"札束の紙吹雪"というドッキリなどの冗談でしか
お目にかかれないような異様な光景に
しばらく呆然と立ち尽くす四人でありましたが
ようやく現状を把握すると 銀時は機敏に
地べたへと屈みこんで両腕を開き
散らばり落ちた札をかき集めだしたのです
「ひゃっほおぉぉ!金だ金だぁぁぁ!
おい新八、神楽!そっちに散ったの集めろ!早く!」
「やってる場合かぁぁ!どう考えても変でしょ!
空から突然大量にお札が降ってくるなんて!!」
「いーやこいつぁ主人公としてガンバってるオレに
神様がご祝儀恵んでくれたんだよ!」
「それだけは無いアル、パピーの毛根が
復活するぐらいないアル」
「あり得るんですぅーハゲの毛根は無いモンだけど
オレの努力はあるモンだからあり得るんですぅ!」
「いや待て銀時、きっとそれは誰かの落し物だ
返してやらねば持ち主が困るだろう」
「そーいう問題でも無いんですってさん!」
真顔のボケに新八が反射的にツッコミを入れます
「そうアル、新八の言う通りヨ!」
「でしょ?どう考えたってこの状況で
お金が降ってくるなんて明らかに異常だし」
「大体銀ちゃんみたいなマダオにお金めぐむ神様
いるなら、私みたいな可憐な美少女に巨大カレーが
差し出されないなんておかしいネ!」
「そっち?!てゆうかお腹減ってんの神楽ちゃ」
すると、刺激的で特徴的な香りがふわりただよって
つられるようにニオイのもとを三人が探せば
公園の遊具と見間違えそうな大きさの、皿に乗った
巨大カレーが湯気を立ててそこにありました
第二訓 魅力的なモノにはリスクがつきもの
「きゃっほおぉぉう!!巨大カレーアル!
夢にまで見た存在がついに目の前に現れたネぇぇ!」
止める間もなくお皿の前まで駆け寄った神楽が
どこから食べようかとヨダレを垂らして考えます
「あ、でもスプーンないアル…いや
この大きさならヨネ○ケのしゃもじがいるアルな」
どこかにヨネ○ケが通りかからないかと
彼女が辺りを見回していたら
誘われるようにしてひょっこりと
大きなしゃもじを担いだ、人懐っこい顔をした
中年男性が神楽の方へと歩いてきます
「今日の晩ゴハンはカレーですか!これまた
ものすごい大盛りですねぇ〜」
「よ、ヨネ○ケ出たあぁぁぁぁ!?」
驚いたのも束の間、すぐさまヨネ○ケを
しばき倒した神楽がしゃもじを手にして
「おおっ、しゃもじ欲しいって言ったら
マジでしゃもじ出たアル!いっただきまーす!」
そのまま巨大カレーへと突進して
脇目もふらず一心不乱に、カレーとご飯とを
がつがつ貪り始めました
お金集めとカレーに夢中になる二人を見比べ
足元でピクピク痙攣しているヨネ○ケへ
声をかけるを他所に、新八は呟きます
「な…何これ?いきなり街から人が消えたと
思ったら、お金が降ってきてカレーが出てきて
更にヨネ○ケ!?一体どーなってんの!!」
「よく分からぬが…原因があるとするなら
やはりあの本だろうか?」
の言葉に触発されて、彼の頭の中に
万事屋で読んでいた古い本が横切ります
「そうだよ!あの本を読みだしてから
色々おかしくなったんだよ!やっぱあれヤバい本」
「あら、ここにいたのね新ちゃん!」
虚を突かれたように 視線を声の方へ向けると
新八達の側へ、普段通りの笑みを浮かべた
妙が歩み寄って来ました
「姉上!?今までどこにいたんですか!!」
「それはこっちの台詞よ、新ちゃんやみんなを
探してたのにどこにもいないんだから」
「む、すまぬ妙殿…すれ違ったか」
「探してた、ってどういう事ですか?」
訊ねられ、彼女は懐から何かを取り出します
「新ちゃんに渡すように頼まれたものがあったの
前からアナタ、これ欲しがっていたでしょう?」
「前から?…あ!」
手渡されたモノを見て、新八のメガネの奥の
瞳が尋常じゃないくらい輝き出しました
「コレはァァァァァ!まさかこの間予約した
お通ちゃんの握手会つきプレミアチケット?!」
「お主、そんなものまで頼んでいたのか」
今にも飛び上がりそうな彼を 無表情のまま
見つめるの顔に、汗が一筋流れます
しばらく奇声を上げ続けていた新八ですが
「…って喜んでる場合じゃない!それより姉上!
街の人は一体どこに行ったんですか!?」
ハッと我に返ると、チケットを大事そうに
懐へとしまいながら妙へと聞きます
「え?どういう事かしら?」
「どうもこうも周り見りゃ分かんだろ?
街にだーれもいねぇんだよ」
そろそろお金を集め終えるからか、視線だけを
妙へ定めたまま銀時が答えます
それでも彼女は不思議そうな顔のままで言いました
「街に人がいない?いるじゃありませんか」
…その直後でした
急に四人の周囲に人の声と音とがあふれ出し
空の上を宇宙船が一つ飛んでいきました
「「「え…ええええええ!?」」」
辺りを見回せば、さっきまで人っ子一人
見当たらなかった道路や公園にも
通行人や遊具で遊ぶ子供たちの姿があり
見慣れたかぶき町の光景が 戻っていました
「ね?いつも通りでしょう?」
神楽でさえ一旦カレーを食べる手を止めて
四人は顔を見合わせ、集まるとこの状況を
どうにか理解しようと話し合います
「な…何なんですかこれ一体?銀さん、僕ら
夢でも見てるんでしょうか?」
「おお!それだよ夢だ夢、それならこの金も
使い放題じゃねーか!ナイスぱっつぁん!」
「そりゃいい案ネ!そうと決まれば私も
夢でお腹いっぱい食べちゃるアル!!」
都合のいい解釈に納得していく三人ですが
いまだにだけは腑に落ちない様子です
「本当にこれは夢なのか?だとしたら何故
兄上がおらぬのだ?おかしいだろう」
「おかしかねーよ、お妙と同じよーな
パターンですれ違ったんだろ」
「そうアル、は心配し過ぎネ」
「兄上の心配をして何が悪い!私は兄上と
「はいはいはいブラコンはいいから!!」
彼女の言葉をすっぱりと断ち切って、銀時は
大量のお札を服のあちこちに挟みこんで
「そんじゃオレはいちご牛乳業者買いしに
行ってくるから、オメーらも早く帰れよ〜」
ひらひらと手を振って、公園から立ち去りました
神楽はというと早くもカレーを食べ終えて
「うっぷ…食べた直後じゃ動けないアル
ちょっとここで食休みしてくネ」
ぷっくりと膨れたお腹を上にして、地面に
ごろりと寝転んで満足そうにしていました
しきりに不思議そうな顔で首をひねりながらも
「さ、早く帰りましょ?新ちゃん」
姉に急かされ、チケットを手に入れた高揚感も
噛み締めながら新八も帰路へと足を向けます
「あの、僕は姉上と一緒に帰りますんで
何かありましたら連絡してください」
「…承知した」
「またねちゃん」
元通りの街並みを眺めながらも家へ
帰り着いたのですが
その間も、妙な違和感は消えません
「あら、お帰り どこ行ってたの?」
「兄上!お戻りになられていたのですか!」
「ついさっきね、きっと入れ違いに
なっちゃったんだろうね」
目の前のお兄さんにも違和感を感じながら
けどやっぱり、ソレが何かはよく分からなくて
とりあえずは頭を下げますが
「お迎えに上がれず申し訳ありませぬ」
「いいよ気にしないで、それよりそろそろ
夕餉の支度しなくちゃ 手伝ってくれる?」
「無論です!兄上の頼みならばなんなりと!!」
大好きなお兄さんと話をしている内に
そんなささいなコトはどうでもいいかな、と
忘れる事にしたのでした