お登勢殿と次郎長は幼き頃からの顔なじみであり


荒くれ者の次郎長の側で、長く怒鳴り続けて

かの者が曲がらぬよう見守っていたのだという





「そのかいあってかオジキは侠客でありながら
街の顔役になるほどの人気者になった」


親分として名を馳せるまでになった男に
当然並ぶ者などいはしなかった


…ただ一人を除いて





もう一人の顔役、岡引 寺田 辰五郎
…そう、お登勢の旦那じゃ」







強さと筋の通った生き様に、立場の違いはあれど

通ずるものと…何より街を護る志を同じくし
親友として固い絆を結んだ二人は


しかしお登勢殿への想いから僅かに道を違えた






「オジキはなぁ お登勢の幸せを願って
手ぇ引いたんじゃ」





"侠客である自分ではお登勢殿を幸せに出来ぬ"


そう語り、次郎長は親友へ彼女を託したと
続けながらヤクザが声を落とす





「だが辰五郎はお登勢を幸せにできんかった
お登勢を一人残して死んでまいおったんや」





攘夷戦争の最中に放たれた弾丸から庇われ


親友を亡くして戻った次郎長は、残した妻と
平子殿とを放って手段を問わず商売に身を注いだ





「言っとった…「オレにはもう父親にも
侠(おとこ)にもなる資格はねェ」ってな」











第七訓 侠は黙って背を見せる











いみじくもヤクザの言葉には同感だった





全てを捨て、修羅となり果て 大切だった者を
手にかけてまで街へこだわる男の気持ちは


……きっと私などには分からない





「お嬢は…この街からオジキを解放しようとしとる
親父を自分の元へ取り戻そうとしとる」





自らが目指した相手の姿を見るべく、また
その相手の縁の者のためなら 我が身もいとわない


それが"仁義"だと…七三のヤクザ殿は言った





「だが…ホンマにこれで 合っていたんかのう」


静かに続く言葉は、目の前の相手にというより
己へと問いかけているようだった





「あの親子…これで ホンマに幸せになれるんか」







何とも言えない心持ちの私の耳に、一つの靴音と
聞きなれた低い声とが届く





「どうやってもなれねーよ オレが潰すからな」


「…やっぱりガキどもに芝居うっとったな
ムチャやで 四天王、一人で相手とるつもりか」





約束を破るワケにはいかない、と銀時は言う





「ダサガリジョー ババアのことは頼んだぞ」


「なっ…なんで「借りたもんは三借りたら
七返すもんだ」






よく分からぬ理由にヤクザ殿が拳を震わせていると





「………ついでにバーさんの死に際を
最後まで見届けてやるもんじゃないのかい」


か細い声が部屋の奥から聞こえた







お登勢殿…ようやく、気づかれたのか





銀時…アンタの死に際なんて…
あたしゃ見たかないよ」





弱々しい、今にも消え入りそうな声の主へ
顔を向けた銀時は





「バーさん たまった家賃は必ず返す
だから…待ってろ


どこか優しげに けれどハッキリ口にして







やってくる銀髪を認めて角からすれ違う





盗み聞きか?趣味悪ぃな(おまえ)」


「世話になった者の見舞いに来ただけ故
…ついでに今来た所だ」


「ああそう、お前も兄貴と一緒に早いトコ
街から出て行っちまえよ…元々縁もねぇんだし」





突き放すように告げた言葉と共に頭に一つ
軽く手が置かれたが、瞳の灯は消えていなくて


敢えて行き先も問わず 頷いて病室へと向かえば





ニヤついた七三ヤクザ殿が出迎える





「…お嬢ちゃんもウソが下手やな」


「死んだフリをしてまで貫くお主ほどでは
無いだろうがな、ダサガリヤクジョ殿」


混ぜんなや!ワシの名前は勝男や、それと
恨みも三借りたら七返すのがワシの流儀や
もちろんおまはんも例外やあらへん…と言いたいが」





横になったままお登勢殿が、僅かに顔をしかめる





「ちょいと…怪我人が病人の前で
ドンパチやらかすんじゃないよ…」


「分かっとるわソレくらい、のぅお嬢ちゃん」


「元より私には争うつもりなどないが?」


「ヤクザもん前にしといて、その眉一つ動かん
能面ツラと度胸はホンマ大したもんやな」





室内のイスへ腰かけた私へ 七三殿は
その場から一歩も動かずに言葉を紡ぐ





「お嬢やオジキの一太刀受けても仲間助けよとした
根性にも免じて 今は手ェ出さんといたるわ」


「…何故ゆえお主がソレを?」


「教えてくれたんや、あの兄ちゃんの仲間とお嬢がな」





なるほど…兄上の仰っていた伏せられた情報のワケは
治療の目こぼしということか





「ともあれ…お登勢殿、意識が戻られて何よりだ
それと、気づかずにすまなんだ


「……バカだねぇ、アンタも こんなバーさんに
義理立てて余計な怪我までしちまって」





小さく笑ってから お登勢殿の目が宙を仰ぐ


「…もうこの街も おしまいかねぇ」





寂しげな呟きへ、私は相手の手を両手で取って返す





「仮にも四天王ともあろうお方が、らしくもない」





いつだって…気づいた時には手遅れだった


私は弱くて、何の力にもなれなくて、肝心な時に
役に立たずに生き恥をさらすばかり…でも





「お主が生きている限り…あの男が諦めない限り
この街はまだ私達の街だろう?」






今ならきっと間に合う


まだ私達の居場所はここにある!





あの男の目に 失われた灯が戻ってきたなら





私の…私達の行くべき場所は一つだ







…アンタも…」


「落ち着いたらまた会いに来る故…それまで
安静にしておられよ、お登勢殿」





それだけを告げて、手を床へ戻すと

立ち上がって七三殿へと訪ねる





「事情は知らぬが銀時に命を救われたなら
そのぐらいは返すのだろうな?」





縫い目の走る厳つい顔面がこちらを真っ直ぐ
見据えて…しっかりと答えた





「シャクに触るガキやな、まぁええ
腹は立つがワシも男同士の約束は護る性質や」









答えに満足し、万事屋へと急ぎて戻り

泣き崩れている四人へ短く告げる





"お登勢殿が目を覚まされた"事と


"銀髪の侍の魂に 焔がついた事"





さんは…どこへ行くんですか?」


「少し用がある故…何、いずれ
しかるべき場所にて会えるであろう」





口には出さずとも 皆は一様に泣き止んで


各々引き締まった顔つきをしていた









人通りのめっきりと減った表通りから

薄暗い裏路地を抜け、目当ての者がよく現れると
兄上から聞いた場所を一つずつ当たり





「…貴様、オレに何の用だ?」


「ようやく見つけた…人手が欲しい故
腕前を見込んで助力を請いたい」





単刀直入に告げれば、男は鼻で笑いつ問う





「それは"亡霊"としての頼みか?
それとも貴様個人としての頼みか?」


「お主をあの男の友と見込んでの頼みだ」





二丁の銃を両手でもてあそびながら、異国から
やってきた銃使いは返す


「…友などではない、好敵手だ」





―――――――――――――――――――――







万事屋解体決行前夜―オレと少数の隊員は
闇に紛れて屋敷へと歩を進めていく





力の無いがあそこまで尽くしてくれたんだ


こちらとて、黙って奴らのいいなりになど
なるつもりもない







「それにしても…怖いぐらい正確だな」





潜む奴らの部下達の巡回ルートや人数を
チェックし、手薄な部分から周囲を制圧して


二人の囚われているらしい室内へ潜入を果たし







…だが、そこにいたのは"彼女"ただ一人





「来ちゃダメ!これは罠よ!!」


どういう事だ!?それにあの子は」


瞬間 四方から黒い影がオレ達へと迫った





―――――――――――――――――――――







深夜、と二人で室内へと入れば


そこには既に明かりがついていて…





お登勢さんの自室に飾られた十手を
手にした銀さんがいた







「どこにいくつもりですか お登勢さんの
旦那さんの形見なんてもって…」






真っ先に彼の元へ、新八君と神楽ちゃんが近寄る





「なんで てめーらがここにいる」


「てめーが勝手にしろっていったからに
決まってるアル」


「ここにいる理由はアンタと同じですよ」





けれども銀さんは"形見を取りに来ただけ"

二人の申し出を突き放して出て行こうとする







「銀ちゃんもバーさんも間違ってるアル」





彼の襟首を掴みながら…"一人で背負って
いなくなられたら救われても嬉しくない"と


"死んで欲しくない"と涙混じりに彼女は叫ぶ







「それでもオレぁ てめーらに
生きててほしいんだよ」





誰一人死なせたくないがために、あくまで
淡々と言葉を続ける銀さんの弱音ごと





新八君が殴り飛ばして 吼える





「アンタ それでも坂田 銀時かよ」





何度大切なものをとり零そうと何度護るものを
失おうと 二度と何かを背負い込むことから逃げない






「一旦護ると決めたものは絶対護り通す
それが坂田 銀時じゃないのかよ!!」



彼の魂からの言葉は、僕らの思いを代弁する





お登勢さんも…僕らも銀さんも死んだりしない





「何故ならアンタが僕達を護ってくれるから!!

何故なら僕らが絶対 アンタを護るからだ!!」






そう…彼らが護ってくれた…だから
僕らはここにいるんだ








それは、うなだれた銀さんにハンカチを差し出した
卵さんやキャサリンさんも同じだった





「銀時様 アナタはこれまで私達を幾度も
護ってくれました…どんな窮地からも
どんな困難からも 私達はアナタを信じています


「ダカラ今度ハ私達ヲ信ジナサイヨ」







それでも身を起こす様子の無い彼へ、

歩み寄り様に語りかけて手を差し伸べる





「…全く、侍が聞いて呆れる
いい加減しゃきっとせぬか銀時


さん…さんも」







段々と…見開いたその瞳にが戻ってきていた







「ったくよぉ、流れて来たクセに
ワザワザ首突っ込むたぁ酔狂だなお前ぇらも」





妹の手を取って身を起こし、神楽ちゃんと
新八君に横を支えてもらって立ち上がる彼へ





恩あるものには礼を尽くし心を返せ
…私達は父上からそう受け継いだ」


「受け入れてくださった以上、僕らだって
同じかぶき町の一員でしょう?それに僕らを」


「私達を救ってくれたのは」


「「この街と目の前の侍達だ」」





僕らの居場所を…引き合わせてくれた場所を
一緒に護ろうと 卵さんとキャサリンさん
二人が口にして語りかけ







―銀さんは部屋の仏壇へ寄ると、懐から
まんじゅうの詰まった器を置く






「…ワリーな旦那 アンタのために買って
きたんだが、また一個も残りそうにねーや」


彼の背へ僕らも集い…そこへ心を重ね





「その代わりもう一度約束するよ」





そうして全員で、器のまんじゅうを受け取り

口へと放り込んで決意を新たにする


「アンタの大切なモンは オレ達が必ず護る」





最後に残った一つを額に押し頂きながら







「ありがとうよ旦那
こんなくそったれどもと会わせてくれて」






銀さんがまんじゅうを口に含んだのと同時に
僕らも笑んでそれを飲み下し…







「ってアレ?…ちょっとどうし」





途端にウチの妹が前のめりに倒れた





がまんじゅうノドに詰めたアルぅぅ!」


ナニヤッテンダヨ バカ娘ェェェ!
タマァァ!掃除機持ッテコイ!!」


「了解しました」


「ってそれモップだからたまさんんんん!!


「よりによってここでKYと死亡フラグ
同時発動してんじゃねぇよアホォォォォ!!」






たちまちの内に背中を叩いたり口にモップが
押し込まれたり、大騒ぎとなった








――――――――――――――――――――――
あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:山場だったので今回ばかりは
kbガン無視で長くなりました!つーかギャグ
もうちょっと盛り込むべきだったなー


新八:挟まるスキマねーからぁ!てゆうか
死亡フラグここで使うんですか!?


神楽:まー使いドコロとしては間違ってないネ


銀時:それより急に説明多くなり過ぎてて
アイツら空気じゃね?あとダサガリてめー帰れ


勝男:なんでやねん!本編でも数少ない
ワシの見せ場を渡せるわけないやろがぁぁ!!


狐狗狸:でも正直 過去話の長台詞が前半を
圧迫しまくってんのも事実…削るべきだったか


勝男&新八:オィィそこ肝ぉぉ!話の肝ォォ!!


キャサリン:パチスロサンモイラナイト思イマス


銀時:そいつぁ同感だな


狐狗狸:いやいやいやいるから、ガッツリ
次の展開に関わってくるからあの人


たま:そうなんですか?




伏せられた〜については、前回のあの人が
語ってた"四人の入院とお登勢さんの安否等"です


本編でも、少なくとも平子と数人の溝鼠組員は
入院した勝男とコンタクト取ってたんじゃ?とか
勝手ながらに考えております


様 読んでいただきありがとうございました!