』


『スタンドを吸いとる…それって…』


『恐れていた事が、ついに起こってしまったね』







スタンドを集めるTAGOSAKUから
途切れ途切れの言葉が聞こえた





『この宿は…オレが護ル お岩、みんなノ
スタンドを集メレば…客…一杯…
お岩…もうさびシクナイ…





「この里中の生き物のスタンドを
抜き取っちまおうってのかい!!


そんなマネしたら…残された肉体はやがて腐り
この里の生物は死に絶えちまうよ!!」





必死に止めさせようと呼びかけるけれど


「私の声が聞こえないのかい!
…TAGOSAKU!!」






お岩殿の言葉は、最早届いてないようだ











第七訓 幽霊モノはネタによってホント
シャレにならないから要注意












『スタンドの暴走…』







レイ殿が淡々と語る言葉の、全てを
理解は出来なかったが







大勢のスタンドが一所に長く留まると


この世界に悪しき影響を及ぼす事


今まさにここがその場所と化した事





そして暴走を止めねば、世界へ恐ろしい
災いが降りかかるだろう事だけは分かった







『キャアア!』


「レイ!!」







必死で捕まるレイ殿同様、私達も
近くの木や仲間の手にしがみつかざるを得ぬほど





うわぁぁぁ!僕らまで取り込もうとしている!
全てを…全ての魂を飲み込もうとしてるのか!!』





TAGOSAKUの吸引力が増してゆく







「スタンドのてめーらが
アレに飲み込まれたらシメーだぞ!!
一旦 オレの身体の中に非難するんだ!!





すぐさま一列に連なり、神楽を先頭として


宿の柱を依代にする銀時へと手を伸ばす





「早く、こっちだ!!」


『銀ちゃん!!』


「あとちょっとだ!もう少…ぼろしっ





届きかけた刹那、銀時の口から
銀時自身のスタンドが飛び出し


その体当たりで皆の連携が解けてしまい





咄嗟に木へ抱きついた神楽と、その腕を
掴んだ銀時へ各々が捕まる事で


どうにか吸い込まれるのを防いでいる





『銀さんのスタンドまで飛び出してきたぁ!!』


『何さらしてんだ天パー!!』


『吸い込む力がハンパねぇ 一家に一台
欲しいくらいだ!!』


『TAGOSAKUはスタンドだけでなく
ゴミなども吸い込めるのか!?初耳だz』


『こんな時にKYとかマジねーアル
ちょっとは自重を覚えろヨ!』







風の勢いにどうにか逆らい、魂の抜けた
身体へ戻ろうとした銀時だが





パアン!





口からはみ出たザビエル殿の威嚇射撃に
怯んだ隙に、身体を奪われてしまった







『ちょっとぉぉぉ!!何か変なのが勝手に
身体持ってっちゃいましたよぉぉぉ』



ザビエル待てェ、それオレの身体!!
オィ返せハゲェェ!最悪だぁぁ
空き巣にやられたぁぁぁぁ!!』







一本の木に皆で固まり、耐えるその横から





「こっちだよ!!」


『お岩殿!』


私の身体に入りな!早く捕まって!!」





別の木にすがるお岩殿が、尻から
己がスタンドの手を差し伸べる





捕まれるかぁぁぁ!!
どっから手ェ差し伸べてんだババア!!


そんな穴から入る位なら
魂が消し飛ぶ方がマシだ!!』


「仕方ないね、じゃあ前から」


『ババアァァ殺すよ!本当に殺すよ!!』





…この期に及んで文句が多いぞ銀時









『ミンナ肉体ヲ捨てテ一ツに、ソウすレば
ミンナズット一緒…サビシい事なんテ何もナイ』







響く声と共に木の根元が引き剥がされて
お岩殿の身体が宙を舞った瞬間







『ババアぁぁぁぁぁぁぁぁ』


『銀さんんん!!』





流れに身を任せた銀時に、私も続く







TAGOSAKUへと取り込まれる直前







レイ殿が身を挺してお岩殿を庇い






その手を握った銀時の足を捕まえた私を
新八が抱え込んで、踏みとどまる







「レイぃぃぃぃぃぃ!!」


『女将は一人じゃないよ…みんな
みんな女将の魂の中に…







微笑んだレイ殿は吸い込まれ…消えた







「なんてことだよ…まったく
私は…あの子らに謝らなきゃならない」





ひどい風の唸りが起こっているハズなのに





「私は…どうやらあの子らにとんでもない
苦行を強いていたようだよ」





お岩殿の紡ぐ言葉が 一言残らず
こちらの耳へと滑り込んでくる





「あの子らを地上に縛りつけていたのは
未練でも…癒えぬ傷でもなんでもない
……この私だったんだ







語られ始めたお岩殿の過去の一部は
私は レイ殿を通じて知っていたが…







母を病で無くし、嘆いた時分をきっかけに


お岩殿の隣にスタンドが現れ 共に励まし
泣き…支えあって来たのだと言う







いつしかそれが当たり前となり





己にしか出来ぬ力を使い、今度は彼らを
成仏させてやる為に…あの旅館を始めた





「そうして私は沢山の魂を天に還した
笑顔で成仏していく彼等を見て 私も
満足していた…筈だった」







連れ添っていた婿殿が亡くなった時





お岩殿は、己の側にいつの間にか


スタンドしかいなくなっていた事に
……気付いてしまったと言う







「スタンド達を失えば私は本当に一人に
なってしまう…そう思うとたまらぬ程怖かった


あの子らはそんな私の弱い心を
知っていたんだね…ずっと前から」





何を言うのだ…スタンド達を助ける為に
皆で力を合わせて生きてきたお岩殿は


…弱くなどない







そう言いたかったけれど、胸が詰まって
口に出す事は出来なかった







スタンド使いだって?笑わせるじゃないかい
行き場を失った魂を救う?
思いあがりもはなはだしいよ…」





自分自身へと言い聞かせるかのような
静かな、お岩殿の呟き





「救われていたのは私…あの子らは
…ずっと昔から私を支えてくれていたんだ


一人ぼっちの私を…心配して
あんな姿になってまで……ずっと


ずっと私の側に いてくれたんだ







お岩殿がスタンド達を助けんとしていたように





スタンド達もまた…お岩殿を助けていたのか







「…ごめんよ、すまなかったねぇみんな…
今まで ありがとうよ…!」








溢れ出たお岩殿の涙が、風に運ばれ
TAGOSAKUへと…当たった









すると 突然TAGOSAKUが輝きだす





『ア…アレは 取り込まれたスタンド達が…
成仏していく!!』






沸き上がる洪水の中 新八の言う通り
スタンド達が笑顔で…天へ昇ってゆく







『女将 女将は一人じゃないよ…
みんな…みんな女将の魂の中に…


ずっと ずっと一緒にいるよ』








彼らはお岩殿へと口々にささやいて





流星のように 真っ直ぐ天へ還っていった













…暴走は治まり、私達もようやく
元の身体へと戻る事ができ





その翌朝は 奇しくもちょうど
江戸へと返る日であった







「お岩さんは…本当に立派ですね」


「誉めても何も出やしないよ…私に
出来る事はコレしかないんでね」







今まで同様、お岩殿はスタンド達の為
仙望郷の宿を続けてくのだと言った





「一人で宿を切り盛りしてくってんですか」





不安げな新八へ お岩殿は親指で
自分の心を指し示す





一人じゃないさ みんなここにいるよ
…今度こそやつらを救う仕事ってのが
してみたいのさ 恩返す為にもね」


「お岩殿…私の父上も盆に来ると思うが
その時はよろしく伝えて欲しい」





告げる私へ、嬉しげな笑みが返される





「いいとも あんたらも成仏できない時は
また遊びにきな、一発で昇天させてやるよ」







銀時はいち早く背を向けると





「ケッ、ババアに背中流してもらうなんざ
御免こうむるぜ…来年までに
キレイな仲居 用意しときな」





お岩殿へそう言いつつ、階段を下りる







苦笑を漏らしつ 私達もそれぞれ
礼をして、宿を後にする









「大丈夫ですかね女将さん…
何だか…寂しそう」





いまだに振り返り、気にかける新八へ







「フン…寂しくなんかねーよ」





背中越しに言葉を投げかける銀時が
うっすらと笑みを浮かべていたのを見て


側へと駆け寄り、小さな声で話す





「銀時にも見えたのだな……レイ殿が」


「…ったく、アイツも酔狂な奴だよなぁ」





呆れたようにため息をついてから





「来年よぉ…絶対アイツと兄貴も誘って
皆でまた来ような 







言って、銀時が頭を力一杯撫でた





「……うぬ」







もう一度だけ、雪山の温泉宿を振り返り
お岩殿とレイ殿の姿を思い浮かべ





"よい想い出を…ありがとう"





胸の内でだけ口にし…旅館の繁盛を祈った








――――――――――――――――――――――
あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:時期外れな上ノリで始まった
スタンド温泉篇も…無事に終わりを迎えられました


全員:ありがとうございました〜!!


銀時:てかこの話のラスト、オレらいらなくね?
に至っては殆ど名前出ねぇし


狐狗狸:いや君らいなきゃ原作であの展開に
ならんし…名前の件についてはノーコメで


新八:結局、あの人は旅館に放置ですか?


狐狗狸:絡みようがないからね


神楽:私の出番少なかったぞコルァァァァ!!


妙:竜宮でも出てるし、我慢なさい神楽ちゃん


お岩:あんたらの連れならどんなんでもちゃんと
世話してやるから安心しなギン


レイ:いい男なら、一緒に背中流してやるよ


狐狗狸:確かに両方とも顔はいいけど…
スタンドに耐性あるかは保証しませんよ?




無法地帯過ぎる長編にお付き合いいただいた
全ての方に謝罪と感謝を!!


次回は秋〜冬頃予定中…お待ち下さいませ


様 読んでいただきありがとうございました!