薄闇が白み始める手前の頃合に立ち上がる





「あの男なら上手くやっているとは思うが…
念のため、二人の無事を確かめてくる」


「わかったヨ 店は私達に任せとくネ


さんも気をつけてくださいね」





頷き 別れを惜しむように頭を擦り付ける
定春をひと撫でしてやる





側では兄上が用意した図面を広げ

黒衣へ身を包んだキャサリン殿へと示している





「詳しい位置は割り出せませんでしたが…
てる彦君は華陀の構える居城の、このフロア
階層内にいると見て間違いないです」


「それは確かなのですか?様」


「この情報にかけては自信がありますわ…
連れ出す手腕には期待してますよキャサリンさん」


「ワカッテルワヨ、サンハドウスルノ?」


「僕は…まぁ戦う方じゃ端から期待されては
いないと思うので、死なない位置で働きます」


「ご心配召されずとも兄上は私が『お黙る』


何故ここで満場一致?まあどうでもいいか







「とかく後ほど店先へ参る…それまで、死ぬな


「当たり前ぇだ、オレ達の街には…
何人たりとも無粋な連中は入らせねぇよ」






覚悟を決めた強き顔達に 小さく笑みを返した





「しからば後ほど戦場(いくさば)で!」











第八訓 舎弟は黙ってついていく











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素人手際だから完全とは言いがたいけれども


出来うる限り集めた情報は前日渡していたから
もう救出に成功していると思っていた





…でも、あの人達の拠点に取り巻いているのは

明らかに次郎長一家のゴロツキ然とした男達





どうやら事態はマズイ方へ転んでいるらしい







お妙さんに言ってしまった手前もあるし
彼女を連れていかないと…さて





「兄上…いかがいたしましょう?」


「とりあえず中にいる人達に話を聞くしか
無いだろうね、ちょっと耳貸して







裏手辺りを陣取ってヒマそーにしてるのは
幸か不幸かいつかのバカ二人組だった





おぉ?あん時のネェちゃんか、どうしたぃ」


「道に迷ってしまいましたので…よろしければ
案内をお頼みいただけますかしら?」


「悪ぃけどよぉ、そいつぁ無理な相談だ
ケガしねぇウチにとっとと帰った方がいーぜ」





もう一押しね…よし、使い古された手だけど





けほっ…じ、持病のしゃくが」


おぉっ!大丈夫か、何処が苦しいか
言ってみな?さすってやるぜ…へへ」


「バカ!気持ちは分かるが持ち場を離れんじゃ」





へたり込んだこちらへいやらしい笑みを浮かべ
近寄る一人と共に、もう一人も腰を浮かし





「悪いが 眠っていてもらおう」


死角から迫ったの槍の柄が
一瞬にして二人を声もなく昏倒させる





「兄上お怪我はございませんか?」


「…いや一々聞かなくたって大丈夫なのは
君が一番分かってるじゃない」







心配性ながらも働き者な妹の活躍により


囮を勤めた僕は傷一つ無く 一所に
囚われていた隊員の人達へと面会できた





「あの人はどうしたんですか?」


「副司令は…一個小隊を引きつれ屋敷へ
潜入へ行ったきり戻らず…」


「待機していた所へ次郎長の者達がここを
取り囲み、"副司令の身柄も拘束した"と」





そんな…彼らが潜入に行くことをあちらが
読んだ上に罠を張っていた…!?






僕が余計なことをしなければ、とよぎった後悔の念を





兄上のせいではございませぬ、此度は
あちらが一枚上手だっただけのこと」


無表情で断ち切っては淡々と言葉を紡ぐ





「周囲の者達は眠らせる故、お主らは
奴らを捕らえ指示あるまで待たれよ」


「どこへ行かれるのですか?」


「…大事な相手を助けにだ」







今更ながら、この子の大雑把さと優しさに
救われながらも思考を切り替え拠点を抜け


道中で記憶にある内部を簡潔に説明して





「ちゃんと把握できたね?頼んだよ





見つからないよう、屋敷の手前で言葉をかわす





「お任せくだされ、されど兄上は
失礼ながらお一人で大丈夫ですか?」


「ここにいたら邪魔にしかならないよ
それとも信じてないの?僕のこと」


「そ、そのような恐れ多きことは
微塵も考えてはございませぬ!」






珍しく焦りを見せる表情へ少しの
おかしさと成長を感じ、自然に頬が緩んだ







行く先と役割はとっくに決まっていた





店は銀さん達が必ず護ってくれるし


もし僕の言葉と…彼らのこれまでが
届いているのなら、きっと"街"は答えてくれる





罠にハマった相手だって


キャサリンさんや この子ならば
絶対に助け出せる力を備えているって信じてる






「それじゃあ行って来る…また後でね


「兄上…ご武運を!」





僕は頷くと、病院を目指して進んで行く…





―――――――――――――――――――――







…あの娘の一言に感化されたワケではなく


単純に、ヤツが興味を示した"侍"とやらが
どういった戦いを行うかに気が向き様子を伺う





女の装いをする男達と人相の悪い男達という
物々しい集団を引き連れて


巨大な化け物男と一人の娘が店へ押し寄せれば







「そのうす汚ねェ豚足で 一歩たりとも
ここに入るんじゃねェつってんだ」






いつもの木刀ではなく"十手"と呼ばれる
奇妙な金具一つで尖兵を店から叩き出し





「僕らのかぶき町の全ては」


「ぜーんぶ」


「ここにあるアル」





獲物を構えた子供二人と機械家政婦もまた
ぞろりと揃う敵陣の前へ現れて





「潰せるもんなら潰してみろ
何人たりともオレ達の街には入らせねェ」



侍は不敵に…しかし確かに強く言い切った







"戦いたくない"と告げる仲間の言葉を遮り





「そうよね ここで来なきゃ
万事屋(あんたら)じゃないわよね」






どこか嬉しげに"化け物"…西郷が笑う







「他人の大切なものを奪ってでも壊してでも
私はあの人を…取り戻します


刀を抜き放つ"娘"…平子の宣言に





「武士どもよ 全ては血風の中で語り合おうぞ」


着物を脱ぎ捨て木製の大きいハンマーを
構え直した西郷が…全盛の頃へと戻り行く





しかし、それに合わせて目の前の四人も





「我らお登勢一家 仁義通させてもらいやす


いくぜェェェェェてめぇらァァァ!!






戦う者に相応しい覚悟をまとって突撃する







…やはり、あの男が認めただけはある


先陣を切る"白夜叉"は尋常ならざる馬力で
並み居る兵隊達を蹴散らし





「これよりかぶき町全てのゴミを殲滅するまで
私は止まりません…おそうじの時間です


仕掛けの施されたモップを片手に


どこかあの娘を思わせる動きで、機械家政婦が
大地を蹴り上げ敵を飛ばす





「おっと!」





夜兎の娘が蹴りを見舞った敵の一人が
こちらの足元まで飛んできた


…全くこちらまで巻き添えを食らう所だ





見境無く暴れまわる少女に出来た隙を補う
いいコンビネーションで、メガネ少年が敵を撃退し


見る間に奴らは四人から距離を取る





「なんであのババアの所にこんな
化け物どもがゾロゾロいやがる!!」






フン…貴様ら如きに叶う相手ではない







「仕方ない それじゃあそろそろいきますか〜」





その一声で、屋根から飛び降り様に
西郷が強大な槌の一撃を地面へ突き立て


どうにか身をかわした銀時へ

土煙を縫って娘の鋭い一太刀が振り下ろされ


十手とかみ合い、甲高い金音を響かせる





「残念でしたねアニキ〜雑魚相手に
時間を稼いでいるようでしたが お待ちの
泥棒猫さん亡霊さんは帰ってきませんよう」





息子と、アイツの大事な者達を救おうと動く
奴らの思惑を聞き西郷は戸惑うが





平子は末端の組織が手中にあることと

目指す本拠地には華陀の勢力と次郎長が護りを
固めていることを語り





「モタモタしてたらホラぁ お登勢さんの店
灰になっちゃいますよ」



「万事屋に火が!!」





護るべき拠点へ火をかけることで相手の動揺を誘う







…任務のためには時に汚い手も必要だが

あの娘のやり口は、戦士の風上にも置けんな





「アニキ達は孤立無援の一人ぼっちなんですから」







やれやれ…どうやら出番のようだ





「それは「お嬢ォォ!!あっ…あれををを!!」





両手に二丁構えて出ようと一歩踏み出すも


奴らの視線は完全に、屋根の上の火を鎮火する
大量の水と…ホースを担いだ女に向いていた





孤立無援の一人ぼっち?そんな事ないさ

少なくともここに一人 つながってるつもりの
奴が一人いるぜ…なっ銀さん」


「お前は…火消しの…辰巳


「誰だテメーは!!」


心中のセリフをも奪いながら、敵の一人が
屋根へと投げた斧を弾丸で弾こうとするが





「そんな獲物じゃこの人達は傷一つ
つけられやしないよ…私が打ち直してやろうか


「てっ…鉄子ォォ!!」


こちらが動く前に小さなハンマーがそれを防ぎ

これまた一人の少女が前へと歩み出る





がゴロツキどもは懲りずに突撃する





「おのれラァさっきから何なんじゃァァ!!」


「わしらナメとんのかァァ」






やれやれ、あのとか言う娘と似て
無鉄砲なお嬢さんばかり…な!?





「レディにそう大勢でせまっちゃ嫌われるぜ」


オレの早撃ちよりも素早いコイン投 そう―
男ならハードボイルドにサシでキメなカミュ



何だこの語りは!?てかセリフ取られた!!





「おーぅい危ねぇぞい!」







イレギュラーに気を取られた次の一瞬で
背後を向けば、目の前に妙な機械の群れが





「どわぁぁ!!」


とっさに避けねば轢かれる所だ…クソ!





なぁに、キレイなネェちゃんに呼ばれて
一杯ひっかけに来ただけよ」


戦車に乗っているのは"源外"…あれが
江戸一番の機械技師の率いる兵か…んん?





「その通りだ その店潰されちゃ困るぜ
せっかくの閉店記念のタダ酒飲めなくなる」


「意味分かりません…あとツケですよ


「なんでオレだけそんなカンジ!?」





…あの見苦しい物体は忘れて、そろそろ
こちらも現れようと立ち上がり





「おや、麗しいお嬢さんに聞いて来てみれば
ずいぶんと大勢のお客様がおいでですね」


やたらと目立つ男達の集団に連中の視線が
再び持ってゆかれる





「万事屋さん あなた方は一人なんかじゃ
ありませんよ…今までこの街を生き
築いてきた絆がある」






くっ…奴らのペースに乱されっぱなしだ


よく分からんが、この流れが終わらん内に
出なければ道化にされてしま


「ちょっとそこ退いてくださる?」


「やかましい、出てくるなら後にしろ!」


苛立ちに任せ 相手を確かめず言った直後





あ゛?でしゃばんじゃねぇパチスロがぁ!!」





気づけば高々と殴り飛ばされ、オレは
無様に地べたへと転がっていた








「あら、話に聞いた通り素敵な方々が
お越しのようで 働きに来たかいがあったわ」





女達の集団に踏みつけられて、起き上がることも
許されず意識が消え去るまさにその刹那





「この街は誰のものでもない
私達…キャバ嬢のものでしょ


あの女がハッキリ放ったその一言が耳に残った








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あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:色々順番とか悩みましたが、やっぱり
万事屋一家の活躍やらみんなの参加見せたいんで
こーいう形の描写になりました!


新八:えーと…あの人もしかして
コレだけのためにワザワザ担ぎ出されたの?


神楽:そうに決まってるネ


源外:にしてもあの兄ちゃん、オメーらにも
呼び出しかけてやがったのな


狂死郎:僕らが来たのは自らの意思ですよ?
"人手が足りないから手伝いに来てもらえると助かる"とは
事前に伺ってましたけどね


銀時:まー何はともあれパチスロ乙だな


辰巳:つかあの兄ちゃん 物陰でコソコソ
様子見てたからな、いい気味だぜ


鉄子:けど、さん達はこの後一体
何をする気なんだろう…?


妙:何にしても さんとは後でしっかり
指名料について話し合わないとねぇ


狐狗狸:スイマセンこっち睨まんといて下さい




今こそ見せる、絆と灯のついた街の心意気!


様 読んでいただきありがとうございました!