街にひしめく物々しい男達の目を掻い潜り
「さぁ行きましょうね〜あ、ゴメンなさいね」
客の言う"花のような"笑みを浮かべ
僕は車椅子を押して 通路を右へ左へと進む
「…ったく、人にこんなカツラ被せやがって
アタシをなんだと思ってんだい」
「店に着くまで辛抱してくださいな」
何の変哲も無い老女の扮装をした"彼女"が
小声で呟くのを受け、やんわりと諌める
「にしてもこんなモンで意外とバレないもんだねぇ」
「あら?見た目を少し変えてやれば、案外
簡単に誤魔化せるものなんですのよ人目って」
「…そう言えば、アンタのその姿も
こうして見るのは始めてかもねぇ」
チラリ、とカツラの隙間から覗く瞳へ
「最近ではお客の間でも流行りだそうです
正直僕は振袖の方が気に入ってますけどね」
笑み返しながら僕は…介護師の服装のまま
お登勢さんへとそう返した
第九訓 年数あいても絆は切れず
妹から、銀さんと七三ヤクザ?さんとの
やり取りは一応聞かされていたものの
やっぱり様子が気になって病院へと赴いた
もし万一の事があった場合…
必要に応じてお登勢さんを安全な所へ
避難するつもりで"用意"も万端に病室へ進み
『な…何してるんですかここで!?』
まさか、途中の通路で壁を這いながら
出口を目指すお登勢さんに会うとは思わなかった
『ダメですよ、怪我人が病室を出てちゃ…』
差し出した手を弾き、彼女は弱々しく続ける
『悪いけど 見逃してくれないかぃ?』
『そうは行きませんよ、アナタが傷ついて
泣く人がどれだけいると思うんですか』
けれどもこの人は 戻る気配を見せないまま
ゆっくりと口を開いた
『見舞いの時、アンタの妹に言われたのさ…
"四天王なのにらしくない"って』
『…が?』
『そんなエラそうな称号もらった覚えは無いけどね
こんなバーさんでも 頼りにするバカはいるからさ』
傷の痛みも構わず…彼女はニッと笑みを浮かべ
ただただ壁を伝い、前へと進んで行く
『あの銀時(オオバカ)が気張ってる限りは…
ここはあたしらの街さね』
全く…これじゃこの街の病院は苦労するわけだ
人の話を聞かない、自分の傷にも構わない
頑固な患者が度々入院するのだから
『確かに…主人(アナタ)がいなくちゃ
お店は始められませんよね』
とはいえ僕は もう止める気なんて更々無い
『では、の出張サービス介護
これより勤めさせていただきますね?寺田さん』
『…あぁ?』
時間外といえど、僕の今の生業は客商売
ならば彼女の望みを…"望むべき場所"への
誘導を手伝うのが 僕の役目
こうして灯のついた相手の意思を尊重して
僕は、自らとお登勢さんへ用意した変装を施すと
車椅子を一つ失敬して病院を出て
怪しまれず 目立たず安全な道を通り店を目指す
「それにしても、(アンタ)自らが
こういうのに志願するとは思わなかったよ」
「気にしないでください…恩もございますし
何よりお願いしてたお酒の件がありますから」
「…ああ、あの酒の事かい」
「ご指名下さる上客の皆さんは舌の方も
肥えてらっしゃいますから、ぜひとも品物の
入手をお願いいたしますね?お登勢さん」
念押しすれば、呆れたような溜め息で笑み返された
「全く…妹がバカな分ちゃっかりしてんねぇ」
「いえいえ、アナタに比べれば私なんて
まだまだ若手もいい所ですわよ」
―――――――――――――――――――――
少しばかり救出に手間取って、急ぎ屋敷を飛び出し
屋根から屋根へと飛び移る内…店の通路にて
いまだ戦う者達の顔ぶれが見えた
次郎長一家と西郷殿の店の者達を相手に
銀時達四人に混じって戦っているのは
見覚えのあるなしに関わらず―かぶき町の面々だ
「アッハハハハハ!かぶき町の女王に逆らって
ただで済むと思ってんのかおんどりゃあぁぁ!!」
おお…有守の技を使いこなすとは流石、妙殿
店の女子達も長刀を振るい 洋装の男達や
妙な同心風の男と共に勇ましく戦っている
それに引き換え 助けに呼んだにも関わらず
「この場におらぬとは…役に立たぬなあの男」
これなら、同じ役立たずでも戦地に赴いている
マダオ殿の方が立派な心がけといえよう
だが理由は分からないまでも…これだけの人達が
店を護るべく駆けつけてくれたのは
きっと お登勢殿と万事屋三人が
今まで紡いできた"絆"のおかげだ
驚きと心強さとが胸を満たしていくけれど
…戦場(いくさば)で悠長に構えるヒマなどはない
「うぉっ…って、アンタ!」
「火消しご苦労 辰巳殿」
死角となった背後に突き立てられかけた刃を砕いて
「…来てくれたんだね」
「無論だ」
流れる動きで鉄子殿の横手へ迫る相手の
アゴを跳ね上げて吹き飛ばし
向かい来る…或いは味方へと襲う者へ
一撃ずつ急所にお見舞いして距離を縮め―
「全く…この街にもほどほど驚かされる!」
西郷殿の振り上げた木槌を、一突きにて
護り身へと転じさせ
味方の一人をその場から逃がす
「そいつぁこっちのセリフさね
今のは、流石にビックリしたよちゃん」
「お褒め預かり…光栄仕る!」
言葉の合間に背後から突き出された刀を
後ろ手で後方へ回した槍の柄で捌いて弾き
上体を捻り 振り返り様に周囲を斬り払う
その攻撃を弾いて、西郷殿と平子殿が距離を取った
「あれぇ〜今の不意打ち気づかれましたぁ?
やっぱり"亡霊葬者"さんは侮れませんねぇ〜」
いい加減にせぬか愚か者が、とでも
放ってやろうかとも思ったが
「男の機械のお通りだぁぁぁ!
死にたくなきゃそこ退いとけよ!!」
「…了解した」
源外殿の率いる機械の兵へ後を任せて
いまだ暴れまわっている周囲の手助けに走る
「遅かったアル!何道草食ってたね!!」
「すまぬ、手間取らせた…片方は無事だったが
もう一人は華陀の城にいるようだ」
「…場所は分かってるんですね?」
「無論 てる彦殿と共にいるようだ」
機械兵を蹴散らす二人の元へ銀時が
向かっていったのを見て
そちらへ目をやる新八と神楽に狙いをつける
雑魚を請け負いながら私は告げた
「しばしここは任せろ、行って来い…二人とも!」
「「言われなくても!」」
あの二人へ 決着をつけにいった万事屋達を背に
加減を交えて、右へ左へと駆けながら
二人の戦いを邪魔せぬように敵を防ぐ
入り乱れる人垣を縫って様子を伺えば
平子殿の一振りが新八を薙ぎ払い
同時に振り下ろされた西郷殿の槌が
神楽の身を渾身の力で打ち据えているのが見えた
けれど…私は一歩たりとも加勢には行かなかった
両者の力が…魂がまだ、死んでいなかったから
「「おぉぉぉぉぉ!!」」
折れたのは…砕けたのは 両者の獲物
叫びを上げたのは、銀色の夜叉を
慕いて集った夜叉の童(おにのこ)達
「侍に 花なんざ似合わねェ」
虚空へ身を翻した新八の一撃が平子殿を沈め
地を蹴り飛び上がった神楽の拳が、砕けた
槌を通り越して西郷殿の巨体を跳ね上げる
二人の身体が地面へと倒れ伏した後
「花はやっぱり 女の子に一番似合いますよ」
「オカマもな…」
新八と神楽は立ち上がり、声を揃えて言った
しばしその場に留まった後 三人は
華陀の城を目指して駆けていく
…駆け寄りたいが 私は街の者達を助けに
徹すべきと思い直し槍を振るう
と、両脇から妙殿と卵殿とが寄って告げた
「行きなさいちゃん…ここはもう
私達だけでも、十分よ」
「その通りです さあ、三人の元へ」
「…二人とも……かたじけない、後ほど戻る!」
礼を述べ 駆けていった三人を追って
力尽きて倒れたままの平子殿の横を通り過ぎ
仰向けに横たわる西郷殿と、目が合った
「ちゃんも…ウチの子を助けるつもりかい?
アンタといいちゃんといい…
この街に関わりの無いアンタら兄妹まで、どうして」
「共に街に住む者なら助け合うのが普通ゆえ」
戦いきった武士(もののふ)の顔を見つめ返し
私は、答える
「例え半身が天人とて…罪人である私を
兄上と共に受け入れてくれたのは、この街だ」
西郷殿は…見慣れた優しき笑みで返してくれた
「そうかい…アンタも 死ぬんじゃないよ」
「承知した」
慣れないながらも笑みを浮かべ、急ぎ地を駆け
先へと進む三人の背へと追いつき叫ぶ
「…私を置いていく気か、薄情者どもめ!」
「あん?テメーが遅いのが悪ぃんだろうが!」
近寄り様に軽く小突かれる頭の痛みも
街を護るため 戦っている事を思えば
差して気にもならなかった
「この先からは華陀の尖兵も控えている…
努々油断はするなよ?」
「誰に言ってるアルか、この歩く死亡フラグが」
「心配しなくてもそんなにヤワじゃ…うわっ!」
早速襲ってくる者を数人相手取って吹き散らし
私達は華陀の城へと歩を進めるが
その数の少なさに…嫌な予感は収まらなかった
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あとがき(というか楽屋裏)
狐狗狸:兄ととあの人らサイドとで
視点と時系列が前後しまくっててスイマセン
神楽:始終前後に揺れっぱなしネ、方向も
時間軸も定まんないから酔いそうアルォロロロ
銀時:ったくここ最近の地震じゃあるまいし
せめてこっちでは地盤は定めロロロロロロ
狐狗狸:いやでも十話を越えれば時系列は
まとまりますから!てかもらいゲボロロロロロロ
長谷川:ここで吐くなよぉ!かかったじゃねーか!
ハジ:いや、地面に伏せてんのが悪いんじゃ?
てーかあちき…セリフ無いでやんす
新八:しょうがないですよ、ハジさん本編でも
あの時はセリフ無かったですし
小銭形:しょげるな、男は背で語るのが
真のハードボイルドだカミュ、ハジ
たま:そうなのですか データに『加えるな』
語られぬ、緑眼の兄妹による舞台裏の奮闘と…
様 読んでいただきありがとうございました!