―いつからそこにいたのかは分からないけれど


××は、自分がいるのが"本"の中であること


"本"に不思議な力があることを知っていました





たった一人でいるのが辛くて××は同じように
本の中にいる人へと話しかけますが、誰一人

××に気がつかず いなくなってしまいます





一人ぼっちでうずくまって泣き出しそうな××に







「…悪いけど 僕には嘘は通じないぞ
君だろ?この世界の"主"は





ある時 一人の男の人が手を差し伸べました





【アナタは…××が分かるの!?】


もちろん!僕は特別なヤツだからな、君の事は
パンツも含めて 始めから分かっていたぞ〜」





××は疑いの眼差しで見上げて、言います


【なんか嘘くさい】


「うん、嘘さ 悲しいけど特別な人間なんて
早々はいるワケないもんな〜ははは」


落ち着き払った口調で、軽く皮肉げに笑ってから


男はやさしげに笑いなおして続けます





「あそうそう 自己紹介が遅くなったなゴメン
僕の名前は、正直(マサナオ)





     ――――――――――――――――――――











第五訓 をかしくもあやしきところなりけり











万事屋の中は、四人が出て行った時と全く
様子が変わってはいませんでした


定春がいないことも あわてて出て行った玄関も


ケンカで少し荒れた居間も開け放った窓も





読んでいたはずの 例の本が無いことも





「振り出しに戻っても、何にも無いアルな」


「まだ戻って間もねーだろ よく探せばひょっとして
見落としてた手がかりとかあるかもしんねーじゃん」


「けど銀さん、この世界普通じゃありませんし
下手に手を出すより清明さんが戻るまで待ってた方が」


「いやー無理だろ、お兄様の溺愛っぷりは
そこのブラコン娘並だからしばらく戻ってこねーって」


「家族愛は素晴らしいではないか!」


「うん、その愛を少しだけオレら困ってる人間に
向けようね つかオメーは発言も場所考えようね」





張り付いたような笑顔で銀時がにらむけれども

言われた当人は、全く気にしていません







和室もトイレもお風呂もくまなく探し回って





「銀ちゃん、この引き出し半開きヨ」


気が付いた神楽に呼ばれ、みんなが半開きの
デスクの引き出し前まで集まってゆくと





…引き出しがひとりでに、からりと開きました


中には 真っ暗な空洞が広がっているようです





「え、何このド○えもん仕様な引き出し
いつの間にウチの引き出しこんなんなってたの?」


「明らか怪しいネ ひょっとしたらこの中に
原因があるかも知れないアル」


「いやいやいや入れないでしょ普通!てゆうか
入りたくないんだけど…っどわぁぁぁ!?


「新八!」





吸い寄せられるように引き出しの中へと落ちこんだ
新八に続き、三人も闇へと身を躍らせます











        四人が落ちた空間は見渡す限りの黒が広がって





        少し上の、ちょうど銀時が手を伸ばせば
        届くくらいの所に四角く切り取られた場所があって


        そこからは万事屋の窓や掛け軸が見えています





        「大丈夫か新八 何ゆえ落ちた」


        「さ、さあ?僕にもよく分からないんですけど
        急に引き出しの中に引っ張られたとしか…」


        「ここ、あの仙人のオッサンのトコみたいアル」


        「だったらハズレじゃね?見たトコ何もなさそーだし
        こんな薄暗ぇ場所長居は無よ…」


        聞こえてきた奇妙な音と、放たれた殺気に気づいて


        木刀と槍を手に鋭くにらみつける二人に習って
        残る二人も、闇の奥へ注目して身構えます





        「くくく…貴様らがこの地獄へ足を踏み入れて
        来るのを、どれほど待ったか…」


        暗い闇から抜け出るように現れたのは





        「じっ…地雷亜!?





        死んだはずの地雷亜だったのですが、銀時たちが
        驚いたのはそれだけではありません





        顔半分の皮膚が剥がれている彼は なんと


        猫の着ぐるみをまとって立っていたのです


        しかも、着ぐるみの所々がで染まっています





        更に彼の登場だけに留まらず





       「よもやワシらの顔、忘れたわけではなかろう?」





        闇から血まみれのウサギぐるみを着た鳳仙や

        鮮血に染まったカエルぐるみの陀絡が出てきます


        そして様々な血まみれ犬ぐるみの伏木七兄弟


        鼻薬を使う血染めハトの似蔵やら、毛がまだらに
        赤くなった羊ぐるみ
のTAGOSAKUまでもが


        不気味な笑みを浮かべてやって来ているのです





        「ここで会ったが百年目ってヤツだろうねぃ」


        『さあ 存分に死ぬがよい』







        ある意味壮観ともいえる光景に、全員の顔から
        血の気がざーっと音を立てて引いてゆきます





        何コレぇぇぇ!どこ目指したいのコレ!?

        恐怖とシリアスな笑いとグロの成立目指した結果
        シュールすぎて笑いも起きねーよこんなんんん!」



        「ととととりあえず逃げましょう!?
        捕まったら地獄一択ですコレ!!」


        「既に地獄の一丁目では「「それは言うな!」」





        踵を返して走り出す四人を追って、闇が…いや


        闇よりも恐ろしいヒトたちと 闇のように黒く
        おぞましい虫の群れ
が破壊の意思を持って迫ります





        虫は銀時たちへと追いつくと


        "巨大なゴキブリ"として張り付き、更なる恐怖と
        混乱を与えてきました





        いぎゃあぁぁ!Gが!イニシャルGが
        顔面特攻しかけて来たアルぅぅぅ!!」



        「おい!出口がねぇぞ!!」


        「そんな…さっきまでここにあったのに!?」





        無数の糸に絡め取られそうになりながらも剣閃や

        槍閃やクナイ、拳に蹴りを避けひたすら歩き続けますが


        入ってきた引き出しの光はどこにも見えません







        「出られると思い上がるその思考が妬ましいぃぃ!」





        元の体のせいか、かろうじてクマに見える程度の
        いびつな血まみれぐるみの天人が新八へ狙いを定め


        槍が突き出されるより早く相手の首めがけ―







        『戦っちゃいけない!右へ行け!!』







        とっさに刺突を受け流して彼を逃がし、彼女は
        足を止めて辺りを見回します





        「正直殿!いずこに」


        『説明は後!まだ移動に手間取ってるトコロさ
        とにかく君らの脱出を指示するよ!!』





        小さくうなづいて、は声を張り上げ
        あわてふためく 仲間へと呼びかけました





        皆の者!こっちだ、ついて来てくれ!!」





        発狂寸前に陥っていた彼らは、唯一の希望に
        勇気づけられ正気を取り戻すと


        指示に従って着ぐるみ軍団を退けを叩き落とし


        先導を取る作務衣の少女の行く手を護ります







        『そこで飛んで、上を斬り裂け!!


        「はあぁぁぁぁ!」





        気合を入れて、足元を蹴って飛び上がった
        槍を振るえば…そこに亀裂が入って


        あっという間に広がった裂け目から光があふれます





        「でっ…出口だぁぁぁ!







裂け目を押し広げながら、どうにか外へと
脱出した銀時達は 後ろを振り返り


開けっ放しだった引き出しを力の限り閉めました


間に挟まれ 千切れたGの胴体がケイレンしながら
床へと落っこちて神楽と新八が悲鳴を上げますが


ガマンしながらガタガタ震える引き出しを押さえ





…やがて、引き出しは動かなくなりました





「あ…危なかった…」


「私らの記憶が元とは言え、呪いマジ怖ぇアル」


それ捨てといて見えないように捨てといて
でもって捨てたら手ぇ洗え二十回ぐらい」








言われた通りにGの残骸を始末して、手を洗った
彼女が居間に戻ってきますが


やっぱり部屋の中には手がかりは無かったようです





「マジでどこいったんだあの本…誰だよ
万事屋に手がかりがあるなんつったバカは」


「自分じゃないですか…あ、さん
さっきはありがとうございました」


無表情で"気にするな"と返す彼女をじっと見て





不意に銀時がこう訊ねてきました





「そういやお前、会った時からずっとオレらを
逃げ道に引っ張ってくれてるよな?」


「言われてみれば…さっきも出口まで迷わず
進んでましたよね?どうしてですか?」


「あの妹燃えから何か攻略法とか聞いたアルか?」


「いや正直殿の力のおかげ「「「誰ぇぇ!?」」」





いきなり出てきた知らない相手の名前に疑問符が飛び


そこでようやくは 正直という男との出会いと

彼から聞いた話や、借りた"力"について語ります





「お主らの居所も、"声"を聞いて探り当てた」


「マジでか じゃさっきの出口は?」


「正直殿に導いてもらった」





当人は顔色一つ変えず説明するのですが、全く
聞こえない側にとっては理屈も意味も分かりません


むしろ とうとう電波に目覚めたのかと思う方が
よほど納得出来る、と思われてるみたいです





「新たなスタンドじゃあるめーし、どんな原理だよ
オメーが借りたその"力"ってのは!」


「私に分かるわけが無かろう」


「そんなキッパリ言われても…そもそもその
正直って人、信用出来るんですか?こんな
おかしな場所で会った上に全力でうさんくさいし」


「いや、正直殿は味方だ」


「根拠はあるアルか?」


「目を見れば分かる」


「「「それ単なる勘じゃねーかぁぁぁ!」」」





あまりにも大雑把すぎるの返答に、三人が
声を揃えてツッコんだ所へ







よかった、まだ生き残っていたか」


手の平サイズの清明がテーブルの上に現れました





「清明さん!」


「結野アナの番組を見てたにしちゃ遅すぎじゃね?
てっきり便所で力んでんのかと思ったわー」


「本の力が格段に跳ね上がったようでな
…結界の突破にちと手間取った」





三人の運命力を得た本の呪力はケタ違いに跳ね上がり


現実にまで影響を及ぼし始めたので、それを
抑えるための布陣を貼っているそうです





「気休めじゃが、術がかかっている間は契約による
呪力の履行が抑えられるハズじゃ」


「てことは…何かを願ったりしても呪いが強くなる事が」


今の所は無くなるじゃろ、呪いの発動による
攻撃なども今後はグッと減ると考えて構わん」


「そいつぁ助かるわ、けど手がかりいまだに
ゼロなんだけど どーすりゃいいよ?お義兄さま」


「いい加減その呼び方はやめんか、こちらも
お主らばかりに負担をかけるつもりはないぞ?」





結野衆の総力をかけて、結界を越えるために
壁の薄い箇所を探っていた時に


呪力の反応が高い地点を見つけたのだそうです





「おそらくは近くに核があるはずじゃが…
正確な位置が掴めんと、策も組めん」


「正確な場所…」





三人の視線が、へと集まりました







「ほう、この世界の事を示唆した男から
借りたのが"声"や"音"を聞く力と…?」


うぬ、声のする方へ行けばこそ銀時達と
再会できたし危うい場所をも抜け出せた」





彼女の話を聞き、ミニ清明はどこか
納得したようにうなづいて言いました





「その力…話で聞く限りじゃが
豊聡耳(トヨトミミ)の力に酷似しとるな」


トヨトミミ?なにアルか、それ」


耳慣れない単語にマークを連発する四人へ

小さな陰陽師は落ち着き払って語り始めます





「未来を見通す"天眼通"のように、他者の心や
過去を聞き通せる耳
を持つ一族がいた」







伝承によれば施政者の側近などを勤め


時には、一度に十数人の者から内情を
探りだすなどの所業を行った記録もありました


しかし相手の本心や歩んだ軌跡の全てを
知ることが出来てしまう力はやがて恐れられ


迫害と虐殺によって僻地へと追いやられ





…やがて、その一族は絶えてしまったそうです







「もしや…正直殿がその豊聡耳の者だと?」


「断じる事は出来んが、間違いないと思うぞ」


「うらやましい能力だなソレ、盗み聞きし放題で
賭けだって負けナシじゃ「「黙れごく潰し」」





従業員二人の厳しいツッコミをされる天パを
スルーして、テーブルの清明は言いました





「ともあれそういう事なら話は早い 核の正確な
位置さえ割り出せば防御の薄い箇所から結界を
破壊して、核へ直接干渉する事も出来るじゃろう」


「そうと決まればさっそく核の近くまで行って
の力で核見っけに行くアルよ!」


「んでもって核ぶっ壊してとっととこんな
気味が悪ぃトコからおさらばだ!」



「…私ではなく正直殿の力なのだが」





俄かにやる気を取り戻した銀時たちは、肩に
乗せた小さな清明に導かれて万事屋を出ます





誰もいない通りを抜けて辺りをうかがい


角を曲がった四人がその先で見た光景は―









『…あれ?』





どこか江戸に似た雰囲気を持っているけれど

作り物めいた、ゲームの中のような街並みと


大ザルがのし歩き 西洋風の剣や鎧に身を包んだ
人物などもちらほらと闊歩する大通りでした








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あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:ラスボスだらけのフルボッコ大会から
不思議ワールドへご案内となります


新八:どうしてそうなったぁぁぁぁ!!


清明:呪いの力の拡大と、ワシらの介入が影響を
及ぼしたと言えよう…詳しくはまだ言えぬが


銀時:それだけであんなんなるかぁ?
イレギュラーの事といいまだ何かあんだろテメェ


狐狗狸:どうせ次回以降に(多分)分かる事だし
そう急いで聞くことでもないでしょう


神楽:がやたら活躍しすぎてるのが
一番のイレギュラーネ、まるで夢主アル


新八:いや夢主だからねあの人




なお今回出なかったラスボス枠のキャラは
いずれ出番が回ってくる…と思います


様 読んでいただいてありがとうございました!