深々と雪の降り続く山奥に、私達は降りたった





「ずい分山奥まで来ましたね」


「バーさんの話じゃ知る人ぞ知る
秘湯って話だからな」


「こんな所でゆっくりお湯につかって冬休みが
過ごせるなんて夢みたいね」


「…兄上を差し置いて楽しむのはやはり気が進まぬ」


「しょーがないアル、アイツだって温泉より
女取って外国に飛んでったネ」


「そーいうこった いない奴等の分も
オレ達だけで楽しもうぜー





しんがりでのんびりと歩みながら銀時が呟く







、あんたと兄貴で
温泉に行く予定はないかぃ?』






先日 電話にてお登勢殿に誘われたのが
この旅路のきっかけだ





「特には無いのだが…何故そのような事を?」


『いやね 知り合いが旅館をやっててさ
ちょっとなら融通が利くのさ


あんたらだってたまにゃ、ゆっくりと
湯につかって休むのも悪かないだろう?』







話には聞いていたが、温泉を目にする機会も


兄上との旅も生まれてから一度も無く





「お登勢殿…とてもよい機会を授けてくれて
感謝いたす お言葉に甘え、その申し出謹んで
お受けしようと思う」





特に立て込んだ仕事も無いゆえに、私は
一も二も無く承知する





『そうかい、銀時達にも声かけといたから
当日は奴等と一緒に行くといいよ』







…ここで本来なら兄上も共に来るはずだったが





ごめん…折角なんだけど、どーしても
外せない仕事があって…」





仕事が忙しいようなので、心苦しいながら
私だけ温泉へと赴く事になった











第一訓 旅行先の写真と実物は
やっぱ違うらしい












「…兄上に極上の土産話をせねば!」


「そんなに意気込まなくても大丈夫よ
私達は目一杯楽しめばいいのよ」


そうアル!温泉とうまいメシがあれば十分ヨ!」


「しかし…オレぁどうにも胸騒ぎがすんだけど
あのババアがこういう真似する時は
大抵裏があんだよ」


「人の好意を素直に受け止められなくなったら
人間オシマイですよ」


「そうとも、新八の言う通りだぞ」





言い合いながらも長い石段を登りきった先に







泊まるべき宿のうらさびれた姿と
カラスの大群が私達を向かえた







「マジかい このボロ旅館に泊まんのオレ達?
つーかココホントに営業してんの?」





銀時の言葉も最もだ…旅館というものは
もっと賑わっていると聞いているのだが


これでは外見同様廃屋か、墓場のようだ







「私達、人捜して来ます
行こっ神楽ちゃん ちゃん」


「了解 お供仕る」







銀時と新八をその場に残し、私達は
旅館の中へ足を踏み入れた









内部も外と違わず所々朽ちてはいたが


それでも寒さは大分しのげている







あ、姐御!あそこに人がいるアル!」





神楽の声に、作業していた人物もこちらに気付く





「おやぁ…お嬢ちゃん達がお登勢から…」


「はい、この旅館を紹介してもらったんです
外にまだ二人連れがいます」


「あら〜早いお着きだったわねぇ、出迎え遅れて
本当にゴメンなさいねぇ」







その人物はお登勢殿と同じ年頃の女人であり





「初めまして 私が当旅館
仙望郷の女将の…お岩ですぅ」





礼をしたその肩越しに、うっすら人の顔が見えた







「…つかぬ事を聞くがお岩殿、後ろの者は?」


「え?何言ってるのちゃん」


「女将さんの後ろにはだーれもいないアル」





妙殿と神楽には見えぬらしい…







「それじゃあ、お連れさんをお迎えに
行きましょうかねぇ」





お岩殿と共に二人も移動し始めたので
それ以上聞かず、私もついていった









「ごめんなさいね出迎え遅れてしまって
なにぶんこの旅館 おばさん一人で
切り盛りしてるもんでねぇ」





外で改めて迎えられた時


銀時と新八の顔があからさま
強張っているのが見て取れた







「じゃあこちらにどうぞ案内しますから」





挨拶もそこそこに旅館へ導くお岩殿に
従って歩く私達







妙殿と神楽は楽しげに話を交わしているのに


後の二人は何故か歩みが遅く、何やら
険しい顔でヒソヒソと小声で語り合っている







「…あんなスタンドあるかボケェ!!」







いや新八のツッコミは所々で響いているな







「なぁ、二人とも」


っどわぁぁぁぁ!なっなな何ですか!?」


「おおおおおおおまっ、いきなりこっちに
声かけるとか止めろやっ!」


「す、すまぬ…所でつかぬ事を聞くが
お岩殿の後ろのアレは誰なのだ?」







今度こそ、二人の顔が引きつった







「え…さん あの人見えたの!?」


「何、お前もスタンド使い!?」


「素短度?」





単語の意味が分からぬ私を置き去りに銀時は
平然とした顔で続ける





「いやだからオレ達もスタンド使いだから
女将のスタンドが見えたって話を」


「本当そこまでして霊の存在を
認めたくないんですか情けない!!」







おお、あれがよく聞く霊魂と言う奴か


言われてみれば確かに足がなかった…なるほど







「しかし霊が見えたと言ってどうだと言うのだ」


霊じゃねぇスタンドだ!あれは奴等みたく
恐ろしい相手じゃねぇんだよ」


「ビビって事実を捻じ曲げない!あれは霊です
だってさんも見てくださいよアレ…」





示した新八に釣られて視線を前へ戻せば







お岩殿の背後にいたはずの何者かは失せている





「霊が…消えた」


「霊じゃないスタンドだ」


三人とも何してるの?早くいらっしゃい」


「うぬ、申し訳ない」







いまだに語り合う銀時と新八を尻目に
私は三人の元へと駆け寄っていく







「…二部屋用意したんだけど、和式と洋式
どちらがいいかね?」


「洋式なんかあるアルか!!」


「たまにはベッドで寝るのもいいかしらね」


「和式で!」


「侍なんで僕ら!!」



「私も和の方が落ちつ「ちゃんは
女の子なんだから私達と一緒でしょ?」







…洋風は好まぬのだが 妙殿や神楽の好意
無にするわけにも参らぬ





いざとなれば床で眠れば、と己に言い聞かせ


鎖と札の風変わりな襖を前に硬直する二人を
他所にお岩殿の案内した部屋へと入る









あら?ここ…和室よね?」


「どこにベットがあるアルか?」





言われてみれば、畳に襖…ここは和室だ







「きっと押入れかどっかに隠されてるネ!」







片っ端から室内を探し回る神楽だが、どこを
探しても洋風らしい物は見つからなかった





「おかしいわね…女将さん、洋式だって言ったのに」


「何だよチクショー ベッドで眠れると
思ってたのに期待ハズレアル!


「二人とも、まずは荷を降ろして休まぬか?」





静かに呟いた私の言葉に、二人はあっさり同意する





「それもそうね」


にしては珍しく空気読んだアルな」





…残念そうにしながらもくつろぎ始める
神楽と妙殿には悪いのだが


私は 部屋に洋風のものが無くて安堵している







「「面舵一杯で急カーブ!?」」





そこに妙な奇声と荒々しい足音を立てて
銀時と新八が襖を蹴破り入ってきた





「オィぃぃぃ レディーの部屋に急に
飛び込んできて何考えてるアルか!!」



「何どうしたの、そんなに慌てて何かあったの?」







文句を無視し新八が辺りを見回した後





「頼むぅぅぅ!!オレらと部屋変わってくれ!!」





銀時がその場に土下座し こちらに頼み込んできた


何時に無く必死だ…一体何があったのだ?







しばらくして、銀時が部屋の疑問に気付く





「そういや…お前ら洋式の部屋選んだんじゃ
なかったのかよ」


「ええそうだったんだけど部屋に入ったら
普通に和室だったのよ どこが洋式なんだか」


「わかったらさっさと出てけヨ 狭い部屋に
ワサワサウザイアル」





神楽の言葉半ばに新八が外への襖を開け


軒下に半透明の外国の者が、縄で
ぶら下がっていた


挨拶をする間もなく新八が窓を閉める





どうなってんですかこの旅館!!
どこもかしこもスタンドだらけじゃないですか」


「さっきから一体何を騒いでるんですか
スタンド?」


「いや すいません何でもないんです
こっちの話です」





けれど、二人の様子は明らかに尋常ではない







神楽も妙殿も居住まいを正す





「ただ事じゃなさそうアルな」


「ごまかさないでちゃんと話してください
私達ちゃんと聞きますから」


「私からも頼む…きちんと話を聞きたい」


「…あ、あのさぁ「おやつタ〜イムん!!」







切り出しかけた新八の台詞を遮り、お岩殿が
落花生を持って部屋へとやって来た







「あ、お風呂掃除したからいつでも入ってね」


「ハイ ありがとうございます」







今度こそ、あの背後の者について聞こうと
身を乗り出した時





「しゃべったら…殺すぞ」





銀時と新八へささやいた呟きが 耳に届く







振り返る二人に倣ってお岩殿へ目をやれば


そこに背後の何者かへ落花生を与え
微笑むお岩殿を見た







…お岩殿にもあの霊魂が見えているのか







驚きながらも納得した所で





震えていた銀時と新八が勢いよく立ち上がり


開けっ放しの襖の先から飛び出していく





「銀ちゃん!!新八ぃぃぃ!!」


「何処へ行くのだ二人ともぉぉぉ!?」







ワケも分からず取り残された私達へ妙殿は言う





「いいのよ、どうせここは雪山だし
すぐ戻ってくるわ…あの人達も温泉旅館に
テンション上がってはしゃいでるのよ」







果たして妙殿の言った通り、二人は
しばし経ってからゆっくりと宿に戻ってきた





…何故か涙を流し 笑いながら








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あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:はい、三途行き日課になってるんで
違和感無いかと始めたスタンド温泉篇です


銀時:夏なのに冬の話始めてる時点で
違和感だらけじゃぁぁぁ!!



狐狗狸:だって田足篇やってたんだから
このくらいズレて当たり前


新八:にしても季節丸ごと逆転するのはどうかと!


神楽:いっちいち喧しいアルこのビビリども


妙:全く、二人ともそれでも侍ですか?


銀時:見えてねぇオメーらが言うな


狐狗狸:まぁまぁ落ち着きなさいってケンカしない




次回 風呂場にてスタンド達が牙を向き…?!


様 読んでいただきありがとうございました!