通信が途絶えてから、ボスとの連絡はおろか
安否すらも不明の状態が続き





部隊の内部に漂う空気も


この街と同じように不安に満ちている





あの一件の後、負傷した銀時達を発見し
それぞれを病院へと収容した





余計な騒ぎになるのを防ぐため


彼らの入院と黒駒 勝男…何よりお登勢の
容態については秘匿にしてある







それが"お登勢死亡"のウワサとして街を駆け


そのせいでアイツの愛する江戸の街から
人が離れていく様子をただ眺めることしか
出来ないのは、とても歯痒かった





クソ!こんな時にボスがいれば…!」


「憤ってみても仕方がありませんよ
僕らに出来ることなんて 限られてますから」





どこか冷めた物言いに無意味と分かっていても

オレは、憤りをぶつけずにはいられなかった





「だからって、アンタこのままこの街を
見捨てようって言うのかよ!?」








相手は変わらず微笑を浮かべたままだったが





「僕は僕に出来ることをするまでです
あの人達がいる限り、ここはかぶき町ですから





オレを見据える緑眼は…強い意志を
感じさせる輝きを放っていた





「アンタは…一体何をするつもりなんだ?」





問いかけに、骨が鳴る音が一つ聞こえて





「僕に出来ることは限られてますけど…
これでも、見破られない自信はありましてよ?」


見た目に合った"美女"の声色で―は答えた











第六訓 重要なのはミスした後のフォロー











―――――――――――――――――――――





あの日、直にかまっ娘倶楽部へと赴けば





…いかにも柄の悪そうな男が二人ほど

通用口を固めて周囲を見張っていた





アレはどう考えても堅気の人間じゃない


異常事態である事を察し、息を一つつき

僕は"仕事用"の状態で物陰から恐る恐る出る





『テメェ何も…おほっ、いい女じゃねぇか』


『こんな所までどーしたんだぃ?
道にでも迷ったのかベッピンさんよぉ』


『私の兄がこちらで務めをしておりまして忘れ物を
届けに参りましたの…通していただけます?







鼻の下伸ばしたバカ二人をあっさり丸め込み





通用口から店内へと入れば、そこでは
物々しい言い合いをしている雰囲気だった





『どうして…どうしてアタシ達がお登勢の店を
潰さなきゃならないのよ…』


『それを言っても仕方ないでしょう!』


ママごめんなさい、アタシ達がもっと早く
気づいていればてる彦君は…』


『アンタ達が気に病むことは無いわ…まんまと
女狐と小娘にしてやられたのは私だもの』


『どういう事ですか、てる彦君に何が?





思わず問いかければ 西郷さん達は一斉に
僕の方へと驚いた顔を向けた





ちゃん…!』


どうやってここに?アイツらが通用口で
見張っていたでしょう?』


『少々お目こぼししていただきました
先程の言葉について…お聞かせいただけますか?』







長い沈黙の後、深く息をついて





『確か…ちゃんも同じ所で入院してるって
あの男が言ってたっけねぇ』





西郷さんは淡々と全てを語ってくれた







銀さん達が巻き込まれた問題と、あの人達や
西郷さんの置かれた状況





そして明後日にお登勢さんの店が四天王勢力


…つまりは西郷さん達と次郎長一家によって
完全に取り壊され





かぶき町は戦場となる事も







『手遅れになる前に…万事屋の連中や
ちゃんと一緒にアンタも街を出な』






本気でこちらの身を案じて下さっているのは
言葉と態度からもありありと滲み出ていた





『……忠告だけは受け取っておきますわ』


『ちょっとちゃ…!』


『あ、そうだ 明日から有給ということで
お休みさせていただきますね?それでは』


『どんだけちゃっかりしてんの!?』









店を抜け出して、僕はただひたすら考えた





味方のいない かぶき町で本当に
出来ることは何も無いのか


本当に誰一人、銀さん達の味方はいないのか





…このまま流れに従って恩ある人達と


愛着を持った この街を離れるしかないのか








と、何か弾力のあるものにつまづいた


『きゃっ!』


『うぐおっ?!』





慌ててバランスをとったからどうにか
転ばずには済んだけれども


地面に這いつくばった中年顔と目が合った





『あの…長谷川さん、何してらっしゃるんですか』


『いやそのちょっと小銭落としちゃって…
決して漁ってたワケじゃないよ!本当だよ!?





自販機の下に腕を突っ込んだ状態で言われても
全く持って説得力にかけますけど…?





『所でさ君 お登勢さんの店
近々潰されるって話、本当なのかな?』


『…ソレを聞いてどうするおつもりですか』


『あの店でタダ酒飲めなくなるの困るからさ
…何か、出来れば力になりたいんだけどな







苦笑交じりの…けれども本気で呟いた一言を
耳にしたその瞬間


―不意に、思考が一つにまとまった





『でしたら閉店する前に飲みに来てください』


『マジで…酒飲ましてくれるの?


『ええ、少し時間は早めですけれど…
頼れるお知り合いでも連れてお越しくださいな』





手短に話をして彼と別れ、差し入れを病院へ
運ぶ足取りはすっかり軽くなっていた







まさか負け犬生活が板についたダメな大人
気づかされるなんて思わなかった





本当に味方がいないのかどうか


かぶき町を…自分の居場所を護るために
出来ることは無いのか





確かめる術がまだ、僕にはある











「どういう風の吹き回しかしら?よりによって
あの子の代打でアナタが来るなんて」





スナックすまいるへ入ろうとした道行きの途中


狙って大通りの辺りで合流すれば
多分に引きつった笑みで迎えられた





「あらそれって嫉妬してらっしゃいます?
お顔が乱れていましてよお妙さん」


「別に私は性格ネジくれたピーマン男ひがむほど
了見狭くはないわ、それよりも」


一転して真剣な顔で 彼女は僕へと訪ねる





「いきなり休みの連絡もらってから、あの子の
屋敷で変な男達を何人か見かけたんだけど

…あの人達から何か聞いてない?さん」





流石に鋭い着眼点をお持ちだけれど…ここで
真実を明かすのは得策ではない


下手を打てば取り返しのつかないことになる





「考えすぎでしょう、あの人の軍隊の方では?」


そんなわけ無いでしょう あの格好は
マトモな見た目じゃないわよ社会常識的に」


「まさか粗暴の塊であるアナタが社会常識を
語る日が来るなんて思いませんでしたわ〜」





口に手を当ててわざとらしい言葉を並べれば

見る見る内に彼女の顔色はどす黒くなっていく





文句があるなら店の前までいらっしゃいな
怖ければお友達を連れても構いませんわよ」


「上等じゃコラァァァ!お前のその面
ボッコボコにしたるわぁぁぁ!!」



狙った通りこちらに食いついたその反応に
僕は内心ほくそ笑んで





いけません、女性同士で争っていては
どうかお怒りを静めてはいただけませんか?」





今にも掴みかかりそうなお妙さんをなだめつつ


夜の街で名を馳せる"美形"の一人が割って入った





「アナタは確か"高天原"の…」


狂死郎です アナタのように麗しいお方に
見知りいただけて光栄です」





まさかこんな所で有名なNo.1ホストと
対面するとは思っていなかったけど


彼らと万事屋、英雄のあの人が次郎長一家に
反発した話は聞いてもいる






…交流しておけば後々役に立つかもしれない









逃亡を含めた長い間 夜の世界をのたくってきた
経験を生かしながら情報を集め





「そこにいらっしゃる同心様、少し私の頼みを
聞いていただけませんこと?」


「おっと謎の美女がお出ましか…オレに
声をかけるとは中々お目が高いカミュ」





適当な人間に声をかけつつも


人質となっているあの人の屋敷の状況も

足がつかない程度には探りを入れて







「次郎長一家とは別に内部で華陀の私兵が
数人ほど身を潜めているとか…今の状況から鑑みて
恐らくはここに、お二人が幽閉されているかと」





念には念を入れた変装で、あの金髪の
副司令官さんの元へと赴き

動けぬ彼に入手したネタを語ってみせる





「驚いたな、アンタ一人でここまで調べたのか」


「生憎僕に出来るのはここまでです…さて
アナタ達には、何が出来ますか?







―――――――――――――――――――――





皆が万事屋と店とを引き払う準備をする合間

特にすることも、出来ることもなく


代わりにお登勢殿の容態を見に病室を訪れ





入り口の戸に背を預ける男に気づき

思わず角に身を潜めて、様子を伺う







ごっついやろウチのオジキ
まさかホンマにお登勢 手にかけるとはのう」





アレはあの時のヤクザ…深手を負っていたと
思っていたが、死に損なっておったか





室内に向かって"戦争は止まらぬ"と
語りかけているようだが 誰かいるのか?







「ぬごォォォォォ」


唐突にヤクザの胴辺りから血が勢いよく飛沫く





肩越しに見える銀髪と見慣れた姿…銀時?







「オレぁてめーを助けたワケじゃねェぞ
腹割って話がしたくってな色々と」


騒がしい悲鳴を押しのけながら問いが続く





「一体ババアと次郎長の間に何があった」





成り行きながらも気になって、その場で
耳を澄ましたまま言葉を拾えば





「昔 酔っ払った勢いで一度だけ
オジキが昔話してくれた事があっての」





神妙な口調で あの二人の過去が語られ始める








――――――――――――――――――――――
あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:僅かな間隙を縫ってのギャグを
差し挟んで、今回はお茶を濁します!!


銀時:濁しすぎじゃね?にいたっては
ラストに家政婦ってるだけだよコレ
ずっと兄貴のターンだよねコレ


狐狗狸:本人にとっちゃ本望でしょう…後
本当は駆けつけたキャラ全員と何らかの
関わり出したかったけど、無理でした


勝男:ホレみぃ 自分の力量も弁えんと
好き放題書き散らかすからや


長谷川:オレの役割すっかりギャグ要員じゃね?


狐狗狸:大丈夫、もう一人現れる予定だから


妙:にしてもあんのピーマン 本気で
焼き焦がしてやろうかしら(黒)


小銭形:おいおいお嬢さん、あまり情念を
燃やしすぎると火事になカミュ!?


狐狗狸:悲鳴でまで無理くり入れんでいいから




分かりづらい軸ですが兄は倶楽部→情報集めで
冒頭のやり取り→お妙さん達→再び彼の元へ、です


主も灯も絶えた、ただ一つの店にて


様 読んでいただきありがとうございました!